イリスの夏 男女逆転「残念令嬢」
男女逆転パラレルです。
最近、ヘンリエッタちゃんの出番が多いですね。
「見てわかるだろう? 骨付き肉だよ」
イリスが高々と肉を掲げると、紫の瞳の美少女が眉を顰めた。
「わたくしは、何を持っているのかを聞いたわけではありません。何故持っているのかを聞いたのです」
「何故って……一番残念な絵面だから」
イリスの返答を聞いたヘンリエッタは、がっくりと肩を落とした。
「学園で初めての夏の夜会ですよ? 皆、着飾って楽しんでいるというのに、何故イリスは自分の価値を下げるようなことばかりなさるのですか」
「そりゃあ、価値が上がったらまずいからだね」
着飾って価値が上がるということは、美少年度が上がるということで、残念度は当然下がる。
そうなればイリスの身に危険が迫るのだから、間違っても着飾ってはいけない。
今日の服装にだって、ちゃんと頭を使って残念になるようにした。
色は流行色のパステルカラーを嘲笑う、赤。
それも、ワインレッドのような大人の色合いではない。
南国の花も霞む、ビビッドカラーだ。
おかげでイリスも目が痛いが、残念のためだから我慢する。
形はもちろん流行遅れを選び、詰め物の必要がないくらいフリルとボタンを悪趣味につけてやった。
上着はビビッドな赤なので、反対色のビビッドな緑だ。
何かに似ていると思ったら、日本で見たことがあるマンボなフリフリ袖だ。
もちろん、この世界にそんなものはないので偶然だろうが、何だか軽快なリズムに乗れそうなので夜会には合うかもしれない。
色合いを逆にすればクリスマスツリーのようだと気付いて後悔したが、仕立てが間に合わなかった。
残念だ。
次はもう少し検討してから仕立てよう。
本当は露出しまくったり、物議をかもすほど短い丈にしても良かったのだが、ボリューム調整ができないのでそこは諦める。
かわりに顔以外一切肌を出さない、イカれた紳士風の格好に仕上がったので、一応満足した。
「ところで、頭に乗せておいた蜂の巣のついた枝を知らない? 髪にまで手が回らなかったから、あれが重要なんだけど」
「あんなものを頭に乗せていたら、残念を通り越してヤバいですわ」
「大丈夫だよ。蜂はいなかったから、刺されない」
「そういうことではありません」
呆れた様子のヘンリエッタが、イリスの前に手を差し出した。
これはダンスを踊ろうということか。
「ヘンリエッタ。積極的に協力してくれるのはありがたいけど、やっぱり僕の一方的な好意ということにした方がいいと思う」
「どういう意味です? 一方的な好意よりも、仲良しアピールの方が婚約阻止には効果的ですよ?」
それはその通りなのだが、仲がいいと周知されてしまえば、万が一の時に影響が出るかもしれない。
「詳しくは言えないけど。危険だから、やめた方が良いと思う」
「何が危険かわかりませんが、それならイリスも同じでしょう? 手伝いますわ」
ヘンリエッタの勢いに負けたイリスは、手を引いてダンスホールに向かう。
「とりあえず、今日はダンスでアピールに専念してくださいませ」
「でも、残念なダンスのパートナーだよ? 足が相当痛くなるだろう?」
何せ残念なのだから、親の仇のように足を踏みまくらなくてはいけない。
相手は長身とはいえ少女なので、さすがに良心が咎める。
「だから、残念はお休みです。他の女性と踊り続けていれば、それだけでも良いアピールでしょう?」
確かに、ヒロイン以外の女性とダンスを踊っていれば、彼女と関係がないというのがしっかりと伝わるかもしれない。
「そうだね。せっかく可愛いドレスを着ているんだから、ヘンリエッタを踏むわけにはいかないし」
「……へ?」
きょとんと紫色の瞳を瞬かせるヘンリエッタに、イリスはにこりと微笑んだ。
「言うの忘れていたけど。今日のドレス、可愛いね」
「ええ⁉」
「鮮やかな緑が蛙みたいで綺麗だ」
「え……」
ヘンリエッタは頬を染めたかと思ったら、すぐに眉間に皺を寄せた。
「……イリスの緑色の方が、酷い鮮やかさで目に痛いですわ」
「ええ? 褒めてくれてありがとう。ヘンリエッタはいいやつだなあ」
「せめて、いい女にしてくださいませ」
不満そうなヘンリエッタの手を引いて、踊り始める。
戦いは始まったばかりだ。
――必ず立派に残念な令息になって、生き延びてみせる。
イリスは己に固く誓った。
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「『その溺愛、契約外だと思います』『可愛い君が悪い』 ~呪われ猫伯爵に溺愛宣言されたが、勘違いする乙女心は既にない。……いえ、取り戻さなくて結構です!~」
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