武道大会 本選
「凄かったねクォルテ」
控室に戻るとルリーラが駆け寄ってくる。
「流石に疲れたな」
魔法の連続と状況の確認は思いのほか体力を使った。
今後こんな興行には参加しないと心に決める。
「それでルリーラの試合はいつだ?」
「一回戦目だ」
エキシビジョンの前に会ったゴルトリアルが代わりに教えてくれる。
「そうなのかじゃあ応援しないとな。対戦相手は誰なんだ?」
「このおっちゃん」
ルリーラが指さすのはゴルトリアル。
「そうなのか頑張れよ」
ゴルトリアルには申し訳ないが、結果が見えてしまい不憫に感じてしまう。
ゴルトリアルは確かに大きく強い、並大抵の相手なら倒せないだろう。
何か特殊な何かを持っているなら話は別だがそんな様子もない。
「どうした? そうかルリーラが心配なのだな安心し。ろ大きな怪我は負わせないさがっはっは!」
「ゴルトリアルは魔獣と戦えるか?」
「前にヴォールでの遠征で大型を一度倒したことがあるな。あれは苦戦した」
やっぱりそれなりに強い。
苦戦してでも魔獣を倒せるなら確かに強いが、ルリーラには及んでいない。
何か技があることに期待しよう。
「ルリーラ選手、ゴルトリアル選手入場してください。
「はーい」
何の気なしにルリーラが出て行きその後をゴルトリアルが付いて行く。
そして去り際にゴルトリアルは俺の肩に手を置く。
「強ければ試合に勝てるわけじゃないさ」
「えっ?」
静かな勝利宣言。
さっきの陽気な感じではない確かな自信を持った言葉に、俺が何かを返す前にゴルトリアルは控室を出て行った。
『さあ、先ほどのエキシビジョンで盛り上がった会場のボルテージは未だ冷めておりません! 寧ろ更に熱くなっている!』
実況の言葉を通路で待つルリーラの隣で聞く。
戦闘用に来ているいつものシャツとホットパンツ。
武器を持たずに素手で勝負に挑む。
「なんかこうワクワクするね」
会場の空気に当てられたのか、そわそわして落ち着かない様子のルリーラはその場で軽く体を動かす。
「あのおっちゃん私よりも弱いよね」
「そうだな」
自分の力量を把握できているルリーラは淡々とそう呟く。
「でも私は本気でやるよ」
「それがいい」
後でゴルトリアルに謝らないとな。
侮ってしまったこと、正直そんな気はなかった。
ただ心配をしてしまったのだ、戦士に対して強い弱いではない戦いもあるのを知っていたのに。
さっきのゴルトリアルの言葉はそんな俺への一言だ。
『それでは選手の入場だ今大会一回戦目はなんと最小と最大の一戦! まずは今大会最大の選手ゴルトリアル・モルク』
「うおおおお!!!!」
闘技場に入るなり大声を上げての威嚇。
反対に居る俺まで震えるほどの声量で雄たけびを上げる。
その体の大きさと相まって巨大な猛獣を思わせるパフォーマンスに会場が更に沸き立つ。
『続いての入場は今大会最年少にして最小クォルテの右腕ルリーラ!!』
「ほら行って盛り上げて来い」
「うん!」
楽しそうに闘技場に向かう。
ルリーラの登場に周りの観客は盛り上がるのではなくざわつく。
最年少で最小の選手。実物を見ると流石に驚きを隠せないのだろう。
向かい合う二人の身長差は倍くらい違う。
『これはぜひともルリーラちゃんには頑張って生き延びてもらいたい!』
そして本人は不本意だろうが「ルリーラ!」と応援が始まってしまう。
「大人気だなルリーラの力を知らないで」
「だからごめんねおっちゃん」
「構わんよ、俺は俺で本気で相手をする」
二人の会話が辛うじて聞こえてきた。
お互い決着を悟ったうえで構える。
『二人ともやる気満々だ! それじゃあ武道大会一回戦開始!!』
その合図とともにルリーラは一歩でゴルトリアルの懐に入り込む。
「真直ぐ打つから」
「防いでで見せるさ」
一言言葉を交わすとルリーラは全力で殴る。
音を置き去りに放たれた一撃をゴルトリアルはしっかり両手で受け止める。
