クォルテ VS アリルド
俺達四人は草原の中に居た、土地を持っていても使われていない広いだけの場所。
そこに俺とルリーラとアルシェ、俺達と向かい合う様にアリルドが嬉しそうに立っている。
「お前達に負けてから再戦をどれだけ望んでいたか!」
アリルドは獰猛に笑う。
最初に向かい合った時の様に人ではなく獣の様な笑みを浮かべ俺達を見下ろす。
「俺も再戦するつもりはなかったけどさ、せめて労いくらいはしてやらないとな」
「おっちゃんに負けないから」
ルリーラが一歩前に出る。
ゴルトリアルと並んだ時以上の体格差にルリーラが良く怖気づかなったと今更ながらに褒めたくなる。
「私はできればやめたいですが」
言葉通りに気持ちで負けているのか、一歩後ろに下がりながらも精霊結晶は淡く輝き始める。
「準備はいいか?」
「いいぞ」
俺も自分の槍と精霊結晶に魔法を込める。
「最初の時よりも格段に良くなったな」
「ありがとうよ」
「ではアリルド・グシャ参る!」
巨漢とは思えない加速で真直ぐルリーラを目指す。
覆いかぶさるほどの巨大なアリルドをルリーラは真正面から受け止める。
二人のぶつかった衝撃に足場が沈む。
純粋な力のぶつかり合いだが、体格差のせいでルリーラの方がやや不利だが、膠着状態を保っている。
「せいっ!」
膠着を打ち破ったのはアリルドだった。
樹木の様な太い足が小さなルリーラのわき腹に向けられる。
「甘いっ!」
強烈な蹴りにルリーラの防御が間に合ったように見えた。
しかし腕力はどうにかなっても体重さだけはどうにもならず、ルリーラはそのまま蹴り飛ばされてしまう。
「もう、準備はできてるな」
俺の前にアリルドは悠々と歩いて近寄ってくる。
そこまで体格がいいわけでもない俺との差は歴然で、ベルタと拮抗できる力を持つアリルドは拳に力を込める。
「水よ、泡よ、強固な泡よ、敵の視界を埋めつくせ、バブルパーティー」
「泡か」
俺の呪文が終わるまで待ったアリルドは、その泡に気を取られる。
油断というよりも観察と言った様子で、泡を眺めそう呟く。
何かがあるのは感じ取ったが、何があるかまではわからなかったアリルドの反応は早かった。
力の限りに地面に腕を突き刺し地面を力の限りにひっくり返す。
ルリーラがよく使う技をアリルドは簡単に使って見せる。
「さあ、やって見せろクォルテ」
「アルシェ!」
それでも攻撃をやめるつもりはない。
なにせそんな風に力任せで泡を潰すでことを俺は知っている。
だからこうしたんだ。
「やけくそか、自滅で終わるぞ?」
アルシェが呪文を唱えるとこっちの攻撃をアリルドは悟る。
泡を使った、複合魔法。その威力はアリルドも知っているが、地面を盾にしているアリルドには届かない。
そう思っているアリルドは勝ち誇ったように言うが、当然自滅するつもりはない。
「敵を討ち滅ぼす衝撃を生め、バーンアウト」
アルシェが呪文を唱え終わると業火が生まれ泡の一つに当たり破裂する。
複数の泡が連鎖的に破裂し大きな衝撃を生む。
泡の連鎖はめくられた巨大な土の壁を登り破壊し、砕けた破片はアリルドに降り注ぐ。
「この程度か!」
降り注ぐ土は致命傷にはならない。
精々視界を塞ぐだけだ。
だが視界を防げればそれでいい。
「ルリーラ!!」
俺はルリーラを呼ぶ。どこにいるかはわからないが、それでもルリーラに俺の声が届かないはずがない。
「おっちゃん行くよ」
「来てみろルリーラ」
それを知っているのは当然俺だけじゃない。
アリルドも知っている。
不意打ちともいえるルリーラの拳を掴みまた二人は膠着状態に入る。
「ルリーラだけでいいのか? 水よ、龍よ、水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、その魂を地の底に送れ、災厄の名を背負いし者よ、我の命に従い顕現せよ、水の龍アクアドラゴン」
水の龍が生まれアリルドに向かう。
「芸がないなクォルテ!」
