表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【残念令嬢・書籍化&コミカライズ】残念の宝庫 〜残念令嬢 短編集〜  作者: 西根羽南
「残念令嬢」アイリスneoファンタジー大賞受賞&書籍化感謝リクエスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/57

モニカの観察  悪役令嬢揃い踏み

「残念令嬢」本編、第五章と第六章の間あたりのお話です。

 モニカがこの夜会に参加したのは、一つの噂を確認するためだった。

 かなり早くから会場入りしたモニカは、ダンスの誘いを断り、何をするでもなく、ただそれを待っていた。


 モニカは伯爵家の娘で、未婚の女性だ。

 この時点で、男性に声をかけられることは多い。

 容姿はそこそこだが、艶のある金髪にはちょっと自信がある。

 だが、図らずも保有する理由のせいで、更に声をかけられるようになっていた。

 最近ではそれが面倒になり、夜会への参加を控えていたが、今日は特別だ。


 あの噂が本当ならば、多少の苦労などどうでも良い。

 寄ってくる男性を撃退しながら待っていると、ついにその時が訪れた。


 会場に現れたのは、四人の女性。

 普通は異性のパートナーを連れることが多いので、この時点で目立つ。

 更にこの四人は、それぞれがとんでもない人物ばかりだった。




 一人目はベアトリス・バルレート公爵令嬢。

 清楚で上品な、淑やかな美女だ。


 当時王子だったアベル・ナリスとの婚約破棄で一時は悪評もあったが、結局は冤罪とわかり名誉も回復している。

 そうなれば、国でも一二を争う名家の御令嬢で、年頃の美女だ。

 かなりの縁談が舞い込んでいるらしいと噂は聞くが、今のところ婚約者もいない。

 男性からすれば垂涎の存在だ。



 二人目はカロリーナ・モレノ侯爵令嬢。

 長身の痩身で、凛とした美女だ。


 以前は『隣国からいじめをする稀代の悪女』と呼ばれていたが、それも冤罪だと知られている。

 既に王弟であるシーロ・オルティス公爵の婚約者なので、男性陣はさすがに手が出せない。

 だが、その凛々しさと美しさから、女性の人気が高く、今も御令嬢達が黄色い声をあげていた。



 三人目はダニエラ・コルテス伯爵令嬢。

 気さくで明るい、華やかな美少女だ。


 修道院に入れられたと聞いたが、それもまた冤罪だったらしい。

 ところが彼女はその後も教会や修道院に通い、手伝いを続けているという。

 本人の朗らかな人柄もあり、彼女が手伝いに訪れると教会に長蛇の列ができるという話もある。

 麗しい姿で尊い心を持った御令嬢だと、親世代からの支持も厚い。



 四人目はイリス・アラーナ伯爵令嬢。

 小柄で華奢な、可憐な美少女だ。


 残念の先駆者(パイオニア)として有名な彼女は、その美貌を惜しげもなくぶち壊す残念な装いで一世を風靡した。

 その後は残念と普通を使い分けるという高度な技術を使っており、その魅力に嵌まる人が後を絶たない。

 ヘンリー・モレノ侯爵令息と婚約しているが、それでもお近づきになろうという男性も多い。

 また、一部残念好みの人々からは、女神のごとく崇拝されている。



 モニカはこの残念好みの人間に分類される。

 残念の先駆者(パイオニア)、イリス・アラーナ伯爵令嬢が参加するというので、一目見ようとこの夜会に参加したのだ。




「……嘘みたい。何て可愛いのかしら」

 モニカは何度目かのため息と共に、林檎のジュースに口をつけた。


 今夜のイリスは残念なドレスではなく、普通の装いだ。

 普通ということはつまり、とんでもなく可愛らしいということで。

 その姿を眺めてはジュースを飲むという動作を繰り返していた。


 イリスのドレスは、淡い灰色だ。

 それだけなら地味になりそうなものだが、ドレス全体にいくつもの花の飾りが咲き誇るように配置され、その花芯にはピンク色のビーズがあしらわれている。

 耳元にも大きな花の飾りをつけていて、そちらの花芯は紫色のビーズだ。


