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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
機械の国 シェルノキュリ連合国
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首都グシャ その二

 城の中は見た目同様しっかりとしていた。適度に装飾品が飾られた壁、清掃の行き届いた床、しっかりと手入れされている城内はどこか物寂しい。

 別に人がいないわけじゃない。城内の警備もしっかりしている。それなのにどこか寂しい。

 展示品の中に入り込んだような感覚がする。


「俺達は不審者なのに、誰も話しかけてこないんだな」


「俺がいるから平気だよ、それに門番から話が通っているから」


「凄い早いな、さっきの話だろ?」


「それが売りだからな」


「売り?」


 どこに対しての売りなんだろうか。


「なんか怖いね」


 ルリーラが俺の服を掴みながら体を近づけてくる。


「珍しいなそんな警備が強そうに見えるのか?」


「なんだろう、強そうには見えないんだけど……、なんでかちょっと不気味」


「お姉ちゃんは兄さんと一緒に居すぎて、乱雑な方が落ち着いちゃうんじゃないですか?」


「そうなのかな?」


 不本意な評価を受けたが確かにここ最近はアルシェが片づけてくれるから綺麗なだけで、元々は汚れていることが多かったしな。


「もう王の間につくから静かにしてくれ」


 一際大きな扉の前に着き俺達は声を潜める。


「ゲイル・モルガナ入ります」


「入れ」


 アリルドの血筋ってことは同じく体格がデカいのだろう。

 領主だけでなくその妻もデカいのかもしれない。

 そんな想像をして王の間に足を踏み入れると、そこに居たのはいかにも普通な体型の老年の二人が座っていた。


「君がアリルド国の王だね」


 柔らかい物言いはアリルドと全く違い血のつながりを感じない。

 隣の妃を見ていても同じ雰囲気な辺りを見ると、アリルドが特別で元々はこういう血筋なんだろうな。


「はい、クォルテ・ロックスです」


「私はこのグシャの領主コークスレル・グシャだ」


 こっちを見る目はアリルドと同じだな、心の内を探ろうとする目。


「私は、コークスレルの妻サルメ・グシャです」


 恭しく頭を下げる姿は気品があり美しい。

 コークスレルは銀色の髪を後ろに流し、年相応の王の様な恰好をしている。

 そしてその妻であるサルメは黒い真直ぐな髪をそのままにしてティアラを被っている。


 王様ごっこ。俺はこの二人にそんな印象を受ける。

 理想の王を演じている様に見える。

 この二人はシェルノキュリの王のつもりなのだろう。

 ガルベリウスではなくグシャが王である。そういうつもりなのだろう。


「それで一国の王が何か御用ですか? 何か機械が必要ですかな、それでしたらおすすめは――」


「違います、ちょっとしたお使いですよ」


 話を裂くと一瞬不快そうに顔を歪め笑顔を作る。

 なるほど、感情を隠すのは下手なようだな。


「この手紙を領主様にお届けに参りました」


 懐から一通の手紙を取り出し近くの兵士に渡す。

 無言で受け取った兵士はその手紙を確認もせずに領主に渡す。


「これは、アリルドからですかな」


「ええ、アリルド・グシャから領主様に向けての手紙です」


 緊張が走る顔を一瞬だけ見せそれを手元に置く。


「ありがとうございます。謝礼は何がよろしいでしょうか?」


「いりません。王として家臣の用事くらい対価なしで構いません」


「そうですか、良き王であらせられる」


「それでは用件はそれだけですので」


 立ち上がり背を向ける。

 その一瞬油断したのか見せた顔はこちらを睨みつけていた。

 俺はもうこれ以上はいるだけ無駄だと領主の間を後にした。


「どうだった、いい王だろ?」


「そうだな」


 あれがいい領主なら悪い領主なんてどこにもいないだろう。

 そう思いながら城を出る。


「ゲイルはこれから用事があるのか?」


「ないよ、これから何をしようか考えていたところだ」


 俺の質問にゲイルが答えると、アルシェ達が一斉に話しかける。


「では、これからオレイカさんの部屋に行きませんか? 約束よりも少し早いですがよろしいでしょうか?」


「そうだよ行こう?」


「そうしましょう。善は急げですよ」


 オレイカ本人以外が頷きオレイカは予想外の展開に慌て始めてしまう。


「それは、いいですけど、ゲイルにだって何か用事があるんじゃ……」


「俺は平気だよ、もしよければ行かせてほしいな」


「はぅ……」


 ゲイルの微笑みに何かを打ち抜かれたらしい。


「それにウォルクスハルクで優勝した最強の二人がいるならぜひ行きたいな。二人から話も聞いてみたいしね」


「そういうことだったら、来て」


 顔が地面と水平になった所で少し早いがゲイルがオレイカの部屋に来ることになった。


「久しぶりに来たけど片付いてるんだな」


「まあね」


 外套を脱いだオレイカは恥ずかしそうにそっぽを向く。


「成長しているようで俺は嬉しいよ」


 そう言ってゲイルはオレイカの頭を撫でる。

 嬉しそうに目を細めるオレイカに微笑ましさを感じる。


