イリスの肉ずきん 赤ずきんイリスとお使いを見守るヘンリー
パラレルですので、頭を空っぽにしてお楽しみください。
昔、ある森に可愛い女の子が母親と共に暮らしていました。
女の子はおばあさんに作ってもらった茶色のずきんをいつもかぶっています。
焼いた肉の皮の照りまで表現されたその頭巾と、手に持った肉がとてもよく似合う女の子は『肉ずきんちゃん』と呼ばれていました。
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「肉ずきんのイリス、どこに行くんだ?」
狩人のヘンリーに声をかけられたイリスは、手に持った籠を掲げた。
「おばあさんに、お肉を届けるのよ。鶏モモ肉と、豚バラ肉と、牛スジ肉なの!」
「……何でそんなに肉ばかり。おまえのばあさんは、とんだ肉食だな」
ヘンリーに褒められて嬉しくなったイリスは、えへんと胸を張った。
「そうなの。カロリーナおばあさんは、きょうぶに肉をつけるために肉を欲しているって、ベアトリスお母さんが言っていたわ」
『きょうぶ』というのが何なのかはわからなかったが、大好きなおばあさんのためにお肉を運ぶのだという使命感にイリスは燃えていた。
「それで、肉満載の籠を持ったイリスが、ひとりで森のなかのばあさんの家まで行くのか?」
「そうよ。お肉が腐る前に急ぐのよ」
「……その前に、生肉をやめればいいだろう」
ヘンリーの指摘に、イリスは目を瞠った。
「本当だわ。何たる盲点。ベアトリスお母さんに教えてあげなくちゃ」
踵を返そうとするイリスの手を、ヘンリーがつかむ。
「今から家に戻って、ばあさんの家に行く気か? それこそ肉が腐るぞ。帰宅してから伝えればいいだろう」
「本当だわ。ヘンリー、頭いいわね」
にこりと微笑むと、何故かヘンリーの頬が少し赤く染まった。
「それじゃあ、さようなら」
「いや、待て。森には狼や狼や狼がいるんだぞ。イリス一人じゃ危ない。カモがネギ背負ってるどころか、肉が肉をかぶって踊っているようなものだ」
「……この森、狼しかいないの?」
「イリスを見たら、狼になるんだよ」
よくわからないが、どうやらヘンリーは心配してくれているらしい。
「大丈夫よ。私には手持ちの肉もあるから」
籠から骨付き肉を一本取り出して持って見せると、深いため息をついた。
「どこが大丈夫なんだよ。事態は悪化しているじゃないか。野生動物が集うだけだ」
「悪化って? 元々野生動物の心配でしょう?」
狼が集まるという話だったはずだが、違うのだろうか。
「……ああ、もう。俺も一緒に行く。このままじゃイリスが食べられる」
「え? 別にいいわよ。大体、肉を食べるのはおばあさんよ。じゃあね」
肉を振ってヘンリーと別れると、そのまま森の中を進む。
すると、道の向こうから黒髪の少年がやってきた。
「こんにちは、イリスさん。お出かけですか?」
「うん。お肉を届けに行くのよ」
籠を掲げて見せると、クレトは笑顔でうなずいた。
「中身はどうかと思いますが、イリスさんらしいですね。森には色んな人がいますから、気を付けて……ああ、大丈夫みたいですね。それじゃあ、失礼します」
肉を振ってクレトを見送るが、大丈夫とはいったい何のことだろう。
「もしかして、このお肉の攻撃力を褒めてくれたのかしら」
今日は肉ずきんに加えて手に骨付き肉、籠は肉三昧だ。
確かに、肉の攻撃力はマシマシである。
自信を深めたイリスが楽し気にスキップしていると、今度は赤い髪の美少年がやってきた。
「あ、レイナルド。こんにちは」
「何だ、肉ずきんのイリスか。……おい。いや待て待て」
接近するや否や激しく首を振り始めたレイナルドに、イリスは肉を傾げる。
