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ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
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記録.9『傍迷惑な奴ら』

 

 このゲームには未だ職業と呼ばれる概念はない。


 その為、職業ボーナスが割り振られることもなく、ただただスキルの構築次第で人々はそれをアタッカーと呼び、タンクと呼び、ヒーラーと呼ぶのだ。


 基本気の利かない運営は言う。


「次のアップデートで職業システム追加するよ~」と。


 珍しく気が利くじゃねぇか。

 プレイヤーは揃いも揃って手の平を返したように、Twitterで運営連中を褒め称えた。俺達は運営を誉めすぎた。奴らは褒められ慣れていなかったのだ。


 Twitterのトレンドに『Soul・Learning・Online』がのった頃、奴らは遂に画面越しではなく、自らを褒め殺してもらう為に、日本サーバーへと降り立ったのだ…。



 それを人は傍迷惑と呼ぶ。

 ◇■◇



 ラスボス戦最終装備みたいな防具と武器を持った奴が、現在判明しているマップの各地に現れた。奴らは決まって「えへへ…」と言いながら、辺り一帯を焦土へと変えた。〔妖精の森〕は炎に包まれ、〔魅惑の海辺〕は鳥取砂丘に姿を変えた。そして、それは遂に街にまで被害を及ぼそうとしていた……。





「止めろぉぉ!奴らの行進をこれ以上いかせるなぁ―――ッッ!!!」


 エビふりゃーの号令と共に俺達プレイヤーは数人の怪物に襲い掛かる。

 しかし、謎のプロテクトがそれを阻み、突如出現したブラックホールに次々とプレイヤーは吸い込まれて死んでいく。


 日本人はゴミだ。

 海外を見ろ、なぜあんなにも平和にゲームができている?俺は海外のほのぼのとしたこのゲームの動画を見て、爪を毎日肌に突き立てている。



 俺は正直こういうゲームは好きじゃねぇ。

 βテストに偶々当たってやっていたから、今も続けているが、別にやめても生きていける。ゲーマーってのは基本そういうもんだろう。


 最近めっきりやらなくなっちまったあの森にも、まだ動物たちは待ってくれている。

 落ちまくるマップに萎えてやめちまったFPSゲームのレジェンドたちも、きっと俺の帰りを待っている。

 チャンピオンを倒し、孤島へ赴き、雪原にまで歩みを進めた俺を、努力値を一切振っていない卵共も待っている。


 あのゲーム達の運営は有能だった。

 なにせ、ゲームはプレイヤーが遊ぶものだ。運営はプレイヤーが遊びやすく、楽しくやってくれるために頑張ってくれている。


 だというのに、このゲームのゴミ運営はなんだ?


