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幕間

「さあ、朝から会議を始めます」

「はい」

「すぅすぅ」


 盗賊を討伐した翌日、アリルド王との戦いのため作戦会議をするため、気合いを入れる意味を込めて声を出してみたが返事をしたのはアルシェのみだった。

 ルリーラは幸せそうな表情で布団を抱きながらいまだに夢の中だ。


「ルリーラそろそろ起きろ」


 声をかけても揺すってもルリーラが夢の世界から帰ってくる気はないようだ。

 昨日は結構ルリーラに働いてもらったからいつもみたいにたたき起こすのは忍びないんだよな。


「私に任せていただけますか? ルリーラちゃんが必ず食いつく一言があるんです」


 アルシェが自信ありげにそう宣言したため任せることにした。

 ルリーラに近寄る様が、悪戯(いたずら)を思いついた子供の様な笑顔に、ついドキッとしてしまう。


 いやいや世界を回るまでは絶対に手を出さないと決めただろ。でも思うくらいなら別に平気なのか?


「クォルテさん、どうかしましたか?」

「いや、大丈夫、全然平気」


 一瞬可愛いと思った直後に、顔が近くにあると流石に鼓動(こどう)が早くなってしまう。


「そうですか」


 こっちの心の動きはバレていなかったようで、すぐに顔を離す。

 ダメだな、この程度で揺らぐのはよくないと昨日までは大丈夫だったのに、俺も自分の心を抑えられないくらいには緊張しているのかもしれない。


「クォルテさん、今ドキドキしました?」

「してない」

「私はいつでも問題ありませんのでいつでもお声かけください」


 ウェイトレスと話しているようなくらいの気軽さでそんなことを言われてしまう。


「ということで、クォルテさんは私にドキドキしてくれているみたいだよ、ルリーラちゃん」


 アルシェはそっとルリーラの耳元でそんな言葉を囁く。


「ううー、クォルテ、アルシェがいじめる」


 いつから起きていたのか。起き上がったルリーラは俺に抱き付いてくる。

 飛び込んできたルリーラの頭を撫でてやる。


「アルシェは気づいてたのか?」

「はい、クォルテさんに構ってほしくて寝たふりをしているんだなと」

「そうなのか?」


 別に怒るつもりはないが、ルリーラに視線を振るとわかりやすく目を反らす。

 そして今のやりとりが、ルリーラを起こすためにアルシェが考えた作戦だったと今更気が付いた。


「よくわかったな」

「クォルテさんに揺すられたり起こされたりするたびに口元が笑ってましたから」

「そ、そんなことないし……」


 尻すぼみになるあたり図星か。

 それにしてもアルシェはよく見ているな、俺は全く気が付いていなかった。


「ちょっとくらいいいじゃん、そのくらいの活躍したよ私」

「誰も悪いなんて言ってないから、落ち着け」


 頭を撫でると動きは止まる。


「それでルリーラはどうしてほしいんだ? 今日にでも王を倒しに行きたいから遠出は無理だぞ」

「じゃあここに座る」


 そう言ってルリーラが座ったのは俺の膝の上、あまり大きくないから座られても説明に支障(ししょう)はないから別にいいか。


「それでいいならいいけど」


 それじゃあ、作戦会議をと発言しかけた時にアルシェはじっとこっちを見ていた。


「流石にアルシェだと膝に座らせられないぞ?」


 アルシェは身長もそれなりにあるから、座られるとアルシェ以外見えないし、何よりもアルシェを膝に乗せるなんて男の尊厳(そんげん)が黙ってはいない。


「ふふん、膝は私専用だもん」


 得意げに言っているが、俺の事情を考えると負けているのはルリーラなのだが……、わざわざ言う必要はないので黙っておく。


「私だって頑張っているんです。朝だって早起きして外出の支度をしていますし、クォルテさんとルリーラちゃんの食べた物や洗濯もしています」


 何だろう、奴隷って言うよりもグータラな亭主と、わがままな子供を持った母親の様な話になってきた。

 そういえばたまに親戚のおばさんが似たことを言っていた。俺の両親は奴隷を使っていたからそんな愚痴(ぐち)言わないけど。


「それに、奴隷らしさを無くすように、クォルテさんとも普通に話しています」


 言われれば、昨日あたりから多少砕けた言葉になっている気がする。それに部屋もいつも綺麗な気がする。


「よしアルシェの言いたいことはわかった。いつもありがとうございます」


 俺が頭を下げると、ルリーラも反省したのかありがとうございますと頭を下げる。


「それで、アルシェはどうしてほしいんだ? できる限りのことをしてやる」

「本当ですか!?」


 予想外の食いつきに不安を覚えてしまう。


「でしたら、私は手を繋いでほしいです!」


「そのくらいでいいならいいけど」


 手を出すとアルシェは満面(まんめん)の笑みで手を握る。

 栄養が足りていないのか、細い手なのに握ると驚くほど柔らかい。ルリーラとは違い不慣れな握り方がこそばゆく何度か握りなおしている。


「これで満足か?」

「はいとても」


 返事をしながらも、俺の手を確かめる様に握り締める感触は、付き合い始めの恋人同士の様な初々しさを感じて、なぜかこちらも照れくさくなってしまう。


「クォルテ私も握る!」


「悪い、流石に両手が使えないで身動きできないのは流石に困る」


 申し訳ないと思いながらも、せめて片手だけでも自由がないと困る。

 それにしてもなぜ俺は膝にルリーラ、左手にアルシェがいるこんな状態なのだろうか。

 男冥利(おとこみょうり)につきるが国を取る話は出来ないまま時間だけが過ぎて行った。

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