カルラギークの街
カルラギークの最初の門を通過し、憲兵の一人ラーグ・ハリスは第二の門への道を教えてもらいながら最初の町を進む。
はっきり言って最初の町はあまり面白くない。
行商人や交易がこの町で行われているらしく、飲食店や露店などの小売店は少なく宿や卸売など店に対する商売が半数以上あり、観光には向いていなかった。
「あそこまで挑発しなくても、よかったんじゃない?」
「自分も冷や汗をかきましたよ、あ、そこ曲がったほうが近道です」
ハリスは最初アルシェの隣で緊張していたが、段々とこちらの話に入ってきている。
「あのままやってたら、ルリーラがぶっ飛ばしかねなかったからな」
ルリーラが負けるとは思っていないが、変に手を出して戦争になられても困る。
そのために仕方なく俺が喧嘩を買った。
「それにしても、さっきの大男はいつもああなのか?」
「そうですね。戦時は頼りになるのですが……」
「プライド高そうだもんな」
きっと昔から体の大きさが自慢で、喧嘩では負けなしだったんだろう。
それがアリルドに惨敗。それを破ったのが見た目普通の俺だもんな。
「それで、あいつの名前は何て言うんだ?」
カルラギーク王に間違った報告をされないように、あらかじめ知っておかないと。
こちらは何も壊してはいない。という主張ができない。
「カラ・シリウス中隊長です」
「カラ・シリウス……、ああ、それでか……」
「どうしたの、クォルテ」
「元クラスメイトだ」
カラ・シリウス、育った国である学者の国クレイル合衆国で机を並べた級友。
そう言えば、クラスでは一番の巨漢で運動は得意で、なぜか俺によく絡んできていた。その度に俺は適当に相手してたな。
そんな関係の俺が、自分が惨敗した相手に勝っているんだから面白くはないか。
「知ってれば適当にやったのにな」
後悔先に立たず。
そんな言葉が頭をよぎった。
「ご主人、その隊長はどんな人だったの?」
「負けず嫌いで面倒くさい。自分が勝つと威張るし負けると勝つまで挑戦してくる」
だからこそ適当に相手をしていたわけだけど。
「じゃあ、また来るの?」
「あいつの性格上は来るだろうけど、この国でそんなことしている時間ってあるのか?」
「あると思います。この国を落とそうなんて輩は滅多にいませんので、その分門番って暇なんですよ」
俺の問いにハリスが答える。
それを聞いてまた気持ちが落ちる。
あれとこの国いる間ずっと戦うことになるのか。
「でも、シリウスといえばそれなりに名門だったはずですけど、なぜこの国いるのでしょうか」
「名門だからだろ」
ミールの言葉に俺は答える。
「ここは強いて言うなら地の神のおひざ元で、それでいて世界に知られている強国。そこで名前が知られれば家の名は上がる」
要は家のために出てきて上を目指している。
俺に突っかかってきた理由はそれもあるのか。ロックス家を潰した俺を倒す。アリルドを倒した。この二つの名声が欲しかったのだろう。
「なんで俺は手を出したんだろうな」
余計に話をややこしくしてしまった。
「珍しいねクォルテがそういうの」
「今回は完全にやらかした。迷惑かけるかもなすまん」
「そんなの気にしないよ」
ルリーラが俺の謝罪に即答すると、他の皆も素直に頷く。寧ろ、なぜ謝っているのかと言いたげに一様に首をかしげている。
「凄いですね、皆さん。そんな風に言えるんですね」
「本当にありがたいよ」
ハリスの言葉に俺は照れてしまう。
「ここが二つ目の関所になります。皆さんの手続きは一般とは違うのでそちらに並んでください」
ハリスのおかげで、並ぶ列から外れ人の少ない方に並ぶ。
その列は見るからに身分の高そうな人や、俺達の様に作業員や行商人が並んでいる。
「こっちが通行や観光じゃない商売の列というわけか」
「ええ、主にこの国へ傭兵を借り出し。オレイカ殿と同様の作業人。後は国王への献上品を届けに来た方々です」
一般に比べて人数は少ないとはいえ、それでも結構な人数だ。
