首都 ガルベリウス その三
「凄いなこれは……」
オレイカの工房の扉が開き俺の口から言葉が零れ落ちる。
他のみんなも同じらしく驚きの余りに呆然としている。
もちろんそれは中にもの凄い作品があるとか、部屋が奇抜だというわけではない。
工房が理路整然としているはずはないと思ってはいたが、試作品や失敗作などが転がっているのは当然だと思っていたがここまでは想像していなかった。
もはや材料なのか試作品なのか失敗作なのかはたまた完成品なのか、よくわからない鉄の山が部屋の至る所に出来上がっている。
しかしまだこのくらいなら工房だから仕方ないよなと納得もできていたかもしれない。
残念ながらそれらだけではなく生活感の溢れる食べ終わった食器類に脱ぎ散らかした衣類などが鉄の山に混ざっている。
要は足の踏み場が無くなるほどに汚いということだ。
「この惨状を何とかしたいので手伝ってください」
オレイカが深く頭を下げるが俺にはどうしていいのかわからない。
「任せてください! 家事ができる奴隷の底力見せてあげましょう」
「重い物は私が運ぶから」
「洗物なら私に任せてくださいどんな汚れでも綺麗にしてあげます」
三人は力強くこの自堕落が生んだ魔境へと足を踏み入れる。
「みんなありがとう」
とても感動している様子のオレイカは瞳をうるうると涙を浮かべていた。
とても感動的だ、うん……、正直ついていけないけど……。
「パパこれから何するの?」
「この部屋を綺麗にするのかな」
「セルクもお手伝いするね」
「邪魔しちゃいけないからパパ達とお散歩に行こうか」
魔境に踏み込もうとする元闇の神を連れ、俺達四人は工房の外に出ることにした。
「下着とそれ以外は分けてください汚れの種類が違うので」
「この機械は捨てていいの?」
「うん、捨てていいよ」
「オレイカさん着ているものを脱いでくださいそれも汚れているので」
「へ? 裸になるの?」
「クォルテさんもいなくなりましたので」
「でも」
「いいから脱ぐ」
「いやああ!」
「このスタイルならゲイルさんにアプローチもできますね」
なんと言うか俺が聞いてはいけない内容な気がする。
「クォルテ顔が赤い」
「自覚してる」
なんか妙に生々しくて恥ずかしさがこみあげてくる。
「さっさと行こうぜ」
セルクの手を引きながら街に戻る。
散歩と言いながらもどこに行くべきかを悩んでしまう。
なにせ事前の知識が一切ない状況での観光は初めてだ。
「まず何か食べない?」
「そうだな、食事処についたら店員に何か聞いてみよう。セルクは何が食べたい?」
「お肉!」
「わかった、じゃあ肉屋を探そう」
しかし店を探しは難航してしまう。
見慣れない街並みに知り合いもいない。まして機械の国には工房や工具屋はあっても飯屋が少ない。
その辺の人に聞いても「食事処? 材料はそこの店にあるから好きに作ればいいだろ」「飯は自分で作るもんだ」「店なんてこっちにはないぞ」と衝撃的な事実を聞いて俺達は落胆した。
店がないのか? 材料はあるのに?
そう言えばオレイカの部屋にも出前って感じの物は落ちてなかったな。
「旦那様、こっちには無いですと言われてしまった」
「そうなるよなやっぱり」
「どうしたの?」
「食事処があるのは、こっちじゃなくてもう一つの街にあるんだよ」
こっちには、つまりガルベリウスにはないがグシャにはあると言っているのだろう。
「行ったらダメなの?」
「それがわからないから悩んでるんだよ」
水と油と評していたことを考えるとあまり街の行き来は簡単ではない気がするんだよな。
一度出たら戻れないとか言われないかが心配だ。そうなった場合連絡も取れなくなってしまう。
「ダメもとで行ってみるか」
俺達は階段を上り分かれ道を反対方向に進む。
検閲などがされているわけでもなく拍子抜けするほどのあっさりと反対の街首都グシャにたどり着いてしまった。
「ただの住んでる者同士の諍いらしいな」
「パパお腹空いた、お肉食べたい」
「今度はすぐに見つかるって」
そしてその予想通りに近くの女性に話を聞くと、簡単に肉料理を出してくれる店を教えてくれた。
そこで十分に腹を満たし店を出る。
「可もなく不可もなくでした」
「アルシェの料理の方がおいしい」
「アルシェママの方がいい」
「アルシェは俺達の好きな味を知ってるからな」
味がそこそこの店を後にして折角だからとグシャの方も探索することにした。
ガルベリウスとは違い落ち着いている気がする。
もちろん工房とかから音は漏れてくるし言い合いも聞こえるのにどこか落ち着いている。
宿命と思い機械を作るガルベリウスと、仕事として割り切っているグシャの違いだろうか。
どこか平穏さが見て取れる街の中、研究に没頭していた俺だからかこっちよりもガルベリウスのほうがいいな。
「どうだどこか見たいか?」
