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生まれた国を滅ぼした俺は奴隷少女と旅に出ることを決めました。  作者: 柚木
機械の国 シェルノキュリ連合国
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ミールとサラの決闘

「もうここまで来れば平気だ、速度を落とせ!」


「はい!」


 アルシェが魔力の供給を緩めると、逃げるために速度を出していた馬車は急激に速度を落とし、後ろに居た俺達は操舵席との接続部に纏めて押し付けられてしまう。


「何があったの?」


 さっきの騒ぎでも起きることのなかった、セルクが目を覚ます衝撃。

 俺は誰かの体で視界を奪われたまま立ち上がろうと手をつく。


「やっ……」


 聞きなれない艶のある声。

 俺の手は柔らかい中にしっかりとした硬さがある何かを掴んでいた。


「旦那様、私にはまだ心の準備ができていません」


 一番不味い人物のどこかに触ってしまったらしい……。

 嬉しいが嫌な状況に冷や汗が流れる。


「セルクちゃん、避けてくれる?」


「うん」


 俺の視界を遮っていたと思われるフィルが退いたが、視界は回復せず人がいるくらいしかわからない。

 そして二つの人影が重なる。


「ご主人、あんまりその体勢はセルクちゃんによくないと思うよ」


「どうなってるんだ俺」


 話すために呼吸をすると爽やかな匂いと女の匂いで肺が満たされる。


「旦那様流石に退いていただけますか? 体勢が結構きついです」


「えっと兄さん、どういう状況ですか?」


 触れてはいけない相手に触れ、見られてはいけない相手に見られてしまった。


「なんで兄さんがサレッドクインさんの胸を揉んで足で攻撃されているんでしょうか」


 大丈夫、一度自分の状況を確認しよう。

 俺の足は見慣れた天井に向いており、手はサラの胸元に置かれ荷物とサラの間に挟まれ身動きが取れず、顔は硬い木とサラの足に挟まれているので動くことはできない。

 うん、俺は今逆さまになったのをいいことにサラの胸を揉み、その結果反撃にあった様に見えている。


 要は、最悪だ。


「さっきの衝撃で」


 なんとかわかってもらおうと思ったが、ミールの目には怒気が宿っている。

 俺は今死ぬのかもしれない。


「サレッドクインさんの胸でいいなら私でもいいじゃないですか!」


「そっちか!」


「あんっ!」


 つい力んで叫んだため指にまで力を込めてしまい強くサラの胸を揉んでしまう。


「これは婚約も近いということでしょうか」


「それは違うっ!」


 急いで離れようと体を前に出すと首に何かが引っかかりまた後ろに戻されてしまう。


「んぁ……」


 そしてその拍子に触れる柔らかい物体に力が入ってしまう。

 これって俺逃げ場がなくない?

 こんな状況でも構わず走り後ろに来ない二人も怖い。


「だ、旦那様……やっ、これ以上は……」


 急に砂利道にでも入ったのかアルシェの魔力の制御ができなくなったのか、馬車がガタガタと揺れ動きその度に俺の手は必要以上にサラの乳房に断続的に触れ続ける。


「アルシェ先輩止めてください」


 先ほどとは変わりスムーズに止まる馬車。

 俺の視界は未だに遮られたまま背中に強い視線を感じる。


「巨乳好きなのかと今回は安心していましたが違いましたね違ってしまいましたねそうですか兄さんは貧乳以外がお好きということでよろしいでしょうかよろしいですよねそんな長い時間揉みしだいているんですから反論の余地はありませんよねあるはずがありません」


 不味い、最近はなかったミールの不味い部分が発露してきている。

 目の光彩が消え俺を見下ろす。

 その圧力はミスクワルテよりも鋭く明らかな殺意が見えている。


「兄さんに話は色々言いたいことは他にもありますがまずはその雌豚ですよね新参者のくせに兄さんからそんなに触れてもらえるなんて殺されても文句はありませんよね? まあ文句があったとしても死んだら言えないので関係ありませんが」