見たところ傭兵の依頼と献上品が多いように見える。つまりそれほどに国王が凄いってことなんだろう。
「少なくないよ、全然多いじゃん」
「そう見えますが、隣に比べると格段に速いですよ。こちらの方々は荷物検査くらいで終わりますから」
ルリーラの言葉にも丁寧に返すあたり、ハリスは良い奴のようだ。
「それはありがたいが、なりすましとかされたらどうするんだ?」
「それは杞憂ですよ。こちらに並ぶ方々には、必ず自分の様に憲兵の一人が付き添う形になっています。憲兵の顔は張られていますし、憲兵がいない場合はどのような身分でも一般の列に並んでもらっていますから」
偽造不可の通行証代わりがこの憲兵ってことか。
他にも何か見分けるために必要な何かがあるんだろう。
「じゃあ、ここもすぐ抜けるんだな」
「そうなりますね」
俺の質問が終わった所で、憲兵が一人車の壁を叩く。
「クォルテ・ロックス様ご一行で間違いありませんか?」
「はい、問題ありません。このラーグ・ハリスが証明します」
「承認しました。では、クォルテ・ロックス様、この書類に目を通しサインをお願いします」
言われるまま書類に目を通す。
内容は最初の関所で書いた書類と同じ。
これで文字の癖とかも見ているのか、他にも細かい部分でこちらの確認をしていそうだな。
関所の対応に感心しながら書類にサインを終える。
「ありがとうございます。それと、こちらをどうぞ」
俺に渡されたのは一枚の木札。
通行手形か、各関所で貰っていくと、荷物が嵩張っていきそうだな。
「オレイカ・ガルベリウス様はどちらでしょうか、後はルリーラ様とアルシェ様もですね」
呼ばれた三人も手形を受け取る。
そしてそれ以外には手形は無いらしい。
「国王より手形を与えた四名の謁見を認める。との通達がありました。城へおいでの際にはその手形の持参をお願いいたします。それでは失礼いたします」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
敬礼をして衛兵は門に戻って行った。
「全員ではなかったんですね」
「いや、四人分も貰えれば十分だよ。一人だったら、さっきのカラ・シリウスの件をオレイカに任せないといけないところだった」
「それは本当によかったよ。私に弁明は無理。機械いじり以外は無理!」
オレイカの必死な言葉に俺達は笑ってしまう。
それから少しして俺達は二つ目の関所を通過した。
「今日はこの辺りで終わりですかね。宿のご注文とかはありますか? 精一杯探させてもらいますよ」
「じゃあ、一軒家。それが無理なら三部屋以上を横並びで借りられる宿がいいな」
「それでしたら、良い所がありますよ」
そう言われ案内された場所には一軒の家があった。
部屋数は五、キッチンも完備され車を置くスペースも十分な庭のある物件だった。
「良い所だな。理想通りだ」
「八人で泊まるなら安いですし、あまり人気が無いですからね」
「何か不人気な理由があるのか?」
化け物退治になるなら、いくら良くても遠慮したい。そうでなくても欠陥住宅とかなら最悪だ。
「いえ、ニーズが無いんですよ、身分が高い方々ですともっと立派な屋敷を借りますし、人数が少ないなら宿の方が安い。そんなどっちつかずなんですよ」
「なるほどな」
観光とかなら安い宿屋、仕事なら見栄を張って豪邸ってことか。
庶民的な金持ちは少ないってことか。
「では明日迎えに参りますのでこれで失礼します」
「ありがとう。また明日も頼む」
「はい!」
元気のいい返事をしながらハリスは一人で帰って行った。
「じゃあ、荷物をさっさと運ぶぞ」
みんなで荷物を運びながら俺は考える。
カラ・シリウスならいつ来るか。
調べれば二つ目の関所を抜けたことはわかるだろう。
しらみつぶしに宿を探し続けるのか、それとも次の関所で待っているか。
そんなことを考えながら荷物の運び出しが終わり、俺達は眠りについた。




