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盗賊の壊滅

 捕らえた盗賊(いわ)く、アジトはアリルドの下にあり、入り方はいくつかあるらしい。

 一番人目につかないのは、なんとルリーラが脱走の際にたどり着いた袋小路だったらしい。


「ここの街が不必要(ふひつよう)に入り組んでいたのは敵が城にたどり着きにくくしてるものだと思っていたけど、本当はこっちだったんだな」


 盗賊たちが出入りしやすく、仲介役の門番やらが盗賊として移動しやすいようにこんなに入り組んでいた。


「それで入口はどこだ?」

「ここです」


 捕らえた盗賊は袋小路の突き当りにある城壁を押し込む。すると地面が動き穴が地下への階段が現れる。


「ルリーラはよく押さなかったな」

「そんな偶然あるわけないでしょ」

「ここまでで勘弁してくれ、もし俺が教えたとバレたら殺されちまう」

「わかった、ただ嘘だとわかればすぐにお前を見つけて俺が殺す」


 俺に気圧された盗賊は慌ててその場を離れていく。


「じゃあ下りるか」


 ルリーラを先頭に階段を下りていく。

 地下独特(どくとく)の湿った冷たい空気、思っていたよりも階段と壁はしっかりしていて歩きやすい。


「これって街の道よりも歩きやすいよね」

「そうだな」


 ここはたぶん運搬などにも使われているのだろう。流石に荷車(にぐるま)は無理だが人が荷物を持ってすれ違うくらいの幅がある。


「ルリーラまだ見えてるか?」

「うんまだ見えてる」

「ルリーラちゃん凄いね」

「まあね」


 見えてはいないが褒められて胸を張っているのが口調でわかる。


「ベルタは身体能力が高いからな、視力や聴力なんかも並みじゃないんだ」

「それって昼は大変じゃないですか?」

「俺も最初はそう思ってたんだけど、目の光を集める部分がこれまた常人よりも優れているらしく平気らしい」


 さぞ誇らしいのだろう、言葉の張り方が違う。どうだと言わんばかりの顔で限界まで胸を張っているだろう。

 そんな鳩胸(はとむね)になるまで胸を張ったルリーラの手を握り先に進む。


「ごめん、もう前が見えない」

「あまりこっちから明かりは使いたくなかったが、このままは危険だなアルシェ頼む」

「承知しました」


 アルシェの手にか細い小さな明かりが生まれそれが少しずつ肥大化していく。

 目が焼けない程度まで育った明かりは、球体にまとまりそれをルリーラに渡す。


「アルシェってやっぱり凄いね。うん、クォルテがやるとパってこの大きさになるから目が痛くなる」

「そうなんですか?」

「そうなんだよね、後でコツを教えてくれ」


 小さな力を操るのは大きすぎる力を扱うのと同程度に難しい。

 それもこちらの目が眩まないように明かりを強くするのは並大抵ではない。流石プリズマと感心してしまう。


「その時は私も見てるから」

「うん、独り占めはしないよ」

「練習の邪魔はするなよ」


 独り占めって、俺の居ないところで何か協定を結んだのだろうか関係がギクシャクされるよりはマシか。


「ここが一番下みたいだよ」


 ライトを持ったルリーラが辺りを照らすと広間にたどり着いた。


「今日は誰もいないのか?」


 ルリーラからライトを貰い辺りを見渡す。三本のルートがあるが先を見ても明かりは何もない。


「仕方ない。水よ、蛇よ、三匹の蛇よ、安全な道を我に教えよ、アクアスネーク」


 水の蛇を呼び全てのルートに向かわせる。

 しばらくすると反応があった。


「どうやら直進でいいらしいな、広い空間がある。他のところは倉庫と寝室っぽいものだな」


 左右のルートには荷物とベッドらしきものが大量に置かれている。それなのに直進した先には大きな広間がある。おそらくそこが作戦会議の場所とみていいだろう。

 そのまま真っすぐ進むと奥の方から明かりが見え始める。


「ライトを消してくれ」


 ふっと一瞬暗くなり暗さになれると奥の明かりがはっきりと見え始めた。


「何人いるかわかるか?」

「二十人いないくらい」


 そのくらいか、確かに森の中にいた盗賊に国に来たばかりの時の盗賊みたいに根無し草(ねなしぐさ)の奴が実行犯と考えれば妥当なところか。


「取り押さえられそうか?」

「一人ずつならいけるけど統率(とうそつ)が取れてたら難しいかな」

「王は居ないよな」

「いない。それは断言できるよ」


 あれほどの存在感なら俺でもわかるしな。

 もし王がいたら出直すところだがい、ないなら俺とアルシェで多少の足止めは出来る二十対一人の戦いにはならない。


「アルシェ、俺が魔法を使ったら即座に煙幕(えんまく)を張れるか? それと大きな魔法はいらないからルリーラが多くの敵を抱えないように援護。俺は逃げながら戦うから俺のことは無視してくれていい」

