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二手に分かれて その一

「というわけで、ヴォールに向かうのは俺とフィル、それとセルクだ。残りは魔獣の捜索に当たってくれ、くれぐれも一人で動かないように」


 戻ってきて話し合いをした結果こういう形に落ち着いた。

 フィルはヴォールに長いこといたので道案内。ルリーラとアルシェは魔獣討伐の経験から残る様に指示をした。


「クォルテ達はどれくらいで戻ってくるの?」


「早ければ二三日、遅いと七日はかかると思ってくれ」


 ルリーラの質問に俺は荷物を詰め込みながら答える。

 早ければ水の神に頼んで瞬間移動ができるが、水の神が来れない場合は倍の時間になってしまう。


 くそっ、中々荷物が詰められない。


「オレイカにも伝えておいてくれ、俺はもう一度国王に会って伝えてくる。車は置いていくからアルシェとオレイカ以外の運転は禁止だ」


 後は何か言っておくことはあっただろうか。

 移動中の武器に、食料に、他に何かあるか?


「ご主人、一度落ち着いたほうがいいよ」


「そうですよ、お茶を入れましたので少し落ち着いてください」


「そうだな、ありがとう。って熱っ!」


 フィルに言われアルシェから差し出されたお茶を喉が渇いていたので、飲み干そうとしたのにこの熱さ。舌が火傷してしまうほどの熱さだった。


「ゆっくり飲んでください。ゆっくりです」


「そうは言ってもな」


 自分でも焦っているのは気づいている。

 地の神からの依頼に、カルラギーク王の依頼、それにセルクの異常。

 全てが至急の依頼、そんな状態で落ち着けるほど肝は据わっていない。


「兄さん、焦りは魔性です。視野が狭くなり気づける異変に気づけない。今の兄さんは危なすぎて信用できません」


 ミールは俺の目を見つめ手を握る。


「旦那様、その傷はカラ・シリウスとやらと争い無茶をした傷だろ? それも焦った結果ではないか。相手が強大ならまだしも、ただ一人の知った相手との戦いでそれはらしくないのではないか?」


 自分に施された処置の後を見る。

 シリウスは強いが、確かにこうまでするほどの相手だっただろうか。

 慎重にシリウスの仕掛けを破っていたら無傷で終わったんじゃないか?


「みんな心配してるのはクォルテもわかるよね?」


「ルリーラに言われたら俺も落ちたな」


「なんだとー!」


 ルリーラの頭にいつも通り手を乗せる。

 細く柔らかい闇色の髪に指を通しそのまま撫でる。


「みんなありがとう、それでも一度国王に話は通しておきたい。戻ってきたら少し休む」


 気を抜くのも大切なことか。

 改めてお茶を手に取る。お茶は少し冷め飲みやすくなっており、少しだけ苦く、芳醇ないい香りがした。


 通行の際に行われる検問の免除を無事にカルラギーク王にとりつけ、なんとか一段落した。

 その日の夕暮れ、俺は街に出ることになった。


「それで、どこに行きたいんだ?」


「特に決めていませんよ」


「街を歩いて適当に入るのが今回のデートだからね」


 街に出た俺は例によってルリーラとアルシェに両腕を掴まれている。

 名目は俺が勝手にいなくならないようにとのことで、共謀して逃げ出さないようにフィルとセルクは留守番らしい。

 オレイカはカルラギーク王に追加で注文を受けたらしく、しばらくは帰ってこれないらしいので、ルリーラとアルシェ組とミールとサラの組に分かれ時間ごとに監視をしているらしい。


