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【残念令嬢・書籍化&コミカライズ】残念の宝庫 〜残念令嬢 短編集〜  作者: 西根羽南
「残念令嬢」書籍発売感謝祭リクエスト

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イリスの安全地帯  イリスとヘンリーのデート&カロリーナ



「残念令嬢」本編第八章を読み終えてから、お楽しみください。




「うちに来いって、言ったよな?」


 その声に、イリスは肩を震わせる。

 オルティス邸の扉を開けるや否や、ヘンリーはそう言ってため息をついた。


 イリスは素早くソファーから立ち上がると、カロリーナの背後に回って様子をうかがう。

 (ヘンリー)は手強い。

 まずは安全地帯(カロリーナ)への退避が重要だ。


 離されてなるものかと背後から抱き着いた形のイリスに、カロリーナは困ったようにため息をついた。

 さすがは姉弟、ため息も似ている。


「あんた達、毎回毎回、同じことを繰り返して飽きないの?」

「ヘンリーが攻撃をやめればいいのよ」

「イリスはリハビリするんだろう?」

 しばし睨みあっていると、間に挟まれたカロリーナが額に手を当てて俯いた。


「わかった。間を取りましょう。三人でデートよ」




 カロリーナの言葉に従って、三人で街に出かけることになった。

 馬車ではカロリーナの隣に座り、心ゆくまでおしゃべりを楽しみ。

 カフェではカロリーナの隣に座り、心ゆくまでケーキと紅茶に舌鼓を打った。


 楽しい上に安全となれば、イリスは大満足だ。

 満面の笑みのイリスに対して、ヘンリーの表情は曇っている。


 不機嫌とまではいかないが、満足していないのは明らかだ。

 だが、ヘンリーを満足させるにはおそらく危険が伴う。

 あえて危険な道を通りたくはないイリスは、カロリーナとのデートを心から楽しんでいた。


 だが、幸せは長くは続かない。

 カフェを出たところで、カロリーナはまさかの言葉を口にした。


「じゃあ、私は帰るから。後は二人で頑張って」

「ええ⁉ 何で? 三人って」

 カロリーナの袖を握って縋ると、困ったような顔で頭を撫でられた。


「私がいると、イリスはヘンリーのリハビリができないでしょう? 少しは頑張りなさい」

「そんな」


 カロリーナの背を呆然と見送っていると、ポンポンと肩を叩かれる。

 恐る恐る振り返ると、そこには紫色の瞳を細めたヘンリーがいた。



「さて、どこに行く?」

 どこに行くと言われても、すでにカフェでケーキを食べてしまったし、思いつかない。


「なら、歩こうか」

 困るイリスの手を握ったヘンリーは、そう言って歩き出す。


 本来なら身長差から考えて、もっと速度が速いだろう。

 イリスの歩幅に合わせてくれているのだと気付くと、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。


「……鉄壁の残念、カムバック」


 羞恥心を失ってさえいれば、何も気にすることなく楽しめただろうに。

 世の女性達は、どう折り合いをつけているのだろう。


「何だ?」

「何でもない」

 慌てて首を振ると、ヘンリーは苦笑して頭を撫でた。


「『かむばっく』が何かは知らないが、鉄壁の残念とか言っている時点で、大体わかるからな」

「モレノ、怖い……」


 何を言っても言わなくても大体筒抜けなのだが。

 何と恐ろしいことだろう。


「行きたいところがないなら、こっち」



 ヘンリーに促されるままについていくと、そこには大きな噴水があった。

 階段状の滝のような部分とその先には時々水柱を上げる部分があり、目に楽しい。


 一体どういう仕組みで水を噴き上げているのかはわからないが、その勢いに圧倒されたイリスは歓声を上げた。


「凄い、綺麗ね!」

 定期的にしぶきを上げる水に、それに伴い現れる虹。

 噴水の端に手をかけて夢中で見ていると、隣から小さな笑い声が聞こえた。


「何? うるさかった?」

 はしゃぎすぎただろうかと心配していると、ヘンリーはゆっくりと首を振った。


「違う。……可愛いな、と思っただけ」

「ま、また、そういうことを言う!」

 慌てて距離を取ろうと下がると、噴水の端から手が滑った。


「――イリス!」

 指先に水を感じた瞬間に強い力に引き寄せられ、あっという間に包み込まれる。

