アリルドとの再会
「クォルテか?」
いきなり目の前に現れた俺達に、アリルドは口をパクパクさせながら困惑する。
「それ以外の誰に見える?」
うろたえているアリルドが珍しくそう言うと、でかい図体で俺に抱き付いてくる。
「久しぶりだな、こんな登場は流石に予想外だ」
「ちょっ、アリ、ルド……」
嬉しそうなアリルドは、衰えることのない怪力で俺の肉体を締め上げ、俺の呼吸が遮られてしまう。
「おっちゃん、クォルテが死んじゃうよ」
「ルリーラじゃないか、相変わらずちっちゃいな」
「おっちゃんがデカいんだよ」
孫に久しぶりに会う様にルリーラを抱き上げ俺から離れていく。
死ぬかと思った……。
流石にこんなおっさんの手で死にたくはない。
体から無くなった酸素を俺は必死に補充する。
「お久しぶりですアリルドさん」
「アルシェも久しぶりだな」
流石のアリルドも、アルシェに同じことをしたら死んでしまうことがわかるのか、抱き付こうとした手をおさめ握手で終える。
安堵したアルシェもアリルドの手を握る。
「前に会った時よりも生き生きとしているな」
「クォルテさん達のおかげです」
アルシェに釣られ今の俺の仲間を見る。
「なんと言うかクォルテ、好色もほどほどにな」
「そんなつもりはないんだがな」
見事なまでに女だらけのメンバーを見てアリルドが酷いことを言う。
酷いことだが現状を見ればそう思われても仕方ないんだよな。
男一人に女が六人。女好きと思われても仕方ない。
「アルシェこうしょくってなに?」
「クォルテさんの事だよ」
「アルシェもそんな風に思ってたのか!」
本当にそんなつもりはなかったのだが、どうも女と縁があるのだから仕方ない。
「冗談ですよ」
「ご主人、そろそろ紹介してもらってもいい?」
「そうだったなまずそっちが先だった」
勢いに呑まれてしまい結局普通に会話を継続してしまった。
ここにいる半数はというか俺とルリーラ、アルシェ以外はアリルドとは初対面だった。
「我は最後がいい」
視線を向けただけで水の神は最初に紹介されることを拒んだ。
見た目だけで充分正体がわかっている気がするが、最後に神だ。と言いたいようなので、仕方なく加入順に紹介することにした。
「こいつがフィル」
「フィルです、初めまして」
間延びした挨拶にアリルドは手を出す。
「俺はアリルド・グシャだ」
フィルは流石でこれほどの巨漢に対しても平然と受け答えをする。
「こっちがミールだ」
「ミール・ロックスです。兄さんとお姉ちゃんがお世話になっています」
「ロックスということはクォルテの親類か、だとするとお姉ちゃんとは誰の事だ?」
ミールの自己紹介にアリルドが困惑してこっちを向く。
「ミールは俺の従妹だ、お姉ちゃんの部分は無視してくれ」
「そうだな、まずは全員の紹介を聞いてからだよな」
俺が気にするなと言ったため、そこは関係ないと汲んでくれたため次の紹介に入る。
「そしてこの一番小さいのがセルクだ」
「セルクだよ。あっ、セルクです」
一応他の人を見て丁寧に話そうとするセルクは丁寧な言葉に言い直す。
その愛くるしい姿に盗賊の主であるアリルドも頬を緩める。
「おじさんはアリルドです、よろしく」
「よろしくおねがいします」
アリルドが差し出す手を小さな手で掴む。
アリルドはもう頬が緩みっぱなしで、かつての狂暴な面影は微塵もなくなっていた。
「パパのお友達なの?」
セルクの言葉に、アリルドはこちらを首が飛び立ちそうなほどの速度で振り向く。
「パパ?」
「それも後で話すよ」
「ママの友達?」
前を向いたと思ったらすぐにこちらを向く。
アリルド首を痛めていないといいけど。
「だから事情は後で話すってば」
「ああ、そうだな」
すまないと、言いたいことを飲み込みこちらに紹介を促す。
俺も混乱し続けるアリルドに申し訳ないと思っているが、事情を説明していると紹介が進まない。
「そしてそっちの髪を結っているのがサレッドクインだ」
「サレッドクイン・ヴィルクードです。旦那様がいつもお世話になっております」
「ヴィルクード? ウォルクスハルクの総帥と同じ性だよな」
