オレイカの仕事
「えー、今度の行先は水の国ヴォールになりました」
地の神の脅しの様なお願いで決まった、新しい行先をみんなに伝える。
「クォルテおかしくない?」
「何もおかしいことはありません。ルリーラは変なことを言わないように」
「私もそう思います。なんと言うか、嫌々ながら誰かに命令されて仕方なく向かう。そんな感じです」
「そんなことはないぞ、アルシェ俺はまたあの美しい水の国に行きたくなったのだ」
二人ともどうも腑に落ちない、と言いたげな表情でこちらを見るが何かを悟ったのかそれ以上の追及はしてこない。
「それに、ガリクラからオレイカの仕事も貰ってるし行くしかないだろう」
神からのお使いのせいで、行きたくはないが行かなければいけない。
そんな理由づけを無理矢理にする。
まさか本当の理由が、地の神が水の神に恋をしていて、その間を取り持つように言われているなんて口止めされてなくても言いたくない。
「それに、オレイカがいつも通り仕事をするなら、どこに行っても今後何も手を出さないと確約もしてくれたしな」
「あたし達が大会で優勝したのにね」
「フィル先輩の言う通りですよね、兄さん達が優勝したんですから約束は守ってもらいたいです」
「私はそれでもいいよ、仕事はするつもりだったし王様達に迷惑かけるのは心苦しいしね」
オレイカの言葉でみんなも静かになってくれて、これでこの件は終わりだ。
「オレイカ、これがガリクラからもらった依頼書らしいけどこれ多くないか?」
城を出る前に貰った依頼書は、本当に書として成り立つほどに分厚い。
昔使っていた図鑑ほどの厚さで軽く武器になりそうなほどだ。
「それを全部やるわけじゃないから。依頼はガリクラ様の元に一度届いて難易度ごとに振り分けられるの」
なるほど、そうやってシェルノキュリへ依頼して、依頼金を地の神が税として徴収するわけか。
「本当はこのくらいの厚さなんだよ」
見せられたのは十枚ほどの紙の束だ。
「この厚さだと全難易度の全依頼じゃないかな。まあこっちに戻ってこないしね」
「見てもいいか?」
オレイカが頷いたのを確認してから依頼書をめくると、他のみんなも覗き込んできた。
一度行ったことのある国からまだ行ったことのない国まで、かなり国が依頼書を出していた。
「本当に多岐に亘るな」
魔道具の修繕や兵器の修繕などの修理業務や、施設の改装といった拡張や仕様変更。
「オレイカはこれ一人でできるの?」
「一人だと無理なのも結構あるよ。結構グループを組んで作業に当たる人も多いかな」
ルリーラの質問に答える。
確かに施設の改装とか一人じゃ無理だろうな。
「それじゃあ数も多いしそろそろ出発するか」
「待ってよまだ荷物がまとまってない」
「そうか、明日出発の予定だったしな」
地の神に言われたせいで、急いでしまったがまだ大丈夫か。
「兄さん、皆さんの準備ができてから出発でいいじゃないですか」
「そうだな、次の依頼を考えながらいどうするか」
水の国にたどり着くまでに、何件か依頼をこなせそうだしな。
「では、私と兄さんで進路を考えているので皆さんは荷物をまとめてください」
みんなが返事をしてそれぞれの作業に戻る。
「オレイカは、自分の大事なもの以外は他の連中に任せてこっちに参加してくれ」
テーブルに置いた依頼書を見ながら日程を組んでいく。
「テルトアルレシアとオールスは行ったことがあるので外していいですよね」
「そうだな、後はアインズも行ったからルートとしては別方向がいいだろう」
今までに行ったことのある国を省きながら、行先を考え続ける。
「王様達は、結構色々な国に行ってるんだね」
「目的地があるわけじゃないからな、だからできるだけ行ったことのない国を目指してるんだよ」
「それなら風の国は行かないの?」
「行かない。あそこで見る物は何もない」
