ヘンリエッタの実行 魔法使いのヘンリエッタと肉
パラレルです。
何も考えてはいけません。
ヘンリエッタは、魔女だ。
魔女である。
魔女ということにしておく。
ということで、ほうきに乗って空を飛んでいた。
そこに「肉」という叫び声が聞こえた……ような気がした。
悲鳴や歓声ならわからないでもないが、ピンポイントで肉を叫ぶ事態がこの世に存在するだろうか。
気になったヘンリエッタは、地上に下りてみることにした。
そこにいたのは、女の子だった。
金色の瞳はきらきらと輝き、つややかな黒髪はまるで極上の絹糸のよう。
女のはずのヘンリエッタでさえよろめくほどの、絶世の美少女である。
この子のためになら女を捨ててもいいなと思いつつ、警戒されないように笑顔で近づく。
「こんにちは。わたくしはヘンリエッタと申します。可愛いお嬢さん、あなたのお名前は?」
「イリス」
何と、名前まで可愛い。
ヘンリエッタはイリスという名前を心に刻んだ。
「それで、イリス。どうしたのですか?」
「あのね、お肉がないの」
「……もう一度、お願いします」
「骨付き肉なの」
「もう一度」
「私の武器なのよ」
「……何がですか」
「でも、戦友でもあるわ」
しばしの沈黙の後、ヘンリエッタは頭をフル回転させた。
雨粒さえも恥じらって避けそうな美少女の口から、まさかの骨付き肉に武器。
……これはきっと、おなかが空いているのだろう。
これだけの美少女だ。
周囲の人間が嫉妬してもおかしくない。
ろくに食事も与えられず、こんなことを口走るに至ったに違いない。
ヘンリエッタならばこんなに可愛い子がいたら、愛でて愛でて愛でまくるが、世の中にはいろんな人間がいるので仕方がない。
とにかく、彼女の望むものを出して、笑顔になってもらいたい。
ヘンリエッタが魔法の杖を振ると、少女の手に大きな骨付き肉が現れる。
それを見たイリスの金の瞳が、零れ落ちそうなほど輝いた。
「お肉!」
そんなに喜んでもらえると、ヘンリエッタの心も浮き立つ。
何だか嬉しくなったヘンリエッタは、もう一度魔法の杖を振った。
「お肉! 凄いわ、両手にお肉よ!」
美少女の口から聞くには首を傾げたい言葉だが、何にしてもイリスが喜んでくれてよかった。
ヘンリエッタが男だったら、このままさらって嫁にしたい可愛らしさである。
「良かったですね。さあ、どうぞ召し上がってください」
邪な考えを笑顔に隠して語り掛けると、イリスは不思議そうに首を傾げた。
「食べるの?」
「食べないのですか?」
しばしの沈黙の後、ヘンリエッタの頭はもう一度フル回転した。
……が、やはりよくわからなかった。
「では、一体どうするのですか?」
「どうって、武器だもの。掲げるわ!」
「……掲げて、どうするのですか?」
「戦うの! この立派なお肉なら残念だから、イチコロよ!」
しばしの沈黙の後、ヘンリエッタは考えるのをやめた。
――これは、残念な子だ。
容姿だけで世界を統一できそうなのに、何ともったいない。
……いや。逆に言えば、まだ誰のものでもないことに感謝するべきか。
「イリスは好きな人がいますか?」
念のために障害物を確認しておこうと聞いてみると、イリスは可愛らしく首を傾げた。
「好き? ……お父様とお母様」
どうやら、親による虐待コースは免れているようだ。
それもそうか。
やはりこれだけ可愛らしい子は、愛でる一択である。
「では、私も一緒に戦ってよろしいですか?」
「お肉のお姉さんも一緒なの? やったあ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる様に、ヘンリエッタの心が固まった。
イリスを愛でよう。
それも、一時ではなく、ずっと。
……となると、女の身では色々面倒か。
万能の魔女とまで呼ばれたヘンリエッタに、不可能はない。
イリスに微笑みながら、数多の魔女と魔法使いが成しえなかったことを、ヘンリエッタは実行することにした。
ヘンリエッタは、魔女だった。
魔女だったのである。
魔女だったということにしておく。
今はただ、万能の魔法使いと呼ばれる少年が、イリスのそばに立っていた。
リクエスト内容は活動報告参照。
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