駅前のおばあちゃん【夏のホラー2020 投稿用】
駅前を話のメインにしていますが、駅前ですので問題ないですよね?
※軽くですが、性的な表現があります。 苦手な方は回避をお願い致します。
夏。
とても暑い日が続く中、ボクは病院へ向かう用事があった。
お母さんが赤ちゃんを産むとかで、家の近くにあるのじゃダメってなって、大きな街の病院へ入院してる。
今日もそのお見舞いへ行くのに電車を使って、今はベンチでバス待ちの途中。
その病院へ向かうバス停は駅前にあって、駅から出てすぐはとっても便利だった。
ベンチには行き帰り両方で、いつもニコニコ優しそうなおばあちゃんが座ってて、歩いている人達を汗ひとつかいて無い顔してながめているんだ。
でも今日からは違うみたい。
「ぼくちゃんを時々見るけど、どんな用なんだい?」
ボクを見て、話しかけてきたんだから。
いつもと違うおばあちゃんに驚いてボーッとしちゃったけど、こんな優しそうなおばあちゃんなら返事しないとダメだよね。
お母さんや先生に言われてる悪い人じゃなさそうだし。 それで慌てて返事したんだ。
「お母さんが入院してて、そのお見舞いです!」
お父さんの仕事が忙しくって、その代わりなんだけどね。
まだ驚いた気持ちが強くて、少し変な声になったかもしれないけど、ちゃんと出来たと思う。
するといつもより、もっとニコニコしながら何度も「ウンウン」言いながら頭をたてに振ってから、手に持っている何かを見せてきた。
「見たところまだ10も行ってない可愛いぼくちゃんなのに、偉いねえ。 ほら、飴をお食べ」
紙で包まれた、飴だった。
「ありがとう」
「お礼が言える良い子だねぇ」
受け取ればまた、ほめてくる。
これが、なんて言うか……嬉しかった。
お母さんはいつも「アレしなさい、コレしなさい」ってボクをしかるだけ。
最近なんて「もうすぐお兄ちゃんになるんだから」が口癖で、全然ほめてくれないし。
「おや? 病院行きのバスが来たね。 気を付けていくんだよ?」
「あ、本当だ。 おばあちゃん、またね!」
「はい、またね」
ニコニコしながら送り出してくれるおばあちゃんの言葉を聞いて、くれたアメを口に入れてバイバイした。
アメは不思議な味。 くだものみたいな味がしたと思ったら、ケーキみたいな甘さもして、でも時々しょっぱくなったりシュワシュワしたり。
なんかとっても面白いんだ。 とけて無くなるとさびしくなって、もっとなめたくなる。 そんな味。
それからお母さんが退院するまで、行き帰りにおばあちゃんから毎回もらえるアメをなめて、少ししゃべったらバイバイする事が続いた。
~~~~~~
それでその間に、ボクが少し変わりはじめたんだ。
少しずつ変わっていったから、ボクは全然気付かなかったんだけど、退院直前のお母さんに言われたんだ。
「なんか最近、女の子っぽくなってない? まつげなんか長くなってきて、男の子って思えなくなってきたわ」
「ボクは男だよ!」
「いや、その座り方とかもさ。 男の子じゃ足を揃えないって」
「はぁ!? ボクは男らしく座ってるよ!!」
「えー、そうかな? 体つきもなんか丸くなってきてるし。 ここは病院なんだから、一回診てもらいなさいよ」
とかね。
ボクは本当に男だ。
この間、お父さんにお風呂上がりの姿を見られて「おまえのち○こ、びっくりするほど小さいな!」とか驚かれたけど、ボクは男だっての。
……確かに? お母さんが入院する前より、なんか小さくなってるかも知れないけどさ。
お母さんから言われた日に早速検査。 結果はお母さんが退院の日に教えてもらったけど“せんしょくたい”? は、やっぱり男だってさ。
~~~~~~
それから1年。
生まれたのは弟で「今度は娘が欲しかったのに」とかお母さんは言うけど、でもなんだかんだと楽しそうにお世話してる。
ボクも弟が出来て、最初はさわったらケガするんじゃないかとか、壊れちゃうんじゃないかとか心配してたけど、お母さんに教わりながら可愛がってる。
赤ちゃんって面白いんだよ。 ちょっと何かしてあげるだけではしゃいだり、指を近付けるとプニプニした手でにぎってくれたり。
なんて言うか、お母さんが言ってた「お兄ちゃんなんだから」とかどうでも良くなってくるね。
そんなの言われなくも構ってあげたいし、守ってあげたい。
その辺は置いといて、ボクは今ちょっと困ってる。
ボクは男のはずなのに、なんだかおっぱいが少し腫れてきた。 しかも、こすれてピリピリ痛くなってきてるし。
うちまた気味でいる方が楽になってきたし、男なら低くなるはずの声の高さが、逆に高くなってきた。
