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盗賊退治?

「えー、昨日は色々ありましたが今日は盗賊退治をしたいと思います」


 昨日、ルリーラが目を覚ました後に、宿に戻りルリーラとアルシェはお互いに謝りあい続けた。

 謝れるのは良いことだと思う。だと思うが……。


「…………」

「………………」

「はあー……」


 二人の関係は非常にギクシャクしていた。

 お互いの気持ちを知り、お互いが負い目を感じお互いが遠慮(えんりょ)し合う。

 俺の気持ちもあの後ルリーラに告げたのは悪手だったと今は思う、何故ならその結果がこれである。

 今日から部屋を二人用の小部屋から四人用の大部屋に変えたが空気の悪さからとても窮屈(きゅうくつ)に感じてしまう。


「街に来ている情報だと、大体この辺りで賊が出ているらしい」


 この国周辺の地図を広げるが、二人ともなぜか近寄らず遠目で地図を眺めるだけで終わってしまう。


「ルリーラちょっと」


 そう手を伸ばすとルリーラが超人的な反射神経で避ける。

 今まで避けられることがなかったせいか避けられた事実に大きなダメージを受ける。


「あっ、ご、ごめん、あの、その、嫌なわけじゃ……」


 予想以上にあわあわし始めたルリーラは頬を染める。


「ごめんなさーい!」


 頬を赤くしたまま大声で謝りながら驚きの速度で再び窓から飛び出して行った。


「窓から外に出るなー!」


 ベルタの異常なまでの身体能力を惜しみなく利用して、街の中に消えて行ってしまった。


「アルシェ」

「は、はい」


 こっちも妙に意識してしまっているらしく、体が角ばっている錯覚までしてしまう。


「もしかして昨日ルリーラに俺が可愛いとか言ったのを言ったか?」

「えーっと……」


 この反応は言ったらしい。それでルリーラが変に意識しちゃってるのか。ルリーラの年齢を考えれば仕方ないことだとは思うけど。

 このままはちょっと不味いな、アリルド王を倒すどころの話じゃなくなったな……。

 俺には頭を抱えることしかできなかった。




 時間が経ち落ち着いたのかルリーラはようやく帰ってきた。


「どこ行ってたんだよ」

「盗賊退治してた」

「なんでそうなった!」


 落ち込んでるのかと思いきや、まさかの盗賊退治を一人でやっていた。


「クォルテに迷惑かけたからごめんなさいの代わりに……」

「そういうことか……」


 逃げたことに後悔して謝罪(しゃざい)の印に盗賊退治。

 盗賊を倒してくるとか謝罪の仕方が独特過ぎるな。


「盗賊を退治するって言ってたから」

「別に怒ってるわけじゃないからそんな顔すんな」


 余計なことをしてしまったと思ったのか服の(すそ)を強く握り俯いてしまう。

 そんなルリーラの頭を俺は撫でる。


「よくやった」

「うん……」


 土や埃やらが混じりいつもよりもごわごわした髪、服には戦闘した後がうかがえた。


「よしじゃあ風呂入ってこい。俺が髪を拭いてやる」


「大変厚かましいのですが私もお願いしていいでしょうか」


 おずおずとアルシェも手を上げる。そのことにルリーラが怒らないところを見ると二人の中で何かやり取りはあったのだろう。


「わかったよ二人とも一緒に行ってこい。戻ったら二人とも髪を拭いてやる」


 その言葉で急に元気になった二人は競争するように脱衣所に駆け込んだ。


「これで元通りになってくれればいいんだけどな」

「ルリーラちゃん、私が髪洗ってあげるね。だから、その、私の髪を洗ってほしいな」

「うん」


 浴室から聞こえる会話はまだぎこちないが、二人とも仲良くなろうと歩み寄っている。

 ようやく大部屋らしい空気を感じることができた。




 その翌日いまだにぎこちなさは残ってはいるが昨日よりはましな空気が流れていた。


「二人とも今日は三人で盗賊退治をするからな」


 正直無理に王のそばにいた連中を探しあてる必要はないのだが、現状だと勝てないと思っていた。

 ベルタにプリズマという規格外の存在がいても、チームワークが無ければ脆い。

 身体能力と魔法の極致と言えば聞こえはいいがベルタは魔法が一切使えず、プリズマは身体能力は壊滅的だ。

 だからこそ格下の盗賊を倒しながらチームワークを強化しようと決めた。


「ルリーラは昨日どこで退治したんだ?」

「昨日クォルテが言ってた場所」

「だとすると今日はここだな」


 反対側で目撃情報が多い場所に目的地を決め出発する。


「歩きながら改めて説明するぞ」


 二人が頷いたのを確認して説明を始める。


