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武道大会 エキシビジョン

 あらかたの準備を終えた俺は、言われた通りに武道大会の会場にルリーラと共に足を運んだ。

 簡易的なテントがあり、その入り口に受付がありそこで参加の意思を示すらしい。

 自分とルリーラの分を登録しテントに入る。


「凄いおっちゃんみたいなのがいっぱいいるね」


「武道大会だしな身体能力が高いに越したことはないだろう」


 控室には巨漢で黒髪の大男が半分くらいを占めていた。

 武器を持たない人は体が大きく、武器を持つ人はそこまで筋肉をつけていない。

 そうなるとやはり茶髪や子供ルリーラは目立ってしまう。


「おお、お前がウォルクスハルク様の婚約者か」


 近くに居た一人の熊の様な大男が俺達に話を振ってきた。

 もじゃもじゃとした黒髪に大量に髭を生やしたいかにも強いですという風貌だ。


「仲がいいのは認めるが婚約者ではないからな」


「婚約者予備軍ってところか」


「友達くらいだよ」


「本当かい? おっとこれ以上はそっちのお嬢ちゃんに睨み殺されちまうな」


 見るとルリーラは殺気と怒気を孕んだ視線を大男に向けていた。


「やめろって」


「痛い」


「この人も冗談で言ってんだよ、大半の人は噂なんて信じてないんだよ」


「でもムカつく」


「素直な嬢ちゃんだな、あんたの娘さんか?」


 俺が不機嫌なルリーラの頭を撫でるとそんな風に言われてしまう。


「保護者なのは確かだが娘じゃないな」


「感心だな、あんたの応援に来てくれてるんだろ?」


「それは違うな、俺はエキシビションに出て、こっちのルリーラは大会に出る」


 俺の言葉に大男は大声で笑い始める。


「がっはっは、なるほどな怪我だけは無いようにするんだぞ」


 その瞬間ルリーラの顔が代わる。

 怒りを飲み込み冷静な表情を表に出し静かに圧を飛ばす。

 近くに居る俺でも冷や汗が垂れるほどに戦意をむき出しにする。


「おじさんには絶対に勝つから」


 静かな殺意を大男に向けると、流石にルリーラを敵と認識した大男は頷く。


「悪かったな嬢ちゃん、いやルリーラお前は確かに戦士だ。侮ったことを詫びる」


 大男は素直に頭を下げる。

 ルリーラの放つ気迫にここで戦うにふさわしいと認めた。

 その証として先ほどのにこやかな表情から誇りある戦士の顔を見せる。


「俺の名前はゴルトリアル・モルクだ」


「ルリーラ」


 名前を交わし握手をする。

 戦士同士の硬い握手を見ながらルリーラの成長を喜んでしまう。


「認めはしても俺が勝つことは変わらないがな」


「認めて貰っても私が勝つよ」


 二人が空気を緩め笑いあう。

 研究者の俺からしたら珍しく羨ましい光景。

 二人は適当に話して分かれてしまった。


「いい人だったな」


「うん。でも負けないけどね」


 ルリーラの気合も上々の様で一安心だ。


「それとルリーラこの大会は盛り上げることが大事だからな」


「うん? 戦って倒せばいいんでしょ?」


 やっぱり興業の事がわかってないか。

 それはしょうがないか。


「俺のエキシビションちゃんと見てろよ。客を沸かせて見せるから」


 ただの戦闘や技術を見せる場とは違うのが興業だ。

 ただ強いだけが戦いじゃないってことをルリーラとサレッドクインに教えてやろうじゃないか。

 そして時間となりエキシビションとして俺とサレッドクインは闘技場に呼ばれる。


『さあ、始まりました今年度の武道大会! 今年のエキシビジョンにはとんでもない二人が選ばれたぞ!』


 狭い廊下で待機していると、実況の声が風の魔法で増幅され闘技場全体に響き渡る。

 こういうのは初めてだな。研究の発表とかだともっと静かに始まるしな。

 慣れない空気に呑まれかけながらも俺は自分が呼ばれるのを待つ。


『長い実況なんて迷惑だよな、それじゃあ最初に入場するのはこいつだ! 火の神の心を射止めた度胸ある男! 水の魔法使いクォルテ・ロックス!』


 説明され通路の奥で炎が上がるのを合図に闘技場に出る。

