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異常な魔獣

「やってもらいたい事とはなんでしょうか?」


「その前に君たちは特級の魔獣と戦ったことがあるらしいな」


 闇の国に居た魔獣のことではないはず。あれは極秘でヴォール様とウォルクスハルク様も口外はしていない。


「はい、以前ヴォールで兄さん達が足止めをしました」


「その時の魔獣はどういう姿だった?」


 カルラギーク王はお姉ちゃんに視線を向ける。

 お姉ちゃんは思い出しながら言葉にする。


「尻尾が長くて、細長い蛇みたいなやつ」


 私が兄さんに聞いていたのと変わらない姿だ。


「そうなるとあれはやはり異常だろうな」


 カルラギーク王はそう話を始める。


「先兵の話からするとその魔獣は人の形があるらしい。上半身が人、下半身は蛇の様だがトカゲの様に手足がありながらもヒレがある。それが今フリューに居る」


「おとぎ話の怪物みたいなお話ですね」


「正にその通りだ。先兵も混乱しているらしくてな、それ以上の事はわからない。その時も姿を見せているが虚ろな目をしてこちらを見ていたらしい」


 そんな化物をみているなら仕方がない。

 私も正気で居れる気がしない。自分がおかしくなったと思ってしまう。


「先兵が報告に来たのなら何もされなかったのか?」


 サレッドクインの言葉に王は答える。


「ああ、しばらく見つめ合った後に泉に消えた。その後は姿を見せていない」


 動いていないと魔獣には知覚されない? いや、それなら木々がなぎ倒されていなければおかしい。

 それどころか、それが最近目撃されている魔獣だとしたら被害者がいないこともおかしい。

 そうなると、その魔獣が姿を現したのは……。


「俺は、その魔獣が見つかるために姿を現したと思っている」


 カルラギーク王の私の考えを先回りしての発言の様だった。


「そうなると、誰かが裏で糸を引いているということですか?」


「そうだ。それでお前達にその誰かを探してもらいたい」


 ようやく私達がさせられることを理解した。

 黒幕を探すこと。それを私達がしないといけない。

 魔獣を作れるのは、神しかないないはずだ。そうなると相手は神ということになるんじゃないか?


