逃走劇 その三
「うん、よくわかった。意味不明だが、異常事態なのはよくわかった」
俺達が城壁を登っている間に俺達を見つけ、そこまで一歩でたどり着いた。
子供の姿に慣れたせいで忘れがちだけど、流石神だな。
常識が通じない。俺達がやろうと思ったことをいとも簡単に遂行する。
「それでこれは一体全体どういうことなんですか?」
「俺達に掛かっている容疑を晴らせ、そうすればアリルドに勝ったことを認めるってさ」
「滅茶苦茶ですね」
滅茶苦茶だが、正直アリルドの友達と考えると納得できる節がある。
あいつも大概滅茶苦茶だ。
「少し、この力試しに参加する気はあったが、セルクがこうなった以上のんびりしてられないよな」
セルクの急成長。これは俺達にとっては異常事態だ。
すぐに水の神に話を聞きたい。これが正常だとしても流石にこの見た目は不味い。
一目で人でないことがバレてしまう。
「セルク、カラ・シリウスって知らないか?」
「知らない」
そりゃそうか、最近眠りっぱなしのセルクが知っているはずはない。
「なら、俺の魔力がわずかに残っている人を探せるか?」
神のサーチならそのくらいはできるんじゃないだろうか。
「あるよ、あっちにパパの魔力がある、それとあっちにも」
セルクは第一の門を指さす。
大丈夫みたいだな。
「あっちで俺の魔力が残っていて一番大きい人の所に連れて行ってくれ」
「うん、わかった」
「じゃあ、どっかに隠れていてくれ。すぐに戻ってくるから」
セルクの顔がバレないようにフードをしっかりと固定する。
「じゃあ行くね」
俺を抱えたセルクは、トンっとまるで小さな段差を登るくらいの軽い一歩で空を舞う。
地面も抉れず力も込めずに飛んでみせた。
そして軽々と城壁を飛び越え目的地にたどり着く。
「本当に神様ってのは凄いな」
小屋の前にたどり着いた俺は扉を開ける。
「早いな、何をしたんだ。クォルテ・ロックス」
中にはカラ・シリウスが一人で待っていた。
「お前を捕らえてとっととこの国を出て行かないといけないんだ、大人しくしてくれ」
俺の言葉にカラ・シリウスは青筋をたて怒る。
「俺に勝てれば大人しくしてやるよ」
鎧を着たカラ・シリウスは手に武器を握る。
長い槍と大きな盾。
「水よ、剣よ、我が敵を、っていきなりだな」
こちらの詠唱を許さないようで詠唱中に槍が俺に向かって真直ぐ向かってくる。
それを避けるがそのまま横に薙ぎ払ってくる。
「こっちにも武器使わせてくれないのか、決闘だろ?」
そのまま後ろに何度か飛び退く。
それを追うように何度も槍の穂先がこちらに向かって飛んでくる。
「貴様に魔法を使わせたらまた凍らされてしまうのでなっ!」
執拗に続く攻撃を流し、一歩シリウスの方に近づき槍の懐に入り込む。
「槍って懐に入られたらどうするんだ?」
「こうするんだよ!」
構えていた盾が飛び出してくる。
この位置はわざと、狙ってやがったのか。背後には壁、避けようにも盾の面積は広い。
そこで目に入るのは不自然な盾と床の隙間。
そこに逃げろってことかよ……、でも逃げ道はないか。なら一か八かにかけるしかないよな。
俺はシリウスの盾をそのまま体で受ける。
足で盾を蹴り後ろに飛び壁にぶつかる。ミシミシと軋む壁は運よく壊れてくれる。
地面を転がりながら広い室外に逃げることができた。
「いってぇ……」
「馬鹿か、自ら受けるとは結局はだまし討ち専門か?」
「否定は、しないけどな。ちょっと急いでるんで読み合いはまた今度だ」
「ほざいてろ!」
急に攻撃の速度を上げ何度も突いては薙ぎ払いをしてくる。
広い個所に出ることは槍を存分に使えるということだ。
そしてそれは自分が十分に動ければの話だ。
「その盾と鎧って結構重そうだよな。捨てたらどうだ?」
