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地の国 ガリクラ

「それじゃあ、お世話になりました」


 見送りのため地上までついてきてくれたヤグマさんに挨拶をし、くたびれていた機械馬の修繕も昨日終わり新品同様の馬車に乗り込む。


「気をつけてな」


 見送りの時まで甲冑を脱がないヤグマさんの言葉に軽く社交辞令を述べる。


「オレイカは結局来てくれなかったね」


「オレイカが昨日言っていたぞ。湿っぽいのは嫌いだから、最後は会わないで行く。だそうだ」


「そうだね」


 ルリーラが少しだけ悲しそうにしたがすぐに笑顔に戻る。


「じゃあ、もう行きますね」


「達者でな」


 俺達が馬車を走らせるとヤグマさんは再び地下に戻っていく。

 結構ハードな国だった。

 いや、ハードだったのは俺とサラだけか。


「こっちの方向でいいんですよね」


「ああ、ヤグマさんから聞いた。このままいけば時期に壁が見えてくるらしい」


 今日の操舵は俺とアルシェの二人だ。

 普通に走れば二日と言っていたし、アルシェの操舵なら今日中には姿は見えてくるだろう。


「兄さん、ちょっといいですか?」


 荷台からミールが顔を覗かせる。

 その顔はどこか不思議そうだ。

 アルシェに操舵を任せ、荷台に入る。


「どうかしたのか?」


 さっと見渡すが何も変わったことはなさそうだ。

 荷物も積みこんでいるし、全員そろっているのは確認している。


「この荷物なんですが、兄さんのですか?」


 指さす先にあるのは大きな荷物。

 確かに見覚えはない。少なくとも俺の持ち物ではない。

 普段使っている麻袋だが、そのサイズに見覚えがない。


「わからないし、開けよう」


 荷物を開けようと近づくと、荷物が急にもぞもぞと袋が動き出した。


「なんだ!?」


 これはグシャの復讐かと身構える。爆発に機械人形、毒と色々な事態に対抗するように考えを巡らせる。

 しかし、それは杞憂だった。


「あれ? 開かない。そんなに強く縛ってないのに!?」


 中に入っているのが誰か理解した。

 そりゃあ見送りには来れないよな。


「ガルベリウスに送り届ける方法はないのか?」


「なんで?」


 しばらくもぞもぞと動いていたが急に動きは止まる。

 そして袋を開けることを諦めたオレイカは、袋を派手に破き跳び出してきた。


「なんで、ついてきたんだ?」


 形がわからないようになぜか詰められていた紙屑を払うオレイカに聞く。


「実験とか試作。話したでしょ? 馬車じゃない物を作るって」


「言ってたな」


 まだ先の段階だと思っていた。

 魔力の供給で馬を走らせる物ではなく、荷台の方を走らせる物。


「その実験と試作。ここなら人が多いし色々な魔法を使える人たちがいるから」


「そうかよ、好きにしろ」


 本当は知っている。

 俺だけじゃなくてみんなも、だからこそみんな何も言わない。

 要は傷心旅行なのだろう。

 あそこにいると、嫌でもゲイルを思い出す。

 だからこそ、俺達といて実験をして気を紛らわせようとしているんだ。


「それじゃあ、急いで地の国を目指そう」


 空元気のままオレイカは操舵席に座り、アルシェから手綱を奪い取る。


「それじゃあ、いっくよ」


 そして急激に魔力が膨らんでいく。


「ちょっとまて」


 止める間もなく大量に注ぎ込まれた機械馬は、急激に速度を上げる。

 その場で置き去りにされそうな速度を出す馬車は、わずかな段差でも大きく跳ね上がる。

 体も荷物も宙に浮きあがり、文字通り飛びながら進んでいく。


「後ろしっかり止めておけ、荷物も人も飛び出すぞ」


「はい」


 この度が始まってから何度目かの機械馬の全力。

 対処法はわかっているのでミールやフィルに指示を飛ばす。

 二人が必死に荷台の後ろの紐をしっかり締め、荷物が跳び出さないようにする中ルリーラとセルクだけは楽しそうにする。


「すっごい」


「いつやっても楽しい」


 子供二人が楽しんでいる中、他は荷物を外に出さないように気をつけていた。


「オレイカ」


「……はい」


 暴走する馬車が泊まったのは、地の国の外壁が見え始めてからだった。

 急ぐ旅でもなく、馬車を大事にしながら進んできた。たまに全力を出したりはしていたが素人なりに修理をし、今回は職人に修理してもらった。

 だが、今回初めて馬車の荷台についている車輪が崩壊した。


「直せるよな?」


「はい、誠心誠意直させていただきます」


 深く頭を下げるオレイカに修理を任せる中、俺達は荷物の確認を始める。

 幸い荷物はどれも外に出ていないが、壊れている可能性はある。

 それほどまでに激しい操舵だった。


「アルシェの時もこうじゃなかった?」


「あの時は精霊が魔力を食ってくれただろ」


 そのおかげで、荷台は無事だった。

 だが、今回はそんなことが起こるはずもなく、車輪が壊れてしまうまで走り続けてしまったのだ。


「王様、直したよ」


「早いな」


 そして、馬車に目を向けると、そこに馬車はなかった。

 合ったのは荷台のみ。布が張られている四角い箱に車輪が四つ。それだけしか残っておらず、機械馬はどこかに消えてしまっていた。


「直せって言ったよな」


「だから、より強固なものにしてみました!」


 無駄にデカい胸が揺れ、妙にムカつく。


「壊れた車軸の部分は鉄で覆ったから多少の衝撃はものともしないよ。ここみたいに荒れた道でも車輪が傷つかないようにゴムを巻いて耐久性を向上。機械馬の代わりにバーをつけたよ、どっちに進むかわかりやすいように二本付けたから、この二本の隙間の方に進むよ。このバーが手綱と同じ役目を果たすから。車輪の前輪部分は――」