「ミールは従妹なのだろ? なぜ僕と旦那様の間に入ってくるんだ?」


「なんで喧嘩売り始めたの!? なんで!?」


 俺の手が胸にあるってことはこいつ今仰向けで居るんだろなんでそんなに強気なんだよ。


「セルクちゃん。ちょっとフィルママと一緒に散歩に行こうか」


「うん」


「フィル? 待ってせめて俺を助けてからに」


「フィル私も一緒に行く」


「私もご一緒してよろしいですか?」


 ルリーラと一緒に優しいはずのアルシェまでが助け舟をくれないまま離れて行こうする。

 一触即発のまま俺は置いていかれてしまう。


「兄さんには結ばれるべき相手がいるんですよ」


「それは自分だっていうのか? 傲慢も甚だしいな」


「サラはよくこの状況で喧嘩売れるよな!?」


 お互いが絡まっているせいでお互いに身動きは取れていないだろうに、サラはなぜか自由に動けるミールに喧嘩を売る。

 この度胸は一体どこにあるのか聞きたい。


「まさか私よりも強くて可愛い女性が兄さんにはいるんですよそれなのに総帥の娘というだけで甘やかされて育った剣士気取りの雌が何間に入ってきてるんですか? そんなのアルシェ先輩とフィル先輩で

こと足りてるんですよあんたみたいな女狐は火の国に尻尾を振る汚いオヤジと結婚したほうがいいですよ」


「侮辱するつもりか?」


「お怒りですか?」


「そうだと言ったら」


「人間が一番怒るのは図星を突かれた時だと言われていますがそのようですね」


「その喧嘩、買ったぞミール」


 二人の口喧嘩は口喧嘩から発されてはいけないほどの殺気を孕んでいるのを俺の皮膚が感じ取る。

 一触即発という言葉では生易しいほどの緊迫感が俺を挟んで行われている。

 現状俺は泣いてしまいたい。


「せめて俺を解放してからってわけにはいかないか?」


「「いきません」」


「はい」


 正に手も足も出ない現状でこの二人に勝てるはずもなく、俺は素直に言うことを聞くことにした。


「決着つけようじゃないかミール」


「望むところですよ、居合しかできない単細胞が私に勝てると思わないように」


 なぜか決闘をすることになったらしい二人だが、これで俺の拘束も解ける。


 決闘が決まり逃げた三人が戻ってきたのでようやく俺は自由を手に入れることができた。

 しかしその代わりにミールとサラの決闘が始まってしまった。


「不意打ちでもしないと勝てないのにこんな正々堂々と戦っていいんですか?」


 準備をしているルリーラは移動着の短パンとシャツに様々なホルスターを準備する。


「あの時あれが無ければ。などと噛みつかれても困るからな」


 そのミールの正面で戦闘着に着替え構えるサラ。

 二人の決闘はもはや止まりそうにはなかった。


「いつでもいいぞ、早い僕からではミールに攻撃のチャンスが無くなってしまうからな」


「そういうのが剣士気取りだって言ってるんだ!」


 準備しているホルスターを使うことなくミールはただの水をサラに向かい放つ。


「この程度と言うことはないよな」


 あっさりと水の魔法を切り自分の間合いを確保する。


「水よ、不純物と混ざれ、スワンプ」


 俺とは違う攻撃方法、足場にばら撒いた水を土と混ぜ局所的に簡易的な沼を作り上げる。


「何だと!?」


 濡れた程度では済まされない沼を作り出す魔法にサラは驚きを隠せていない。


「水よ、龍よ、水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、その魂を地の底に送れ、災厄の名を背負いし者よ、我の命に従い顕現せよ、水の龍アクアドラゴン」