 天井の無い雨ざらしの広い闘技場は人であふれていた。

 一際目立つ場所には火の神と総帥、そしてアルシェ達もそこに呼ばれていた。

 みんなの姿を確認しながら硬い土の上で歩みを進める。

 いつもの戦闘服に貸し出された一振りの剣。


 こういうの結構滾るな。


 高ぶる気持ちを抑えながら静かに闘技場の真ん中に立つ。


『続いての入場は火の神の婚約者は自分だと名乗りを上げた強者! こいつの刃は光をも断ち切る! 光速の剣士サレッドクイン・ヴィルクード!』


 サレッドクインが紹介されると炎の中から彼女は現れる。

 昨日の夜と同様に髪を後ろでまとめ、二つに分かれた浴衣を着て左わきに刀を携えている。

 一歩一歩と前に進み俺の前で止まる。


「逃げなかったのは褒めてやる」


「お前の鼻っ柱をへし折ってやるから覚悟しとけ」


『両者睨み合っております! お互いに気合は十分だ! それならこれ以上の実況は野暮ってもんだ! それじゃあエキシビジョンマッチレディー、ゴー!!』


 開始の鐘が鳴ると同時に俺は一気に後ろに下がり、サレッドクインの足元を悪くするために水を打ち込む。


「無駄だ!」


 水が地面を濡らした直後にサレッドクインの足元は燃えてすぐに乾く。


「水よ、泡よ、強固な泡よ、会場を埋めつくせ、バブルパーティー」


 俺の魔法は大きな泡が次々と湧き出て会場を埋めていく。

 沢山の泡は互いにぶつかり会場を不規則に移動する。


「これが何だと言うんだ?」


 サレッドクインは自分に向かってくる泡を剣で切ると、泡が割れ空気が噴出する。


「なっ!?」


 噴出した空気はサレッドクインを吹き飛ばす。

 勢いは小さいのに当てたためすぐに体勢を立て直す。


「運が良かったな、この泡には空気がたくさん入ってるんだ。下手に割るとまた吹っ飛ぶぞ」


 地面を水浸しにしても無駄なら次の手段はこれだ。

 あの技は早いが闘技場みたいな障害物のない場所でこそ強さを見せる技だ。

 それならこうして障害物を作ってやれば抑止力にはなる。


「小賢しい手を!」


 泡に触れないようにジグザグに動くサレッドクインの動きはわかりやすい。

 それとこうして上下に移動されるのはあの技にしてみればやりにくいはずと、俺は泡の上を移動する。


「卑怯者め!」


「お前も泡の上に乗ればいいだろ?」


「いやここで結構だ」


 そう言うと俺の乗っている泡に目掛けて火を放ってくる。

 当然それも想定済みだ。


「それでどうにかなると思ってるのか?」


 持っている剣で乗っている泡の側面に穴をあける。


「可燃性抜群の空気だ」


 火は泡から噴き出る空気に触れ爆発的な炎となってサレッドクインを襲う。


「くっ!」


「どうした? 来いよ相手になってやるからよ」


 手玉に取られているとわかっていても動かなければいけない状況に、サレッドクインは怒りを顕わにする。


「こんなふざけた戦いでいいと思っているのか!」


「お前こそ、ここを勝手に自分の舞台にしてんじゃねえよ!」


「何を言っているここは技と技、力と力がぶつかる祭典だぞ!」


 ズレた答えに俺は頭を掻いてしまう。


「返す言葉は無いようだな、それならば僕と真面目に――」


「確かにそろそろ観客も飽きてきたかもな」


 自由に動く泡の攻撃はもはや飽きられたらしく観客の反応は鈍くなった。

 それなら次の段階に移動する時だな。


「水よ、雨よ、会場に潤いをもたらせ、レイン」


「雨?」


 呪文と共に会場には突如雨雲が生まれポツポツと雫を落とす。


「さあ、次の舞台に移動しようか」


「この程度で足止めができると思っているのか?」


 サレッドクインはぬかるみに足を取られる。


「この雨は足場を濡らす為か」


「それもあるが舞台装置だと思ってくれ」


 火の魔法で足場を戻すサレッドクインは再び抜剣の準備をする。


「居合、焔!」


 火の魔法との複合技、抜剣の速度で放つ燃える斬撃が一直線にこちらに飛んでくる。

 泡に触れると火の斬撃は引火し爆発する。


「火を飛ばせば泡が弾け吹き飛ばされる。それなら遠くから吹き飛ばされない火で泡を壊せばいいだけだ」


