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【残念令嬢・書籍化&コミカライズ】残念の宝庫 〜残念令嬢 短編集〜  作者: 西根羽南
「残念令嬢」アイリスneoファンタジー大賞受賞&書籍化感謝リクエスト

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ベロニカの発見  残念な平民女子 1

第四章の頃のお話です。

「ヘンリーのデート」「ヘンリーの幸運」の後に読むのをおすすめします。

 ベロニカは貴族のお屋敷で下働きをする平民だ。


 主に掃除や厨房の手伝い、日によってはお嬢様の着替えの手伝いなど、仕事は多岐に渡る。

 仕事は忙しいが、充実している。

 とはいえ、やはり息抜きはしたくなるものだ。

 その日ベロニカは、友人達と一緒にチョコレートケーキが有名なカフェを訪れていた。



「ねえ、ベロニカは貴族のお屋敷で働いていたわよね? 恋愛小説みたいな素敵な出会いはないの?」

 チョコレートケーキを待つ間、出てくる話はもっぱら恋愛の話。

 年頃の女の子が集まれば、当然と言って良かった。


「芋や肉や皿とは毎日出会っているわよ」

「そうじゃなくて。お屋敷のお坊ちゃんとか、美貌の執事とか、荒っぽいけれど優しい同僚とか!」

 何か具体的な小説を思い浮かべているらしい友人達が、うっとりと頬を染めている。


「ないわ」

 ベロニカが仕える屋敷には息子と娘二人がいるが、執事はおらず、同僚はただの同僚だ。

 それを伝えても何かを諦めきれないらしい友人達は、縋るような目でベロニカを見つめる。


「えー! せめてお坊ちゃんを見たことくらいあるでしょう?」

「あるには、あるけれど。既婚者だし」

 待ち望んだロマンスの欠片も期待できないと悟った友人達が、それぞれにため息をつく。


「あー。もう、自分の話じゃなくて良いから……どこかに絶世の美少女とか、美少年とか、素敵なロマンスの話は転がっていないのかしら……」

 投げやりに呟いた友人の一人が、急に眼を見開いて固まった。

 顎が外れる寸前まで口を開いている友人は、一向に動かない。


「……ちょっと、どうしたの?」

 目と口を開いたまま、友人はベロニカの背後を指差す。

 何だろうと振り返って、ベロニカと友人達は一斉に目を瞠った。



 ふんわりとしたシルエットのワンピースは、腰に大きなリボンがついている。

 白地に黄緑色の細いストライプの入った生地全体に、細かな花が散りばめられていて可愛らしい。

 更に程よく白のレースと布が入ることで、華やかなのに清楚な印象。

 艶やかな黒髪は二つに結い上げられて、それぞれ白のリボンと小さな花が飾られている。

 ちらりと覗く足は白い靴下で飾られ、黄緑色の靴で上品にまとめてある。

 一目で上質とわかる可愛らしいワンピースと髪型に目を奪われるが、問題はそこだけではない。


 滑らかな白い肌、瑞々しく赤い唇、星のように輝く金の瞳、すべてが整った、美しい顔立ち。

 ワンピースを着て座っている少女は、絶世の美少女といって差し支えない可愛らしさだった。


「……いた。本当に、美少女がいた……」

 ベロニカの言葉に、友人達も無言でうなずいた。



 女というものは、基本的に同性に厳しい。

 だが、ワンピースの少女は嫉妬という感情が土下座して海の底に沈むほどの、圧倒的な美貌だった。

 出る杭は打たれると言うが、出過ぎた杭は打たれない。

 それどころか、ちょっと感動さえしていた。


「……世の不平等も、あそこまで行くと清々しいわね」

「あれ、確か『ミランダ』のワンピースよ。商家のお嬢様達に人気らしいの。あの色は見たことがないから、きっと新作よ」

「あの子も商家のお嬢様なのかしら。あれだけ可愛かったら、それこそ貴族や王子様と素敵なロマンスし放題よね」

「あの髪の毛、何であんなにツヤツヤなのかしら。わけてほしいわ」

 うっとりと各方面で羨望の眼差しを送っていると、友人の一人が何かに気付いて慌てている。


「ちょっと、大変! あの子の前に座っている人を見て!」

 促されるまま少女の前に座る少年に視線を移す。

 ベロニカ達の席からはちょうど顔が見えにくいが、着ている服から察するに裕福な商家の息子といったところか。


 自分達からすれば十分に手の届かない世界の人間だが、今のベロニカ達はワンピースの少女を見たショックでそちらに肩入れしている。

 あの美少女に連れそうには、ただの商家の息子は物足りなく感じた。

 だが、少年が横を向いた瞬間、全員が息を呑んだ。



「……いた。美少年もいた……」


 茶色の髪のその少年は、神秘的な紫色の瞳をしていた。

 容姿は眉目秀麗で、清潔感もある。

 少女を見つめる視線には明らかに好意があって、見ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。

 美少女の前にいても引けをとらないその姿を見て、思わずため息がこぼれた。


「世の中の不平等って、こんなにも目が幸せなのね……」

 友人達はテーブルに運ばれたチョコレートケーキに気付くこともなく、うっとりと二人を見つめていた。

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