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【残念令嬢・書籍化&コミカライズ】残念の宝庫 〜残念令嬢 短編集〜  作者: 西根羽南
「残念令嬢」シリーズ100話達成感謝リクエスト

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シルビオの宣言  カロリーナとシーロの出会い 3

 襲撃という言葉に、久しぶりに緊張が走る。

 隣国に来てから一度も危険な目に遭っていないので、すっかり油断していた。

 モレノが匿ってくれているとはいえ、情報が漏れないとも限らない。


「シルビオ、窓から離れて。ただの賊かもしれないけれど、あなたを狙っている可能性もある。馬車から出てはいけないわ」

 窓から外を覗いてみれば、御者二人が十人ほどの男と交戦している。

 だが人数の差がある以上、このままでは不利だろう。

 シルビオも一応護身用として剣を佩いているし、王城で剣を習ってはいる。

 少しでも戦力は多い方が良いはずだ。


「やはり、助けに出――」

 突然何かで視界が遮られて、言葉が途切れる。

 布のような物を取り除いてみてみると、さっきまで目の前のカロリーナが着ていたドレスと同じ生地だ。


「カロリーナ、これ」

 困惑しながら見てみると、カロリーナはズボン姿で肘掛から剣を取り出していた。

 呆気に取られて見ているシルビオに気が付くと、ため息をつく。


「モレノは諜報活動が家業よ。でも、あなたを引き受けたのだから、その存在を隠して守るのも仕事。のこのこと顔を晒されては、こちらが困るの。大人しくしていて」

「何をするつもりだい? 君は女性だろう」

 すると、黒髪の美女は冷たい笑みを浮かべた。


「私を女性ではないと言ったのは、シルビオよ。安心して。モレノの女は、やわな王子様よりは強いわ」

 そう言うなり、馬車から飛び出した。

 呆然とそれを見ていたシルビオは、慌てて窓から外を覗く。

 御者二人も結構な手練れだったが、カロリーナも女性でありながら引けを取らない腕前だ。

 何より、剣を振るう姿が美しく、もっと見たいと思った。



 劣勢になった男達が撤退すると、カロリーナは御者に何やら指示を出し、馬車に戻ってきた。

「統制もとれていないし、様子からしてただの賊ね。安心して良いわ」

 そう言って、剣を肘掛の中に戻す。

 手慣れた動作からして、初めてのことではないのだろう。


「カロリーナは、剣を使えるんだね」

「モレノの女の嗜みよ。剣とは限らないけれど、身を守る術は叩き込まれるわ」


「君は、いつまでこの国にいるんだい?」

 シルビオの問いに、一瞬眉を顰める。

「……もうしばらくは」


「俺と同じだね。では、俺に剣の稽古をつけてくれないか?」

「は?」

 外した肘掛を直しながら、カロリーナは怪訝な表情になった。

「王城で多少は習っていたが、実戦経験はないしね。何せ暇なんだ。俺の状況からして、身を守る術を磨くのは無駄にならないし」

「……わかったわ。なら、手配をするわ」


「いや。君が良い」

「は?」

「君の剣は綺麗だった。あれを、習いたい」

 面食らった様子のカロリーナは、しばらく瞬きをしている。


「き、綺麗って。……私よりも技量の高い者はいくらでもいるわ」

「例えば?」

「ヘンリーの剣は、綺麗よ。本当に、いかれている」

「いかれている?」

 聞き慣れない表現に思わず問い返すと、カロリーナが慌てた。


「ああ、その。――一流というやつよ、ヘンリーは。私なんて、足元にも及ばないの」

「でも、ヘンリーはナリスにいるんだろう?」

「まあ、そうね」

「だったら、やっぱり君が教えてくれ、カロリーナ。これも、俺を隠して守るのに役立つと思うけど?」

「……わかったわ。お父様に報告した上で良ければ」

 カロリーナは外していたスカート部分を手に取ると、それを横に置いて腰を下ろした。



「それ、戻さないのかい?」

 疑問だったので聞いてみると、何やら気まずそうにしている。

「……リボンを通して結ぶのが、細かくて苦手なのよ」


 なるほど、スカート部分はリボンで固定されていたのか。

 普段は装飾であり、有事にはそれを解けば良いのだから、よく考えられている。

 それにしても、剣を持って颯爽と飛び出したというのに、リボンを通すのが苦手とは。

 随分と可愛らしい一面もあったものだ。

 思わず口元に笑みが浮かぶ。


「なら、俺が手伝うよ」

「そう? ありがとう」

 カロリーナは立ち上がると、スカート部分を腰に巻き付ける。

 シルビオがリボンを通していると、ふと目の前にカロリーナの顔があることに気付く。

 その金の瞳を見て、美しいと思った。



「――あ」

「どうかしたの?」


「俺、君のこと好きだな」

「は?」


 もうすぐナリス王国に戻れると知って、何故かすっきりしない理由がわかった。

 カロリーナと離れるのが惜しかったからだ。


「うん。間違いない。君が好きみたいだ」

「……何の冗談なの? 悪質な」

 心底嫌そうな顔をされて、シルビオもちょっと傷付いた。


「悪質って、酷いな」

「大体、私は女性じゃないんでしょう?」

 出会った時の、気配の無い胸部事件のことを言っているのだろう。

 謝ろうにも一切話題にせず、受け流されていたわけだが。

 やはり、怒っていたようだ。


「あれは俺が悪かったよ。君に対して失礼だった」

「……もう、いいわよ」

「胸なんてなくても、俺はカロリーナが好きだ」

「結局、失礼よ! それに、こんな場所で、こんな時に言う言葉じゃないわ」

「いつなら、良いんだい?」


「身を隠す王子様を守る間は、あなたは男性ではないの。仕事の対象よ」

 呆れたと言わんばかりの様子に、シルビオは微笑む。


「そう。じゃあ、フィデル兄上には早く勝ってもらわないと」

「え?」

「兄上が次期国王になれば、俺は隠れる必要がなくなる。シルビオから、シーロに戻る。――その時には、覚悟してくれる?」


 一瞬何を言われたのか理解できなかったらしいが、すぐにカロリーナの頬が赤くなっていく。

 それを恥じるかのように、咳ばらいをするとシルビオを睨みつけてきた。

「私にだって選ぶ権利と言うものがあるわ」


「そうだね。それじゃ、兄上が王になるまでの間に、君に好きになってもらえるよう、頑張るよ」

 シルビオの笑みに、今度こそカロリーナは真っ赤になって言葉を失った。



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