「元が良いから、ドレスの色味を抑えても十分に華やかだわ。それに、花芯だけに色を入れているのが、また可愛らしい。……参考にしましょう」

 モニカは心のノートにメモを取った。


 酒の肴という言葉があるが、正直イリスのドレス姿で林檎ジュース十杯はいける気がする。

 トイレ休憩を入れても良いのなら、十五杯は間違いない。

 それに、四人が会場に現れてからはモニカに声をかける男性も減って、ありがたい限りだ。



 周囲を見てみれば、モニカ同様に見ることで満足している者も多い。

 一部、声をかけたくてそわそわしている男性もいるが、色んな意味で難しいだろう。

 ところが、イリスが四人の輪から外れた。

 その一瞬を逃すまいと、何人もの男性が動き出す。

 思わずモニカも移動して、もう少し近くで彼女達を見ることにした。


 一人になったイリスを男性達が取り囲んでいる。

 イリスは手に小ぶりの骨付き肉を持っているが、男性達はそれに怯んでいるようだった。


「肉を持った残念の先駆者(パイオニア)なんて、最高なのに。普通のドレスに肉はかなり珍しいのよ。なんて物の価値のわからない男達かしら」

 文句を呟きつつ、少しずつ自然に近付いていくと、会話が聞き取れるようになってきた。



「アラーナ伯爵令嬢ですよね。どうか、私と踊っていただけませんか」

「いえ、イリス嬢。私と」

 婚約者がいるとはいえ、さすがは未婚の美少女、大人気だ。


「……私、お肉に忙しいので結構です」


 イリスの言葉に、男性達が固まる。

 断られるのは予想していたかもしれないが、理由は予想外だったらしい。

 それにしても、肉に忙しいとはどういう状態なのだろう。



「はいはい、そこまで。イリスを守る約束で連れ出しているんだから、手を出しちゃ駄目よ?」

 イリスと男性の間に割って入ったダニエラが、軽くウィンクをした。

 何かが射抜かれる音が、モニカにも聞こえた気がする。


「あら。イリスと踊りたいのですか? 困りましたね」

 そこにやって来たベアトリスが、小さく首を傾げた。

 その上品な仕草に、またまた何かが射抜かれた音がする。


「残念だけど、イリスと踊るのは私なの。ごめんなさいね」

 そう言うなり、カロリーナはイリスを連れて踊り始める。

 ドレス姿なのに男性パートを完璧に踊りこなす姿も麗しいが、それに合わせるイリスが可憐で、思わずため息がこぼれる。

 周囲からも何かが射抜かれた音が響き渡り、会場中が四人に熱い眼差しを送っている。



「そろそろ時間か、早いわね。少しでも遅れたらヘンリーが来かねないわ。うっとうしいから、戻りましょう」


 カロリーナはそういうと、最後にイリスをくるりと回して礼をした。

 ふわりと翻るイリスのドレスと微笑みに釘付けになっている間に、いつの間にか四人は会場からいなくなっている。

 遠くから肉を持ち帰るだの持ち帰らないだの聞こえてくるが、それもまた良い。



「……目の保養だわ」

 会場は肉の香りと幸せな空気に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

-


「残念令嬢」

「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」

コミカライズ配信サイト・アプリ
ゼロサムオンライン「残念令嬢」
西根羽南のHP「残念令嬢」紹介ページ

-

「残念令嬢」書籍①巻公式ページ

「残念令嬢」書籍①巻

-

「残念令嬢」書籍②巻公式ページ

「残念令嬢」書籍②巻

-

Amazon「残念令嬢」コミックス①巻

「残念令嬢」コミックス①巻

-

Amazon「残念令嬢」コミックス②巻

「残念令嬢」コミックス②巻

一迅社 西根羽南 深山キリ 青井よる

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[気になる点] 林檎ジュース10杯は、林檎何個分なのか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