「もちろん危ないと思ったら逃げてくれて構わない。友の国民に無理をさせるつもりはない」


「わかりました。できる限りやってみます」


「では、後数時間で目撃された湖の近くだ。しばらく休んでいてくれ」


 私達の仕事が決まる。

 できる事なら黒幕が神でないことを祈りながら私達は少しばかりの休息をとる。


 目的地にたどり着いた時には日が傾いていた。

 結局片道数時間の道は、倒木や何やらで倍以上の時間がかかってしまい、魔獣退治は翌朝になった。


「変な魔獣ってどんなのだろう」


「お姉ちゃんは今回参加できませんよ」


「変って言うなら闇の国で戦ったあれも十分変だよね」


 私達以外誰もいないことをお姉ちゃんは確認し、そう口にした。


「あれは規模が違いましたからね」


 国と同規模の大きさ、その力を使って生まれた闇の巨人。

 イレギュラーの塊だった魔獣に比べれば今回の魔獣はまだ可愛いもののはずだ。


「でも、今回もイレギュラーであることには変わりないですから、油断はしないでください」


 私がそう言うとみんなは頷く。


「それと今回は人探しですが、みんなで一緒に動きます」


「人探しならバラバラの方がいいんじゃないの?」


「今回は神々の誰かが関わっているとミールさんは考えてるんだと思うよ」


「アルシェ先輩の言う通りです、魔獣を作るなんてことを人間ができるはずもないですから」


「じゃあ、身の安全のためにってことか」


 その考えに誰も反対は無いようで私達は明日に備え早めに寝ることに決めた。


 翌朝、討伐隊の内訳がカルラギーク王によって決められ、私達は辺りの探索になった。


「綺麗なところだね」


 お姉ちゃんが森に入りそんな感想を漏らした。

 森の木々によって空気は澄んでおり、泉の国から吹く風は泉で冷やされ木漏れ日に温められ丁度いい心地いい風に変わる。

 鳥や獣が自然のまま住んでいて元気に動き回る。

 このまま進めばお菓子の家がありそうなほどに綺麗で、まるで異世界に紛れ込んだお姫様になったような気さえする。


「だが、すぐ近くに魔獣がいるのだろう」


 サレッドクインの言葉に私たちはがっかりした気持ちになる。


「サレッド、真面目過ぎじゃない?」


「お前達は気を抜きすぎだと思うぞ」


「いいじゃないですか、変な気配もなければ魔獣との交戦の音もないですし、地形把握のために今歩いているわけですから」


 サレッドクインの言いたいことはわかるが、正直信じられない気持ちもある。

 これほどに野生の動物がいるのに異常を感知していない。

 動物は危機察知能力が高い、その動物たちが何の行動も起こしていないのはまだ何も起こらないから、泉の方も戦闘の音がしない。

 あまりにも何もなさ過ぎて目撃証言も見間違いか、大型の獣なんじゃないかと思ってしまう。


「僕の感だとおそらく魔獣の方が楽だぞ」


「どういう意味ですか?」


 更にフリューの周りを歩き回る。


「お前達の話を聞く限り神が関わっていることは確かだ。おそらく地か風どちらかだな」


 その言葉を私達は黙って聞く。

 それはみんなが大なり小なり思っていたことだった。


「水と火の神は魔獣を作ることはない。それに引き換え地と風の神は己が欲望に忠実らしいしな。魔獣の一体や二体作るだろう」


「それって良くないんじゃないの?」


「もちろんだ、公になれば他の神々が黙ってはいない」


「でもそれが、二柱なら二対二ってことですか?」


 確かにそれなら拮抗できる。それどころか魔獣がいる分向こうが有利だ。


「それは無いと思います」


 唐突にアルシェ先輩が口を挟んできた。

 割って入るのは珍しいとみんなが思ったのか全員が視線を向ける。


「風の神についてはわかりませんが、地の神はそんなことしないと思います。クォルテさんは地の神の命令で水の国に行こうとしていましたから」


「そうだね、じゃあ大丈夫だ。地の神様は関わってないね」


 あっけらかんとそんなことを言う二人に、私もサレッドクインもお互いに顔を見つめる。

 私とサレッドクインは、二人が何を言っているのか理解ができずにいた。

 そんな私達二人を見てアルシェ先輩が補足してくれる。


「クォルテさんですから、怪しかったら死んでも言うことなんか聞きませんから。そのクォルテさんが動いたなら地の神は良い神様です」


「「……」」


 もう何も言えなかった。

 二人があまりにも普通にそう信じていることに驚いて私とサレッドクインは言葉を発することさえできなかった。


「ミール、だとすると神様は出てこないってことになるの?」


「え、そうですね、一柱の神だけだと勝てませんので、姿を現すのは可能性は低いと思います」


「それでしたら私達でも足止めくらいはできますね」


「そうだな」


「じゃあ、一通り見たらご飯だ」


「そうですね、クォルテさん達の分っていりますかね?」


「いやいや、二人とも話を進めていますが、地の神が関わっている可能性を排除するのは早すぎますよ!」


 思考がようやく追いつき私は反論する。

 兄さんが指示に従っていることを根拠に話が進みすぎている。


「兄さんが私達を人質にされて従わされているって可能性もあるじゃないですか!」


「それはないでしょ」


「そうですね」


「えっ?」


「私達がここにいるじゃん」


「そんな状態でクォルテさんがみんなを置いていきませんから」


 私に反論の意思はもうなかった。

 もちろん反論の言葉もあるが、確かにと納得してしまった自分もいた。

 私はそこまで兄さんを考えれてはいなかった。


「そうですね、私は納得してしまいましたがサレッドクインは何かありますか?」


「いや、ないな」


 サレッドクインも私と同じみたいで言葉はなかった。

 何か負けた気がしながら私達はフリューの周りを数時間かけて確認した。

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