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武道大会を終えて

「ふんふんふん」


 上機嫌に鼻歌を歌うルリーラとともに泊っている部屋に戻る。


「お帰りなさい」

「おかえり」

「おかえりなさい」

「パパママおかえり」


 アルシェが最初に気付きフィルとミールが続きセルクが全力で抱き付いてくる。


「ただいま」


「ルリーラちゃん元気だね」


「刀貰ったの」


「かたなってその剣のこと?」


「ネアンから作ってもらったの」


 その言葉に反応するのはアルシェだけだった。

 驚いた様子で俺の方を向く。

 それに俺が頷くとアルシェはルリーラに詰め寄った。


「見せて貰ってもいい?」


「いいよ」


 何のことかわかっていないフィル達は。ただこの成行を見守っている。


「凄い綺麗、本当にネアンさんみたい」


「でしょ」


 妖艶で綺麗、その上どこか少し危ない雰囲気はネアンと似ていた。

 その言葉にルリーラは誇らしげに自慢する。


「ネアンっていうのは兄さん達がアインズで出会った精霊ですよね?」


「そうだ」


 なぜミールが知っているのかは空気を呼んで黙っていたことに免じて聞きはしない。


「あたしは知らないから聞きたい」


「わかったよ、少しだけ話してやるよ」


 それから俺達はアインズで会った時のことや、自分の事を懐かしむように話気が付くと夜もだいぶ更けみんなが寝静まる。

 俺はそれぞれのベッドで寝息を立てるみんなを見ながら眠気が来るのを待っていた。


 アリルドに戻った後どうするかな、予定通り土の国と風の国を巡った後はどうするか……。

 その前に馬車ももう少し大きくしないといけないよな。

 全部で六人の大所帯になってしまった。

 それにこの辺りを旅して多少の防寒防熱の対策も必要なのもわかったしな。

 誰かその辺に詳しい人がどこかに居ないものか。


 そんな今後についての思考中に扉がノックされた。


「開いてるぞ」


「失礼する」


「は?」


 入ってきたのはサレッドクインだった。

 しかし驚いたのは来訪者ではなく来訪者の来ている服装だった。

 サレッドクインの来ていたのは服としての体を成していない透けているワンピースと申し訳程度の下着だけ。

 月明りからでもサレッドクインの肌と意匠のこらされた下着が視認できてしまう。

 そのワンピース以外は来ていないサレッドクインはそのまま俺の寝るベッドに近づく。


 ギシっとベッドを軋ませながらサレッドクインは乗り俺に近づいてくる。


「何の真似だ?」


「……」


 サレッドクインは無言のままベッドを軋ませ俺に近づいてくる。

 一歩一歩と近づき端正に整った顔が近づく。


「おい」


 問いかけにも答えず辛うじて素肌を隠していたワンピースを脱ぐ。

 サレッドクインの裸体を隠すものは華美ではないが美しい刺繍のされた下着のみ。

 無言で下着姿のまま馬乗りの姿勢になる。


 下から眺める姿はとても艶めかしく映り、思わず生唾を飲んでしまう。

 戦闘に支障がないほどの膨らみ、訓練のせいかか余分な脂肪がない引き締まった腹部。

 俺の体を挟む脚部は女性らしい柔らかさの中に武芸者としての力を感じる。


「何か言ってくれないか?」


「僕に任せておけ」


「何を!?」


 馬乗りになった人間に何を任せればいいのか……。


「大丈夫だすぐ終わる」


「だから何が!?」


 暗さと服装で気づかなかったがサレッドクインの顔は紅潮している。

 呼吸も荒く手の先端がわずかに震えている。

 震える手を後ろに回し下着を取ろうとする。

 しかしそこが限界だったようだ。


「やっぱり無理!」


 突然サレッドクインは脱ぐのをやめ顔を覆う。

 何かを思っていての暴挙だったのだろう。

 篭絡か色仕掛けかそんな所だったんだろうな、でもやっぱりそこまではできなかった。

 そんな所だろう。


「恋敵の子供は孕めない」


「そこまでする気だったのか」


 行きつくとこまで行こうとしていたとは思ってもいなかった。


「だって仕方ないだろ、父にお前と一緒に居ろと言われたんだ」


「それがどうしてこんな暴挙に出ることになったんだ?」


 話のつながりが全く見えないことに軽く頭痛がしてくる。


「一緒に居ろとは子を成して生涯ともにあることだろ?」


「ああ……、そういうことか……」


 頭痛が増してきた気がする。

 こいつ戦いに関しては凄いがそれ以外は壊滅的か……。

 蝶よ花よと育てられるってのは聞いたことあるけど剣よ戦よと育ってきたのか。


「どうかしたのか?」


 居合の才が無ければこうはならなかったんだろうけどな。

 家柄に整った容姿に引き締まりながらも女性らしい肉体、真直ぐで純真な心凛とした雰囲気。

 女として普通に育てば引く手数多だったろうにな。


「頭痛がするのか? 旦那様」


「いや、大丈夫だ。……って旦那様?」


「不本意ながら恋敵とはいえ一国の主に嫁ぐのだ呼び方もそれ相応にせねばならないだろう」


 一国の主ってそんなこともバレて……、神様もいるんだしバレてて当然か……。

 どうやら火の神は自分との噂を消すために俺を売ることを決めたらしい。


「サレッドクイン待て」


「僕の、いや、私のことはサラと呼んでくれ家族はそう呼ぶ」


「俺とお前は家族じゃないからな」


