表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴミ溜めVRMMO記録  作者: どうしようもない
7/115

記録.7『死が二人を分かつまで』

 

 日本勢の攻略ペースは牛歩といっても差し支えないレベルの鈍足だ。


 日々、海外勢の攻略情報を耳にし、廃人共は腸が煮えくり返る思いで魔物からスキルをドロップさせている。

 魔物たち一匹一匹にもスキルは設定されており、だからこそ魔物からもスキルはドロップする。そして、魔物には人にはない特別なドロップも存在する。それはレアドロップと呼ばれる現象である。


 魔物からスキルがドロップするのも中々に確率は高くないが、レアドロップと呼ばれるその現象はプレイヤーからスキルを奪い取る確率の約1/108と言われている。


 そのレアドロップの中身は、アイテムであったり、武器であったりするが、最も廃人共が欲しがるのはレアスキルである。


 レアスキル。

 正式名称〔Unique(ユニーク)Skill(スキル)〕。呼称名〔ユニーク〕。

 ユニークには普通のスキルと違い、幾つかの制約がある。

 1.一種類のユニークにつき、保持できるプレイヤーは最大十名まで。

 2.ユニーク保持者から、ユニークがドロップした場合、元々保持していた者のユニークは消失する。

 3.ユニークがドロップした際、ドロップ対象者はユニークを受け取るか否かを選ぶことが出来る。(選ばなかった場合、ユニークのドロップは無かった事となる)



 しかし、蟻んこの王が何も分かっちゃいなかったように、俺もまた舐めていた。

 人間の底すら無い悪意(しんか)を…!!


 ◇■◇


 事の発端は一匹の魔物から始まった。

 俺は下がりに下がったスキルレベルを取り戻す為、魔物を狩り、ルーキーを狩り、たまに廃人に狩られていた。

 その日は運が悪く、魔物もプレイヤーも誰一人として、スキルをくれやしなかった。その事にイラつきながら、適当な魔物を倒した時、それは訪れた―――。


 〔魔物「吸血蝙蝠」から《血液操作》を獲得〕


 聞き慣れない、初めて耳にするスキルだった。

 俺はあまり考えずにそのスキルの詳細を開いた。きっとβテストの時にはなかったスキルなのだろうと。しかし、


 《血液操作》

 己の血液を操作することが出来る。

 凝固させれば、様々な形になる。

 〔Unique(ユニーク)Skill(スキル)〕。



「―――!?!?!?!?!?!!!」


 俺はその場で腰を抜かした。

 ユニークスキル。

 聞いたことはあったが、結局誰も手に入れることは叶わず、伝説上の存在として祀り上げられた、言わば都市伝説級のスキル。


 俺は喜び、その場で神へと感謝した。地面を嘗め、土下座をし、中級ポーション全てを地面へと叩き付けた。一体どれ程の徳を積めば、これまでの悪行が消せるのかは分からない。


 それでも俺は償って見せる。

 神が俺に与えたこの《血液操作》と共に。


 友情・努力・勝利の兆しが俺にはしかと見えた。


 ◇■◇


 《血液操作》は恐らく大器晩成型のユニークだ。

 暫く使ってみたが、全くと言って良いほど血液が凝固しない。暫くはずっと使い続けてレベルを上げることにする。危険なことは避け、出来る限り早くレベルを上げたい。

 そうして俺は、廃人共からの誘いを全て断り、我が子の育成に精を出した。





 《血液操作》のレベルが6に差し掛かる頃、遂に血液操作は実践投入できるレベルまで強化されていた。

 試しにそこらの魔物に使うと、まるで腕が一本増えたかのような万能感が俺を襲った。嗚呼、俺は今我が子の成長を目の当たりにしている。


 ほろりと涙が零れた。



 この事実を自慢した過ぎて、俺は遂に普段は自分から関わりに行くことはないプロペラにこの事を話した。プロペラは自分の事のように喜び、是非見せてほしいと俺に言った。


 勿論、俺はそれを快諾した。

 血液腕、血液武器、血液蜘蛛足。

 開発した技術を、自慢しながらプロペラ君に見せた。プロペラ君は本当に嬉しそうに手を叩いて、喜んだ。


 俺も嬉しかった。

 プロペラ君も嬉しかった。

 俺たちは幸せだった。


 なのに…。




「ルートォ……俺たち友達だろ?()()、渡してくれるよなぁ…?」


 廃人のトップ、β時代の最強廃人様…

 またの名を、製品版最強廃人『エビふりゃー』はそう言って、何かを催促するように手のひらを上へと向けた…。


 そこら辺の地面を見れば大量の模造品タケコプターに埋もれて、幸せそうに気絶しているプロペラ野郎が目に入った。野郎……あの幸せな時間は偽物だったってわけか…。


 情報源は恐らく見れば分かる通り、プロペラ経由。

 しかし、プロペラは筋金入りの馬鹿だ。

 精細な情報を渡せるほどの脳みそは詰まっていない。

 俺は《隠密》、《疾風》を同時に発動させ、その場から脱兎の如く走り出した。


 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!

 この子は渡さない!この子は俺のもんだ!誰にも渡して堪るもんか…!