アリルドはルリーラを浮かし水の龍の迎撃を狙うが、一度やられた攻撃をルリーラがまたくらうはずもない。
浮かないルリーラに対し咄嗟にアリルドが宙に浮き水の龍を足で挟みそのままルリーラ目掛けたたきつける。
龍の長い尾がルリーラのいた場所にぶつかり弾け元の水に戻る。
「流石おっちゃん」
「よく避けたな」
「炎よ、槍よ、無数の槍よ、」
「水よ、槍よ、無数の槍よ、」
「新手の呪文か?」
俺とアルシェは同じ呪文を唱え始める。
何をするのかはわからないアリルドは危険を悟り、ルリーラを再び蹴り飛ばそうと蹴りを繰り出すが、ルリーラは手を離しそれを躱す。
「我が宿敵を討て、フレイムランスパーティー」
「我が宿敵を討て、ウォーターランスパーティー」
無数に生まれる炎の槍、その槍を水の槍が覆う。
炎の輝きを水が反射させ眩く光る。
「受けて立つぞ二人とも」
「受けてみろよ、複合魔法ライトランス」
輝く槍は一斉にアリルドを目掛け飛んでいく。
アリルドの動きがわずかに鈍る、この光の槍がどういうものなのかを考える。
避けるべきか迎撃するべきか考え、アリルドは迎撃を選ぶ。
最初に飛来する輝く槍をアリルドは正面ではなく弾くために側面を殴る。
次の瞬間輝く槍は弾け、爆発を生む。
その爆発に怯んだアリルドに二発三発と輝く槍は着弾し大きな爆発に変わる。
しかしこの魔法もアリルドに致命傷を与えるほどの威力はない。
それでも槍を迎撃するアリルドへダメージは蓄積されていく。
「この程度の未完成な魔法じゃ、俺は倒せないぞ」
「これでいいんだよ。そこまでの光と音と衝撃があれば、本命は隠しておける」
「なるほどな」
輝く槍は肉体にダメージを与えるだけじゃない。
五感にもダメージを与える。目を焼き、耳を潰し、皮膚を犯す。
それだけで、たった一人を隠して置ける。
「耐えて見せてよ、おっちゃん」
「任せておけ」
ルリーラの渾身の一撃。
地面を抉るほどの力がたった一人に向けられ、その力全てを横腹で受ける。
耐え切れずにアリルドの動きは止まり、棒立ちになったアリルドに数発輝く槍が直撃する。
これ以上の追撃は危険だと判断し輝く槍を天高くに打ち上げる。
天高くまでに打ち上げられた輝く槍は一際大きく花火として打ちあがり。
光の花を咲かせる。
「それでライトランスか」
「動けるか?」
満足そうに打ちあがる光の花の下で倒れているアリルドに、手を差し伸べる。
「久しぶりに楽しかった」
アリルドは手を掴み立ち上がる。
「なるほど、これならこの空いた土地を使うのに文句はないな」
「だろ」
俺は傷だらけのアリルドに笑いかける。
今回の戦いはただアリルドと楽しむためじゃない。
火の国の催しである武道大会を真似させてもらった。
花火まではあの規模を真似できないが、それでもこの程度ならアリルドにいる魔法使いでも問題ないだろう。
「これで俺がアリルドより強いって証明にもなったしな」
「そうだな。前よりも強くなっていた」
「私だって実践詰んでるからね」
「私は戦闘よりも家事をしている方が好きですけどね」
アリルドは相貌を緩める。
「これでお前達の旅にも援助ができるな」
「成功して何よりだ」
この戦いの意味はアリルド国の目玉を作ること。
沢山の国を巡り色んな出来事を体験し自分の国の特産にする。
運がいいのか悪いのか、この国には持て余すほどの土地がありその活用を求める嘆願書が結構見えていた。
「凄い歓声ですものね」
「遠くて何言ってるのかはわからないけどね」
活用法にまず最初にこじつけたのは武道場の建設。
まずは俺達で実際にやって見せてみた。
結果は上々で防壁の無い所に国民を置けず城壁の上を開放して見学してもらった。
城壁からでも届く大歓声。
「後はヴォールを真似したいな、他には……」
「その話はまた後にしよう、とりあえず城に戻ろうか」
あれだけの攻撃をうけたにも関わらずもう歩けるまでに回復したアリルドは、平然とした様子で城に向かった歩き出した。