「もういいから、黙ろうな」


「まだ全然話したりないよ」


 こいつがここまで馬鹿だったとは思いもしなかった。

 いや今の短時間で作ったんだから十分に天才なんだけど、やっぱり馬鹿だ。


「これで走れるんでしょうか」


「わかんない」


「よし今すぐにシェルノキュリに戻るぞ。この馬鹿を送り返す」


 俺達は何も言わずにオレイカを担ぎ始める。


「待って、大丈夫だから壊れないから」


「じゃあ、地の国までお前が操舵しろよ。くれぐれも安全にな」


「合点承知」


 元気よく操舵席に座るオレイカに、不満を覚えながら荷物を載せる。


「じゃあ行くよ」


 みんなが各々不安のため荷台の柱を掴む中、荷台が進んでいく。

 ゆっくりと進みだし徐々に速度が上がっていく。

 順調な発進、そして何より驚いたのは振動が少ないことだ。馬車だと馬が走り荷台を引っ張る都合上どうしても連結部からの振動がある。それに馬が走る振動がどんなに荷台を頑丈にしても伝わってしまう。


「馬車よりも揺れが少ないですね」


「それは当然だよ」


 ミールの言葉にオレイカが頷く。

 荷台がそのまま操舵席になっているから、こちらの声もはっきりと操舵席に届く。


「車軸には鉄で覆ってバネもつけてるからね。振動はバネがいい感じに分散してくれてるよ」


「なるほどな」


 衝撃が少なければ、故障の可能性は格段に下がる。そして衝撃が無いということは揺れもない。こうして聞くといいことしかない。


「そうなら別にいいんだ。地の国まで頼むな」


「凄いですね、お尻が痛くないです」


「それは確かにな」


 結構速度が出ているにも関わらず、振動が少ないおかげであんまり尻が痛くない。


「快適だから私は寝るね」


 ルリーラが寝るとみんなも一人ずつ夢の中に落ちて行った。

 結構旅は体に応えるらしい。


「オレイカ、馬車の調子は良さそうだな」


「流石私だね」


「そうだな」


 荷台を移動し操舵席に腰を下ろす。


「結構近くまで来たみたいだな」


「入るのは南門からでいいよね」


「ああ、そう言えばそういう場所だっけか」


 地の国ガリクラは、東西南北で様子が変わる。

 その上で三階層に分かれているせいで、覚えるのに苦労した。

 確か南は宿街だったはずだ。


「荷物を置きたいからな、そこでいいぞ」


「王様は全部の国について知ってるの?」


「流石に無理だ。主要国は覚えているけどな」


 ルリーラを連れて行くのに、どの国がどうかわかっていないと何もできないしな。


「じゃあ、地の神様については知ってる?」


「娯楽が好きな女神だろ?」


 遊びが好きで、民衆と遊ぶこともよくある女神だという情報だけは知っている。


「たぶん、ルリーラとセルクには面白い国だと思うよ」


 実際に地の国に行ったことのあるオレイカに、地の国の説明を聞きながら地の国にたどりついた。


 地の国に着くとオレイカが門番と知り合いだからと勝手に外に出て行き門番に話しかけた。


「オレイカさん。お久しぶりです」


「こんにちは」


 知り合いというだけあり、オレイカは門番の男性と少し談笑をしすぐにこちらに戻ってきた。


「このままでいいってさ」


 そう言い自走する荷台を動かすと、驚いた様子の門番に見送られながら街の中を進んでいく。

 街の中はたくさんの人が行き来していた。

 宿街だから待ち行く人たちはラフな服装が多い。


「行きつけの宿屋があるけどそこでいい?」


「宿屋って行きつけがあるのか?」


 そういうのは普通飲食店とかの店じゃないのか?


「設備もいいし私が居れば安くなるよ」


 身内料金なのか、とりあえず安くなるならいいか。と決め案内を頼んだ。

 行きつけというくらいだから何か特別な施設なのかと思ったが、連れていかれたのは二階建ての宿屋だった。

 オレイカがそのまま入っていくと値段交渉も早々に終わりあっという間に宿が取れた。


 そこから気持ちよく眠るみんなを起こし荷物を部屋に運ぶ。

 この宿は本当の家の様に一つの部屋が複数に分かれている。居間にキッチン、そのほかに三つの部屋がある。

 中々良い所だ。

 ここがこの国にいる間の拠点で問題はなさそうだ。


「早速自由行動でいいか?」


「いいの?」


「この街は広いしな、各々好きな場所に行った方がいいだろ」


 全員で宿屋からもらった地図を持ち地の国の探索を開始する。

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