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地の国 ガリクラ その三

 自由行動の翌朝、ドアを叩く音で起床する。


「はい」


 先に起きていたアルシェが出迎えている間に、俺は身支度を整える。

 わざわざ部屋に来るってことは、それなりの要件があるのだろう。


「少々お待ちください」


 パタパタと足音が聞こえるってことは、やはり俺に話があるのだろう。


「クォルテさん、地の神の御使いの方がいらっしゃっています」


「すぐ行く」


 神の御使いか……、昨日のことを思うとあまり気は進まないが、無視するわけにもいかず入口に向かう。


「クォルテ・ロックス」


 ドアの前には大男が立っていた。

 俺よりも頭二つほど大きく、サイズだけで言えばアリルドと同じ巨漢が立っていた。

 そしてその巨漢はローブで隠れており顔はうかがえない。


「何か御用でしょうか」


「神がお待ちだ、準備をして至急城へ」


 そう言って一つの玉を渡される。

 透き通っていて綺麗な水晶玉。

 これが通行券ってことか?


「転移の魔法が籠っている結晶だ。準備が出来たら割れば城に着く」


「用意がいいな」


 転移の結晶から前に顔を向けた直後、今しがたまで居た巨漢は姿を消していた。


「本当に派手好きって感じだな」


 結晶を手にみんなに声をかけて回った。


「じゃあいいな」


 約三名ほどまだ夢と現実を行き来しているが、気にせず転移の結晶を砕く。

 その瞬間、俺の手の平に周りの空間が飲み込まれたと思った直後、すぐに新しい景色を俺の手は吐き出した。

 そして、俺達は城の中にいるのだと、全てが終わってから認識した。

 水の神が使った転移の魔法とはまた違う現象。

 属性が違えば魔法も変わるか。


「やあ、クォルテ・ロックスとその仲間達」


 声のする方向には、玉座に深く腰掛け座る地の神がいた。

 昨日と変わらず男を虜にする煽情的な服装と態度が、やはり水や炎の神との違いをハッキリさせる。


「昨日の今日で呼び出しですか?」


「昨日改めて伺うと言っていただろ? だからこちらから呼んでやったのだ」


 自己中心的。

 それゆえにこちらに主導権を渡してくれそうにない。

 流石神と言ったところか。


「それに貴様達に頼みがあるのだ」


「なんでしょうか?」


 頼み? 魔獣退治とかそんな話だろうか?

 だけど、魔獣がこんなところに出るはずもない。


「身構えるな、ゲームに参加してもらいたいだけだ」


「ゲーム?」


「そう、ゲーム。国民が参加する祭りのようなものだ、ウォルクスハルクの武道大会のような物だと考えてくれればいい」


「たまにガリクラ様が催しとして開催するの」


 説明不足の言葉にオレイカは補足してくれる。

 なるほど昨日言っていた皆を楽しませてくれるってやつか。


「毎回優勝者には賞金を与えている」


「賞金ですか?」


 なんでそんな話をする? 俺達がそれに乗ると思っているのか?


「そうどこの国でも一年は暮らせる」


「それは凄いですね」


 地の神は意地悪く口角を上げる。


「別に我々は金に困ってはいないですが?」


「お前達には特別にもう一つ賞品をつける?」


「なんでしょうか?」


 俺達に?

 そこまで俺達を、ゲームに参加させたい理由はなんだ?

