選択
お、そこのあんた。どうしていいか分からないって顔しているな。まだ若いじゃねぇか可哀想に。何も記憶が無くて不安だろ? 心配するな。俺が手とり足とり教えてやるから。
此処はあの世だ。
三途の川とか極楽とか想像していたか? 残念ながら冥府も改革が進んでいてねぇ。今はあそこのホールみてぇな建物が終着点だ。
着いて来いよ。内部はとにかく広いぜ。おっと、混雑しているからはぐれるなよ。見渡してみろ。U字型に凹んだ台がそこら中に置いてあって、ずーっと果てしなく遠くまで続いているだろ?
お、こっちの隅が空いているな。台の中に拳くらいのガラス玉がぎっしりあるだろ。一つ持ってみろよ。落とさないように気を付けろ。重いだろ? このカラフルな玉の中に次の人生が詰まっている。え、もう一回言えって?
次の生が入っているんだ。この中から一つを選んで、人は生まれ変わるんだよ。
原理はガチャポンと同じさ。懐かしい響きだねぇ。中は開けてみなければ分からねぇ。
以前は神様が人生を決定していたんだけどな、神様と人間が喧嘩してねぇ。人生は自分で決めるって大言を吐いてくれちゃって。それ以来こんな感じさ。神様は玉だけ創って知らんふり。自己責任ってやつだな。
人種、国籍、場所なんかは此処で決まる。運命も粗方決まっている。だが全部じゃねぇ。
プラモデルなんかと一緒さ。型が元にあったとしても、彩色や改造は自由だ。お手本通りに進んだって、根本から変えたっていい。手を加え過ぎて壊れるか、上手に組み立てるかは自分次第だ。
こっちに行ってみようぜ。ほら、みんな目の色変えて選んでいるだろ? 分かる訳でも無いのに振ったりガン見したり。誰もが良い人生を引こうって必死よ。
あからさまに綺麗な色とか濁った色もあるが、騙されちゃいけねぇぜ。暖色がハッピー、寒色がバッドとは限らねぇ。綺麗な薔薇には刺があるかもしれねぇぞ。
まぁ内容に好き不好があるし、自分で細工も出来るし、殆どはハッピーになれる素質があると思う。中にはどうしようもないものも混ざっているけどな。
たまに動物の魂があるんだよ。それを引いちまったら動物として生きていくしかねぇ。動物の場合はランダムで生や生物が変わるからな。人間に戻りたいなら、首を長くして待つしかねぇ。場合によっちゃ何百年単位になるかもな。
まぁ、大方の奴は記憶が消えちまうから気付きも出来ないんだけどな。でもな、中には例外ってもんがいるんだよ。
ほら、坐禅したり瞑想したり踊ったり、色んな国で色んな修行をしている奴がいるだろ? 無意味に思える霊修行は場合によっちゃ効果を表すみたいで。此処に来ると何かの勘が働くのか、心眼でどれが「あたり」か予想が付くみたいなんだ。自分好みの人生を選べられるって訳だ。毎回同じように生まれ変わって、更に前世の記憶を持っているお偉いさんもいるみたいだしな。ま、そんな奴は特別だな。特別。
中にはなぁ、前世の記憶を持ったまま貧乏くじばっかり引いている奴もいるんだ。引く人生全部最悪。二の足は踏まないと思っても人生は転がり落ちていく。奴は不幸の極みだぞ。そいつはどうなったって? 選択を諦めたんだよ。それなら選択しなくて済むだろ?
……俺だって? はぁなんでそう言うかねぇ。ここにいてやけに詳しいからだって? この俺がずっと此処でさまよっているとでも言うのかよ。親切に説明してやってんのによぉ。まぁそういう奴は置いといて、多くの人間は闇の中を手探りで行くが如くだ。文字通り人生を賭けた大博打になるわな。
え? もし二つ選んだらどうなるのかって? そりゃあ消滅、だよ。二つの型が魂を引っ張り合って、粉々バラバラさ。一回見た事があるが、そりゃあ悲惨な出来事だった。誰もが唖然としたね。良い子は絶対に真似しちゃあいけねぇぞ。
ああ、長話になっちまった。お前さんも集中したいよな。さぁ、ごまんとある中からあんたの人生を選ぶがいいさ。
おっと、これを選ぶのか? いいのか? もう後戻りは出来ねぇぜ。泣いても笑ってもこれを最期まで生き続けるんだ。意志は揺るがないか。分かった。
あっちに行って、これを地面に叩きつけるんだ。ほら、皆のやっているようにやれ。玉が割れた瞬間に人生は始まる。
屑のような最悪の選択でも、自分の人生に飽きるなよ。じゃあ行ってこい。選択に後悔だけはすんな。