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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
機械の国 シェルノキュリ連合国
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首都グシャ その一

 工房の片づけが完了した後、改めてオレイカは俺達に機械づくりを見せてくれる。


「……」


 真剣な面持ちで鉄に魔力を流し込み造形を作っていく。

 地の魔法は土や金属を加工できるため鍛冶のように炉を使っての加工は行わない。

 作成の前に話を聞いた限りだと炉を使わないだけで数種類の鉄を使い硬さや付与できる魔力量などを調整しているらしい。


「凄いですね」


 製作を見たいと言っていたミールが、じっとオレイカの姿を見つめながら言葉を漏らす。


「ああ、目が離せないというか見入ってしまうな」


 魔力の淡い黄色い光に硬さを感じさせない作成。この作業工程が芸術の様で目が釘付けになってしまう。

 鉄でも土でも同様に粘土の様に造形を作り性質が違うはずの金属同士が元から一つであったように混ざり合う。

 オレイカには何が見えているのか形を見ては修正し、たまに槌で作品を叩き音を確認する。

 その音が気に入らなければさらに他の金属を混ぜ再確認。

 作っているのは機械人形の腕のようだ。


「これが機械作りなんですね」


 腕の形をした鉄を眺め満足したのか一度作業台に置き大きく息を吐く。


「とりあえず試作品完成」


「何ができたんですか?」


「人間用の腕かな」


「人間用?」


 機械人形の腕じゃないのか?