「かしこまりました」

「ルリーラは俺が合図したら速攻で一人を沈めてくれ、残念ながら一対一の戦闘にはしてやれないけど」

「うん、それくらいなら大丈夫」


 二人とも俺の作戦に反論なく自信満々に頷いてくれる。その強さがありがたい。


「じゃあ行くぞ。水よ、数多の蛇よ、敵を捕らえ我らにその存在を知らせよ、アクアスネーク」


 石の床から湧き出る水が複数の蛇へと姿を変え、静かに敵の元へと向かう。


「行きます」


 それを確認してからアルシェは黒い球を複数魔法で生成し敵の居る広間に飛ばす。

 床に触れた黒い球は弾け中から黒煙(こくえん)が広がる。


「これはなんだ」「敵襲(てきしゅう)か!」「前が見えない」

「位置はわかるな、一人だけの奴を狙え」

「了解」


 床を削りルリーラは目にも止まらない速度で黒煙の中に突っ込んでいく。


「黒煙にまぎれて俺達も移動する」


 続いて黒煙の中に突撃する。


「ぐっ……」


 予定通りルリーラは一人を倒したらしく呻き声(うめきごえ)と共に壁にぶつかる音が聞こえる。


「なんだ、一体どうした!」

「水よ、敵を討つ剣となれ、ウォーターソード」


 近くで多くの敵がまとまっている場所に向かい近くにいた盗賊に切りかかる。


「くっ、切られた、深くはないが敵は複数いるぞ気をつけろ」

「離れるな! なるべくまとまって動け」


 流石はここに集められている盗賊同士だ。やり取りは早く散り散りにはならずまとまろうとしている。

 そうなるよな、それならそれでやりやすい。


「アルシェ、ぶち込め!」

「炎よ、我らが敵を焼き尽くせ、ファイアーボール!」


 呪文とともに黒煙の中でもしっかりと視認できる太陽の様な煌々と燃える火の玉がまとまり始めていた盗賊の群れに向かい放たれる


「やばい魔法が来る、散れ!」


 その対応は普通レベルの魔法ならよけきれた、だが魔法を放ったのはプリズマなのだ速度も威力も違う魔法にその対応は遅すぎる。


「ぐあっー!」


 着弾した魔法は弾け地面を(えぐ)っただろう直撃は避けれても抉られた床の破片が飛び周囲を襲う。


「アルシェ殺さないようにな、おそらくこいつらは衛兵や憲兵たちだ」

「承知しました」


 まとまればアルシェが、散ればルリーラが盗賊たちを襲う。連携の取れた動きに盗賊は一人また一人と倒れている。


「あと一人だな」

「お前が指令役か」


 蛇の知らせる方向とは、反対から聞えた声に咄嗟(とっさ)に反応する。


「中々の手腕(しゅわん)だと褒めてやろう。だが、よくもここまでやらかしてくれたな、英雄気どりか?」


 自分以外が全滅したこの状況で男は冷静に辺りを見回す。

 仲間がやられても問題なさそうに壁に寄り掛かりこちらを見据える。


「風よ、辺りを覆う闇を消しされ、ウィンド」


 濃く張られた黒煙は男の魔法により霧散(むさん)し周りの見通しが良くなった。

 砕けた椅子、割れた酒樽(さかだる)、倒れる盗賊にアルシェとルリーラによって破壊された壁と床、そして位置を教えてくれた蛇は一匹だけ消えないように押さえつけられていた。