「服が買いたい!」


「珍しいな、ルリーラが服を欲しがるのは」


 ファッションに無頓着というわけではないが、そこまでこだわってもいないので珍しくはあるが不思議ではない。


「私もいいですか?」


「おう、二人が着替えている最中に俺がいなくなる可能性は気にしないのか?」


 少しだけ意地悪を言ってみる。


「その心配はないでしょ」


「はい、クォルテさんは自分が勝手にいなくなったら私達が悲しむの知ってますから」


「女の涙は武器だよ、殺傷能力高いよ」


「そうかもな」


 二人の涙は想像だけでも心が痛くなる。

 確かに俺にそんなことはできないみたいだ。

 本当に俺の事をよく知っている。


「それにクォルテは私とアルシェの可愛い姿が見たくて仕方ないからね」


「ルリーラちゃん、クォルテさんの表情が無になって歩き始めちゃったよ」


 やっぱりわかっていなかったらしい。


「待ってよ、本当に服は欲しいの」


 ルリーラに力で引っ張られ服屋に戻される。


「本当に欲しいのか?」


「うん。ほらこことかほつれてるし、ここは少し擦れてるの」


「私も直そうとしたんですけど、素材自体がもう限界みたいで」


「本当だな」


 確かによく見ると服のあちこちがほつれている。

 それによく動くからか、近づくとルリーラの肌がうっすらと透けて見える。

 これはルリーラも成長しているんだな。全体的に肉付きが良くなってきている。そのせいで生地にもダメージがあるんだろうな。


「クォルテさん、その、大変いい辛いのですが」


「どうした?」


「変態みたいだよ」


「は?」


 言われて初めて周りの視線に気が付いた。

 そして俺がルリーラの体を隅々眺める変質者になっている事態を理解した。


「他の店に行こう」


 俺達は足早にその場を立ち去った。


「いいのがあってよかったよ」


「私も可愛いのがあってよかったです」


 別な店に入り二人はそれなりに時間をかけて服や小物を選んだ。

 ルリーラはシャツだと動きにくいらしく、赤いノースリーブの服と少し緩めの黒いホットパンツを買った。

 アルシェは魔法使いっぽくなりたいからと、半袖の黒いシャツと黒の膝まであるキュロットスカートそれとローブや髪留めを買った。


「魔獣の捜索にはそれを着ていくのか?」


 俺の問いに二人は首をかしげる。


「最初にこれを着るのはクォルテと一緒の時」


「そうですよ、他の誰に見せるんですか?」


「そうだな、なんか俺が間違ってたみたいだ」


 ここで動きやすさよりも可愛さか。と突っ込まない俺は成長したと思う。


 楽しい時間はすぐに過ぎていくらしい。


「そろそろ交代ですよ、二人とも」


「今度は僕達の番だ」


 次の番であるミールとサラがやってきた。


「じゃあ、先に戻ってるから」


「ご飯はどうします?」


「兄さんは私と晩御飯を食べるので気にしないでください」


「わかりました」


 そう言って二人が帰っていくが、正直この二人と一緒というのは心が休まる気がしない。


「私と、などと僕の事を忘れているんじゃないか? 正妻の僕を」


「はっきり言わないと伝わらないですか? 邪魔だからその辺の犬と残飯漁ってろって意味ですよ」


 開始数秒で早くも喧嘩が始まった。

 さっきは楽しかったな、なんだかんだで仲いいしお互いに服を選んで着替える所とか微笑ましかった。


「政略結婚で不細工の王子と結婚したほうがお国の為じゃないですか?」

「そっちこそ、良い所のお嬢様なんだろ、ならとっととお家復興のために好色家に尻尾振ったらどうだ?」


「今時、自分のこと僕とか言ってるあんたに兄さんは勿体ないですよ」

「丁寧言葉で品が良く見せようとしているお前に言われたくないよ」


 この二人は本当に昼の騒ぎに連携取れていたんだろうか。


「そろそろ行くぞ、人も集まってきた。二人で喧嘩しているのが楽しいならしててくれ、俺は先に行く」


 俺が歩き始めると右にミール左にサラが並ぶ。そして俺を間に置いておきながら二人はにらみ合う。

 これがあとどれくらい続くんだろう……。


「兄さんこっちに行きましょう」

「旦那様、こっちの方にいいお店がありそうだ」


「どっちにもいかないから引っ張るのやめてくれる?」


 左右に俺を引っ張って裂こうとするのはやめてください。裂けてしまいます。


「サレッドクインは邪魔しないでください」


「ミールこそ邪魔しないでさっさと帰ればいいだろ!」


「腕が痛いから二人とも離してくれ」


 二人は俺の手首をがっちりと掴み、限界まで引っ張っている。


「兄さんはこっちに行きたいですよね」


「旦那様はこっちに行きたいよな」


「どっちにもいかないって言ってるよな?」


「ミールは従妹なんだろ、旦那様の相手は嫁に任せろ」


「兄さんのお嫁さんはお姉ちゃんです、部外者は引っこんでてください」


「痛い、痛いからもう離して、えっもしかして俺の言葉聞こえてないの? それとも処刑のつもりなの?」


 言い合いに夢中なせいか俺の言葉は二人に届いていないようで、どんな苦情も二人の耳には届いていない。


「それなら勝負をしましょうか、サレッドクイン・ヴィルクード」


「望むところだ、ミール・ロックス」


 二人は対決の話になり、ようやく俺から手を離した。

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