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人造魔獣

「ご主人、もう使ってもよくない? もう始まってるみたいだよ」


 俺とフィルがフリューに向かって走っていた。

 何度目かわからないフィルの言葉に俺は同じ答えを返す。


「だから、魔獣じゃなかった時のことを考えろよ」


「外交めんどくさいな」


「だから急いでるだろ」


 水の神に渡された球を俺達は未だに使っていない。

 なぜならその球は魔獣の討伐に使う物で、もしも目撃されているのが魔獣ではない場合、俺達は神を移動手段に使ったと思われても仕方ない。

 水の神は否定するだろうし、水の神を信仰している国からの応援ならまだ何とかなるが、今回は地の神を信仰しているカルラギークの要請。もし違った場合に水の国が魔獣に襲われた場合に水の神の進行が減る可能性がある。

 そうなるのは俺としても困る。俺の軽はずみな行動で水の神から力が無くなるのは申し訳ない。

 そういう風に何度も俺はフィルに説明している。


「でも、あの声は魔獣だよ」


「わかったよ、使えばいいんだろ」


 俺は球に魔力を流す。

 球は青く光を発しやがて砂の様に崩れていく。


「何も起きないね」


「起きないな」


 こうなると可能性は二つだ。

 一つは俺が地下から持ってきた球が別の物だった可能性、それともう一つは今手が離せる状況じゃない。


「来てくれることを願って先を急ぐぞ」


 手に残った砂を握ったまま俺達は再び走り出した。


「ご主人あれ、クロア達だ」


 フィルが指さす方には何かが宙に浮いていた。

 黒髪のフィル程視力があるわけでもないため、俺にはただの黒い点に見えるが、何かが飛んでいるのはわかる。


「あいつ、鳥まで混ぜてやがったのか。だがあっちは置いておく、今は急がないと不味い」


「わかった」


 森に入ると激しい音が聞こえる。

 音がわかりにくい森の中でフィル主導の元音のする方に急いで走っていく。


「――――――!!」


 戦場にたどり着いたのか、今までに何度か聞いたことのある人ではない奇声が聞こえてくる。


「ご主人」


「わかってる急ぐぞ」


 魔獣の声に心がざわつく。

 ヴォールでの戦いに、ミスクワルテでの激闘を思い出す。

 この体で勝てるのか?

