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【残念令嬢・書籍化&コミカライズ】残念の宝庫 〜残念令嬢 短編集〜  作者: 西根羽南
「残念令嬢」シリーズ100話達成感謝リクエスト
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パメラの確信  残念ドレスに挑むモブ女子 2

本編第二章の頃のお話です。

 

「これが、残念な夜会なのね……」

 パメラはため息をついた。



 残念なドレス愛好家が集うという、残念な夜会。

 最新の残念ドレスに興味を持つということは、流行に敏感な人達が集うのだろう。

 まだ流行り始めの残念ドレスは、上流貴族に愛好家が多いとも聞いている。


 これは、チャンスだ。

 流行に敏感な上流貴族の男性と、お近づきになれるかもしれない。

 残念ドレスを仕立てたパメラは、フラビアを誘って意気揚々と会場にやって来た。


 ……だが、既に疲労の色は隠せず、ため息が止まらない。

 原因は明らかで、隣にいるフラビアが眉を顰めた。

「……だから、やめた方が良いって言ったのに」

 そう言うと、パメラのドレスを眺めて肩を竦めた。




 パメラが仕立てたドレスは、残念の先駆者(パイオニア)アラーナ伯爵令嬢の初期のデザインを流用したものだ。

 どこまでも惜しげもなくレースとフリルを使ったそのドレスのスケッチを見た時には、ドレスと言うよりは布の塊のようだと思った。

 アラーナ伯爵令嬢が描いたというスケッチは、ドレスの横に直筆の言葉が添えてある。


『限界を超えて、盛る。その先に、残念がある』


 よくわからないけれど、強い意志だけは伝わってきた。

 白黒のスケッチの時点で謎の迫力を抑えきれないそのドレスは、更に生地がとんでもなかった。

 実際に仕立てた生地の見本を見せてもらったのだが、その眩しさに思わず目を細めてしまう鮮烈な赤と緑だった。


 正直、ドレスの生地と言うよりも、目潰しの道具と言った方がしっくりくる。

 この生地をあのボリュームで使用したというのだから、アラーナ伯爵令嬢は相当に目が鍛えられた人物なのだろう。

 見本の生地だけで音を上げたパメラは、目の安らぎを求めて深緑の生地を選んだ。

 だが、そのぶんフリルとレースはスケッチに劣らないものにした。


 それが今、パメラを苛んでいた。




「布って、重いのね。本当、重いのね……」

 ソファーに座ったパメラはぐったりとうなだれると、自身のドレスをつまんだ。

 限界を超えて盛られたフリルのせいで、ドレス自体の重さが半端ではない。

 しかも、生地が密集しているおかげで、蒸れて暑い。

 会場に着いただけだというのに、疲労困憊と言って良い有様だった。


「どうする? もう帰る?」

「せっかく来たんだから、駄目よ。……少し休めば大丈夫。休憩しながら視察すれば良いのよ」

「はいはい」

 普通のドレスを着ているフラビアも、隣に座って参加者を眺め始めた。


 さすが残念な夜会と言うだけあって、妙な色使いやデザインの装いが目立つ。

「やっぱり、もっと激しい色の方が良かったのかしら」

 そうは思うが、パメラだって目がつらいのは困るので、仕方がない。

 今後の参考にしようと色んなドレスを見ていると、一人の女性に目を奪われた。



 それは、激しい縞模様だった。


 白、黄、水色、緑、ピンク、赤、青の鮮やかな縞模様が、網膜に焼き付いて離れない。

 オフショルダーのドレスの上から下まで酷い縞模様で、上半身には黒、下半身には白の羽が大胆に散りばめられている。

 更に鎖状の銀色のレースと、赤いリンゴと思われるパーツが付いていた。

 酷い縞模様の上でカラスと白鳥が鎖で殺害されて、血が飛び散っているようにしか見えない。

 その上、何故か両手には骨付き肉を持っている。


 ……あれはもう、残念の域を超えた何かだ。

 一言で言えば、いかれている。


 だが、そのドレスを着ている少女を見て、言葉を失った。

 滑らかな白磁の肌、ほっそりとした首、艶めく黒髪に、輝く金の瞳。

 それらを損なうことのない、綺麗な顔立ち。

 見渡す限りで群を抜いて残念なドレスを着たその少女は、群を抜いて可憐で美しかった。



「ご覧になって、アラーナ伯爵令嬢よ」

 誰かの声に、パメラは驚き、同時に納得した。

 あれが、残念の先駆者(パイオニア)

 なるほど、他の人間とは残念の格が違う。


「本当。今日のドレスも、残念ですわね」

「常人では決して着ることのできない域ですもの。こうして拝見できるだけ、ありがたいわ」

 これは陰口だろうかと声の主を探してみると、数人の女性がアラーナ伯爵令嬢に熱い視線を送っていた。

 どうやら、本当に心から残念なドレスを好んでいるらしい。


「――何、あの子。凄い可愛い。凄いやばいドレスだけど」

 フラビアは正直すぎる感想を呟きながら、それでも視線はアラーナ伯爵令嬢に釘付けだ。

 残念に興味がない人間すら惹きつける魅力。


 ――あれが、真の残念なのか。



「ねえ、パメラ。あの美少女でさえ、ドレスのせいで残念なのよ。やっぱり残念ドレスはやめておいた方が良いんじゃない?」

 否定しようと口を開きかけたところで、アラーナ伯爵令嬢に声をかける男性が目に入った。

 赤茶色の髪に緑色の瞳の美青年を見て、フラビアが驚きの声を上げる。


「あの方、確か王族よ。何でこんなところに」

 確かに、残念な夜会に王族の姿があるとは予想外だ。

 上流貴族に愛好家が多いとは聞いていたが、まさか王族までその範疇だとは思わなかった。


 王族の美青年がアラーナ伯爵令嬢の手を取ると、どこからともなく茶色の髪の美少年が止めに入る。

 何かを話した後、王族の青年は立ち去って行った。

 その様子をずっと見ていたパメラは、思わず身震いした。



「……残念って、凄いわ。王族がやってきて、その上美少年と争奪戦だなんて」

 白馬の王子が来てくれることはないと諦めていたパメラだったが、そうではなかった。

 待っていても来ないのなら、残念なドレスで惹きつければ良いのである。


「――これよ。やはり、これからは、残念令嬢の時代なのよ!」


 ドレスの重さも忘れて奮起するパメラを見て、フラビアはため息と共に首を振った。

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「残念令嬢」

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