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人間退治

「あのサイズの生物を殺すとなると、簡単に手に入る毒で考えると樽一杯は最低限必要です。特殊な毒ならまた話は変わりますが、それをかき集める余裕はないですね」


「やっぱりそのくらいは必要になるよな」


 そもそもあいつの全体の大きさすらもわかっていないのだから、そんな馬鹿げた量になるのも仕方がない。

 クロアが言っていたことに何かヒントはあっただろうか。

 あいつは人がベースで精霊結晶で暴走させられている。それが前提だ、それに爬虫類系の生物を繋ぎ合わせている。その結果があの水陸両用の人造魔獣。


「精霊結晶を溶かすような薬はないか?」


「ありますけど、それが何か必要なんですか?」


 そう言えばこいつらに言ってなかった、正直言いたくはないけど言わないと話が進まないな。

 俺はかみ砕いて全員にあの魔獣の事を告げた。


「つまり兄さんは、精霊結晶が弱点だと考えているんですね」


「ああ、精霊結晶を取り除いて生きているなんて考えてはいないけどな、少なくとも魔獣ではなくなるだろう」


 魔獣のまま殺すよりも人として殺してやりたい。

 そんな自己満足の精神がないとは言わない、体はきっと引き延ばされたままだし、下半身に混ぜられた獣が突然足に変わるなんて考えていない。

 ただ、街を襲った怪物として死ぬよりも、悪い主人に殺された人間として終わりを迎えさせてやりたい。


「私が持っているのは、この小瓶だけです。それなりに強力ですが、人間サイズの精霊結晶となると溶かせるかはわかりません」


「アルシェの魔法の熱ならどうだ?」


「私には無理です、精霊結晶単体があり、それを溶かせならできると思いますが動いている魔獣の中にある物を溶かすのは無理です」


 アルシェはそう言って俺に謝罪した。

 俺達は暗礁に乗り上げてしまう。やはりこのまま水の神が気づき助けに来てくれることを祈るしかないのか。


「人間くらいの大きさってことならあの人の部分ごと持ってきたら?」


 ルリーラが突然そんなことを言う。

 もちろんそれは考えた。だけどそれは本当に人の部分に精霊結晶が埋まっていることが前提だ。

 俺は考える。

 それは人として死んだことになるだろうか、魔獣として殺しているんじゃないだろうか。そんなことを考えてしまう。


「クォルテ、あの人は最初から人だよ」


 ルリーラが言葉を紡ぐ。


「私もああなったかもしれない可能性があるんだよ、あの人みたいに」


 木に隠れて今は見えない魔獣を見る。

 今も戦闘の音は消えない。

 破裂音に悲鳴が耳障りな不協和音に変わり一帯を包んでいる。


「私がああなったら、私は人じゃなくなる? クォルテは私が人じゃなくなったって思う?」


「いや、思わないな」


 ルリーラの頭を撫でる。

 ざらついている髪を解かす様に指を入れる。

 パラパラと土が落ちて地面に帰る。


「よし、ルリーラの作戦通りに行こう」


 自分のおこがましさに恥ずかしいと思った。

 人間のまま殺してやりたいなんて俺は何様かと殴ってやりたい気分だ。

 俺はみんなに指示を出す。


「まずはあいつの視界を封じる。さっき見た限りだとあいつは目で得物を追っている。目を潰せたら後は一気に真っ二つだ。暴れることもあるだろうから、俺とカルラギークの兵隊で動きを止める。後はルリーラ達の出番だ」