 クロアとパルプとの戦いで疲弊し軋む体は、諦めろと告げる。

 フィルも口にはしないが大分辛そうに見える。


「あたしに気を使ってるなら意味ないよ、止めてもやるから」


「やっぱり俺の心を読めるだろ」


「ご主人がわかりやすいの」


 気の抜ける様なフィルの言葉に覚悟が決まる。

 俺は移動しながら作戦を考えることにした。


 それから数分走りようやくカルラギーク兵の姿が確認できた。


「ロックスさん」


 そこで出会ったのは運のいいことにハリスだった。


「状況を手短に頼む」


「はい、現在我が軍は魔獣と戦闘中、アルシェさん達は先ほど不審者二名と交戦しその後魔獣討伐に参戦しました」


 不審者二名はきっとクロア達だな。魔獣の回収に失敗したのか、それとも他に理由があるのか。

 どっちみち逃げたってことはミール達は何とかなったってことだな。


「魔獣について教えてくれ」


「魔獣は大型と思われますが、現在もなお苦戦中です」


「その魔獣に知性があるからか?」


「はい。魔獣は通常の魔獣と違います。上半身は人間、下半身は蛇の様に長くヒレと足があるのを確認しています」


 想像するだけで気持ち悪い。

 クロアが言ったことを考えるとさぞ醜悪な怪物が出来上がっているだろう。


「頭や心臓なんかは攻撃してみたのか?」


「しているみたいです。それどころか頭を吹き飛ばしても再生するらしく、目下急所を探しています」


「わかった、どっちに向かえばミール達に合流できる?」


「あちらです」


 ハリスへ礼を言い、セルクを預け指さされた方向に向かって駆けだす。

 森の中を進んで行くと、嫌な臭いが鼻を突く。

 血の臭いと焼けた木や草の臭い。一瞬現れた地下での出来事を頭から追い出す。


「凄い臭いだ」


 自然とそんな言葉が口から漏れる。

 森を抜けるとそこは戦場だった。


「二番隊、左から魔法を撃ち、注意を引きつけろ! 四五番隊は右から殴り飛ばせ、復活しない個所を探し出せ!」


 誰か知らない兵士が指揮を執り魔法と力で巨大な魔獣と戦っていた。

 魔獣は話通りの容姿をしていた。


 一番目につくのはやはり蛇の様なぬめり気のある鱗、その途中には魚の様なヒレが不規則に並んでいる。

 その上部には確かに人間が付いていた。

 爬虫類の肌が不自然に人間の肌に変わり、肩が横ではなく前にあり本来背中であろう部位が肩から伸びる。


 これがクロアが言っていた「伸ばす」とはこういうことだったのだろう。精霊結晶を包むための肉の塊。


 虚ろな目には生気は見えないが、確実に知能はある。

 囮に気が付き右の四五番隊に向けておおきく口を開いた。


「避けろ!」


 俺が叫ぶと一瞬の躊躇と共に全員が左右に跳ぶ。

 彼らが居た場所に人造魔獣が閃光を放つ。

 地面が溶け、端に触れた木は発火する。


 こいつはおそらく炎の魔法使いだったのだろう。髪は白いがそれが恐怖からなのか初めからなのかわからない。肉体も皮膚がたるみすぎて男女の区別もつきそうにはない。


 ゆらゆらと揺れながら魔獣は俺の姿を捕らえた。

 口を裂きながら開く、頭部が見えなくなるまで開いた魔獣は急に魔力が高まり出す。


「兄さん、こっちです。あれは範囲が広い!」


 ミールの叫びにフィルと共に向かう。

 他の兵たちも一斉に距離を取り、俺は何が起こるのかと逃げながら見る。

 魔獣の口からは巨大な火の玉が一つ飛び出る、そしてその火の玉は小さく分かれ地面に降り注いだ。周辺の木を燃やし地面を燃やす。


「ミール無事だったかよかった」


「みんなはあっちで休んでます。一度合流しましょう」


 魔獣が攻撃を終えるとまた逃げていた兵が一斉に攻撃を開始していた。


 森の奥に進むとみんなが疲弊した様子で休憩していた。


「クォルテ!」


 ルリーラがいの一番に飛びかかってくる。


「元気そうだな」


 抱き付いてくるルリーラの頭を撫でると、闇色の髪は土埃に汚れ少しざらついていた。

 アルシェとサラも目に見えて疲れており、体も傷ついていた。

 やっぱり結構疲弊しているな。

 ルリーラも元気そうにしているが飛びかかってくる力が弱い。

 こうなると水の神が来てくれることを祈るしかないな、俺達にできるのは時間稼ぎだけか。


「ミール、あの魔獣の事を教えてくれ」


「アレは炎の魔法を使います、後は再生能力が高くて頭や心臓を狙ったくらいじゃ死にません。それに水中で活動できるらしくて、地形を生かしてこちらを攻撃することがあります。後は……あいつには足があるのでもしかすると地上に出れるかもしれません」


 もう打つ手がないような気がした。

 人よりも大きな精霊結晶を使って作られた人造魔獣の弱点は、精霊結晶の破壊しかないだろう。

 でもそのサイズを粉々に割るのは難しい、何よりあの強さはやはり規格外だ。

 おそらくあの魔獣は再生能力を起点に大技を放っている。それが敵を倒すのに最適だと知っているのだ。


「ミール、毒は使ってみたか?」


「使ってません、この泉がどういう意図でできた場所なのかわからないので」


 俺はカルラギークで見せてもらった地図を思い出す。

 この泉は確かどこにも繋がっていない。距離的にはフリューよりもギアロ側だ。そうなるとこの泉はギアロのための水か?


「前から目撃されているのはこの泉なのか?」


「そうみたいです」


 なんでここなのかも理由が付くな。

 問題はこの泉を汚染した時の対処か、それは水の神に任せよう。

 魔獣の退治に間に合わなそうだし、後始末くらいはしてもらわないといけないしな。


「ミール、あの魔獣を倒すにはどれくらいの毒が必要なんだ?」


 俺はミールに問いかけ魔獣の討伐に乗り出すことにした。

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