「別に見たくないかな」
「僕も大して興味ない」
「セルク眠いの……」
誰も見学をしようとしないため、俺達はセルクを背負いながら元来た道を戻る。
どうも俺達にはこういう雰囲気の街は合わないみたいだな。
あくまで最初の印象だけだけど。
「一旦オレイカの所まで戻るか」
「そうだね」
「片付いているでしょうか」
「あの惨状じゃな」
あの散らかりようは流石に酷すぎる。
正直片付いているとは思えないよな。
そう思いながら工房に向かった。
「ご主人おかえり」
工房の前で鉄の塊を抱えるフィルと出会った。
前が見えないほどに担ぎ上げているのになぜ俺だとわかったのか疑問を覚えるがそんなことはどうでも良かった。
「手伝おうか?」
「じゃあ、そこの扉開けてくれる?」
言われるままに扉を開けるとすぐに落とし穴の様な物が部屋の中にあった。
地面から大きな呻き声の様な風の音が聞こえてくる。
「この穴って一体なんだ?」
「その前にちょっと退いてくれる?」
「そうだったな」
どうするのかはわかりはするがこの穴が何なのかはわからない。
予想通り大量の鉄の塊はその穴に放り投げられる。
「ふぅ」
放り投げたフィルの姿はおおよそ乙女とは呼べないほどにワイルドな姿だった。
上半身を覆うのは腕を出しているシャツだけ、そのシャツも汗を吸い込み地肌や下着の色が浮き出ている。
そんな服装で一度汗を手で拭いながら再び工房に向かうフィルに声をかける。
「この穴って何なんだよ」
「鉄を再利用するための施設らしいよ、確か下にスクラップ工場ってのがあるんだって」
「なるほど」
再利用の施設があるのか、そうかそれを使って不要になった鉄をまた加工前の鉄と同じようにするつもりなのか。
「それで工房は片付いたのか?」
「大方は片付いたよ、鉄の塊だけはあたしが運ばないといけないから時間がかかってるけど」
そうか、色素の薄い二人と研究者のミールだと力仕事はまず無理だし仕方ないか。
「それなら私が手伝ってあげるよ」
ルリーラが手を挙げているうちに工房の前にたどり着くが、フィルの姿と先ほど出て行くときの会話を思い出す。
「中のみんな一応は服着てるよな?」
「みんなこの格好」
それはそれで俺の目のやり場も困るな。
「俺はここで待ってるよ」
「ご主人もしかしてみんなこの格好って聞いてドキドキしてるの?」
フィルがそれに気づいてわざとらしく胸を強調しながら俺に近づいてくる。
「それもあるがフィル達だけならそんなに気にしないさ、家族だしな」
「そういうことね」
得心がいったと離れるフィルは少しだけ考える。
「じゃあちょっと待っててね、オレイカに服着せるから」
そのまま中に入っていく。
「オレイカのは照れるの?」
少しだけルリーラは不機嫌そうにこちらを睨む。
「オレイカの気持ちを慮ってるんだよ。好きな男以外にああいう姿は見られたくないだろ?」
「うん、そうだね」
ルリーラもそう言っていたこともあるし、納得してくれているようですんなりと離れてくれた。
「ご主人もういいよ」
そう言われ扉を開けると中は想像以上に片付いていた。
鉄の山はほぼ片付き、食器や衣類も綺麗にまとめられている。
まだ少し埃っぽいが最初の時よりも部屋が広く感じられる。
「クォルテさんよかったです、これからは人手が一人でも欲しかったんですよ」
フィル同様にシャツ一枚のアルシェの破壊力は相変わらずすさまじい。
長い髪を後ろで結び色素の薄い肌は熱気のせいかほんのりと桜色に染まり、下着をつけているにも関わらずむしろいつもよりも色っぽく見える。
必要以上に大きな純白の丘は汗を吸ったシャツにより綺麗に浮き出て、裸よりも体のラインが浮き彫りになりいつもより淫靡さを増している。
「兄さん、アルシェ先輩を見すぎだと思います」
ミールはミールでいけないものを見ている気がする。
張り付き透けているシャツからは旅のせいでできた日焼け跡が幼さを強調している。
見えている部分は小麦色でいつも隠れている部分は火に焼けていないため白い。
その二色が見てはいけないものを見ていると錯覚してしまう。
「クォルテ手伝ってくれてありがとう」
オレイカを見て少し安心する。
流石はフィルで、暗めのシャツを上に来ているおかげでスタイルがいいのはわかるがアルシェやフィルの様な淫らな印象は受けない。
「どうせやることもないし、案内してくれる人もいないしな」
「これが終わったらまた案内してあげる」
「それよりも何か作ってみてくれよ、作業工程を見てみたい」
「私も見たい」
俺の言葉にルリーラが声を被せると他のみんなも手を挙げる。
「わかったよ、簡単な奴だけど作ってあげる」
そうと決まれば急いで作らないといけないな」
俺達は気合いを入れて片づけを開始した。
それから一時間ほどで片づけは完了した。