「どうしたの? レイナルド」
「――俺は無実だ!」
急に叫んだかと思うと、レイナルドはあっという間に走り去ってしまった。
これも、マシマシの肉の攻撃力のおかげだろうか。
よくわからないが、何とも騒がしい人である。
更に進んでいくと、今度は灰色の髪の少年の姿が見えた……と思ったら、消えた。
ラウルがいたように見えたが、気のせいだったのだろうか。
「随分歩いたわね。ちょっと休憩」
大きな木の根元に籠を置いて座ると、何だか段々眠くなってきた。
「少しだけ、休憩だけ……」
そのまま、うとうとと瞳を閉じるとあっという間に夢の世界に旅立った。
鼻をくすぐる香ばしい匂いに、イリスの意識が浮上する。
目を開けると何故かベッドに寝ていて、カロリーナが心配そうに顔を覗きこんでいた。
「イリス、大丈夫? 寒くない?」
「うん。……何でカロリーナおばあさんがここにいるの? 私、森の中で休憩していたはずだけど」
カロリーナは体を起こしたイリスの頭を撫でると、困ったように微笑んだ。
「森の中で寝ていて危険だからって、ヘンリーが連れてきたのよ」
「ヘンリー? 凄い偶然ね」
ヘンリーに会ったのは森の入り口付近だったが、あの後森の中に戻ってきてイリスを見つけたのだろうか。
狩りの途中だっただろうに、申し訳ないことをしてしまった。
「偶然、ねえ。……まあ、イリスが無事で良かったわ」
「ああ、起きたのか」
扉を開けて入ってきたヘンリーは、イリスの顔をじっと見ると額に手を当てた。
「熱はなさそうだな。いくら何でも森で昼寝は危険だから、駄目だぞ」
「うん……? ところで、その恰好は何?」
ヘンリーは服の上にエプロンをつけ、ご丁寧に三角巾までかぶっているが、どういうことだろう。
「ちょうど肉が焼けたところだから、イリスも食べよう」
「は?」
ベッドから起きたイリスが見たものは、テーブルいっぱいに広げられた肉料理の数々だ。
鶏モモ肉、豚バラ肉、牛スジ肉が、よくわからないけれど美味しそうな料理に化けている。
「これ、私が持ってきた肉よね? 私、そんなに寝ていた? 何でこんなにいっぱい料理ができているの?」
「寝ていたのは一時間くらいかな」
そう言いながら、ヘンリーはこんがりと焼けた肉を皿に盛っている。
「ヘンリーが、作ったの? これ全部?」
「ああ。時間がないからたいしたものは作れないが」
たいしたものって何だ。
既にテーブルの上は王侯貴族のパーティかという華やかさなのだが、一体何をどうすればこんな料理ができるのだ。
「ヘンリーって、狩人よね。料理人じゃないわよね?」
「狩人だって、一通り料理くらいできるさ」
「一通りの範囲がおかしくない?」
首を傾げるイリスの前にフォークに刺された肉が差し出され、それを受け取ったイリスはぱくりと口に入れた。
香ばしくてパリパリの皮に、ジューシーな肉汁。
塩加減も絶妙で、何だか色んな風味が口の中を駆け巡る。
「……美味しい」
もぐもぐと咀嚼するイリスを見て、カロリーナとヘンリーが微笑んでいる。
よくわからないが、お肉を届けるという役割は果たせたし、料理もおいしいので問題ないか。
ごくんと肉を飲み込むと、ヘンリーがどこからか取り出したハンカチでイリスの口を拭く。
「自分で拭けるから、いいってば」
「また、お使いに行く時には、俺を呼べよ」
「何でよ。ひとりで平気よ」
ハンカチを押しのけると、ヘンリーは苦笑しながらイリスの耳元に顔を寄せた。
「――狼は、俺ひとりで十分だから」
にこりと微笑まれたが、意味がわからないイリスは首を傾げるばかりだった。
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