「あんたは誰だ?」


 黒い髪に鋭い目、修羅場(しゅらば)を潜ってきたのが見た目で伝わってくる男が姿を見せる。

 蛇を全て水に戻しルリーラとアルシェが側にくる。


「やはりあの時はブラフか」

「あそこにいたのか」


 おそらく玉座に居た連中の一人なのだろう、ルリーラは静かに頷く。

 寄り掛かった壁から離れ、こちらに近づいてくる。


「王の言う通り、お前たちは挑むのだな我らが王に」

「そうだ、悪いか?」


 やはり気づかれていたか、おそらく俺と話をした時に悟ったんだろう。


「勝てるか?」


 ルリーラに聞くと素直に頷く、それなら先手必勝だ。


「はああっ!」


 思い切りよく切りかかる。

 男はナイフで剣を受け流そうとするがこの剣は水の剣。触れた部分は水になりすり抜けると剣になる。

 勝ったと思った瞬間、腹部に強烈な痛みが走る。


「戦闘は甘いな」


 わずかな油断を読み、俺の腹部に男の足が深くめり込む。

 その衝撃に魔力の制御ができずウォーターソードはただの水に戻った。


「ぐはっ」

「クォルテ! このっ!」


 俺が倒れたことに怒りを顕わにするルリーラの攻撃は軽々とあしらわれる。


「炎よ、弾けよ、ボム」


 放たれた魔法は男とルリーラの間で爆発し二人は距離を置く。


「アルシェ、なんで邪魔するの!」

「ルリーラちゃん、落ち着いてクォルテさんは死んでない」

「そうだぞ勝手に俺が死んだみたいにキレやがって」


 状況を分析できる余裕があるくらいのダメージ。まだ離脱(りだつ)にはならない。


「今のでキレるとは若いな。それと早まるな、私は別にお前たちとことを交えるつもりはない」

「ならなんでクォルテを」

「刃を向けられてただ切られろと?」


 至極当然の発言にルリーラも言葉を詰まらせる。


「安心しろ私の負けだ」


 唐突(とうとつ)の敗北宣言に俺は耳を疑う。

 この男の表情からは何も読み取れない。


「これでも戦力差くらい見極められる、無駄な争いはしたくないのだよ王と違ってね」


 ルリーラも倒せると言っていた俺が変に先行した結果こうなったのだと考えれば悪いのは俺か。


「それに私と君たちは戦う理由はないだろう?」

「なるほど、王との戦いに自分は参加しないってことか」


 俺の言葉に男はうなずく。

 その可能性は俺も考えていた、王は強い者と戦いたい、それなのに仲間を連れてというのは考えにくい。


「信じるよ」

「そっちのお嬢さんは不満がありそうだね」

「ある。クォルテを蹴った分返してない」


 獰猛(どうもう)な野獣の様にルリーラは男を睨む。


「なら仕方ない、私は負けるだろうが憂さ晴らしに付き合おう。夜道で狙われるのはごめんだからね」


 そう言って男は戦闘態勢をとる。

 ナイフを両手に構え姿勢を低くする。

 対峙していない俺にまで伝わるほどの強烈な殺気に思わず一歩下がる。


「いつでもいいぞ」


 男の言葉にルリーラは地面を抉り突進する。

 そこらの連中ならこれで沈んだ突撃は男にあっさりと避けられる。


「まるで猪だ」

「うるさい!」


 ルリーラの連撃(れんげき)に男は順応(じゅんのう)し対応しその合間に攻撃まで仕掛ける。

 次元の違う攻防に俺は目が離せないでいた。

 ベルタの猛攻を紙一重で(かわ)す胆力、相手の攻撃を見定める洞察力(どうさつりょく)

 この男の動きは俺の目指す戦い方だと理解した。


「このっ!」


 中々攻撃が届かないルリーラは地面に足を挿し込むと床を蹴り上げ男にぶつけるという暴挙(ぼうきょ)に出た。


「これはちょっと無理かな」


 男は観念し蹴り上げられた床をその身に受ける。

 しかしそこでルリーラの攻撃は止まらない。壁越しに男に向かって本気で蹴った。


「ぐふっ……」


 男はルリーラの渾身(こんしん)の一撃を受けその場に倒れ込んだ。


「すっきりした」


 気を失った男を前にルリーラは勝ち誇った。


「殺してないよな?」

「うん、なんだかんだでクォルテにも手加減してくれてたし」

「それがわかってて喧嘩売ったのか」

「蹴られたのは事実だし」


 ルリーラの力を目の当たりにし、あそこまで善戦した盗賊に素直に感嘆した。

 盗賊全員を捕縛し俺たちは盗賊を全て討伐した。

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