「はいウィルコア・ヴィルクードは私の父です」
「もしかしてママって」
「それは違う。そっちも後で話すよ」
アリルドの混乱は更に深まる。
現在のアリルドの脳内では、久しぶりの友達が子供を連れて大国のトップの娘に旦那様と呼ばれているにも関わらず、その娘はママではなく、従妹がお姉ちゃんと呼ぶ存在がいるらしい。
説明されないとあまりの展開についていけないのは当然のことだ。
「それで最後が水の神ヴォール様だ」
「我がヴォールだ」
「やはりヴォール様ですか」
「あまり驚かないんだな」
「驚いてはいるんですが、疑問が多すぎて」
暗に驚きなれたというアリルドに、ヴォール様は最初に紹介してもらえばよかったと後悔している。
紹介されなくても登場の仕方と見た目でアリルドは気づいていたと思うけど。
「そして改めてになるが、この大男がアリルド国の元王で現宰相のアリルド・グシャだ」
「アリルド・グシャだ。クォルテ達に負けて王の座をクォルテに明け渡し、今は宰相としてこの国を支えている」
かれこれ数か月は旅をしてしまっているせいで、政治はアリルドに任せきりになってしまっている。
久しぶりにあったアリルドは、前よりも気品がある。
俺の代わりに外交を変わっていてくれたため、身なりには気を使っているようだ。
「まさかと思って会いに来てみたが、やはり地の子だったか」
その言葉に俺は驚いた。
アリルドは何せ肉体を武器に戦うため魔法は身体強化しか使っていない。
だからあえて何の魔法が使えるかは気にしたことはなかった。
「確かに俺は、地の魔法使いですがどうかしましたか?」
「面白い偶然もあるものだと思ってな」
水に火に風に土、それに光と闇。表と裏の神の子が六人。これで残るは龍の子だけということか。
でも龍について俺は何も知らない。水の龍を使いはするが、それはあくまで伝承として使って来ただけで、あの姿をしているとは限らない。
目撃例を聞いたこともないため、現存しているのかもわからないけど。
「会えてよかったよ。アリルド・グシャ」
「こちらこそ光栄です」
硬く握手を結ぶ。
「して、貴様は戦うことが好きなようだが、我と戦ってみたいか?」
水の神の言葉には、この場にいる全員の動きを止めるほどの殺気が乗っている。
「ご冗談を、持ったとしても一分程度でしょうな」
「そうか」
その答えに満足したのか、水の神は笑顔で握手を離す。
「お前も中々に面白い。暇な時なら手ほどきをしてやろう」
「ありがとうございます」
「ではな。クォルテ我は帰るぞ」
「泊って行かないんですか?」
「言っただろ。ただ見に来ただけだ」
そう告げると、一瞬で神は姿を消した。
「それじゃあ全部話してもらおうか」
「国政は良いのか?」
「国王の帰還だぞ。パーティーの準備まで時間があるだろ」
結局アリルドに旅に出てからの全てを話すことにした。
ネアンとの出会い、特級の魔獣討伐、ルリーラが闇の神に攫われたこと全てを話すと流石にアリルドも呆れていた。
「そんなことがあれば、出発の時よりも人数が倍になるか」
「納得してくれたならよかったよ」
その後はパーティーに参加し、この国の貴族連中との対談をし気が付くと月が天辺にたどり着いていた。
「やっと終わった」
「おかえり」
「お疲れ様です」
ようやく解放され部屋に戻ると、ルリーラとアルシェがベッドの上に二人で座り起きて待っていてくれた。
「別に起きてなくてもよかったんだぞ?」
「なんか眠れなくて」
「それでルリーラちゃんとお話してたんです」
「なるほどな」
二人とも帰ってきたことに盛り上がっているのだろう。
こんな時間まで貴族連中と言葉を交わせるほどに、俺のテンションは上がってしまっている。
「クォルテも早くこっちに来て来て」
そう言ってルリーラは自分とアルシェの間をポンポンと叩く。
「俺もか?」
「そうですよ、早く来てください」
アルシェも同じように間の部分を叩く。
「わかったよ」
部屋の中でも一際大きいベッドに座る。
俺達がアリルドに居た時に座っていた一際大きなベッドは変わることなくそこにあった。
「見た感じ二人のベッドはないみたいだけど」