パンと手を叩いた様な音が聞こえた時には、ゴルトリアルの姿は消えていた。
一瞬の静寂の後、壁からわずかに崩れる音が聞こえ、観客の視線が全部そちらに向く。
そこには、ルリーラの一撃に耐え切れず吹き飛ばされたゴルトリアルの姿があった。
「……」
観客は何が起こったのかを理解できずに沈黙が生まれる。
観客全員がゴルトリアルを見つけても当の本人は動くことすらない。
『け、決着です! 何が起こったのかもわからないままルリーラ選手の勝利です!!』
あっけにとられている観客の代わりに、俺が拍手をする。
その音に釣られ一人また一人と拍手をし、やがて大きな音に変わる。
そしてようやく会場の思考が追いつくと大きな歓声が起こる。
その歓声にルリーラが恥ずかしそうに頭を下げてこっちに戻ってくる。
「見てた?」
寄ってきて興奮が冷めやらぬ様子で俺の手を握る。
「辛うじてな早かった」
「うん、頑張った」
恥ずかしそうな笑顔でいるルリーラの頭を撫で一度控室に戻る。
「ルリーラ流石だな」
「おっちゃん大丈夫?」
驚いたことに俺達が戻ってくるわずかな時間でゴルトリアルは控室に戻ってきていた。
「このタフさが売りだからな。……いてて」
元気に振舞おうと動くが、やはり痛いものは痛いらしい。
「無理すんなよ、ルリーラの本気の一撃だ」
耐えきれるのは極わずかだろう。
「どうだ、俺は強かったか?」
「うん。凄く強かった」
お世辞でもなくしっかりと賛辞を贈る。
ゴルトリアルは本気でルリーラの一撃を受けきるつもりだった。
避けるでも躱すでもなく真正面からベルタの一撃を受けきった。
それが弱いはずないことはルリーラも俺も知っている。
「そうかならよかった」
そのまま満足気に頷いたゴルトリアルはやはり体が辛いらしく、椅子に座る。
「じゃあこのまま優勝してくれ」
「わかった」
二人は握手をし健闘をたたえ合った。
そして日も落ちて決勝戦が始まる。
『いよいよやってまいりました! 参加者三十二名の頂点を決める決勝戦!』
実況の言葉に観客は今までにないほどの盛り上がりを見せる。
『それじゃあ早速決勝戦を行う二人を紹介だ!』
実況の発言ごとに観客の盛り上がりは増していて、段々俺は呆れてきてしまう。
日が昇ったあたりから観客席で見学しているのだが周りは酒の匂いが充満している。
中には酔いつぶれて倒れている中酔っ払いの歓声は時間と共に過熱し続ける。
『それでは一人目! 小さな体に巨人の力を詰め込んだ最小にして最強の刺客! ルリーラ!』
地鳴りにも等しい歓声に俺は耳を塞ぐ。
呼ばれたルリーラが闘技場に現れ俺を見つけて手を振る。
『最強の刺客と向かい合うのは、最速の居合。無念にもクォルテに負けた復讐者サレッドクイン・ヴィルクード!』
再び耳が地が裂けるほどの歓声が響きサレッドクインが闘技場に現れる。
ここまで二人とも一撃のもとに敵を倒して来た。
そんな二人は闘技場の真ん中で向き合う。
『両者にらみ合いが続いている、気合いは十分だ! それでは決勝戦開始!!』
実況の言葉にお互いが構える。
ルリーラは左手を前に利き手の右手を加速させるために後ろに持って行く。
サレッドクインは左足を引き剣のためを作り右手を剣の柄に当て居合とやらの準備をする。
観客も実況もこの闘技場に居る人間全員が固唾をのんで見守る。
数秒間じっくり見合い最初に動いたのはルリーラだった。
「やあ!!」
体全体を使った渾身の一撃。
ルリーラの拳が消えた次の瞬間にサレッドクインの剣が姿を消す。
それを狙っていたのかルリーラの手が動きを止め後ろに飛んでいく。
「なっ!」
サレッドクインには意外な一手だったのか、振り切った剣をしまうのがわずかに遅れる。
そこを見逃すはずのないルリーラは着地の一歩を移動の一歩へ変えサレッドクインに突進する。
「ぐっ!!」
倒す一撃ではなく制するための一撃。