“おまた”もぜんぜん男らしくなくなってきて、前は穿けてたパンツが穿けなくなった時は、かなりショックだった。
力も全然強くならないし、男の友達と遊ぼうとすると避けられたり、先生から体育の着替えは一人だけ別のところでって言われる。
はっきり言うと、ほとんど見た目が女の子みたいになってしまった。
お母さんは「見た目完全に女の子だわ。 アンタを娘扱いしたくなってきた」とか、変な事を言ってくるし。
お母さんの買ってくる服や下着が、段々女の子の物っぽくなってきてるし。
お父さんはお父さんで「なんか俺達の子供っぽくない顔つきになってきてるか?」とか、変な事を言い出すし。
それで何度かお父さんやお母さんと病院へ行って、検査をされて男と言われるのが、たったひとつボクが男だって信じられる物になっている。
あ、そうそう。 バス停ベンチのおばあちゃんは、お父さんやお母さんが一緒にいる時には居ないんだ。
居ないのはとってもガッカリする。 ひとりであの場所へ行くと居て、楽しくしゃべって面白いアメをもらえるのにさ。
それで今日は、弟のていきけんしんとか言う日。
お母さんが忘れ物をしたから、それを持ってきてって言われて、ひとりで暑い中のお使い。
もうすっかり慣れた電車と大きな駅から出て、今日はアメをくれる優しいおばあちゃんと会えるかな~って、いい気分でベンチまで行ったんだ。
でも、今日はおばあちゃんが珍しくいなかったんだ。
それでさびしくなって、いつも優しいおばあちゃんが座っている所に座って、おばあちゃんの真似してニコニコ辺りを見ていたんだよ。
するとね?
「若い……いや、幼い婆ちゃんがいる」
なんて変な事を言っている、あやしい汗だくのお兄さんが居たんだ。
そっちを見ると、ボクをガン見してた。
もしかして変質者!? と思ったから、急いで持ち歩いている防犯ブザーを取り出してひもをにぎったら、急にお兄さんが慌てだした。
「あ、待って!! 違う! 悪い人じゃないから!!」
とか言ってきたけどさ、
「悪い人は自分で悪い人と言わないって、お母さんから聞いてるよ」
お母さんが言ってた事は本当だったんだね。 だからブザーのひもを、強くにぎった。
~~~~~~
「ごめんなさい。 あのおばあちゃんの家族だったんだね」
「いや、分かってくれたなら良いんだよ。 はははは……」
ボクの勘違いだったと、お兄さんが教えてくれた。
このお兄さんが言うには、おばあちゃんを時々このベンチで見かける人がいると、大学でウワサになっていたそうだ。
大学はここの近くにあって、ウソにしてはウワサが長く続きすぎてて、今日調べはじめたんだって。
で、調べる前にどんな顔をしていたか思い出すためにおばあちゃんのアルバムを見て、おばあちゃんの小さい頃にそっくりな顔したボクを見付けて驚いた。
そう説明したお兄さんは、続けておばあちゃんの昔話もしてくれた。
おばあちゃんはとても偉い科学者だったんだって。
いでんしこうがく?のすごい人で、死ぬまで仕事を続けてたんだってさ。
それで、さいごまでやってたのが“ほるもんざいふしようのやくひんとうよによる、じんたいのこうてんてきへんい”とか言う、ボクにはチンプンカンプンな仕事。
「へー、すごいんだねぇ。 でもおばあちゃん、死んじゃったんだ……」
優しいおばあちゃんが何をしていたかは分からなかったけど、死んじゃったのは分かる。
もうおしゃべり出来ないし、あのアメがもらえないと分かったら、さびしくなる。
暗い気分のまま少しだまっていると、病院行きのバスがやって来た。
「ボクはあのバスに乗るから、そろそろ行くね」
お兄さんへ軽くバイバイして、バスへ乗ろうとした時に、小さいけど変に良く届く声が聞こえたんだ。
「あの子、婆ちゃんに良く似てたな。 婆ちゃんが死んでから10年以上。
もしかしたら死んでも研究を続けて、自分そっくりな見た目に変異する薬でも開発して、あの子へ投与実験してたりとか?
研究狂いだったから有りそうだけど、そんなオカルトは信じられねえな、ははは……」
死して尚、研究を続ける、執念深き老研究者に敬礼。
じゃないや。 あのおばあちゃんは、なぜ自分に似せた少女を造ろうとしたんでしょうかね? その辺はなにも考えてません。
あと作中では語られていませんが、お兄さんの収集したウワサには、本人以外誰も座っていないベンチで楽しそうに喋り続ける少年。 なんてのも、もちろんありました。
※本来ならタグ(キーワード)にTSとか書くべきでしょうが、最後のオチまで伏せたかったので記載しておりません。 ご了承下さいませ。