第001話・二つの道
side:南條陽葵
学校からの帰り道、いつもの道を歩いていると公園の前に差し掛かる。
すると、公園の中から車道へとボールが転がってくるのが目についた。
その時に猛烈に嫌な予感が過ったのだが、案の定そのボールを追いかけて幼い子供が車道へと飛び出してくる。
車道に飛び出した幼い子供は、対向車線から向かってくる車には気付いていない。
「危ない!」
私は咄嗟に飛び出した。
子供を抱え込み車から守るべく、自分の体を盾に使ったのだ。
「キキーッ、ドンッ!」
車は急ブレーキを掛けるが、直ぐには停まれない。
車に跳ねられた私の体は、見事に宙に舞い上がる。
体がバラバラになりそうな衝撃のなか、なんとか受け身を取れたのは奇跡だろう。
受け身のお陰か、幸いなことに子供の体にはかすり傷一つ見当たらない。
子供の母親が、血相を変えて公園から走ってくる。
「大丈夫ですか!?今すぐ救急車を呼びますから!」
子供の母親は常識人なのか、子供の無事を確認してからは泣きじゃくる自分の子供よりも、その子供をかばった私のことを真っ先に案じてくれた。
だが、その母親の言葉には意味はない。
私は恐らく、助かることは無いだろう。
流れる血と共に、自分の命が流れ出していくのを自覚した。
「……おじょ…う……ちゃん……もう……飛び……出したら……駄目だから……ね……」
私の意識は、その言葉を最後に暗転した。
享年、十八歳。
南條陽葵の人生は、終わりを告げたのだった。
◇◇◇
◇◇◇
「あれっ、ここは何処?私は死んだはずじゃ?」
私が意識を取り戻すと、そこは真っ白い空間だった。
私の目の前には、テレビでもお目にかかれないようなトンでもない超絶美人さんが豪奢な椅子に腰掛けている。
「もしかして、女神様!?」
この手の展開には、ネット小説で覚えがある。
ネット小説では、女神様にチートを貰って異世界へと転生するのだ。
女神様も私の考えを読んだのか、満足げに頷いている。
相手は女神様なのだ、私の思考を読み取るくらい簡単な事なのだろう。
「あなたの考えで正解です。あなたのこれまでの功績をかんがみて、あなたには二つの道を選ばせてあげましょう」
なんでも、女神様が言うには私の善行ポイントはかなりの量が貯まっているらしい。
「あなたの魂は、本当に清らかなのです。前世の記憶など欠片も残っていないはずなのに、あなたが他人のために命を投げ出すのはこれで二十回目なのですから」
私にはコレッポッチも自覚はないが、今回のように他人をかばって死ぬのは二十回目らしく、そのご褒美として二つの道を選ばせてくれるそうだ。
「あなたの選べる道の一つは、このまま天国に向かってなに不自由なく穏やかな日常を送る道。もう一つの道は、記憶を保ちつつ幾つかのスキルを選んでから戦乱の続く異世界へと転生する道です」
この女神様の言葉を聞いて、私は間髪入れずに決断した。
「だったら、スキルを選んで戦乱の続く異世界に転生します!」
穏やかな日常なんてクソ食らえ!
古武術道場の師範を祖父にもつ私は、命のやり取りに飢えていたのだ。
お爺ちゃんの家にある日本刀を持ち出して北海道でヒグマと戦ったりもしてみたけど、本能だけで戦うヒグマとの死合はいまいち物足りなかった。
私が心から望んでいたのは、一流の戦士との血湧き肉踊るような、命を懸けた真剣勝負なのだ。
夏休みに海外の傭兵と戦ってみたりもしたけど、あれも試合の域を越えなかったしね。
「戦乱上等!私の武術がどこまで通用するのか試してやる良い機会ね!」
私は大きな声で啖呵を切った。
これから戦乱の異世界へと行くのかと思うと、ワクワクが止まらない。
女神様、ありがとうございます。
この様な素敵な道を選ばせてくれて、感謝します。