抱き付くようなタックルの全身を襲う衝撃にサレッドクインは剣を地面に落とす。
「しまった!」
「これで終わりだね」
押し倒すでもなくルリーラは、サレッドクインを押し込み止まることなく壁にたたきつける。
「かはっ!」
背中の強打にサレッドクインは肺の空気を全て吐き出してしまう。
「……ま、だ」
負けを認めないサレッドクインは、体格差を利用して上からルリーラを抑え込もうとするがダメージが残るサレッドクインの速度は遅く。
ルリーラはわずかな距離を取る。
当然逃げたわけではなく攻撃の間合いを取っただけ。
戦闘の当初と同じく右手を引いた構えから一撃を放つ。
空気の壁を叩くような音と共に繰り出す一撃サレッドクインの胸当てに当たる。
「――っ!!」
音にならない声を上げそのまま倒れ込む。
それをルリーラは優しく抱きとめる。
息を着かせぬ一連の攻防に初戦と同じように闘技場には静寂が起こる。
勝利宣言がないままの時間を俺は拍手で破る。
それに呼応し拍手は広がりようやく実況も声を発する。
『思わず見入ってしまいました! 実況として申し訳ありませんが何が起こったのかわかりません! 気が付くとサレッドクイン選手が壁にめり込みルリーラ選手に倒れ込んでいました!』
戸惑いながらも実況を始めるがここにいる半分以上は何が起こったのかわかってはいないだろう。
それほどに早くすさまじい攻防だった。
『よくわかりませんがルリーラ選手の優勝です!』
実況の宣言で今回の武道大会の優勝者はルリーラに決まった。
「二人ともありがとう」
表彰も終わり、俺達は再び総帥に呼び出された。
「サレッドは大丈夫?」
「あれくらいでどうにかなる鍛え方はしてないさ」
やりすぎたんではないかと心配するルリーラに総帥は優しく微笑む。
「まさか二人があそこまで強いとは思わなかったよ」
「ありがとうございます」
褒められ謝辞を告げる。
「当然だ、ベルタの群れに突撃し全てを退け神の作った魔獣を打ち破った連中だぞ」
「まさか。と言いたいところだが今は寧ろ納得してしまうな」
「最後のはヴォール様の神槍があったからですから」
俺達だけだったらあの魔獣には勝てなかっただろう。
強化魔法もかけてくれていたみたいだし。
「ウィルコア賞品を渡してやれ」
「そうでした。これが優勝賞金。それでこちらが私からの謝礼だ」
「ありがたく頂戴いたします」
いくら入っているのかわからない金貨袋と一振りの剣を頂いた。
燃える様な真っ赤な細身の鞘に収まった剣。
抜いてみると普通の剣とは違う。
ルリーラやサレッドクインの持っている片刃の剣、そして二本の剣とは全く違う刃の模様。
見る者を虜にしてしまうほどに美しく波打つ紋は恐怖すら感じてしまう。
「この剣は?」
「ルリーラのために我が打った」
「ウォルクスハルク様が!?」
じゃあ、これも神器か……。
段々と自分の中で神器の価値が下がっていく気がするが当然そんなことはない。
「勝手だがお前達の持っている精霊結晶で作らせてもらった」
「そうですか」
ネアンの精霊結晶でできた綺麗な剣。
言われれば確かに妖艶さという意味では確かにネアンそのものだろう。
「それと、それは刀という種類の剣だ」
「刀ですか」
「片刃で波のような紋が刃に彩られている剣をこの国では刀と呼んでいる」
じゃあルリーラとサレッドクインの持っているのは刀になるのか。
「そしてこの国の慣習で刀には名前を付けている。本来は作った者が名を決めるが今回はお前達が決めろ」
「そういうことらしいけど、ルリーラどうする?」
「ネアンがいい」
「そうだな」
一時だけだが仲間になった精霊の名前。
ルリーラはネアンに懐いていたしこれは良い物を貰った。
アリルドの倉庫で眠るよりもはるかに有益な使い方だったろう。
「じゃあ、ネアンはルリーラが持ってろ」
「うん」
嬉しそうに精霊刀ネアンをルリーラは抱きしめる。