「これって今作ってる試作品か?」


「そうだよ、人体を強化する用の機械。魔力を流すと力が強くなるんだ」


「なるほどな」


 どうも二人で技術者談義が始まってしまい、俺達はその辺に何となく座る。


「いい雰囲気ですね」


「うん、この感じなら上手くいきそうだね」


「頑張った甲斐がありました」


 特にオレイカを応援していた三人は嬉しそうに仲のよさそうな二人を眺めている。

 そんな中ルリーラだけが首をかしげていた。


「どうかしたか?」


「ゲイルってどこかおかしくない?」


「そうか? いかにも好青年だろ」


 そう言われ改めてゲイルを見る。

 どこからどう見ても好青年にしか見えないけどな。


「それは僕も少しだけ思ってたよ」


「あの人は、少し違うよ」


 不意にセルクがそんなことを口にした。


「パパ達とは違う」


「どう違うんだ?」


「すぅすぅ」


 寝言ではないよな? あんなにはっきりと言っていた元闇の神だし俺達には見えていない何かが見えているのかもしれない。

 でも今は普通の少女だしな。

 セルクの発言について考えているとオレイカがこっちに寄ってきた。


「どうしたんですか? ゲイルさんともっとお話ししていても大丈夫ですよ?」


「そうなんだけど、そろそろ告白しようと思って」


 乙女らしく恥じらいながらそう告げる姿に何とも言えない感情が沸き上がる。


「いいと思います!」


 アルシェの叫びにみんながつられ声を合わせオレイカの背中を押す。


「ルリーラは混ざらないのか?」


 恋愛に興味がないセルクとサラが残るのはしょうがないがルリーラまで動かないのは意外だった。


「ゲイルって目が怖いんだよね」


 そんなことを突然口にした、盛り上がっている他の三人には届いていない言葉。

 水を差さないように俺はルリーラを外に連れ出した。


「セルクも行く」


 俺達がどこかに遊びに行くと思っているのかセルクも一緒についてきた。

 眠そうにするセルクを抱きながら工房を出ると一人納得しているルリーラは改めて口にする。


「ゲイルの目が怖いんだよ」


「目?」


 改めて思い出すがゲイルの目は輝いていたような気がする。


「そうだったか?」


「うん、光が無いって言うかガラス玉みたいな無機質な目だよ」


「セルクはどう思う?」


「セルクもママと同じ」


 二人が同じく感じているのか、ルリーラはともかく一人はセルクだからただ乗っかっただけかもしれないけど……。

 そうなると少し考えてしまうのは確かだ。

 確かにいけ好かないほどに顔が整っているが、それでも違和感があるほどではないよな。


 そんな思考の最中に工房の扉が開いた。

 扉の奥から出てきたのはゲイルだった。

 整った顔に笑みを浮かべるその瞳に俺は背筋が凍った。

 気づかなかったことに我ながら驚く。


「俺はもう帰るよ」


 そう告げる目は輝いていた。

 そしてその輝きを俺は知っている。

 魔力の輝きが目に宿っていた。その輝きが人間の様に見えていた。


「おう……」


 その光はルリーラに見えていない。というよりベルタであるルリーラには見ることができない。

 だからこそルリーラは気が付いたのか。


 今の事に気を取られたがゲイルが突然出て行った工房からは、オレイカが泣いている声が聞こえた。

 工房に戻ると声を押し殺して崩れ落ちるようにオレイカが泣いていた。


「何かあったのか?」


 素知らぬふりをして聞いてしまう。


「クォルテさんちょっと」


 アルシェが乱暴に俺の腕をつかみ再び工房の外に出る。


「実は振られたんですよオレイカさん」


「それは何となくわかる」


 あそこまで泣いているのに成功したとは思えない。

 そうなるとやはり気になるのはゲイルの表情か、断っておいてあの表情なのか。


「告白を断ってそのまま出て行かれました……」


 陰鬱そうにアルシェは告げる。

 大丈夫だと言い続けていたのが無責任だと思っているのだろう。

 それを聞いて俺は頭を掻くしかなかった。


 慰め続けたオレイカは、ようやく泣き止みそのまま眠りについた。


「あいつ顔がいいからって何様なのさ!」


 ミールが憤慨した様子でテーブルを叩く。


「本当になんなの!」


 フィルまでもが怒りを顕わにしている。

 そんな二人を眺めながら俺も同じ席に座っている。


「兄さんもそう思いますよね!?」


「ご主人もそう思うよね!!」


「二人に聞きたいんだが、ゲイルはどこかおかしくないか?」


 俺の言葉に二人は顔を見合わせて叫ぶ。


「「全部!!」」


 駄目だな、こいつらは完全に周りが見えていない。

 きっとゲイルの不思議な部分に何も気が付いていないのだろう。


「あんまり遅くまで起きてるなよ」


「兄さんも愚痴に付き合ってよ」


「そうだよご主人」


「俺は眠い」


 俺にまとわりつく二人を引きはがして俺はベッドに倒れ込む。

 魔力の宿る目、色のない街、この国来てからのことを色々と考えてしまう。

 機械だらけの国であの姿、あいつってもしかして……、いや、そんなのありえないだろ?

 だけどここはそういう……、く、に……。


 思考がまとまらないまま俺は眠りに落ちていく。

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