機械の国 シェルノキュリ連合国
「それでお前は俺達をどこに向かわせたいんだ?」
薄気味悪く笑うアリルドに俺は尋ねる。
あんな言い方をするならそれ相応の理由があるんだろう。
「地の国ガリクラ、その手前にある国が機械の国シェルノキュリ連合国だ」
「機械の国か」
機械の国シェルノキュリ連合国。
どこにあるのかどんな国なのかわからない未知の国。それでいて名前の通り世界有数の技術大国。
そこで何か仕入れが必要なのだろうか。
「おっちゃんその国ってどんな国なの?」
「俺の生まれた国だ」
「はっ?」
思わず声を上げてしまった。
アリルドはここの国で生まれたと思っていた。
ここで生まれてここで育ち今があると勝手に思っていた。
「おい、何言ってんだよ」
「クォルテでも驚くんだな」
一矢報いたと笑うアリルドに、流石の俺も驚きを隠せない。
「驚くだろ、実在する国って情報しかない国だぞ? そこが出身ってどういう……」
自分でも混乱しているのがわかる。
でもしょうがないことだ、世界の機械は全てシェルノキュリ連合国が作っていると言われている。
そんな大国の出身と聞いて驚かない人間はいないだろう。
「伝える前に、お前らはこの国を発っただろ?」
「いや、まあ、な」
「クォルテさんが言い淀んでます」
「アルシェ先輩それほどの事なんですよ、名前と機械を作る技術に長けている。それだけしか情報のない国がシェルノキュリ連合国なんです。そこの出身ということは、未知の国の場所を知っているということで、場所を聞くために拷問されてもおかしくはありません」
ミールが説明してくれている間に、俺はアリルドと話を続ける。
「もしかしてお前の強さって」
「機械じゃないぞ、まあ機械と戦い続けた結果ではあるがな」
笑い飛ばしているがようやくアリルドの強さの根源を知った。
人類よりも力に秀で体力の底がない機械との戦いで培った力か。
それなら確かに茶髪のアリルドがベルタのルリーラと対等に殴りあえるはずだ。
「まあ、そのおかげで俺は国を出ることになったわけだけどな」
「まあいい、これ以上は俺の脳がパンクしてしまう」
「そうか」
話し足りないのかアリルドは蓄えている髭を撫でる。
そして懐かしむ顔を引っ込め真面目な顔で話を先に進める。
「それでお前達に行ってもらいたい理由はこれだ」
机に差し出されたのは一通の手紙。
封をされているがアリルド国の封蝋ではなく見慣れない封蝋だ。
ギザギザの丸が三つ重なった模様は俺の知っているどの国とも一致しない。
「これは?」
「シェルノキュリ連合国の封蝋だ、この手紙を持って行ってもらいたい」
こんなものを出されては疑いようもない、アリルドが俺を騙す必要もない。
そうなるとこの奇怪な文様はシェルノキュリ連合国のものなのだ。
「一応中身を聞いてもいいか?」
友の頼みとはいえ下手な物を持って行けば俺達の命が危ない。
「ああ、それは私用の事だ。大丈夫危険な目に合わせはしない。それをシェルノキュリ連合国のグシャ一族に渡してくれればいい」
「一族ってことはお前は貴族か何かということか?」
「そうだ」
「わかった」
貴族であることは薄々気づいていた腕力のみでなく知識も豊富。
俺がそうであったようにアリルドも教育を受けていたのは疑う余地もない。
それに私用と言われればこれ以上は野暮だろう。
危険はないという言葉を今は信じるしかないか。アリルドが俺達をどうにかする必要もないしな。
「おそらく門番がいる、そいつにこの手紙を見せれば中には入れてもらえるはずだ」
「シェルノキュリ連合国は地の国向かう途中にあるっていうのは間違いないのか?」
シェルノキュリ連合国の噂として有名なのは国が移動しているということだ。
他の国に狙われないように場所を転々とし人目から隠れて過ごす。国自体が機械の移動する国。
いつまでも見つからない国ならではの噂。
それをアリルドは真っ向から否定する。
「昔からずっとシェルノキュリ連合国は同じ場所にあるぞ、地の国ガリクラの手前の広大な荒野のど真ん中」
「そこって……、なるほどそういうことか」
「流石クォルテすぐにわかってくれたな」
ようやく合点が行った。なるほどそれは見つからないわけだ。
納得した俺はアリルドに最後の質問を尋ねる。
「門番はいるんだよな」
「居るぞ」
「やっぱりか」
嘆息しながら俺達は出発の準備を始めた。
「それで結局どんな国なの?」
七人では狭かろうと新しく支給された大型の馬車の操舵席に俺とルリーラは座っていた。
三人は座れる広い操舵席なのにルリーラはぴったりと俺にくっつきながら座っている。
「地の国が抱える国だってことだな」
「抱える?」
初めての大型の馬車のため操舵に集中したいのだが、引っ付くルリーラの質問を無下にできず答える。
「他国に狙われないために地の国と手を組んでいるんだよ。地の国は金と機械を機械の国は安全を手に入れるためだな」
よくできている話だと改めて理解する。
地の神がいる国に攻め入る馬鹿はいない、その地の国の敷地の中に国を建て機械を作り他国に売る。
その金を地の国に払うことで地の国は快く敷地を渡す。
そんな利害関係こそが連合国とつく所以なのだろう。
「でも国がないってあり得るの?」
「神のいる国ならありえなくはないな、水の国なら水の中、火の国なら火の中に建物を作ることは難しくない」
「じゃあ地の国だから」
気づいたらしいルリーラは地面を見つめる。
そう地の国なら土の中に国を建てるのは難しいことではないのだ。
