イリスのどんぐり ヘンリーの初恋のイリス視点 1
「残念の宝庫」の「ヘンリーの初恋」を読んでから、ご覧ください。
「いたっ」
指先に痛みを感じたイリスが見てみると、小さな針のようなものが刺さっている。
庭に綺麗な花が咲いていたので近くで見ようと触ったのだが、どうやら棘があったらしい。
「これが綺麗な薔薇には棘があるってやつね。……薔薇じゃないけれど」
反対の手で棘を抜こうとするのだが、つまめそうでつまめなくて、なかなか上手くいかない。
それにしても、手に棘がささるなんて随分と久しぶりだ。
「さすがに、木登りもしなくなったものね」
木にしがみついて登ると、手には沢山の木の破片が刺さる。
痛いしなかなか取れないので、ちょっと切なくなる思い出だ。
「……そういえば、小さい頃にめちゃくちゃ棘抜きが上手な子がいたような……」
あれは、五歳の頃だっただろうか。
イリスは指をさすりながら、遠い昔のことを思い返した。
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「遊んでいらっしゃい、イリス。庭から出てはいけませんよ」
イサベルに許可を貰ったイリスは、喜び勇んでテーブルから離れる。
庭には十五人ほどの子供達がいたが、女の子は人形遊びをしているし、男の子は木の枝を振り回している。
どちらの気分でもなかったイリスは、ボールを抱えて庭の奥へと走っていった。
どんぐりの木を見つけたイリスは、夢中になってどんぐりを集める。
両手にいっぱいのどんぐりを拾うと、ポケットに詰め込んだ。
満足したイリスは、次にボールを投げて遊び始めた。
赤いボールはイリスのお気に入りで、弾む様が面白い。
夢中になって放り投げていると、風に乗ったボールが木の枝に引っかかってしまった。
「大変。取らなくちゃ」
イリスは慌てて木にしがみついて登ろうとするが、なかなか上手くいかない。
自宅の庭の木には登っていたが、この木は幹が太くてイリスの手が届かない。
その上、木の皮が剥けて滑るので、一緒にずり落ちてしまう。
「……痛い」
手を見てみれば、いくつもの棘のようなものが刺さっているが、イリスには取ることができない。
それに、このままではボールを置いて行かなくてはいけなくなる。
「お父様がくれたボールなのに……」
何だか悲しくなって涙が浮かびそうになるが、ぐっと堪える。
イリスはもう五歳だ。
すぐに泣くような子供ではない。
ごしごしと目を擦ると、足元に置いてあったどんぐりを掴み、放り投げる。
どんぐりを下から投げてボールに当てれば、きっと落ちてくるはずだ。
だが、いくら頑張ってもボールは落ちてこない……というか、そもそもどんぐりがそこまで飛ばない。
途方に暮れていると、男の人がイリスのそばに立っていた。
「……どうしたの?」
イリスと同じ黒い髪に藍色の瞳の男の人は、じっとイリスを見ている。
プラシドよりもずっと年下で、イリスよりは年上。
これはきっと『お兄さん』というものだ。
覚えたての言葉を思い出したイリスは、何だか嬉しくなって微笑んだ。
「あのね、どんぐりが上手く飛ばないの」
「どんぐり?」
お兄さんはイリスの足元に散らばるどんぐりに視線を移すと、呆れたようにため息をついた。
「……どんぐりは、殻斗をつけたら飛ぶんじゃないかな」
「かくと?」
「どんぐりの帽子のこと」
何と、それは知らなかった。
どんぐりの帽子は『かくと』という名前で、どんぐりとかくとがくっついているとよく飛ぶとは。
「でも、何でかくとがついていると飛ぶの? 仲良しなの?」
「……そんなところ。それよりも、君はイリスだろう? お母さんのところに戻ったら?」
「何で名前、知っているの?」
「何でだろうね」
教えてくれないのは意地悪だと思うが、不思議とお兄さんは悪い人ではない気がした。
「……知らない人に名前を教えちゃ駄目なのよ。イリス・アラーナって答えるの」
「いや、それも駄目じゃない? 全部答えているよ」
「ええ?」
ちゃんとできたと思ったのに、何か駄目だったらしい。
ということは、名前は一切教えてはいけないのか。
「難しいのね」
唇を尖らせるイリスを見て苦笑したお兄さんは、イリスの頭を優しく撫でた。
「……イリスは、お父さんとお母さんが好き?」
「うん! 大好き!」
心からそう言うと、お兄さんはもう一度イリスの頭を撫でて深く息を吐いた。
「……うん。わかった。――なら、頑張るよ」
「頑張る?」
首を傾げるイリスに微笑むと、お兄さんは行ってしまった。
よくわからないが、とにかく今はボールを取らなければ。
「ええと。どんぐりとかくとが、くっつけばいいのよね」
せっかくなら、沢山のどんぐりがあった方がいいだろう。
スカートを広げてどんぐりを運ぶと、木の根元に座り込む。
早速どんぐりとかくとを手に取ってみて、困ったことに気が付いた。
「……あれ? 合わない」
どうやら、大きさや形がそれぞれ異なるらしく、適当にかくとを乗せただけでは上手くいかない。
となると、ちょうどいい大きさのものを探さなくては駄目なのか。
面倒ではあるが、ボールを取り戻すためだ。
イリスは一生懸命どんぐりとかくとを合わせようと、試行錯誤を始めた。
「ねえ、何をしているの?」
背後から突然声をかけられて驚いて振り返ると、そこには男の子が立っていた。
リクエスト内容は活動報告参照。
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