ガリクラの秘め事
朝食の後、俺は一人で街の中をうろついていた。
「よう、フィルム」
偶然見つけたフィルムに声をかける。
フィルムは心底嫌そうな顔を見せるが、構わず話を続ける。
「こんな朝早くから何してんだ? 歓楽街なら北区だぞ」
「そういう、悟ったみたいに話しかけるお前が俺は嫌いだ」
「俺は、そういう風に顔にはっきり出してからかい甲斐のあるお前が、嫌いじゃないぞ」
俺を無視して歩くフィルムの隣を歩く。
「ガリクラ様の所に行くのはわかってるんだろ?」
知ってはいたが、やはりこいつも行先は同じらしい。
「そうだ、言ってやりたいこともあるしな」
「怖いもの知らずだな」
「伊達に他の神にあってないしな」
「はぁ、行く気がそがれた。お前が居なくなった時に行くことにする」
そう言うと本当に踵を返し、来た道を戻っていく。
「フィルム、一つ言っておくがお前達は本当に弱くないぞ」
歩みを止めてこちらに顔を向ける。
「知ってる」
それだけ言いまた歩き出す。
「余計なお世話だったかな」
昨日のゲームで惨敗しているから、変に心が折れてなければなんて思ったけど、さっきの顔を見る限り平気そうだ。
あれは次は負けないと燃えていた。
「さて、そろそろ行こうか」
フィルムが見えなくなってから俺は城の方に進んでいく。
城の入り口にたどり着いたのは良いが、入ってもいいのだろうか。
前回は強制的に目の前まで飛ばされたしな。
「何用か」
背後からの割れたような低い声に振り向く、そこに居たのは俺達の部屋の前に居たローブを纏っている巨漢。
「何用か」
こちらの返答がないと同じ調子で機械の様に繰り返す。
なるほど、やっぱりこれは神の使いか。
魔法か神器かまではわからないが、人間でないことは確かだ。
「何用か」
「神との謁見を所望する」
「やあ、クォルテ・ロックス。昨日はおめでとう、予想以上にお前は優秀だ」
「ガリクラ」
やはり人間ではないらしく、巨漢の声が地の神に変わる。
「神を呼び捨てか、まあいい入れ。これに触れれば我が前に移動できる」
「助かる。それにこの話は国民に聞かれたくないだろうしな」
神の応答を聞く前に巨漢に触れる。
前回と同じように巨漢が空間ごと飲み込み、吐き出されたときには神の前に居た。
「お前は神への礼儀を知らないのか?」
「敬意を払う神くらい選ぶさ」
俺の言葉に地の神は不機嫌さを隠そうとはしない。
力ずくで抑えようとしているのか、それともただ漏れ出ているのか魔力が不必要なほどに溢れ出ている。
「ゲームで勝ったから、自分の方が格上だと思っているわけではあるまい」
「もちろんだ。その気になれば瞬きの間に俺の首は、宙を舞うと思ってるよ」
神と人はそれくらいの差があって当然だ。
それは今まで目で見て体感したことだ。
「なら、なぜ神経を逆なでする発言ばかりする?」
「私的な理由で、オレイカに嫌がらせしたからな」
「当然だろう、シェルノキュリの大天才が出て行こうとしたら、嫌がらせしてでも止めるさ」
「国益については、世界を回るからオレイカに仕事をさせるさ。その金は各国にいるシェルノキュリの連中に渡すそれでいいだろ。発明品の代金も同じだ。それでも止める理由があるか?」
俺にはわかってる。地の神がオレイカを旅に出したくない理由は、決して国益だけじゃない。
もっと個人的な理由だ。
「それでも嫌なんだろ? ガリクラ」
俺の言葉に地の神の体はピクリと反応した。
やっぱり俺の想像通りってことだよな。
「国だ。しきたりだ。ってそれは全部建前だろ」
「どういう意味だ?」
ようやく俺が気づいていることに気付いた。
俺は地の神に向かって歩き出す。
さっきフィルムにそうしたように近づいて地の神に告げる。