城に戻り今後の話を続ける。
「先ほどの反応を見る限り、この祭りは人気が出そうだな」
自分も暴れられる祭りにアリルドは満足気にしている。
そうなる気がしてデモンストレーション代わりにしたのだがいい反応でよかった。
「ご主人達はよくこの人と戦えるよね」
「僕達も戦ったがまるで歯が立たなかった」
さっきの戦いを観戦していた二人は肩を落としてしまう。
「アリルドと真正面から対等に戦えるのはルリーラだけだよ」
「まあね! 私強いから」
小さな胸を張っているルリーラの頭を撫でながら話を続ける。
「力で負けてるなら力を削ぐ戦いをしないといけないんだよ。俺がやったみたいに」
俺はアリルドが近づきにくくするために罠を張った。
今回は爆発の魔法を餌にして動きを止めさせ、腕力じゃなく飛び道具を使わせることで力を削いだ。
「フィル殿、サレッドクイン殿こいつは簡単に言っているが、簡単ではないぞ」
アリルドの言葉にフィルとサレッドクインは深くうなずいた。
「クォルテさんは肝が据わってますからね」
「そうだよね」
「そうでもないぞ」
肝が据わる様になったのはここ最近だ。
神に会い色々経験した結果そうなっただけだ。
「叔父さんとも結構言い合いしてたし」
「それはただの喧嘩だしな」
自分の意見を通すためには、反抗しないと何もさせてもらえなかった。
特に意地でもルリーラの研究に関わる様に結構やりあった。
そんなことを思いながら隣に座るルリーラを見ると視線に気づき首をかしげる。
「それよりも他の施設について提案があるんだ」
「なんだ?」
「ヴォールの街並みは知っているか?」
周りを見ると一緒に居た三人とミールだけが頷き他は首をかしげる。
「アリルドも知らないのか?」
「知識としてなら知っている。でもそういうことじゃないだろ?」
「今は知識だけでいい。要は一つの街が水で溢れているってことだ」
「そういうことか」
アリルドは俺が言おうとしたことを理解したらしく頷く。
それでもルリーラやサレッドクインは首をかしげる。
「ヴォールみたいに水に満たされた町を作ろうってことだね」
間延びしながらも、フィルはしっかりと理解してくれているらしく、わかっていない二人のために補足してくれる。
「その通りだ」
「池や川の中に町を作る。そう考えていいのか?」
可否を考えるようにアリルドは思考を始める。
「というよりも町を作り水で沈めるの方が合っていると思う」
「なるほどわかった」
アリルドの中で可能だと思ったらしい。
もしくは俺の意見だからと無理を通すつもりなのかもしれない。
「さてこの二つの場所づくりの間なら、また旅に出てもいいだろう?」
「そうだな、国の繁栄のために世界を見て回るそういう理由なら問題なかろう」
「理由づけって必要なの?」
ルリーラは首をかしげてしまう。
「必要だから体を張ったんだよ」
初日のパーティーで散々貴族連中に嫌味を言われた。久しぶりに帰ってきてテンションが高かったのもあり、落ち着きがないから始まり、やれ国のために働け、やれ王としての心構えを持てなどと酷く叩きのめされた。
そして俺はアリルドとともに話合い王として振舞った。
そして今二つの収益になりそうな施設の案を定めた。
もちろんアリルドに細かい所を突き詰めてもらわなければならないけど。十分この国のためにしっかり働いたと思う。
「そうだ、後はもう一つ作ってもらいたい」
「なんだ?」
「教育機関を作ってくれ、奴隷も学べる奴」
「それも考えてみよう」
流石にアリルドも頭を抱える。
そこに関しては無理なら無理でいいと、言い聞かせながら話は終わった。
「それでいつから出かけるつもりだ?」
「できれば一週間以内だな」
「そうか次はどこに向かうつもりだ?」
「地の国だ」
「そうかならその手前の国が俺のおすすめだ」
そう言ってアリルドが笑う。
その笑顔はどこか恐ろしい物を感じた。