 涙が風に乗って飛んでいく。

 俺と《血液操作》君の、長い長い逃避行が幕を開けた。



『ルート』Lv.1

 〔Set(セット)Skill(スキル)

 《ナイフ》Lv.3

 《疾風》Lv.4

 《落下の心得》Lv.2

 《鋭い嗅覚》Lv.1

 《気配察知》Lv.3

 《敵対知覚》Lv.2

 《遠目》Lv.2

 《隠密》Lv.2

 《自然治癒促進》Lv.2

 《血液操作》Lv.6


 〔storage(ストレージ)Skill(スキル)

 《水耐性》Lv.1


 ◇■◇


 薄暗い洞窟。

 そこに一人の男が静かに身を潜めていた。


 そう、俺である。

 廃人の追っ手を振り切るべく、かなり遠くまで逃げてきたが、それでも未だに奴らの生存区域を抜けることは叶っていない。

 時間が余りに余っている奴らだ。

 俺を見つけるまでこの索敵網は解かれることはないだろう。


 しかし、それでも今はとにかく遠くへ逃げなくては。


 俺は立ち上がり、洞窟から駆け出した。






 鋭い牙が俺の肩に食らいつく。

 ぶす、と剣で刺されるのとはまた違う感覚が俺を襲う。しかし、俺の肩から先は未だに動く。肩から出た血を操作し、口の中で剣山ボールを再現し、暴れ回させる。基本生物っていうのは口内への攻撃には弱い。


 その理論は正解だった様で、魔物はみるみると弱っていき、遂にその場で力尽きた。



 〔Congratulations!〕

 〔《ナイフ》Lv.3→Lv.4〕

 〔《疾風》Lv.4→Lv.5〕

 〔《血液操作》Lv.6→Lv.7〕



 なけなしのポーションを飲み干し、患部へと振りかける。しかし、連日振り続ける雨のせいですぐに流れ落ちてしまった。


「はぁっ…はぁっ…はぁ……っ」


 心身共に限界が近かった。

 足音が聞こえる…。ああ、死の足音だ。俺と血を隔てる足音だ。


 早く立って逃げなくちゃ…。


 俺はふらふらと情けない足に活を入れて、無理に立ち上がる。

 しかし、すぐにバランスを崩して尻餅をつく。


 立って立って立って、立って、早く逃げ、な、く……ちゃ…



 そして、俺は前方に勢いよく倒れる。

 しかし、地面に激突することはなく、誰かにその体躯を支えられた。


「おまえのかくご、たしかにうけとったぞ」


 薄目で最後に見たのは俺よりも余程小さな身体と、雨に濡れる金の髪だけだった。



 ◇■◇


 目が覚めると、俺は廃人共がよく情報交換の為に集まる酒場にいた。

 俺が目を覚ましたことに気づいた数人は、どこか気の毒そうな表情を浮かべ、俺の肩を叩いて酒場を出ていった。


 咄嗟に俺は《血液操作》の事を思い出し、ステータスを開く。そこには確かに《血液操作》の文字がある。

 廃人共の巣に連れ込まれ、俺は未だにリス狩りをされていないという事実がそこにはあった。しかし、なぜ…?


 その答えを探ろうとした時、俺の肩に一人の男の手が触れた。

 俺がそれに反応して振り向くと、そこには一人の男がいた。それは紛れもなく最強廃人様のエビふりゃーその人だった。


「え、エビ…てめぇ…まだ俺から奪う気か…」


 俺はすぐさま戦闘態勢に入る。

 俺はこいつには勝てない、絶対に。しかし、抗って見せる。何度でも何度でも。この子の母親として…!


 しかし、エビふりゃーはそんな俺を見て、かぶりを振った。

 まるでお前はもう終わりなんだ、と死刑宣告を受けている気分だった。


 すると、突然エビふりゃーからフレンド申請が送られてくる。

 俺は訳が分からず、それを承認する。未だにボスは一体しか倒していない為、フレンド機能の拡張はない。だから、今のフレンド機能は他プレイヤーのプロフィールを見るキャラクター図鑑でしかない。


 エビふりゃーはなぜこんなことを…


 俺がそれを聞こうと前を向いたとき、もうそこにエビふりゃーはいなかった。


 一体何なんだ。

 俺はそう思いながらも、どうにか守り抜いた《血液操作》を大事に抱え込んだ。もう、離さない…!



「ねぇ」


 俺と《血液操作》の抱擁を邪魔する輩が声を掛ける。

「ああ?」と俺は機嫌悪そうに振り返る。そこにはニコニコ笑顔の幼女がいた。


 いつものように飴を催促する訳でもなく、もっとナイフで敵を屠れと図々しく指図もしてこない。しかし、何か嫌な予感がする。


 俺は立ち上がり、その場をすぐさま後にしようとする。

 しかし、幼女に服を掴まれ、その場でステーンと転がる。逃げられない。この幼女、脳筋過ぎる…!


「わたし、ララっていうの」


 どこかでToLove(トラブ)っていそうな自己紹介が耳を通り抜ける。それは、地獄への入り口。この世の終わりと言ってももはや過言ではないのかもしれない。


 〔『ララ』さんからフレンド申請が送られてきました!〕

 〔タップしましょう。 ◀YES▶ ◀NO▶〕


 俺の指は震えていた。

 ちらりと幼女を見ると、その目にハイライトは少しもなかった。こいつは本当にただの幼女なのか、と自分自身へと問いかける。

 しかし、もう全てが遅いのだ。こいつの中身が例えクトゥルフであろうと、俺はこいつから離れられない。



 俺の指は震えながら ◀YES▶ をタップした。



 その様子を見て、周りの廃人は血の気が引くような表情をした。


 しかし、その中でララだけが嬉しそうに無邪気な笑いを浮かべるのだった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当作品はゴミ共の命によってモチベーションが賄われています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