それなら外敵に見つかる危険性はない。本当によくできたものだと感心してしまう。
「そうだと思うぞ」
他の国ではできない芸当だ、立ち入りが出来なくするなら神が居ればどこでも構わないだろう。
隠すということならば地の国ほど理想的な場所はない。
立ち入らせない。ではなく見つけられないというのは最大の防御となる。
「凄いねその国」
「本当にそう思うよ」
俺は慣れない馬車をひたすらに走らせ続けた。
馬車を走らせること三日ほどで俺達はようやく草原を抜け荒野へとたどり着いた。
「アルシェに任せたらもっと早かったよね」
「まずは俺が試してみないと駄目だろ」
前に使っていた馬車であの衝撃だ、アルシェの魔力で走らせても問題ないかの確認をしないとアルシェに運転を任せることはできない。
そして残念なことに前ほどの速度では荷台が酷いことになるとわかった。
今後はアルシェに魔力は抑えるように言わないといけない。
「着きましたけど何もありませんね」
全員で馬車を下りて辺りを見渡しても荒野しか見当たらない。
「ここで大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、向こうに微かに建物らしきものが見えます。フィル先輩も見えるでしょ?」
「うん、確かにお城みたいだけど」
「じゃあ合ってるな」
アリルドの話ではここから地の国へ向かう途中の荒野の中にあると言われている。
向こうが地の国ならこの荒野で間違ってはいないはずだ。
「もう少し進んでみるか」
「ん?」
「どうした?」
サレッドクインがどうも違和感を覚えているようで、しきりに辺りを見渡している。
「どこからか見られている気配がします」
片手で刀に触れながら辺りを警戒するサレッドクインはしばらくして被りを振った。
「気のせいか」
再び馬車に乗り先へと進む。
今度は練習がてらアルシェに手綱を握らせ俺は荷台に乗る。
馬車が動き出し急にサレッドクインは体をこちらに寄せてくる。
「旦那様、いい加減僕のことはサラと呼んでいただけませんか?」
「ああ、そうだな」
そう言えば結局呼び方が未だにサレッドクインのままだ。サラと呼べと言われてはいたが、その時も喧嘩したまま話が流れていたしな。
「わかったよ、サラ」
サレッドクイン改めサラは満足気に馬車に背を預ける。
「やっぱり変だ」
気を抜いたと思った瞬間サラが刀に手を触れる。
今にも抜きそうな殺気を放ち辺りを警戒する。
「ルリーラ、アルシェの隣にいろ」
ルリーラは言われた通りすぐにアルシェの後ろに移動し辺りを警戒する。
これで前にいるアルシェとミールは問題ないだろう。
「何人くらいだ?」
「気配を消していますが一人です」
武芸を嗜むサラはルリーラですら感じていない気配を察知しているようで、ルリーラよりも早く獣に気付くことが多い。
そのためサラが違和感を覚えているならそれに従うのが吉だろう。
「まだ遠い?」
「どのくらいだ?」
「そこまではわかりませんがこの先に居るのは間違いありません」
近くから気配が感じないとサラは刀から手を離す。
しかし次の瞬間今度はルリーラが叫ぶ。
「アルシェ止めて!」
咄嗟の叫びに反応したアルシェは急ブレーキをかける。
止まった途端急に大きな赤い腕が地面から生えてきた。
鎧の様な頑丈そうな腕は、突き出した個所から這い出るように地面を抑えそのまま力を込めた。
地を割るような地響きの後に、腕の先からは肩が生まれ頭が生まれ反対の腕が生える。
地面から徐々に生えてくるのは家程赤い巨大な鎧をまとった人間だった。
「なんだ、これ……」
頑丈そうな鎧には関節の動きを阻害しないように作られた隙間だけがあり、それ以外は空気すらも通さないといった堅牢な鎧。
突如地面から生えてきた鎧はこちらを見据えている。
「魔獣ではないよな」
「違うよ、魔獣は文字通り獣からの変化、鉱物からの変化は聞いたことがない」
魔獣大国で育ったフィルが言うのなら間違いないだろう。
だとするとこれは一体何なのか、アリルドが小さく思える巨大な鎧は腕を振り上げる。
「アルシェ逃げろ!」
俺が叫ぶとアルシェも悟り馬車を動かす。
馬車のあった位置は鎧の振り下ろした拳で周りの地面を隆起させてしまう。
「これは逃げたほうがよさそうだよな」
「私も潰されそう」
ルリーラで無理ならこの中にあの拳を受け止める膂力のある奴はいない。
「全力で突っ切れ!」
「馬車は?」
「死にたくないなら全力だ!」
「かしこまりました」
頷きと共に手綱に大量の魔力を注ぎ込み、馬車が信じられない速さで駆け抜けていく。
草一本生えていない荒野の凹凸は大型の馬車には向いていない。わずかな高低差で衝撃が響き、馬車から放り出されそうになる。
そんな俺達を追い、尚も攻撃を緩めない鎧は再び腕を振り上げる。
大丈夫この距離なら届かない。
そう安心したのも束の間巨大に見えた鎧の腕は更に大きくなっている。
「サラ、起爆は任せる」
「承知!」
「水よ、汝の元の姿へ戻れ、フォグ!」
「炎よ、我らに向かいし悪鬼を滅せ、フレイム」
アルシェ以外とは初めて使う複合魔法は成功し、俺の放った可燃性の気体に引火し強烈な爆発を生む。
その一撃で視界を封じて距離が取れると読んでいた。読み通りに巨人に振り下ろされず衝撃はない。
でもそれ自体がおかしい。衝撃が無いと言いうことはあの巨人は行動していない。
不審に思い晴れた煙の向こうに目を向けるが先ほどの赤い巨大な鎧の姿はなかった。
「さっきの巨体が消えた?」
狐に化かされた心境のまま速度を緩めることなく馬車を進ませた。