 俺達の前でニヤケ顔を浮かべる怪物達。

 こいつらは自分のエゴしか気にしていない。エゴを満たせればそれでいいのだ。このごみ共は……運営と呼んでいい奴らじゃない。


 俺とエビふりゃーとプロペラは共に抱き合い、涙を流した。おーいおいおいおい……



 ◇■◇


 奴らが帰った後は悲惨なものだった。

 マップのあちこちが酷い荒れ様で、見ているこっちが痛々しくなる程のものもあった。しかし、怪我の功名とでもいうべきか、二つ目の街を運営共が壊した山岳地帯で発見した。


 二つ目の街はなんと地下にある鉱山都市だったのだ。

 我先に、と命名権を求めて直走るプレイヤー共。結果として名前は〔コウザン〕となった。別に認めず、別の名前で呼んでもいいのだが、結局皆それで納得した。


 結局奴らは名誉感が欲しいだけなのだ。自分が街の名前を決めたという一種の優越感に浸りたい、ただそれだけ…



 〔コウザン〕の街は鍛冶が発展しており、今までとは比べ物にならないほど高品質な鉄鉱石や、新たな鉱石類がたんまり取れた。


 鍛冶連中はホクホク顔でメイン活動拠点をそちらに移し、そのメンツの中に幼女もいた。


 幼女はこの街でも闇市を開く場所を探しているようで、仕方がないので俺も手伝うことにした。一緒に飴を舐めながら、手を繋ぎはぐれない様に心がける。

 幼女は幼女らしくチビの為、手を繋がないとすぐにどこかへと行ってしまうのだ。


「はぐれんなよー」


「うんっ」


 俺の手を握る幼女は嬉しそうにそう頷いた。

 しばらく歩きながら、良さそうな場所を探すが中々に闇市の立地は見つからない。闇市はかなり大規模な市場だ。普通なら取り扱えないものも多く取り扱う為、NPCやらルーキーに見つかる訳にはいかない。その為、闇市の立地は慎重に慎重を重ねて決める必要がある。


 幼女と散策を始めて早一時間。

 遂に俺達は路地裏の奥に風景と同化したハッチを見つけた。


 俺と幼女は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

 そして、ハッチを開けて中に入ると、そこはどうやら廃坑のようだった。広々とした空間が広がり、所々に光る水晶が松明代わりに置かれている。


 こりゃいいや。

 俺と幼女はここを闇市の会場に決め、闇市の商人連中を呼び寄せた。数日もしないうちに闇市は活発になり、俺達は満足そうに笑った。


 俺達は何も考えていなかったのだ。

 なぜここが廃坑になったのかを。なぜ、NPC連中がここを有効に使おうとしないのかを…。


 ◇■◇


 闇市が破壊されていく。

 俺と幼女の汗と涙の結晶がいとも容易く粉々になっていく。


 俺達はただその光景を呆然と見ていた。


「ごみ溜め!ここはもう駄目だ!早く逃げるぞ!(かしら)を背負え!てめぇが守れ!おい!」


 闇市の商人の一人の声が頭蓋の中で反響する。

 本当に大切なものっていうのは脆く、崩れやすい。ずっと昔、やっていたゲームのクランが人間関係で崩壊したのを目の当たりにした。なんでもリア友だった連中の中で色々とあったらしい。


 その時は、あほくさとしか思えなかった。

 しかし、今この崩壊を見て俺の感情は「あほくさ」という言葉一つじゃ片付けられないほどの衝撃が走っていた。


「お――!は――れ!――溜め―――か――ッ!オイッ!!!」


 突然の物理的衝撃。

 そこで俺はやっと目が覚める。目の前に大きな何かがいる。そして、俺と幼女の体を引っ張ってどうにか逃がそうとする闇市商人。こいつは…、確か…幼女の補佐をするように闇市を切り盛りしていた…。


「今他の連中が助けを呼びに行った!すぐに来る!だから逃げるんだよ!分かるかっ!!?」


 切羽詰まったようにそう伝えてくる商人を前に、俺はようやく再起動を果たした。幼女とその商人を掴み、全速力で走りだす。速度が乗ったところで《疾風》を発動させ、一気に加速する。


 出口付近に黒い腕が見える。

 俺は形振り構わずその黒い腕に噛み付いた。

 悲鳴と共に俺達はハッチからどうにか脱出する。すぐ傍には廃人共と、《影魔法》で出した黒い腕をさする狐面がいた。


 俺は記憶を逆再生する。

 あの、暴虐の限りを尽くしていたあいつは―――、


「ドラゴンが…いた」


 俺の言葉を聞いたプレイヤー共が一気にざわつき出す。

 そして、次第にそのざわつきは収まっていき、一人の男に注目が集まる。それは誰でもない俺だった。

 エビふりゃーに目をやるが、奴はかぶりを振って静かに笑った。


 俺は息を吸い込み、周りのプレイヤー共を見た。それぞれが精悍な顔つきでこちらを見ている。

 そして―――、


「ドラゴン狩りじゃあああああああ!!!」


「やった――――――――!!!!」


 辺り一面は大騒ぎ、俺達は輪になってマイムマイムを踊り出す。幼女は足がつかずに、宇宙人グレイのような感じになっていた。


 このゲーム始まって以来の最大イベント、ドラゴンスレイヤーの火蓋が切って落とされる―――!


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当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
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