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【残念令嬢・書籍化&コミカライズ】残念の宝庫 〜残念令嬢 短編集〜  作者: 西根羽南
「残念令嬢」シリーズ100話達成感謝リクエスト

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シルビオの失言  カロリーナとシーロの出会い 2

本編第一章の一年ほど前のお話です。

第一章、第二章の後に読むのをおすすめします。

「え?」

 思わず自分の手と少年の胸元を見比べる。

 虫を取る際に少し触れたが、そこには何の存在も感じ取れなかった。


「いや、からかってもらっては困る。いくら何でも、胸に何の気配もない女性はいないだろう」

「気配がないとは、どういうことよ。ちゃんと確認しなさいよ」


 少年に手を引っ張られて胸の部分に触れるが、やはり何の凹凸も弾力も感じられない。

 だが、ここまでムキになるのだから、きっと女性なのだろう。

 女性だとすればこの行動はどうなのかと思ったが、恥じらいを上回る何かがそうさせているのだろう。


「……布でも巻きつけているのかい?」


 シャツとズボンという恰好を女性がするのなら、乗馬でもしていたのだろう。

 揺れる胸を押さえるために、布を巻いて潰しているのかもしれない。

 それにしたって、何の痕跡もなかったが。

 すると、少年改め長身で細身の少女は、シルビオの顔を鬼の形相で睨みつけた。


「――加工なしの天然ものよ。何の気配もなくて、悪かったわね!」




「……モレノ侯爵コンラドの長女、カロリーナよ」

 黒髪に金の瞳の美女が、ドレスを着てシルビオの前に立っている。

 不満が前面に出た酷い表情だったが、こうしてドレス姿を見てみれば、間違いなく女性だ。


「シルビオ・トレドだ。……さっきは、申し訳ない」

「さっき? 何のことかしら」

 顔を背けるカロリーナは、女性にしては長身で痩身。

 凛とした佇まいの美女だった。


 何故少年に見えたのだろうと考えれば、……やはり、何の気配もない胸元のせいだろう。

 ドレスに着替えた今も、結局は胸元に生命の気配をほとんど感じられない。

 わざわざ触らせてまで否定したところや今の様子からしても、カロリーナにとってこの話題は禁句なのだろう。


「モレノ侯爵令嬢が、何故ナリスを出てこの国にいるんだい?」

「シルビオと同じようなものよ」

 話題を変えようとするが、こちらもあまり触れてほしくなさそうだった。

 シーロに媚びを売る女性達とは違って、これっぽっちも興味がない様子が新鮮だ。


「屋敷の使用人と私は、あなたの素性を知っているわ。でも、あくまでも遠縁のシルビオとして扱うから、そういうことでよろしく」




 隣国での暮らしは、思っていた以上に穏やかだった。

 シルビオは特にすることもないので、体を動かしたり本を読んだりして過ごす。


 初日にあんな出会いをしたカロリーナとも、時々お茶を飲むくらいには関係を改善している。

 何せ暇なので、カロリーナと話をするのは楽しかったし、彼女の弟ヘンリーからの手紙でナリス王国の様子を知れるのがありがたかった。

 一体何で侯爵令嬢が隣国にいるのかは謎だったが、それも次第にどうでもよくなっていた。




「カロリーナ、出掛けるのかい?」

 馬車の用意をしているところを見かけ、シルビオが声をかけた。


「ええ。国境付近で物資を受け取る予定なの」

「俺も一緒に行って良いかい?」

「シルビオも?」

 カロリーナが眉間に皺を寄せて考えこんでいる。


 身を守るために変装して隠れているのだから、安易に出掛けるのは良くないというのはわかっている。

 だが、ここ数ヶ月何もないし、馬車から出なければ人目に触れることもない。

 さすがに気晴らしに出掛けたいと思うのも仕方がなかった。

 しばらく考え込んでいたカロリーナは、ため息をつくとうなずいた。


「ずっと屋敷じゃつまらないわよね。……ただし、馬車からは出ないでくれる?」




 馬車で国境付近まで半日もかからない。

 久しぶりの外出に心躍っていると、あっという間に到着してしまった。

 御者二人が何かを受け取ると荷物を積み込み、一緒に確認していたカロリーナが馬車に戻ってきた。


「あとは帰るだけよ。それと、手紙が来ていたから待ってくれる?」

「弟のヘンリーからの手紙かい?」

 王位継承権争いの様子を知る、唯一の手段だ。

 フィデルが気になるシルビオは、この手紙を心待ちにしていると言ってよかった。


 ヘンリーの手紙は、手紙と言うよりは報告書のような状態だ。

 綺麗な字で整然と書かれたその手紙からは、彼の人となりが伝わってくる。

 それに、本来宮廷内でも一部しか知らないような情報まで伝えてくるので、シルビオも最初は驚いた。

 フィデルが王になれば、モレノ侯爵令息であるヘンリーはその直接の臣下となる。

 この手紙から察するに、彼は優秀な働きをしてくれるだろう。



「待ってね。……これだわ」

 動き出した馬車の中で、手紙に目を通す。

 どうやら、モレノ侯爵家がフィデルについたことで、フィデル有利に傾いているらしい。

 ヘンリーの見立てでは、もう少しでフィデルの勝利が確定するという。


「良かった、ようやく決着がつくみたいだ」

「そう。なら、もう少しで帰れるでしょう。良かったわね」

「ああ。……そうだね」


 フィデルが次期国王に決まれば、シルビオとしてこの国にいる必要はもうない。

 当然のことで、歓迎すべきことだが、何だかすっきりしない。

 何故だろうと考えていると、馬車が急停止した。

 体が投げ出されそうになったが、向かいに座っていたカロリーナが支えてくれたおかげで何とか堪える。


「あ、ありがとう、カロリーナ」

 水たまりにでも車輪がはまったのだろうか。

 シルビオが窓の方に目を向けると、立ち上がったカロリーナが椅子の肘掛を外し始めた。

「……何をしているんだい?」


「急停止して御者が理由を告げないわ。――襲撃の可能性がある」

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