ゲーム大会その三 合図
『始まって早々、驚きの展開です! 一人が逮捕、もう一人は場外で退場! 今のは良いのでしょうか? あっと、ありです、場外に出た人だけが失格、退場です! これは今大会波乱の幕開けと言えるのではないでしょうか!」
「確かに波乱だよな、まさかイーシャが即刻退場とはな」
「フィルムくんが退場してくれればよかったのに」
「さらっと酷いこと言わないでくれ」
私の前を歩く二人が楽しそうに話しているのに、私を抑えているこの人は一言も喋らないな。
「ねえ、お姉さんの名前って何?」
「……」
「質問にも答えてくれないの?」
「……」
話し相手なしか……、ただ後ろを歩くのってつまらないな。アルシェと最初に会った時でも、もうちょっと話してくれた気がするけどな。
「ヴェルスは無口だよ。フィルムくんが命令しないと話してもくれないの、酷いと思わない?」
「えっとこのお姉さんがヴェルス? じゃあお姉さんは?」
「説明してなかったかな、私はリース・ヤングルさっさと退場したのがイーシャ・フィルグラムちゃんね。それでリーダーっぽいのがフィルム・ガーベルトくん覚えた?」
「ヴェルスにリース、場外に投げられたのがイーシャであれがフィルム」
一つ一つ指さしで確認すると、フィルムはあれ呼ばわりされたことに落ち込みだす。
「あれはいつもあんなだから気にしなくていいよ」
さっき会った時もそうだけど、リースって性格が悪そうだ。
笑顔も作ってる感じがする。
「今が暇だからついでに言っておきたいことあるんだけどさ」
「何? 私も暇だから答えてあげるよ」
上から目線で腹が立つから、同じように言ってやったけど、結構効いたみたいで目の奥に少し怒りが見えた。
今更だけど私、この人のこと嫌いだ。
「私達と一緒に来る気はない?」
「……えっ?」
予想外の言葉に一瞬動きが止まってしまった。
てっきりクォルテの話を聞きだされるかと思ってたから、驚いてしまった。
「そんなに意外? フィルムくんはハーレムを作りたいんだって。それで可愛い子を集めて理想郷を作るんだってさ」
「それでクォルテを目の敵にしてるのか、そっちよりも人数多いもんね」
「それだけじゃない」
急にフィルムも話に加わった。
さっきまでのふざけていた表情が真剣なそれに変わる。
「クォルテ・ロックスは俺の一歩先に居る。自分の国を持っている」
「あの時は大変だったな」
おっちゃん強かったし、盗賊の人も結構強かった。
大変だけど楽しかったよ。
「だから俺はこの大会で優勝し、自分の国を持つ」
そう言えば願い事がどうのって言ってた気がする。
そういうことか、つまらないな。
「そこで一生美女とともに生きるってこと?」
「そうなるな」
「呆れられてるよフィルムくん。まあ、私としても一生安心できるしね」
そうなんだな、この人にとってはそれでおしまいか。
「私は今のままでいい。あんた達じゃなくて、クォルテの元に帰る」
私の言葉に、目の前の二人はため息をついた。
「奴隷根性染みついてるの? あんたが掴まってるのに、イーシャちゃんを退場にしただけで逃げた男だよ」
「私が掴まるのも作戦だしね」
これは言ってもいいんだっけか? いいよね、そろそろ人の気配が多くなってきてるし。
「それでも、敵陣に女の子を一人で送り込むとか、普通にありえないでしょ」
やっぱりそう思うよね、私も最初はそう思ったし。
「それを平然とやる男のどこを信じてるのか、私は気になるな」
怖い目になった。もしかしたら同じようなことがあったのかもしれない。
「私も結構いろんな所に行ったから、わかるようになってきてるんだ」
「何が? 男の良し悪しとか? フィルムくんがあの男に劣るとか言ったら今この場であんたを殺すけど」
「無理なこと言わない方がいいよ、はっきり言ってあんたに負けるとかありえない」
「このっ!」
「はいストップ」
フィルムが私達の間に立つ。
「リース、挑発だから乗っちゃダメだ」
「ふんっ!」
一瞬で殺意が消えた。
本当にフィルムが好きなんだ。だとしたら悪いことしちゃったかな。
それにもしかしたらこの人は気が付いた?
