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登場人物


山木壮103号室の住人達


幹野ヒヨ 基本普通の子。感性が普通。「みきの」だから「ミッキー」と呼んで欲しいらしいが、どうしてか「ヒヨ」と下の名前でしか呼ばれない。お母さん気質で、説教臭い。幼少期一時関西にいたため、時折関西弁がでる。梨が好きで、隙あれば買ってくる。


ズズ 本名はスズだが、なぜかズズと呼ばれる。ずぼらな子。「ただいま」を「たらいもー」と言うのにハマっている。ボクっ娘。「ボクわぁ」が口癖。

口調が男っぽい。 


キュー アニメのキュウ○エの声真似が似ていたゆえのあだ名。天然。怒らすと怖い。





「たらいもー」

 玄関でサンダルを脱いで、ズズは家に入った。

「ゴミだしくらいでイチイチ言わなくていいよ」

「うっさいな、ボクの勝手でしょ?」

 携帯ゲーム機の画面から目を離さないヒヨの文句を、ズズはまたか、という気持ちで聞き流した。

「おかえり~」

 ヒヨとは違い、キューはニコッと笑いながら、ゴミだしに行ったズズを労った。ささやかだけど、こういう所が大切なんだよ? とズズは思い、心の中でヒヨに対し「べーっ!」と舌を出した。

「ヒヨってば、ホント私達のお母さんかよ」

「誰がお母さんや」

「なぜに関西弁? ホワイ?」

「今日の朝食作ったのヒヨだから、今日だけはお母さんでいいかもね~」

「よくない。ヒヨがお母さんだったら、毎食梨がでそうじゃない」

「あー……。やっぱ無しで~」

「なんでさっ」

「……そのやってるゲーム、前貸したFate/stay moonでしょ?」


 ため息を吐いて、ズズはガチャ、と冷蔵庫の扉を開けて麦茶を取り出した。

「あ、私も入れて」

「私も私も~」 

「ほいほい」

 コップを三つ取り出すと、そこに麦茶を入れて二人に差し出した。

「へーい」

「「ありがと」」

 ヒヨとキューがコップを受け取り、三人同時に麦茶を飲んだところで――――ヒヨが火蓋を切った。


「ところで……さっきの麦茶のポット、ティーバッグ入れっぱなしじゃなかった?」


「……さぁ?」

 ズズははぐらかした。

「入れっぱなしだったでしょ。誰? いったい?」

「知らない。ヒヨじゃないの?」

「私じゃない。ズズと違って、そんなにずぼらじゃないもん」

「そんなこと言って、この前だってさー……」

「そりゃそういうこともあるけど、でも、今回は違うのっ。覚えてるし。今日はウチ家事当番ちゃうもん」

「家事当番じゃなくても、こんだけ暑かったら麦茶淹れるでしょ。何度だっけ、今日四十度越えるんじゃなかったっけ?」

「……今日の最高気温は三十八度くらいだよ~」

「だとしても、暑いことに変わりないじゃん。やっぱりヒヨが淹れたんだよ」

「で、でもだからって、私とは限らないよね?」

「ボクわぁ違うよ。だって、自分で麦茶用意するくらいならセブンで買ってくるから」

「このずぼらめ……」

 うぐぐ、とヒヨが言葉に詰まった。ヒヨをやり込められて気分がよくなり、ズズはそこで終わるはずの話を調子にのって続けてしまう。 


「言っとくけど、キューも違うよ。キューはさっきまでエクササイズやってたし」

「……ああ、ダイエットだって言ってたね」

「そうそう。このお腹が気になるんだって」

「ひゃわっ!」

 むにゅう、とズズがキューのお腹を掴んだ。

「や、やめてよ~」

 キューが赤面する。……そんな平和ボケ始めた空気に、またヒヨが切り込んだ。


「――運動したなら、なおのことお茶飲みたくなるでしょ? ズズが違うって言うなら、キューはどうなの?」


 そこでようやく、ズズは己の失策を悟った。

 意味もなく会話を続けた挙句、キューにまで飛び火してしまった。

「わ、わたし~!? ……正直、覚えてないなぁ」

「じゃあ、キューなのかもね。私とズズが違うってことは」

 これはマズイ。

「ま、まぁまぁ。確かにキューはどっかヌケてるけど、だからって犯人確定は酷いでしょ」

 その言葉に、キューは頬を脹らませた。

「ズズ、酷い」

「……その物言いは酷くない?」

「う……」

 しまった。フォローのはずが、軽い罵倒になってしまった。

「だいたい、いいじゃん別に。ティーバッグ入れっぱなしでも」

 メッ、とヒヨは表情を怒っているように変えて人差し指をビシッと伸ばした。

「ダメ。だって、そんなことするとポットの中の麦茶が減った時に、スゴく濃くなっちゃうじゃない!」

「それも楽しみ方の一つじゃない?」

「ンなワケあるかっ!」

 はぁ、とキューがため息を吐いた。

「ヒヨも怒りすぎ。毎回毎回だから、気持ちもワカルけど。ズズは日頃の行いをもっと反省して。……今回はこういうことで。それで、この不毛な話はおしまいにしよ?」

 キューはそう言ってすっかり量が減って、底の方にティーバッグと濃い茶色の麦茶が溜まったポットを冷蔵庫から取り出すと、


 ドボドボドボ……。


 水道水を足した。それで、ほどよい濃さの麦茶が出来上がった。

「こんな手があったのか。なら、このままでいーじゃん」

「……このやり方だと、妙に水っぽいというか、薄味な気がするんだよね」

「ワガママ言いすぎ」

「だからもう、この話はおしまいって言わなかった?」

 二人は渋々それで止めた。キューがイラつき始めていると分かったからだ。

 怒らせたキューはとても怖い。……怖い。




 ――麦茶を飲みつつ、ズズはほっと息を吐いた。

 

 今日麦茶を淹れたのは、ズズだ。説教がいやで黙っていたのだ。

「ふぅ……」

 うまく誤魔化せた~~よかった~~。


「――ズズ?」

 

 ビク、と一瞬体が震えた。振り向くと、キューがいた。

「次から気をつけてね?」

 バレバレだったらしい。

 いっつもヌケているのに、妙な所で鼻がきくんだよな……キューって。

「……はい」

 しぶしぶ、ズズハ頷いた。

「うんっ、よろしい」

 ニコ、とキューが笑った。


 ――――山木壮103号室は、今日も平和だった。


読んでいただきありがとうございます。別で書いている「記憶喪失して異世界転生して嵌められ(かけ)たりする話」を書く合間の気分転換にこっちを書こうと思っているので、更新頻度はそこまで早くないです。……週一で書けたらなー、とは思っています。

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