 隙のできたサラにミールは水の龍をぶつける。

 逃げられないと悟ったサラの行動は早かった。

 足場の悪い沼地で姿勢と呼吸を整え水の龍に一閃を加え、水の龍は縦一文字に切り裂かれ水に戻り更に地面が濡れ沼が深くなる。


「ちっ……」


「これだから脳筋は駄目なんですよ、水を含めばもっと深くなることすらわからないんですから」


 膝の上まで埋まったサラは自分の動きに舌打ちをする。


 完全にミールのペースだな。

 相手の動きを封じるということに重点を置いた攻め方は褒める所だが、それでは勝利にならない。

 集団戦や逃げるのが目的ならこれ以上にない動きだが、決闘においてだけ言えば勝利はない。


「その綺麗な顔、溶かしてあげますよ」


 ホルスターに収まる瓶を一つ取り出す。


「待てミール!」


「なんでしょうか、今からこの女の顔を溶かして嫁げないようにするんですから邪魔しないでください」


 やっぱり持ち出したのは鉄も溶かせる液体か。

 どこで手に入れたのかミールは薬品を大量に持ち歩いている。

 荷物の中にはホルスターに収まらない物が収納されており、その時その時の状況で使い分ける。

 どうも今回は確実に殺すための薬品を準備しているらしい。


「それはやめろ」


「いいじゃないですかこの女も本望でしょう。嫁ぐなんて女のすることをしなくても済むんですから」


「炎よ、我を捕らえる沼を燃やせ、フレイム」


 サラの炎は沼から水分を燃やしつくす。

 そして浅く堅さを取り戻し沼から抜け出す。


「水よ、全てを溶かす水よ、我が敵を溶かしつかせ、アシッドレイン」


 どういっても止まらないならこっちからも参加するしかないのか。

 そう考えている間にも雲が発生し酸の雨を降らせる準備を始めている。


「炎よ、刀よ、天を隠す曇天を切り払え、フレイムソード」


 雨雲が完成する寸前に炎を纏ったサラの刀が居合一閃雨雲を捕らえる。

 二つに分かれる雲は再びまとまることなく霧散する。


「この程度で僕に喧嘩を売ったのか?」


「水よ、龍よ、毒含む龍よ、我が敵を蝕め、血も肉も侵し、冥府へ送れ、毒の龍ポイズンドラゴン」


「今度は毒か」


 フレイムのおかげで足場が硬く整った地面で本気の居合へと呼吸を整える。

 禍々しく姿を変えた毒の龍はサラに目掛け大きく口を開く。


「止めなくていいの?」


「止めるさ、水よ、氷よ、彼女らの動きを止めよ、アイシクル」


 ルリーラに言われなくても準備はしていた。タイミングを待っていただけだ。二人が技を出す瞬間を狙っていた。

 ミールの口とサラの手そして毒の龍の動きを凍らせて止める。


「いい加減にしろよ」


 身動きが出来なくなった二人は非難の目を向けるが今更それに怯える必要もない。

 そして二人の頭に拳骨を一発ずつお見舞いする。


「んぐっ」

「いたっ」


 二人は不満そうにこちらを見るがそれに構っている暇はない。


「仲良くしろなんて言うつもりはない。お互いに気に入らないこともあるだろうしな、だけど殺し合うな。それは無意味なことだ」


 俺も人を殺したことは当然あるでもそれは酷く無意味だ。

 肉体が滅びてもその意志だけは残り他の誰かに託される。

 その上殺した者の知り合いに命を狙われる可能性まである。


「気は済んだろもう行くぞ」


 毒の龍を壊してから氷を解かすと毒の龍は地に溶け込み二人の体は自由になる。

 お互いがにらみ合ったままサラは荷台へミールは操舵席に座った。


「はあ、面倒なことになったな」


「ご主人が器用に絡まるから」


「絡まりたくて絡まったわけじゃないよ」


「次から一緒に寝る時はサレッドを見習おうかな」


「そうしたらもう二度と一緒に寝ない」


「それは困る」

「私も諦めます」


「考えてはいたのか」


「ご主人には母性で勝負しないと」


「母性か……」

「母性ですか」


 フィルの言葉にルリーラとアルシェは自分の胸を見て悔しそうにしたり喜んだりしながら馬車に戻り再び進みだす。

 不機嫌なオーラを出し続けるミールとサラの二人は馬車の中の空気を酷いものに変える。

 そんな最悪な空気の中振動と共に再び地面から大きな腕が生えてきた。

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