「そうやって懐から一気に畳みかけるつもりだろう。そんなのは知っているさ」
更に攻撃を続けるが、いかんせん速度が出ていない。
純粋な剣術での戦いなら攻撃が当たらないこちらが不利。
「どっちみちあっさり懐に入られたらダメだろ」
今度は盾と反対側に回り込む。
「それなら払うのみ」
薙ぎ払いを躱すと今度は完全に懐に入り込む。
槍と盾の内側。俺とシリウスを妨げる物は何もない。
「実は、俺も槍使ってるんだ。お前のとは違って短いけどな」
隠しておいた槍を構える。
「なんで持ってるんだ」
「街の中からくすねてきたんだよ」
鎧の隙間へ一突き入れる。
槍の穂先はシリウスの肩を貫く。重さに耐えきれず盾を落とす。
槍を抜き、今度は足を指すと立っていられずその場に倒れ込む。
「俺の勝ちだろ? じゃあ、他の仲間について教えてくれと言いたいがお前を連行して終わりにする」
「なんで、なんでお前はさっき避けなかった?」
兜の奥からシリウスの目がこちらを睨む。
「主導権を取り返したかった。おそらくお前はあの中にいくつか仕掛けていたんだろ? だから俺を室内におびき寄せた。そうじゃないとお前が俺を奇襲しない理由がない。それにお前はずっと俺の行動を操ってたからな、だからあの場から逃げるために受けた。こんなところか」
「なるほど、完敗だ」
本当は時間がないため仕掛けを破っている時間が惜しかったための強硬策だったのだが、シリウスは納得してくれた。
セルクにルリーラ達を呼んでもらい最初に城に向かった三人で国王の元に立つ。
「カラ・シリウスが俺の名前を騙り犯罪を行った。これで我々の疑いは晴れたでいいでしょうか」
「ここまで早いとは思ってもみなかった」
セルクがいないともっと大変だったし、実際反則を使った結果だ。
「ここからは相談なのだが、同盟を結ばないか?」
「同盟ですか?」
「そうだ。近頃ここから少し離れた地点に魔獣らしい生物がいるらしいと情報があった」
魔獣の言葉にルリーラとアルシェが国王の話に耳を傾ける。
「それはあり得ないのではないですか?」
「俺もそう思ってはいるのだが、噂が後を絶えない。それに神々に報告するにしても噂だけでは動いてはくれぬ」
「そうですね」
魔獣の噂自体は意外と多い。
実際は大型の肉食獣なんかが多い。稀に海沿いの国々から陸に打ち上げられた魔獣が確認されることはある。
そしてこの国もヴォールから離れてはいるが、海から極端に離れているわけでもない。
つまり確率はゼロではない。
海の魔獣が川に身を隠しているなら頻繁な目撃もあり得るわけか。
しかし被害なし目撃者のみで動けるほど神々は軽い存在じゃない。
「近くにはフリューもあるからな、確実にいないと断言できないのだ」
泉の国フリュー、水の神より浄化の神器を授かり常に安全な飲み水、それを利用し観光資源として栄えている国。
「でもそれならヴォール様なら動いてくれるのでは?」
「そこにいるとも限らないのだ」
「それで、俺達を利用しているということですね」
「これに関しては素直に認めよう。神から信頼を得ている貴君を利用させてくれ」
国王は頭を下げる。
「クォルテ・ロックス国王が頭を下げてるんだぞ」
「そうは言っても俺はすぐに動かないといけない。なので、俺の仲間を数名置いていきます。それで満足いただけないならこの話はなかったことにさせていただきます」
魔獣に関しては確かに気になるが、セルクをこのままにしておくのも大問題だ。
秤に乗せるなら俺は仲間を取る。
「それで構わん。貴君等の誰かが魔獣を見た。その事実でいいのだ」
「わかりました。それでは一度宿に戻ります」
面倒事は重なるもんだな。と帰り道ルリーラとアルシェに零してしまうほどに俺は焦り、疲れているのかもしれない。




