ゲーム大会その一 開会
「じゃあ行くぞ」
ゲームの当日、全員で宿を出る。
正直不安しかない。
当然勝てるように考えた、規格外の参加がなければ惨敗は無いはずだ。
それにしても時間が圧倒的に足りないな。
「クォルテ大丈夫?」
「まあ、結構厳しいのは確かだな」
それにわずかに逃げ切る手段も残っているしな。
警邏側なら多少は勝利条件が緩い、それと参加者は賞金が目当てだということだ。
「私が素直にシェルノキュリに帰ればいいのかな? って、痛い」
未だにふざけたことを言っているオレイカにデコピンをする。
「ふざけたことまだいうなら、もう一発するぞ」
オレイカは額を抑える。
あんまり俺が神妙な顔してたら駄目だよな。
「おい、お前! 今その美少女に何をした!」
それなりに、声を張ったのはわかるが距離があるのか叫んだ相手の姿が見えない。
「こっちだ!」
再びの叫び声から、大きな爆発音が聞こえ誰かが空から降ってきた。
大きな着地音と共に現れたのは、俺よりも少し身長の高い茶髪の男。
快活そうな顔に元気が爆発したようなツンツン頭の男。
「誰?」
男は、いきなり俺の胸倉をつかむ。
「今この美少女に危害を加えたな、クォルテ・ロックス」
俺の体を片手で浮かせる男は俺を知っているらしいが、やはり記憶にない。
見た目通りに暑苦しい男に肘まで覆う篭手、ごつい靴。改めて見ても記憶の端にも引っかからない。
「やめなさい!」
その声と共に、人に当てるには大きなサイズの石が飛んできた。
「いっ……」
そしてその大きな石は男に当たる。
鈍い音共に男の首は前に直角に曲がる。
死んだんじゃないか?
「ってーな。何するんだイーシャ!」
「いきなり魔法で飛んで、人様に迷惑をかけている幼馴染に活を入れただけよ」
「にしてもデカいだろ流石に!」
「あんたを止めるのにはあれくらい必要なの」
いきなりメガネをかけた女性が割って入ってきてくれた。
止めてくれたらしいが、混乱が解消されるわけでもない。
「二人とも落ち着いてよ、こちらの人達が間の抜けた顔してるよ。それにフィルムくんが考えなしなのを知ってて鎖をつけておかないイーシャちゃんもイーシャちゃんだよ」
「今鎖っていった? リースの中では俺って獣と同じ扱い?」
更に人が増えた。
そしてさらりと全員に毒を撒いたよね?
「そうでした。クォルテ・ロックスご一行ですよね」
メガネの女性が改めて俺の前に立った。
純白の髪に眼鏡の奥に空の様な澄んだ青色の瞳が俺を捕らえる。
凜とした空気は、アルシェとも違った雰囲気を放っている。
「私の名前はイーシャ・フィルグラム。このフィルム・ガーベルトと一緒に旅をしているものです」
「ご丁寧にどうも、クォルテ・ロックスです」
深く頭を下げたフィルグラムさんに会わせ頭を下げる。
しかし頭を上げたフィルグラムさんの瞳は、敵意に満ちていた。
俺は知らない。
アルシェやフィルに視線を向けるが、二人も知らないらしい。
そうなるとウォルクスハルクの武道大会の時か?