「当たり前でしょ」
「そうですよ」
言われた通りに二人の間に座り、変わっていない弾力に感動しながら口にした言葉に二人が口を揃える。
「このベッドは三人のベッドだから」
「三人って」
確かに三人でこのベッドに寝ていたし三人でも十分な広さだが。
「みんなにも納得してもらいましたから」
「してもらったのか……」
フィルとかともかくミールまで納得させるとは、いったいどんな魔法を使ったのか。
「アルシェの熱弁は楽しかったよ」
「ルリーラちゃんも必死だったでしょ」
「ははは、そうかルリーラはともかく、アルシェもか」
その姿を見たかったと思いながら、みんなを起こさないように小さく笑う。
「私はともかくって何さ」
「そんなに笑わなくても」
「悪い悪い、くくく」
嬉しくて笑いたくもなる。
ここで出会った最初の時にあそこまで怯えていたアルシェが、熱弁をふるったそんなの嬉しくないはずがない。
「アルシェ」
「わかってるよ」
俺が喜んでいる間に二人が可愛らしく「えい」と声を出すと同時に俺に抱き付きベッドに倒れ込む。
いつも通りと言えばいつも通りの行動。
二人が抱き付いてくる感触。
片方が包み込むような柔らかさにそれには劣るが確かに柔らかい感触。
「何するんだよ」
「たまにはいいでしょ?」
「いいですよね?」
口では言い返しながらも別に振りほどこうとは思っていない。
この感覚が懐かしく感じるのはきっとノスタルジーなんだろう。
「わかったよ。今日だけな」
「流石クォルテ」
「流石って何が流石なんだよ」
「なんだかんだ言って、私達を受け入れてくれるところですよ」
二人はこちらがつられて笑ってしまいたくなるほどに蕩けた笑顔だった。
「今日はこのままでいいから寝ろ」
「もう少し話そうよ」
「そうですよ。たまには一緒にお話ししましょう」
「アルシェもか、しょうがない少しだけだぞ」
それからしばらく他愛ない話を続けた。
アルシェと出会ってから今までの話。
例えばネアンと会った話、例えばフィルと会った話、例えば魔獣と死闘をした時の話、例えばルリーラとミールが戦った話。
お互いに経験した昔話はどれも大変でどれも楽しく心に残っている。
そんな思い出を話していると隣でルリーラの寝息が聞こえ始める。
「寝ちゃいましたね」
「そうだな」
穏やかな寝顔で俺の腕に抱き付くルリーラの寝顔を、アルシェと二人で堪能する。
「クォルテさん」
「なんだ」
不意にベッドが軋みアルシェが俺の上に乗る。
お互いの体を重ねるようになったおかげかアルシェの色素の薄い端正な顔が近くなる。
真っ白な肌にはシミ一つなく真っ赤な目が俺を捕らえる。
「ルリーラが起きるぞ」
「そうなったら素直に離れます」
覆いかぶさるアルシェは声を潜め俺の耳にささやく。
果実の様な甘い匂いが俺の鼻腔に触れる。
「少しだけ、このままでもいいですか?」
「今日だけならな」
「ありがとうございます」
アルシェの足が俺の足に絡む、肌が密着しアルシェの体温を感じた。
体の収まりが悪いのか、もぞもぞと動き肌と肌が擦れ合うたびに背中がゾクゾクと粟立つ。
「クォルテさん」
「どうした?」
「私を、クォルテさんの奴隷にしてくださり、ありがとうございます」
感謝の言葉を紡ぐアルシェが照れているのは、わずかに触れている頬から熱となり伝わる。
「喜んでもらえてよかったよ」
「クォルテさん」
「今度はなんだ?」
「どれだけ旅をしても、私はクォルテさんの事が大好きです」
「そうか」
その言葉に明確な返事はしない。
アルシェがどれだけ魅力的でも蠱惑的でもまだ返事はしない。
「まだ応えてくれないんですね。結構勇気がいるんですよ。好きだって言葉にするのは」
「知ってる」
その言葉が軽くないことは重なる鼓動が教えてくれる。
アルシェの破裂しそうに大きくなる鼓動は早鐘の様に速度を上げる。
それでも俺はまだ答えを出す気はない。
「それでもいつかきっと……」
疲労が限界を迎えたのか、アルシェも小さく寝息を立て始める。
「おやすみ二人とも」
二人の頭を一度ずつ撫で俺も瞼を閉じる。
眠気はすぐに訪れた。