 ヘンリーに抱きしめられたというのはわかるが、驚きのほうが勝ったイリスは腕の中で目を瞬かせた。


「……び、びっくりした」

「怪我は? 濡れていないか?」


 腕を緩めると、ヘンリーはイリスの手を取って検分を始める。

 さすがは面倒見の鬼、面倒見が揺るがない。


「どこも痛くないわ。平気よ」

 ヘンリーのおかげでどこもぶつけていないし、袖のあたりが少し濡れただけだ。

 だが、面倒見の鬼は表情を曇らせるとイリスの手を引いて噴水から離れる。


「どうしたの?」

「濡れたまま水のそばにいたら、冷える。もう帰ろう」


 そう言って上着を脱いだかと思うと、そっとイリスを包み込んだ。

 周囲から何故か悲鳴が聞こえたが、何かあったのだろうか。



「ねえ、別に平気よ? 濡れたのは袖だけだし」

「駄目。何なら、抱き上げて運ぶぞ」

「歩く。歩きます。歩きたい。歩かねば!」


 必死に足を動かすイリスを見て苦笑したヘンリーは、あっという間に隣に並んだ。

 イリスのように必死には見えないので、やはりさっきは速度を加減して歩いていたのだろう。


「疲れたら、いつでも抱っこするからな」

「抱っこされるくらいなら、這ってでも歩くわ」


 今日は別に疲れていないので、問題ない。

 イリスは別にか弱いわけではないし、そこらの深窓の御令嬢に比べれば、よほど動けると思う。


 ただ、切ないほどに力がなくて、体力がすぐ底をつくというだけだ。

 ……自分で言っていて、少し悲しいが。


「這っている時点で、歩けていないぞ」

「気合いの問題よ」



 一生懸命早足で歩いていたのだが、さすがに疲れてきた。

 どうせヘンリーは難なくついてくるのだから、無理をしても意味がない。


 イリスが自分のペースで歩き出すと、速度の変化に気付いたらしいヘンリーがちらりと顔を覗き込んできた。


「抱っこするか?」

「そこはまず『疲れたか』じゃないの?」


 大事なところを軽くすっ飛ばして、何ということを口にするのか。

 面倒見の鬼は面倒を見る癖に、攻撃的だ。

 何と厄介な生態だろう。


「同じことだろう。で、どうする?」

「しない。歩くの」

「はいはい」


 ヘンリーはぞんざいな返事をすると、おとなしくイリスについてくる。

 とりあえず抱っこを強行するつもりがないことに安心しつつ馬車に到着すると、さすがに疲れた。



 当然のように隣に座ったヘンリーに文句を言うのも面倒くさくなり、放置する。

 やがて出発して馬車が揺れ出すと、予想通りの眠気が襲って来た。


 これは、危険だ。

 歩けない時点で抱っことか言うのだから、隣で眠るなんて危険極まりない。

 こんなことなら、肉の一本でも持参しておけば良かった。


 後悔する間にも、イリスの瞼は閉じ始め、頭が揺れる。

 ハッと気が付いた時には、イリスはヘンリーにもたれて肩を抱えられた状態だった。


「やだ。放して」

「駄目。揺れてぶつかったりすると危ない」

 眠気を堪えながらヘンリーを手で押しのけようとするが、さっぱり動かない。


「ん-!」

 それでもどうにか頑張って押していると、手をすくい取られ、指先に唇を落とされる。

 驚いて目を瞬かせるイリスに気付くと、ヘンリーは紫色の瞳を細めた。


「抵抗しても可愛いけど……諦めて、俺の腕の中で眠れよ」


 何だか、とんでもないことを言われた。

 文句を言いたいし、抜け出したい。

 なのに、すべてを凌駕する眠気がイリスの頭と体を支配する。


 どうにもならなくてゆらゆら揺れる頭を、ヘンリーに抱き寄せられる。

 そうして安定した姿勢になれば、もう抵抗する術などない。


 頭を優しく撫でられながら、イリスの意識はあっという間に夢の世界に旅立った。

「残念令嬢」書籍発売感謝祭リクエストはこれで終わりです。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。



明日からは、

「契約外溺愛 ~呪われ猫伯爵に溺愛宣言されたが、勘違いする乙女心は既にない。……いえ、取り戻さなくて結構です!~」

を連載開始します。


夜の活動報告で、あらすじを公開中です。

「契約外溺愛」も、よろしくお願いいたします。



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美麗表紙と肉を、お手元に迎えてあげてくださいませ。

m(_ _)m

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