「わかっている、ぼ、私はまだ婚約をしていないからな」


「そうじゃない。それにウィルコアさんが言っているのはそういう意味じゃないからな」


「ではどういう意味だ?」


「ただ旅をして強さや一般常識を学べって意味だろ」


「しかし女であるぼ、いや、私も一緒に旅するということは」


「もう面倒だから僕でいいよ」


「すまない、女である僕が一緒に行くということは同衾するということだろ?」


 変なところで変な知識を晒してくれるらしい。


「それはつまり僕が旦那様の夜伽の相手をすると言うことだろ?」


「待て待て俺は今までルリーラ達と一緒に旅をしてきたがそんなことしたことないぞ?」


 襲われかけたことは数えられないほどにあったけど……。


「聞いた話ではルリーラ、アルシェ、フィルは奴隷だ。ミールは従妹でセルクは娘。旦那様の性欲の発散はしても愛の営みはできないだろ」


「奴隷じゃない、三人共俺の好きな女性だ」


 流石に今のは聞き逃せない怒気を込めてサレッドクインに言い放つ。

 奴隷とは役職で人と違う種族ではない。

 そこだけは再戦してでも認めさせないといけない。


「二度と侮蔑の意味で奴隷と使うな。ルリーラもアルシェもフィルも立派な人間だ」


 重ねて強くサレッドクインの言葉を否定する。


「そういう考えなのかなら合わせよう。旦那様の思想を知らなかった僕の失言だ申し訳ない」


 これ以上は言っても無駄か、こいつはそういう風に育ったんだろう。

 奴隷として虐げられる者達の悲惨な闇の底を知らない。

 底冷えするほどの視線を送るがこいつは何も感じていないようで話を続ける。


「それはそうと一緒に旅をするならそういうこともあるだろう。その時に子を孕まないとも限らないではないか」


「知るか」


 俺は収まらない怒りを一言に込めた。

 その思いが届きはしていないようで凛とした姿を崩さないままサレッドクインはベッドから下りる。


「どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。今日は帰ることにするよ」


「俺ももう眠い。とっとと帰れ」


「ではまた明日伺うとしよう。お休みなさい旦那様」


「はぁー」


 陰鬱な思いを抱いたままベッドに倒れ込む。

 火の神がすんなりとルリーラ達を受け入れていたため忘れていたが、火の国で奴隷の地位は低い。それこそ今みたいに人として扱われないほどに。

 だからこそ火の魔法を使うアルシェではなくミールを向かわせた。


「クォルテ?」


 月明りだけが照らす室内でルリーラが立ち上がり俺のベッドに向かってくる。


「起きてたのか?」


「起きた。結構声大きかったよ」


「じゃあ、フィル辺りも起きてるのか?」


「どうだろ、フィルは寝てるのか起きてるのかわかりにくいから」


 規則正しく聞こえる寝息の判断は難しい。

 ルリーラでもわからないならもうお手上げだ。


「よいしょ」


「なんで入ってくるんだよ」


 ルリーラは何も言わないで、俺のベッドに潜り込んでくる。

 ルリーラの体温が触れると、不思議と苛ついていた気持ちが少しだけ落ち着いた気がする。


「ありがとう」


「何がだよ、俺は何もしてないぞ」


 奴隷の話とわかっていてもわざと知らないふりをする。


「わからないならいいよ」


 そう言って俺の腕を抱く。

 じんわりと温かいルリーラの熱が腕から俺に伝わり冷たい感情がゆっくりと溶けていく。


「頭、撫でて欲しい」


「催促とか珍しいな」


 そう言いながら俺はルリーラの頭を撫でる。

 艶のある柔らかい髪に触れる手が心地いい。


「闇の国にいた間の分」


「そうか、それなら仕方ないな」


「私はサレッドを一緒に連れて行ってもいいと思うよ」


「その話は――」


「みんな好意的過ぎるよ」


 その言葉に撫でる手が止まる。


「奴隷は奴隷。どう思うかは人それぞれだよ」


 視線をルリーラに向けるとルリーラもこっちを見つめていた。

 碧の瞳は輝きを持って静かに見つめる。


「嫌な思いをさせない為って気持ちは本当に嬉しいんだよ」


 優しく笑う。

 嘘はない本当の笑顔がルリーラの顔に浮かぶ。


「でも世界を知るって綺麗なところだけじゃないよね。あの地下施設も世界の一つ」


 胸が締め付けられる。

 過去を思い出してしまう。

 人権のない人体実験の数々を知っている。


「良い所も悪い所も全部見たい。私はもう大丈夫だよ」


「本当か?」


「クォルテは私達に過保護すぎるよ」


 ふんわりと笑顔のルリーラの顔がわずかに歪む。


「そっか、わかったよ」


「涙もろいの?」


「は?」


「泣いてるよ」


 頬に触れ初めて自分が泣いていることを知った。

 目がにじみ熱い。

 熱を持った涙は枕に流れ小さな染みを作る。


「泣き虫だな、クォルテは」


 そう言ってルリーラは俺の頭を撫でる。

 小さく温かい手が頭に触れると涙が余計に止まらなくなってしまう。


「もう寝よう、明日はアリルドに帰らないといけないんだよ」


「そうだな」


 再び俺の腕を抱くルリーラを抱きしめる。

 俺の体にすっぽりと納まるルリーラは温かくじんわりと俺を温めミルクの様な温かい匂いが俺を包み込む。

 俺は安らぎに身を預けそのまま意識を手放した。

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