「ルリーラちゃんも、クォルテ・ロックスの命令かもしれないけど、あんな挑発したら普通は本当に殺されちゃうから気をつけないと」
やっぱりこの人は何も気づいてないや。
ただの女好きか。
「リース、ごめんなさい」
私は素直に頭を下げる。
あんなに怒るほど好きだなんて思ってなかった。
「リースがそこまでフィルムを好きだって気づか――」
「やっぱりあんたはここで殺して欲しいの? そうなんでしょそうならそうと早く言いなよすぐに殺してあげるから」
あまりの気迫に、私は首を横に振るしかなかった。
私達と違ってこの人達はあんまり好きって言うのを表に出さないみたいだ。
「だから何やってんだよ、喉を本気で潰そうとしない。本当に挑発に乗ったらダメだって」
今のが聞こえてないのか……、クォルテとはまた違う反応で面白い。
「大会が終わったらあんたに決闘を申し込むから」
「いいよ、でもそれは大会中でもいいんじゃない?」
「そのまま本当に私勝てると思ってる?」
「まあ、このままでもいいけどね」
すると急にヴェルスが私の手を強く掴む。
「ごめんね、ちゃんとした決着はまた今度で、先に性悪女の相手しないと」
「なら、楽しみに待っててあげるわちんちくりん。この大会中にあんたと戦うの」
それっきリースが私に声をかけることはなく歩いていく。
「じゃあ、ルリーラちゃんを助けに、クォルテ・ロックスが来るんだ」
「むしろ来ないと思ったの?」
「それもあり得ると思ってるよ、イーシャを退場にする。そのための一対一の交換。遠距離の手を塞いで反対に遠距離で有利に立ち回る。そんな筋書きだろ」
やっぱりフィルムは届いてないな。
憶測で決めつけて動いてる。クォルテなら、そこからいくつか可能性を考えて動く。
「信じるのは自由だけど、裏切られた時のことも考えておいた方がいいよ」
「フィルムは考えてるの? この三人に裏切られた時のこと」
フィルムの質問がムカつく。
クォルテが私を裏切るようなことを言ったことがムカつく。
それだけは絶対にありえない。
「考えたことはないな、三人共仲間だ」
「私の答えも同じだよ」
「そうか、ごめん。おっと、着いたねそれじゃあ悪いけど終了まで檻の中に居てね」
黒い鉄製の檻。本当の檻とは違って入口に鍵はないし、格子の間には金網で外から手錠を外せない。
それで、外開きで一度中に入ったら出られない仕組み。
その檻が三つ。
想定通り。それじゃあ、そろそろ打ち上げようかな。
「入ってわかったでしょ? あんたを助けるには檻に入るしかない。でも、その檻の中に入ったら掴まる。これでもまだ私と、ってなにしてるの」
膝を曲げて溜めを作る、そして限界まで体を後ろにねじる。
全身の力をくまなく拳に乗せるために。
「危ないから離れてたほうがいいよ」
限界まで力を溜める、それでその私の全力を檻の天井にぶつける!!
全力の跳躍と回転の力が拳に宿り天井にぶち当たる。
拳が黒い鉄に触れめり込み、檻自体が浮く。
殴った反動を元に床部分を蹴り下ろす。
「何、これ……」
両極の力に耐え切れなかった檻は、格子の部分から千切れ天井部分だけが空に打ちあがる。
良かった真直ぐ飛んで行ってくれた。
「でも、一回で行くとは思わなかったな」
本気だったけどまさか一撃でちぎれるとは思わなかった。
やっぱりフィルム達にも、この手を使わせようとしてたんだな。
「さて、残りの檻も打ち上げようかな」
「えっ、鉄がちぎれて飛んだ?」
なぜか呆然としているリースをしり目に次の檻に向かう。
「檻から出たらだめなんだっけか」
私は両隣の檻引き寄せて、同じように打ち上げた。
「これで全部かな」
全ての檻に天井の打ち上げが終わり私は檻の端に座る。
「待ってよ、檻を壊したら反則でしょ!」
『なんということでしょうか、前代未聞の出来事が起こっています。檻の天井部分が次々と宙を舞う! あの小さい身体のどこにこれほどの力があるのか!!』
「反則じゃないよ、檻の扱いについてはルールないし。ね、フィルム」
「これが目的ってことか?」
私は答えの代わりににやりと笑ってやった。
「そのために、敵陣に君一人とはやっぱりクォルテ・ロックスの元に女の子は置いておけないな」
「クォルテから伝言があるよ」
フィルムがこちらを見つめる。
「神主催のゲームで規則違反ができる阿呆はいない。だってさ」
クォルテが私を送り込めた理由を納得したらしく、フィルムは歯を食いしばる。
「それと、私からも一言。私達がクォルテと一緒に居るのは自由だから。私は安心より自由がいい」
「そうか、くそっ! そういうことか」
「なんだ、地面が!」
突然ここの空間を挟むような壁が突如現れた。
誰の仕業なんてそんなこと考えるまでもなくわかってる。