 地の神の心意を考えるが情報が少なく、わからない。


「貴様達の願いを一つ叶える。例えばこの国で隠している国の娘の旅を許すとかな」


 そういうことか。

 オレイカを渡さないため。

 このゲームに勝てなければオレイカは渡さないってことか。


「その願いよりも、神の座から引きずり下ろすっていう願いなら。一石二鳥じゃないでしょうか?」


「ちょっとクォルテ?」


「そんな願い我が許すはずないであろう」


 地の神は自分の内にある魔力を放つ。

 その力にこの部屋が大きく震える。


 圧倒的な魔力。でも過去にもっと殺意の篭った魔力、それと本気の魔力を見て知っている。

 この程度で気圧されはしない。


「ヴォールが認めた男か、なるほど中々の胆力だ」


 愉快そうに笑うと地の神は魔力を納める。


「では必ず守るべき規則の話に入ろうか。今回のゲームは盗賊と警邏、四人を一組として警邏と盗人に分かれてもらう」


 四人一組、ちょうど俺達で二組作れるってことか。


「警邏と盗人で勝利条件が異なる。警邏側の勝利条件は盗人全員の捕獲とターゲットを確保し続けること。盗人側の勝利条件はターゲットの確保と時間内まで逃げ切ることだ」


「勝利条件に矛盾がありますが?」


 警邏側の勝利条件のターゲットを確保し続ける。と、盗人の時間内まで逃げ切ること。が同時に達成できてしまう。


「それは後で触れる。ターゲットはゲームマップ上のどこかに隠しているので、それを両チーム探してもらう」


「参加は何組が出るんですか?」


 人数次第では逃げたほうがいいだろう。

 逃げ切った方が危険は少ない。


「落ち着きがないな。参加は十組の予定だ。ついでにさっきの回答だが、ターゲット数は三を予定している。もしターゲットを互いに一つずつ確保しているまま制限時間を過ぎた場合は、盗人の残り人数で決まる。半数以上が残っていれば盗人側の勝ち。半数以下しか残っていなければ警邏側の勝ち。同数の場合は盗人の勝ち。それ以外はターゲットを確保している数が多いチームの勝ちだ。そして盗人が全て捕まらない限りは制限時間一杯までゲームをする」


 確保だけが広さにもよるが、そこまで盗人側に不利益があるわけじゃなさそうだな。


「捕獲のルールは何があるんですか?」


「盗人の手首にこの錠を嵌めることだ」


 触れるだけではダメってことか。


「盗人を助けるルールはあるんですか?」


「この錠を同じ盗人が外すことだ」


 それなら、二組で片方に身体能力の高い奴らを固めて挑むのがいいか?


「参加するだろう?」

「しますよ」


「楽しみにしているぞ」

「では失礼します」


「そうだ、二つ言い忘れていた。貴様達が参加できるのは四人一組まで、それとオレイカは必須、魔法は自由だが道具の持ち込みは禁止だ」


 今それを言うのか……。

 いや、確認を怠ったのはこっちの落ち度か。


「そして、ゲームを執り行うのは明日の昼だ」


「わかりました」


 城を出て俺は頭を抱えた。


「くそっ、八人いれば楽勝だと思ってたのにな」


 俺とオレイカが注意を引いて、その間にルリーラとフィルにターゲットを探してもらおうと思っていたが、結構厳しいな。

 オレイカが必須、俺も入ると後二枠、ある程度近距離で戦えないといけないとなると……。

 それに明日の昼……、策を考える時間すらない。


 そうまでしてオレイカを手放したくはないか。


「私が迷惑かけてるみたいだね」


「そんなことは無いよ」


 オレイカの問いにルリーラが答える。


「面倒事に巻き込んじゃったみたいだし」


 そう言うと、オレイカの耳と尻尾は力なくうなだれる。


「ルリーラがそんなこと無いって言ったろ」


「クォルテさんはそんなこと気にしないですよ」


「ご主人はむしろ喜ぶ」


「俺は変態か」


 俺の言葉にみんなが頷き笑い始めてしまう。


「まあ、無茶言ってるのは向こうだ。そんで俺はあの神は嫌いだ」


「兄さん、いつになく真剣ですね。オレイカさんに恋をしたんですか? そうならそうと早く行ってくださいよそんな発情した雌犬を側においては置けないので」


「恋ではないぞ」


 だからその目をやめてください。


「旦那様は、地の神が人を所有物と思っているのが許せないだけだ」


 そう言われると俺が言い人の様になってしまうのが嫌だが、概ねそれで正解だ。

 奴隷を下に見ている連中と、同じ雰囲気に耐え切れなかっただけだ。


「そんな感じだから俺はあの神に一泡吹かせてやりたい」


「ありがとう、王様」


「オレイカは可愛いから気にしないでいいの」


「いや、俺はそんな気はさらさらないからな」


 たまたま面子が綺麗どころってだけだ。

 綺麗だから助けないってわけじゃない。


「それでもやっぱり助けて貰ったらありがとうだよ」


 オレイカが笑顔でありがとうと言うそれは、とんでもない破壊力があった。

 なにせ、可愛いから助けるわけじゃないって気持ちが、嘘になるほどに俺の中で頑張ろうと強く思えた。

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