「アルシェ、これに手を入れて奥に掴むための棒があるからそれを掴んで魔力を流す。そして指を動かしてみて」


「わかりました」


 アルシェは言われるがまま手を入れると魔力を流す。

 すると機械の腕とは思えないほど滑らかに指が動き出す。


「凄いです思った通りに動きます」


「魔力量が増えれば殴る物理攻撃も強くなるよ。特別にプレゼント」


「ありがとうございます」


「こっちの感謝の気持ちだから気にしないで」


 そう言いながら一度試作品をアルシェから受け取り作業台に置く。

 まだ納得ができていないのだろう。


「それでゲイルをどうやって篭絡するの?」


「――――っ!!」


 ルリーラの不意打ちの一言にオレイカの顔が真っ赤に染まり、槌を作業台に勢いよくたたきつけた。


「ルリーラいきなりすぎるだろ」


 どうやら叩く際にも魔力を流しているらしく、槌の当たった作業台があり得ない歪み方をしてしまう

 あわあわとしながら作業台を基の形に成形を始める。


「でも来るのは明日だよ」


「ルリーラちゃん、今気持ちを一旦落ち着けるために機械を作っていたんだよ」


「そう! そうなんだよ! 決して問題を先送りにするために作業に没頭していたわけじゃないよ!!」


 盛大に自爆していた。

 慌てるオレイカの動きはこう言っては何だが可愛らしい。

 異形と言える耳と尻尾も本人の慌て具合にパタパタと動き顔が真っ赤に染まり天才の面影が無くなるほどにただの少女だった。


「でもお姉ちゃんの言う通りですね。早めにある程度あの男性の心を射止める作戦を考えましょうか」


「はい……」


 慌てていた姿が急にしゅんと大人しくなる姿は、犬の耳と尻尾が合わさり本物の動物の様な愛らしさになっていた。


「ゲイルさんとオレイカってどんな関係なの?」


「関係?」


 未だに頬が真っ赤に染まったオレイカは首を傾ける。


「幼馴染とか仕事仲間とか、さっきのを見る限り仲は悪くないとは思うけど」


 それなりに仲が良さそうに見えたしあながち一歩踏み出すことができれば恋愛は成就しそうではあったな。

 オレイカも可愛いしゲイルもかっこよかったし美男美女の恋人になれる気がする。


「幼馴染かな、小さい時からよく遊んでたから」


 その時を思い出しているのか頬が緩み幸せそうな表情を浮かべる。

 昔を思い出してそう言う顔ができるのが素直に羨ましいと思った。


「昔は一緒に機械を作ったりしてたんだよ、その時からちょくちょくぶつかったりしたけど楽しかった」


 こちらが幸せになれるほどに愛くるしく笑うオレイカに、なるほどこれは確かに恋する乙女と呼べるだろう。

 口には出さないがこんな可愛いのならそのまま告白したらゲイルも二つ返事で答えてくれる気がする。


「でも、家のことがあるからな」


 急に落ち込んでしまうオレイカに俺達は首をかしげる。


「ガルベリウスとグシャの話をしたでしょ?」


「確か戦いと生活の機械を作る関係で水と油だって言ってたな」


「うん、ゲイルはグシャの人間なんだ」


 なるほど、今一つ踏み込めない理由はそこか。

 二つの派閥の出身の色恋沙汰はいつも悲恋なものだ、ゲイルの家がどの程度か知らないがオレイカはこの街の領主の子孫だ。

 そのオレイカと付き合ったゲイルの身が危険ということか。


「難しい問題だな」


「うん」


 これがせめてオレイカが領主の子供ではなく一般の子供ならまだなんとかなっただろうし、

 逆にゲイルがグシャの領主の子供であるなら国の懸け橋となるためもありえただろうがどちらも違っている。


「オレイカは、どうしたいの?」


「あたしは……」


「結婚したいの? それとも今の関係を続けたいの?」


 ルリーラがオレイカに詰め寄る。

 その気迫にオレイカは体を引いてしまう。


「そうだね、ルリーラちゃんの言う通りです。どうしたいのか決めてくださいオレイカさん」


 ルリーラに続きアルシェまでじっとオレイカを見つめる。


「私は結婚したい、小さいころから好きだったゲイルとずっと一緒に居たい」


「なら決まってるよ、駆け落ちだ!」


 ルリーラの宣言にアルシェだけが首を縦に振り納得している。

 オレイカも俺達も開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けた。


「明日ゲイルに告白してそのまま逃げよう。今私達が乗っている馬車なら乗れるしそのまま国外に逃走して離れた地で二人は仲良く暮らして万事解決!」


「私もそれがいいと思います」


 なぜかアルシェも賛同してしまった。


「でも、私はこの国の領主の娘だ、そんな勝手が――」


「私ならそうする。一緒に居たい人と離れ離れになるくらいなら全部捨ててでも一緒に行く」


 一度ルリーラはこっちを見てからそう宣言する。


「私もです、全てを捨ててもたとえ王位であっても惜しくないと私は思います」


 アルシェまでそんなことを言い始める。

 そんな二人を見て他の仲間達も俺を見て頷く。


「私達の意見はお姉ちゃんと一緒です」


「そうだね、それ以外にないと思うよ」


 他の人達の賛同にオレイカは困惑してしまう。


「そうだね、私はガルベリウスだけどオレイカだもん、私の好きにしてもいいんだよ!」


 オレイカも熱に当てられたのか駆け落ちで話が決まってしまった。

 不安しかないがひとまずそのまま話が終了してしまった。


 翌日なぜか俺達はグシャの街に居た。

 俺達はいつも通りの恰好をしているが俺達と一緒に居るオレイカは、特徴的な耳と尻尾をフードで隠している。


「無理についてこなくてもよかったんだぞ?」


「どうせ今日で最後だし、折角だからグシャの街も見てみたいんだ」


 目深に被るフードの奥には見定めるように青い目が光る。


「俺は正直ガルベリウスの方がいい気がした」


「私もかな、なんかここって無機質なんだよね」


「無機質?」


「俺もそんな印象だ」


 味がないと言えばいいんだろうか、確かに活気はあるし機械のおかげで便利で何一つ不自由しない理想の国と言っても差しさわり無いと思う。

 でも色がない、アリルドやヴォール、果てはミスクワルテにでさえ色があった。

 それなのにここには何もない無色と言うか無味というかとにかく何もない。


「要領を得ないな」


「体験すればわかるよ」


 この街に触れればきっと俺達の言いたいことがわかるはずだ。


「とりあえずグシャの城に向かうんでしょ」


「まあ、アリルドから手紙を預かってるしな」


 直筆の手紙を手に取る。

 アリルドが何をしたためたのかは知らないが、何かしらの用事があるんだろう。君主としてはそのくらいはしてやりたい。


 そんな話をしていると予想外なところでゲイルに出会った。


「全員そろってどうしたんだ?」


 爽やかな笑顔をこちらに向け話しかけてくる。

 ありえない爽やかさに多少同性としてムカつくレベルだ。


「オレイカが一緒なんて珍しいな」


 周りに聞こえないようにそっと耳打ちをする様に俺のムカつきが高まる。

 男とはこのくらいじゃないと駄目だと言われているような気がして居ても立っても居られなくなってしまう。


「今日は、その、王様たちをグシャに連れて行くんだ」


 フードをさらに深く被り顔を隠しているが真っ赤に染まっているのは伝わってくる。


「そうなのか、折角だから俺も一緒に行こうか?」


「いいのか?」


「もちろんだ、俺の住んでる街だし初見で城に入るのは難しいだろ?」


「そうだな助かる」


 確かアリルドはガルベリウスと仲が良かったはずだし下手をしたら門前払いもあり得ないことじゃない。


「なら行こうぜ」


 爽やかな笑顔で俺達の先頭を歩く。

 俺達に何の気なく話続け退屈にならないようにしている。


「これがグシャの城だ」


「……」


 言葉が出なかった。

 なんと言うか、普通だった。

 可もなく不可もなくだった、ガルベリウスの城と外見は同じ、それどころか工房がない分だけこっちの方が静かで奇麗だ。

 それなのになぜかガルベリウスの方が良かったと思うのはなぜだろう。


「門番の人に理由を伝えてくるよ」


 そう言ってゲイルは門番の元に向かう。


「どうだ?」


「私はこっちの街が好きですね」


 ミールはこっちの空気が好きのようだ。


「理路整然としているところがいいと思いますよ」


「なるほどな」


 確かに整いすぎているということが違和感の原因だろう。ミールの部屋はいつも整っていた気がするしこっちの方がいいのかもしれない。

 俺にしてみれば人がいる所には雑味があって欲しいんだが、こういうのがいいという人は確かにいるらしい。


「許可取れたぞ、行こう」


 ゲイルが戻ってきたのでその後をついて城の中に入ることになった。

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