残念令嬢⁉ ~侯爵令息が女装したので、立派に男装して守ってみせます~
エイプリルフールに合わせて、「残念令嬢」コミカライズの青井よる先生がこのイラストをTwitterに上げてくださいました。
※青井先生にイラストの使用許可はいただいています。ありがとうございます!
男装イリス君と、女装ヘンリーことヘンリエッタちゃんです!!!!
ヾ(*´∀`*)ノ
更に「背が高いから喉仏でバレそう」「持ち前の美形フェイスと一通り何でもできる所作、イリスの謎擁護(絵本のドラゴンの真似をしたらこの喉になった)で周りも騙されてほしい」というコメントを拝見し、急いで書きました!(使命感)
何故か女装をすることになったヘンリーと、それを守ろうと男装したイリスのパラレルワールドなお話です。
深く考えてはいけません……!!
ということで、どうぞお楽しみください。
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ざわざわと騒がしい教室の中央を、二人の男女が進んでいく。
一人は、さらさらと揺れる黒髪に金色の瞳の少年。
女の子だとしても小柄な身長で、もはや華奢と言っていい体つきだが、何はともあれ美しい顔立ちのおかげですべてがどうでもよくなる。
もう一人はふわふわとした茶色の髪に、瞳と同じ紫色のリボンが目を引く少女。
こちらは男性の中でも長身の部類に入る身長に加えて、どう考えても喉仏にしか見えないものがはっきりと確認できる。
体つきからして男性でしかないはずなのだが、その清楚な所作と整った顔立ちを見ていると、ただの美少女のような気もしてきた。
一見すると、女装した少年と男装した少女。
だがその美しさを加味すると、凛とした美少女と初々しい美少年にも見える。
教室の誰もが何とも言えない疑問を抱えて混乱する中、二人は教室の中央で立ち止まった。
「やったわ、ヘンリエッタ。皆、あなたの可愛らしさに釘付けよ!」
「絶対違う。それから、イリスも言葉遣いに気をつけろ」
「あ、そうね。……じゃない、そうだね!」
一応小声で話してはいるが、ほぼ丸聞こえだ。
声を聞いて、教室中の人間がようやく事態を理解した。
これは、女装少年と男装少女だ。
ヘンリエッタと呼ばれた方は声変わりを終えた男性の声だし、イリスと呼ばれた方は可愛らしい女の子の声。
何故あんな格好をしているのかは不明のままだが、とりあえず性別は確定した。
二人とも容姿が整っているせいで混乱していたが、やっと教室に落ち着きが戻りそうだ。
「あの……何故、女装と男装をしているのですか?」
空気を読まない勇者の登場に、周囲は一気に緊張に包まれる。
だが問いかけられたヘンリエッタは、にこりと柔らかな笑みを浮かべた。
「申し訳ありません。何のことでしょう?」
困ったように少し首を傾げる様は愛らしく、その声は先程とは違って少し高い。
ちょっと背が高くて、喉仏が出ていて、体つきがしっかりとした、低い声も出る美少女かもしれない。
……いや、ない。
顔だけ見れば確かに美しいが、いくら何でもない……はずだ。
「ヘンリエッタは、女の子だよ。リボンもとっても似合っているし!」
ぷんぷんと怒った様子が可愛らしくて、教室中の人間の頬が緩む。
とりあえず、イリスの方は女の子だ。
間違いなく、ただの華奢で可憐な美少年になっているだけの美少女だ。
ひとつ問題が解決したことで、全員の心に少しだけ余裕が生まれた。
「確かに綺麗ですが……でも、喉仏がそんなに出ている女性がいますか?」
これは、いい攻撃だ。
ヘンリエッタは微笑みを絶やしていないが、言い逃れできないだろう。
「それは……」
「ヘンリエッタはドラゴンの鳴き真似をしたら、喉がこうなったの!」
ヘンリエッタの言葉を遮って、イリスが得意気に訴える。
自信満々に金色の瞳を輝かせるイリスの横で、ヘンリエッタの頬が一瞬引きつったように見えた。
「……何故、鳴き真似を?」
至極当然の疑問にも、イリスの瞳は陰らない。
「私……じゃない、僕に絵本を読んでくれたんだ。とっても上手なんだよ!」
この年で絵本を読み聞かせしたりされたりしている時点でそこそこ恥ずかしいが、更にドラゴンの鳴き真似とは。
もう少し上手い言い訳があっただろうし、事実だとしたら暴露しない方がいいような気がする。
「ドラゴンの鳴き真似をしたとしても、喉仏は関係ないと思いますが」
勇者はどこまでも空気を読まず、的確に疑問をぶつけていく。
女性だと主張すればドラゴンの鳴き真似を認めることになり、鳴き真似を否定すれば女装を疑われる。
バレバレとはいえ女装している以上は女性として見られたいのだろうし、どちらにしてもヘンリエッタには危機だろう。
「関係あるよ。すっごく上手なんだから!」
イリスは擁護しているようで、ヘンリエッタをどんどん窮地に追い込んでいる。
何だか不憫になってきて、教室の人間はヘンリエッタを心の中で応援し始めていた。
……女装だっていいじゃない、趣味だもの。
教室中の声なき声援に気付いたのか、ヘンリエッタはにこりと微笑むと息を吸い込む。
――地を這うような、低い咆哮。
ヘンリエッタが口を開けた瞬間、そこから飛び出したのは大型の動物としか思えない叫び声だった。
目の前にドラゴンがいるのではないかと錯覚するほどの声音に、教室中の人間が目を丸くして固まる。
何故か聞き慣れているはずのイリスも目を瞬かせているが、何度聞いても驚くクオリティなのは間違いない。
「皆様の前で披露するのは恥ずかしいですけれど。イリスがどうしても聞きたいというので、一生懸命練習しましたの」
少し頬を染めて目を伏せる様には妙な色気すらあって、何人かの男子生徒がそっと胸を押さえた。
「それでは、失礼いたしますね。行きましょう、イリス」
ヘンリエッタに手を引かれたイリスが興奮した様子でうなずく。
「ヘンリー、凄い! いつの間にドラゴンの鳴き真似の練習なんてしていたの⁉」
「誰がするか、そんなもの。おまえのせいでやることになったんだろうが。いいから、一度教室を出るぞ」
小声のようで、やはり教室中に丸聞こえだ。
どうやらドラゴンの鳴き真似は練習していなかったようだが、だとしたら一発勝負であの咆哮を再現できるヘンリエッタの能力が恐ろしい。
やはり、あの二人は女装少年と男装少女なのだろうとは思う。
しかしヘンリエッタが凛とした色気ある美少女なせいで、もしかしたら……という考えが捨てきれないのだ。
「……結局、どっちなんだよ」
勇者の声に教室中がうなずき、同時に首を振った。
どちらでもいい。
――美人は正義だ、と。
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