「イーシャ、後は俺が代わる。クォルテ・ロックス、俺はお前に挑戦する」
「何の?」
「そんなのわかってるだろ! 自分の胸に手を当てて考えてみろ!」
挑戦すると大々的に宣言した、フィルムと呼ばれた男の言葉に素直に返事をした。
このタイミングで声をかけてきたということは、おそらくゲームだろうと当たりはつけられるが、正直挑戦される理由がわからない。
「ヴェルス、フィルムを抑えていてください。クォルテ・ロックス氏との話は私がいたしますので」
後ろの離れたところに立っていた、長身の美女も仲間だったらしく無言でフィルムを抱え再び後ろに下がる。
「フィルムが無駄な時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「いえいえ」
本当に無駄な時間だった。とは言えそうにない雰囲気に俺は適当に相槌を打つ。
「私達も今日のゲーム大会の参加者です。そして、あなた方と同様にガリクラ様から条件付きで一つ願いを叶えて頂けるのです」
「ようやく話は繋がったけど、負けてくれって提案なら飲めない。こっちも負けられない事情があるんでな」
「ええ、ですから正々堂々どちらが勝っても恨みは無しで、そう言いに来ただけです」
「そうなのか?」
イーシャさんはそう言うが、あまりにも喧嘩腰過ぎる。
「フィルムくんは直情馬鹿で、脳よりも脊髄の方が反応が早いので」
なんでこの子は発言の度に毒を吐いているんだろう。
「それでは失礼します」
改めて頭を下げると未だに暴れるフィルムを抱えたまま四人は去って行った。
「ゲーム始める前から疲れたよ」
「全員濃かったね」
「まあ。俺達もとりあえずは向かうか」
気を取り直して俺達も会場に向かうことにした。
にしても厄介だな、賞金だけに目を奪われていてくれれば勝率は悪くないと思っていたんだけどな。
会場に着く。
闘技場と同じ規模の巨大な建物の中に入り俺達が受付を済ませると、一枚紙を渡された。
「今回あなた達のチームは決まっています。盗人側となっています」
「これって最初から決まってたの?」
「いえ、先ほどフィルムチームの方がくじで警邏側を引かれましたので」
「わかりました」
最悪だ。
脱落者の出る盗人で俺達を狙いにくる連中がいる。
一縷の望みはあいつらが弱いことだけど、あの魔法の威力からすると期待薄か。
「これダメなのか!?」
「はい。道具の使用に当たりますのでダメです」
「私も媒介取り上げられたししょうがないでしょ」
控えのテントに入るとフィルム達が係の人達ともめていた。
係の人がフィルムの篭手を持っているところを見ると、防具も駄目ということらしいな。
「賑やかな人達だね」
「あたしは疲れるから、あの人達好きじゃないな」
のんきにフィルム達の状況を眺めるルリーラとフィル。
俺が選んだメンバーは俺とルリーラ、フィルにオレイカ。
身体能力優先のチーム、それは奇しくもフィルム達と同じ構成。
「王様、大丈夫かな?」
「悪いな、絶対に勝てるとは言えない」
その言葉にオレイカの耳は力なくうなだれる。
その頭に手を乗せる。
「安心しろ、たとえ負けても仲間を奪わせたりはしない」
「クォルテがカッコつけてる」
「犬耳がいいならあたし達もつける?」
「必要ないからつけるな。それとそろそろ始まるぞ」
犬耳が無くても仲間なら同じ反応をするんだが、こいつらの中では俺に優しくされた人が居たら、その恰好を真似しようとする変な習慣が出来ている。
そんなことをしなくても十分にみんな魅力があるのにな。
『さあ、今回も始まりましたゲーム大会! 今回はどこのチームが優勝するのでしょうか! それでは、最初のチームを紹介いたします!』
実況の語りと共に怒号の様な雄たけびと共に会場を揺らす。
できるなら、神とは戦いたくはないよな。
オレイカに言ったことは本心だが、その方法はただ逃げることのみだ。
それか水の神か火の神に助けを求めるしかない。
その愚策はできれば取りたくない。
「クォルテ・ロックス、この大会でお前を超えて見せる」
「超えたきゃ勝手に超えろ、でもこの大会の勝ちは譲る気はない」
「上等だ、完膚なきまでに叩き潰してやる」
『続いて、フィルムチーム』
呼ばれたフィルム達はそのままテントを出て行った。
それから盗人側の俺達も呼ばれ整列する。
『ご存知の方も多いと思いますが、ルールの説明をしたいと思います! 参加の十組はすでに警邏と盗人に分かれております! そしてその二組で勝利条件は変わってきます! 警邏組の勝利条件は盗人全員の捕獲。逆に盗人は一人でも残れば勝ちとなります! そしてどちらの組でも共通の勝利条件はターゲットの奪取! 制限時間は二時間となっております』
流石にルールの改変はしないか。それをしたら俺達に付け込まれる理由にもなるしな。
『そして、禁止事項は次の三つです! 他の参加者に過度の危害を加えないこと、これはゲームですので楽しく行きましょう! そして二点目は道具の使用、己の肉体だけで頑張ってくださいね! 最後は会場の外に出ないこと、過去に盗人がターゲットを持って隠れてしまったという事件があったので追加されています! この三点を破った人は失格ですので注意してくださいね!』
最後の忠告に会場はクスクスと笑い声が聞こえる。
俺の口も思わず笑ってしまう。もちろん実況の発言のせいではない。
「なるほど、それなら盗人側にも勝ち目があるじゃないか」
「クォルテ?」
「ご主人が悪い顔してるね」
「みんな始まったらすぐ集まれ。盗人側が警邏組を捕まえてやろうぜ」
これで条件は対等だ、地の神はあえて残したであろうこの穴、ちゃんと使ってやらないといけないよな?
俺は玉座に座る地の神を見る。
そこには不敵に笑う地の神がこちらを見下ろしていた。




