カロリーナの対抗心 カロリーナから見たヘンリー 2
ヘンリーが領地に向かって数日後。
カロリーナがコンラドと庭で遊んでいると、慌てた様子の男性がやって来た。
渡された手紙を見るなり怖い顔になった父に、カロリーナは驚いて駆け寄る。
「……お父様、どうしたのですか?」
心配になって尋ねると、コンラドはカロリーナの頭を撫でた。
「お祖父さんからの手紙でね。次の当主はヘンリーになるって。明日には屋敷に戻ってくるよ」
「本当ですか? やったあ!」
何だか嬉しくなって喜ぶカロリーナの傍らで、コンラドは眉を顰めた。
「早すぎる。……何があったんだ」
翌日、ヘンリーは帰ってきた。
教えられたカロリーナが急いで迎えに行くと、そこには祖父のロベルトとヘンリー、そしてもう一人見知らぬ少年がいた。
「お帰り、ヘンリー。お祖父様、こんにちは。……その人は、誰ですか? それに、お母様は?」
「挨拶をありがとう、カロリーナ。お父様はいるかな?」
ちょうどやって来たコンラドを見るなり、ロベルトは困ったように笑った。
「……とりあえず、お茶にしよう」
ロベルトに促されて部屋に入ると、カロリーナはコンラドの隣に座った。
向かいのロベルトの隣にヘンリーが座ったが、少年は横に立ったままだ。
「あなたも座ったら?」
「いえ、結構です」
そう言って、あとは黙って立ったまま。
ということは、使用人なのだろうか。
別に座っても良いと思うが、彼らはそういうところは頑固なのを知っている。
仕方ないので、カロリーナは黙ってお茶を飲むことにした。
「――次期当主は、ヘンリーだ」
前置きもなくロベルトがそう言うと、コンラドはため息をついた。
「資質を見る試験の第一回目。しかも初日だったはずでしょう。何故、そんなに急ぐのですか」
「急いでなどいない。だが、無駄な試験は必要ない」
「では、ニコラスに何か不足が?」
「いや、あれに問題はない。ヘンリーが圧倒的過ぎただけだ」
ロベルトの言葉に、コンラドの顔が一気に険しくなった。
「では、ファティマがいないのも」
「……ああ。おかげで、屋敷の使用人達が総崩れだ。もちろん、ファティマもな。――おそらく、私以上の資質を持っている」
コンラドが言葉を失っているが、カロリーナには何の話だかいまいちよくわからない。
じっと見ていると、コンラドは紅茶を一口飲んで、大きなため息をついた。
「……それで、その子は?」
「屋敷の使用人の子供だが、この子だけは何とか耐えられた。耐性があるのだろう。ヘンリーにつけるといい」
コンラドはうなずくと、少年を見つめた。
「君、名前は?」
「ビクトル・ダビーノです」
「ではビクトル。これからヘンリーの従者として仕えてくれないか。……いずれはヘンリーの補佐官となってほしい」
「補佐官?」
何を言われたのかわからないらしい少年が、首を傾げている。
「そばにいて、支えてほしい。――兄のように」
「……はい」
兄という言葉に何かがくすぐられたらしく、ビクトルは何だか嬉しそうだ。
「さて。私達はまだ話がある。カロリーナ、ヘンリーとビクトルを連れて行ってくれるかい?」
部屋を出て、そのまま庭に向かう。
良い天気だから、今日は庭でおやつを食べるのも良いかもしれない。
「ヘンリー、お帰り。試験、大変だった?」
「……うん」
何だか、ヘンリーの元気がない。
そう言えば、帰ってきてからほとんどしゃべっていない。
どうしたのだろう。
「カロリーナ。俺のこと、怖い?」
ようやく喋ったと思ったら、変なことを言っている。
「怖いって、何が?」
「俺の……」
そう言ったきり、ヘンリーは俯いてしまった。
「よくわからないけれど、怖くなんてないわ。私はお姉さんなのよ?」
胸を張って答えると、ヘンリーが驚いたような顔をして、そしてほんの少し笑った。
「……なら、良かった」
何だか寂しそうな様子に、カロリーナまで切なくなってくる。
「ヘンリーが次の当主なんでしょう?」
「うん」
「凄いわ。黄色い子も、びっくりするわね」
六歳で試験を受けて次期当主になるというのは、たぶん凄いことだ。
ヘンリーのお友達にだって、自慢できるだろう。
だが、ヘンリーはきょとんとした顔で首を傾げている。
「誰、それ」
「え? ヘンリーが言っていたでしょう?」
「知らない」
その子のために頑張ると言っていたのに、どうしたのだろう。
忘れてしまったのだろうか。
「……ああ。きっと、疲れているのよ。そういう時は、美味しいものを食べると良いってお母様が言っていたわ」
領地は遠くて、馬車に乗っているのは疲れる。
きっと、そのせいでいつもと違うのだ。
「今日は林檎のパイがあるの。お腹空いたでしょう? あなた……ビクトル? 一緒に食べましょうね」
「いえ、俺……私は」
「いいから。すごくおいしいのよ。ヘンリーも行こう」
「うん」
継承者も当主も、やっぱりよくわからないけれど、ヘンリーは可愛い弟だ。
姉であるカロリーナが、助けてあげなければ。
『兄のように』と言われたビクトルに多少の対抗心はあるが、今は美味しいおやつが優先だ。
カロリーナは林檎のパイの美味しさを力説しながら、二人の手を引いた。
「残念令嬢 〜悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します〜」受賞&書籍化感謝リクエストはこれで終了です。
また機会があれば、リクエストを募集します。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。