 皆は反論もなく頷く。


「じゃあ、俺はカルラギークの連中と話をしてくるから、しばらく待機。流れ弾には気をつけろよ」


 俺はカルラギークの兵達に作戦を伝えた。

 さあ、人間退治の始まりだ。


 何名かの攻撃隊を残し準備を始める。

 最初の誘導、目つぶし、拘束、切断。全てを決め最初に跳び出すのはフィルだ。

 得意の空中移動で魔獣の口が開き、熱線の準備に入る。

 そして目の前でフィルが突然横に移動する。

 魔獣はそれを目で追うが、それが囮だと気が付いた。

 その時にはもう遅い。


「――、インフェルノフレイム!」


 呪文を終えていたアルシェ達の呪文は完成している。

 最大火力の魔法が魔獣の顔に炸裂する。

 炎の魔法は顔から体に移っていく。


「――――、――――っ!!」


 声にならない叫びを発しながら水中に移動しようとしたところで、今度はこちらの番だ。


「――、アイシクル」


 泉の池が凍り固まった。


「――――!!」


 更に悲鳴を上げるが逃げ道はもうない、泉から出ている部分だけをばたつかせ氷を割ろうと必死に体をぶつける。

 氷上で焼かれる魔獣は苦しそうにのたうち、燃える先から再生を繰り返す。

 予想よりも激しい動きに兵達が怯え始めてしまう。


「僕が行く」


 どうにか動きを止められないかと考えていると、サラが飛び出した。


「無茶だ」


 制止をする間もなくサラは魔獣に向かう熱線を出せないのか、魔獣は手を振り下ろす。

 それはサラの刀は肩まで切断する。


「――――!!!!」


 三度の悲鳴を上げる魔獣の動きが止まる。

 人間らしく、切られた肩を無事な手で押さえる。


「ルリーラできるか?」


「楽勝」


 最後にルリーラが飛び出す。

 身の丈ほどの大剣を背負い、魔獣に向かう。


「――、――――!」


 魔獣の叫びが弱くなる。

 必死の抵抗で魔獣は腕を振り上げる。

 しかしその腕は振り下ろされることなく宙を舞った。

 サラが後ろから二度目の居合。

 何度目かの魔獣の驚きに、魔獣の動きは制止する。


「――――――――!!!!」


 ルリーラの力任せの一太刀は魔獣を横に真っ二つに切り裂いた。

 二つに切られた魔獣は力なく凍った泉に倒れ込む。

 数秒の沈黙が続き、魔獣の復活が無いとわかった瞬間泉の周りでは大歓声に沸いた。


 歓声に沸く場所から俺達は急いで離れ遺体を担ぎ込む。

 背中には雑に縫われた跡があった。千切れた腹部からは精霊結晶が見えている。


 本当に人で精霊結晶を包んでやがる。


 無残なこの死体に胃が上に押しあがってくる。

 それを無理に下に戻す。


「ミール以外は離れててくれ」


 皆が何かを言いたそうにしていたが、俺の言うとおりに遠く離れてくれた。


「悪いな、ミールくらいしか手伝いを頼めなかった」


「気にしないでください、奇妙な死体は地下でも見たことはありますから」


 そう言いながらも、ミールは何度か嗚咽をしながら取り出しの作業に入った。

 臓器に変わって接合されている精霊結晶を取り出し、丁寧に縫い直す。


「ロックスもこういうことをしようとしていたんですか?」


「ここまでの事はしていない」


「そうですか」


 そう答えるだけで黙々と作業を続ける。

 できる限りの復元をした、伸ばされていた皮膚はもうどうしようもなかったが、それでも人とわかるくらいには修復した。

 目の前で死んでいるのは女性だった、顔の輪郭に体の凹凸を確認してそう判断した。

 俺とミールは彼女を布で包んだ。


 泉の周りで急に叫び声が聞こえた。

 急いで戻ると氷を壊し暴れている一匹の魔獣が居た、彼女に混ぜられていた獣も魔獣になっていた。


「みんなはできるだけ離れていてください」


 俺の言葉に兵隊は散り散りに逃げていく。

 どうもあれは蛇ではなく、トカゲだったようだ。

 トカゲの後ろと人間の下半身を融合させた魔獣。一体で二つの命を宿した魔獣。


 そのトカゲの目は俺を捕らえていた。


「アルシェ、手伝ってくれ」


 俺はトカゲの魔獣に歩みを進める。

 トカゲは睨むだけで、襲っては来ない。

 更に近づく、トカゲは激しく威嚇して後ずさる。

 手負いの魔獣が逃亡を図ろうとする。

 俺は呪文を唱え魔獣を包み込む大きな水の球を作りだした。

 泉の大半を使う魔法に魔獣は包まれる。


「炎よ、爆炎よ、我の破壊の衝動を受け止めよ、敵を討ち滅ぼす衝撃を生め、バーンアウト」


 俺の魔法で包み込んだ球にアルシェの魔法が重なる。

 激しい閃光と衝撃が辺りを包み、泉に大きな波紋を生む。

 不運なトカゲは炎と共に溶けて消えた。


 全てが終わり俺が車に乗るとカルラギーク王が近寄ってくる。


「助かった、あれは一体何の魔獣だったんだ?」


 俺は考える。

 事実を言うのはためらわれた、今も荷物として乗っている女性の事を思えば言いたくはない。


「ハベル・クロアという悪人が作り出したトカゲの魔獣です」


「そうか」


 カルラギーク王は何かを言いたそうにしていたが、何も言わずに車を後にした。

 車に乗るとルリーラが膝の上に座ってきた。


「疲れてるんだ」


「私も疲れてる」


 そう言って俺に体重を預ける。


「私も疲れました」


 アルシェがそう言って隣に座り体重をかけてくると、全員があたしも私も僕もと俺を中心に寄り掛かる。


「流石に重いから離れてくれ」


 俺がそう言っても全員動く気はないらしく、カルラギークの兵隊が全員いなくなるまで俺達は車の中でまとまって座っていた。


「そろそろ、動きますね」


 アルシェがそう言って離れるとルリーラ以外が俺から離れる。


「お前も離れろよ」


「嫌だ」


「わがままな奴だな」


「クォルテ」


 ルリーラが俺の名前を呼んだ。


「おかえりなさい」


 そう言えばまだ言っていないことに気が付く。


「ただいま」


 俺はそう応えた。

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