オレイカの言葉にきっぱりと断ち切る。
その意味がわかったミールも、何も言わず分別していく。
「それなら、ここは? 結構珍しいし、ここの王様はアリルドさんに近いし国防の役に立つと思うけど」
オレイカが差し出したのはカルラギーク。
城塞の国として有名で、魔獣さえ通さず、神でなければ落とせないとさえ言われている難攻不落の国。
「いや、ここは無理だろ。警備も凄ければ入国も厳しいはずだ。そんなところに観光で行くのは厳しいだろ」
「でも気になるでしょ?」
「それはな」
王のシシカ・ウォーカーは、アリルドと対等にやりあえる豪傑だという噂だ。
そこでの知識は俺の国のアリルドでの国防という点では必要なことだ。
「でも、強国のカルラギークが敵を作りかねない情報をくれるのか?」
「ダメで元々。その時は私が情報を流すし」
「それはそれで、国として戦争の火種になりかねないけどな」
国家機密の漏洩とか城塞の国としては絶対防ぎたいことだろう。
「いいんじゃないですか? 情報うんぬんはともかくとして警備や関所の対応は見ておいて損はないでしょう」
「そうだな、それじゃあ次の行先は城塞の国カルラギーク。王に断られたら見れる範囲の見学ってことで」
それから何か所かの国を通り、水の国を目指す道筋を決めたところでみんなの準備も終わった。
慣れない馬車、にみんなが乗り込む。
「本当は、今日明日でもうちょっと改造したかったんだけどね」
「これ以上どこを改造するつもりだ」
すでに馬車なのに馬がない。
荷台も速度が出ても問題ないように鉄製の衝立も増えており、もう最初の時とは別の物になっている。
「これじゃあ、車だな」
「馬車に馬がないからね。うん、王様の意見を取り入れてこれは車ってことで」
「えー……」
馬なしの馬車はたった今車という名前に変わった。
「私が操舵してもいいでしょうか?」
アルシェが言い出したことにどうしたものかと、オレイカを見ると親指を立てたので俺はそれを認めた。
「これが、舵。ここに魔力を流すと走り出して――」
オレイカが車の操舵方法を教えている間に、俺達は荷物を荷台に詰め込む。
「クォルテ、次の国ってどんな国? 城塞の国って言ってたけど」
「そのまんまの国だよ。外敵を寄せ付けない鉄壁の防御、入国者の管理や規制が厳しくて入国に長くて一週間。最長は確か一月だったかな」
「一月って頭がおかしいんじゃない?」
「その気持ちはわかる」
他の国では最長でもせいぜい数日だ。アリルドは逆に門番が名前を確認するくらいだから誰でも入れてしまう。
「それだけしっかりしていて、王がアリルドみたいに豪傑って話だ」
「おっちゃんと同じ強さ」
「ご主人、そんな国誰が落とせるの?」
「腕試しや、力量がわからない馬鹿どもだな」
話を聞いていたフィルとサラが話に入ってきた。
「ウォルクスハルクでも一度、演習をしてもらったらしいが資料では惨敗。軍備の大幅な見直しがされたらしい」
「主要国が惨敗か」
神の居る国はそれなりの戦力を有しているはずなのに、それでも惨敗か。
「その王様にお願いして私と戦ってくれないかな」
「馬鹿じゃないの? それに応じるのは戦好きのアリルド殿くらいだ」
「そろそろ出発するよ」
オレイカの言葉に俺達は話を中断し、車に乗り込む。
車が静かに走り出す。
「快適快適」
「馬車とは大違い」
走り出すとルリーラとフィルはすぐに眠りについた。
セルクは片づけの最中にすでに夢の中にいる。
「この速度なら三日か?」
「アルシェが本気を出したら一日じゃない?」
「壊れるだろ!」
「壊れたら直す! それに耐久検査もしたいし」
「頼むからやめてくれ。ゆっくりと旅をさせてくれ」
工具を取り出したオレイカに必死に頭を下げる。
「しょうがないな」
オレイカは工具をしまい俺達は地の国を後にした。