「アリルド王と対峙するときはルリーラが前衛(ぜんえい)中衛(ちゅうえい)が俺、そしてアルシェが後衛(こうえい)だ」


 一般的によくある隊列ではあるが、ベルタとプリズマがいる時点でこの陣形以外は意味をなさない。

 あえて変えるなら俺が前衛に移動するか後衛に移動するか程度でしかない。


「アルシェは身体強化の魔法は使えるか?」

「一応は使えます。あまり得意ではありませんが」

「わかった、じゃあ無詠唱の魔法で敵を目くらまししながらたまに強い詠唱の呪文を頼む。それでルリーラはいつも通りにやってくれ」

「私はそれだけ?」


 自分には何もないのかとやや落ち込むルリーラの頭に手を乗せる。


「ルリーラは変に行動を決めるより自由な方がいいんだよ」

「うん、わかった」


 この時はこう、別な時はこう、と決めてしまうとルリーラはそっちに意識がいってしまい動きが硬くなることがある。

 それよりも自由にやらせた方が圧倒的にいい。


「ルリーラを避けながらこっちで魔法を打つからアルシェもそのつもりでいろよ」

「承知しました」


 基本的な戦闘方針を伝え被害が多発している辺りに向かう。

 アリルドの街から北西にある草原、そこには盗賊にはおあつらえ向きな森がある。

 他の国の国境付近ということもありあえて放置されているのだという。


「アルシェの魔法で森を焼いたら盗賊退治できない?」

「ルリーラちゃんそれはダメ。仮にも隣国からの侵入を防ぐ役目もあるんだから」

「そういうことだ」


 もちろんそれは俺も考えたただやはり倫理的に問題があるだろうと諦めた。


「今回はルリーラが先陣を切ってくれ。戦闘は全力で移動は俺達に合わせてくれ」


 ルリーラを先頭に森に入る。

 鬱蒼(うっそう)と茂る森は太陽を隠し、至る所を陰で隠し見通しが良くない。

 わざとらしく罠の存在を知らせる様な葉の置き方、人が隠れられるように設置されている小さな木。

 ここは間違いなく盗賊のアジトの一つだろう。


「誰かの気配はするか?」

「するけど森がうるさくてどこにいるかがわからない」

「アルシェ検知の魔法は使えるか?」

「はい。炎よ、隠れている存在を暴け、サーチ」


 一瞬だけ魔力の発動を感じた。今の一瞬で検知は出来ているらしい。


「今視覚化します。炎よ、我の知識よ、我の記憶よ、暴いた存在を映し出せ、レーダー」


 呪文を唱えたのちにアルシェの手には地図の一部を切り取ったような四角い物体が現れる。


「レーダーまで使えるんだな」

「クォルテは出来ないの?」

「無理だよこんな出鱈目な魔法」


 解除するまで一定間隔で延々とサーチを発動そのサーチを常時視覚化する。

 プリズマかホワイトレベルの魔力量と制御ができて初めてできる最高難度な魔法だ。


「これ借りるね、近くにいるみたいだから」

「気をつけて」

「待てルリーラ、水よ、蛇よ、彼の者の位置を知らせよ、アクアスネーク」


 地面から湧き出た水は蛇の形に変わりルリーラにくっつく。

 サーチほど周囲の情報は得られないが、確実に位置を教えてくれる。


「行ってきます」


 地面に深く足跡残し一気に飛び出す。

 ルリーラの進んだ道はわかりやすく木を倒し森の形を変えながら突き進みわずかに盗賊の声が聞こえた。


「ルリーラちゃんが盗賊を倒しました」

「ただいま。これ凄い便利だった。隠れてもすぐに見つけられるから」


 どさっと盗賊の一人を手から離し初めて見るレーダーに感激していた。

 俺も改めて確認するが、さっきまでいた他の盗賊は野獣が出たと思ったのか遠くに離れて行った。


「死んでないよな?」

「流石に殺さないよ」


 落とされても全く気付くことのない盗賊を不憫に思いながらも起きて貰わないことにはどうしようもない。


「仕方ないな」


 無詠唱で形を持たない水を操り盗賊の顔にぶつける。


「げほっ、なんだ今のは!」

「おはよう起きたところ悪いけどあんたらの根城はどこだ?」

「誰だ! おま……え……?」


 俺の顔を見て威勢がよかった盗賊の顔はルリーラを見た瞬間動きが鈍くなる。


「顔を見ていたなら話は早いな同じ目に遭いたくなければアジトを吐きな」


 現状をどうしようもないと判断した盗賊は驚くほど素直にアジトの場所を吐いた。


「他の盗賊はどうするの?」

「こいつが吐いたから放っておこうこいつらも街の人間は襲わないだろうしな」


 遠くに逃げたようだし無駄に動き回る必要はないだろう。

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