「ガリクラ、お前はヴォール様が好きなんだろ?」
「――っ!!」
瞬間沸騰したように、ガリクラの純白の肌が真っ赤に染まる。
こうなってしまうと、神としての威厳はどこえやら。
ただの一人の女性になってしまう。
「オレイカが俺と一緒に居るのが、許せなかったんだろ」
地の神の目が激しく動き、挙句うつむいてしまう。
「大方、自分が水の神と付き合えないのは属性が違うから。他の連中は同じ属性同士だから一緒になれる。そう言い聞かせてきたのに、自分が育ててきたシェルノキュリ一のオレイカがよりによってヴォール様から名前が出た俺と一緒に居た。それが許せなかった。そんなところか?」
「……るさい、うるさい! うるさい!」
うつむいた顔を上げると、そこには羞恥ではなく憤怒に顔を染めた鬼神がいた。
やばい、やりすぎた。
オレイカの仕返しと思っていたのだが、どうも効果がありすぎたようだ。
「何が悪いのさ、私だって好きになるさ! 感情あるもん、恋心を抱いたりするさ! それの何がいけないの?」
自分の影さえも置き去りにする速さで、地の神は俺の胸倉を掴むと俺の体が宙に浮く。
神らしい言葉遣いも、堂々とした威厳もない。一人の女性になってしまった。
「神は恋をしちゃいけないの? ヴォールだって手を出してるじゃない! 人間にだって手を出してるのよ、それにウォルクスハルクにも私にも昔は手を出してたの!」
あの神は何をやらかしちゃってるの?
っていうか、火の神にも手を出しているのかあの神は……。
そしてそろそろやばい……、感情に振り回されて我を忘れた状態にも関わらず、身体能力は神の力、そんなもので俺の体は揺さぶられている。
「ただの遊びだったかもしれないけど本気になっちゃダメなの!? そのくせ私の事は、年より扱いするし! なら手なんかだすんじゃねぇ!」
やばい、そろそろ、死ぬ……。
「こちとら神になってから、経験なんてないんだよ! その初体験を奪っておいて責任も取りやがらないんだぞあの男は! 年寄りが若いのを好きになっちゃいけないのか? おい、聞いてるのか、クォルテ・ロックス!」
「……は、離して、くださ、い……」
ありえないほどの力で、脳も内臓もぐちゃぐちゃに混ぜられてしまった感覚になる。
これ、俺死ぬかもしれない。
「ふん!」
俺の死にそうな姿を見たにも関わらず、壁に放り投げられ俺はめり込むほどに衝突する。
これは死んだな、俺……。
俺を殺しかけておいて、何事もなかったかのように玉座に座る。
「こほんっ。お前の言うとおりだ、我はヴォールが好きだ。このことを他に言いふらさないと約束できるなら、優勝したことだしオレイカと旅に出ることを許そう」
「あ、りがとう、ございます……」
今更取り繕っても意味はないのだが、神としての威厳は残したいらしく神らしく振舞いだした。
「そしてヴォールにあったら良しなに言っておけ。ガリクラは瀕死のお前を癒し救った心優しき神だと!」
みるみるうちに俺の傷は癒えていく。
「はい」
返事はしたものの、その原因はお前だろ。と言いたいが今度は本当に命が無くなりそうなので口には出さない。
「よいな、ヴォールにあったら必ず告げるんだぞ、優しく懐の深い慈愛の女神だったと」
「ええ、わかりました」
さっきよりも増えてる。
「約束を違えるなよ、我の恋心を他言しないこと、ヴォールに我が素晴らしい神だと伝えること」
「二つ目はいつ会えるかわからないのですが」
「今から行けばいいだろう」
こいつは何を言っているんだ? そんな表情をする。
「あー、はい。わかりました」
「うむ、ではよろしく頼むぞ、オレイカの次の仕事はヴォールにしておく」
こうして次の行先は地の神の独断と我がままにより久しぶりに水の国ヴォールになった。