「水よ、龍よ、水の化身よ、わが敵を喰らい貪れ、水の龍アクアドラゴン」


 短文詠唱の弱めの水の龍は雨雲を突き抜けてサレッドクインに向かって進んでいく。


「水よ、泡よ、」


「これ以上詠唱をさせると思っているのか」


 呪文の途中に割り込むように駆けてくるサレッドクインを水の龍が襲いかかる。


「ちっ!」


 水の龍はサレッドクインを追い牙でかみ砕こうとする。

 それを抜剣で向かい打ちながら水の龍の力をそぎ落とすが、降りしきる雨によってすぐに回復してしまう。


「雨よ、水の姿を消せ、ウォーターミラージュ」


「消えた? ぐっ……」


 雨によって見えなくなった水の龍と泡にサレッドクインも観客も驚く。


「不可視の攻撃を避けれるか?」


 はっきりと悪い表情と暗い声で声を出す。

 勝ちを譲る気はないが、ただ圧倒するのは面白みに欠けてしまう。

 視覚的に立体的に観客に見せつけないといけない。


「くそっ!」


 かろうじて反応できるくらいに徐々に水の龍の力を落とす。

 反応できているそのタイミングで水の龍の尻尾で一番風力のある泡に向かってサレッドクインを吹き飛ばす。


「しまった!」


 サレッドクインが気づいた時には、避けることのできないほどに泡は近づき破裂し彼女を天高くに舞い上げる。

 これでちょうどいいはずだ。

 水の龍をサレッドクインの真下から追撃させる。

 気づいてくれよ。


「見えた!」


 よし!

 俺の目論見通り、水の龍が俺の頭上で雨に当たららないように位置を調整し、雨が俺を隠しているという事実を見せる。


「はああ!!」


 気合い一線に水の龍を真っ二つに両断する。

 そこからサレッドクインは呪文を詠唱する。


「炎よ、爆炎よ、天を覆う黒き幕を焼き払え、フレイム!」


「水を火でどうするつもりだ?」


 俺は布石を打つ。散りやすい雨雲がさも頑丈なように言い張る。

 当然魔法は雨雲を焼き払う。焼き払われた雨雲は魔法の着弾した位置から散り散りになり、割れた先から日の光が闘技場を明るく照らす。


「どうだ! これでお前の技は全て破って見せたぞ!」


 そのわかりやすい演出は観客の心を掴んだらしく客席から歓声を上げる。

 もういいだろ?

 そんな思いを込めて火の神と総帥に目を向ける。

 それに気づいて頷いたのを確認する。


「素直に負けを認めたらどうだ!」


「ここからが本番だぞ」


「負け惜しみか」


 サレッドクインは腰を落とし抜剣の姿勢に入る。


「このままだと観客に醜いだろ」


 俺が指を鳴らすと、残っている泡が全てまとまり俺とサレッドクインを包み込み宙に浮く。

 部隊は闘技場から巨大な泡の中に移動する。

 そんな曲芸紛いの出来事に観客は拍手が送られる。


「また猪口才な!」


「相手の土俵に乗らないのが戦闘のやり方だ」


「この程度で」


 腰を落とし抜剣をしようとするが力を入れると泡は沈み得意の突進ができない。


「なんだこれは」


「お前対策の最後の部隊だよ。行くぞ!」

 軽く飛び泡の中で飛び回る。

 直線の動きしかできないがそれでも動きについてこれていないサレッドクインの目は必死に俺を追いかける。


「ちょこまかと」


 観客は俺が見せるアクロバティックな動きに歓声を上げている。

 そして俺は動くのをやめる。


「どこに消え――」


「後ろだよ」


「このっ……」


 振り向くのに合わせ持っていた剣で斜めに切る。

 沈むせいで威力は期待できないが、力任せで十分だ。なにせ俺は剣をサレッドクインにたたきつけようとしているわけじゃない。サレッドクインを地面にたたきつけようとしている。


「このくらいで、僕が負けると思っているのか」


「負けるさ。死なないまでも十分痛い」


 サレッドクインは泡に沈み続け、踏ん張りがきかず徐々に沈んでいくしかない。


「死にたくなかったら限界まで身体強化することだ」


「何を言って――」


 止めとばかりに身体強化を腕に込める。

 するとサレッドクインの足は泡を突き抜ける。


「何だと!?」


 一度開いてしまった穴からサレッドクインの体は押し出され、自分の体が開けた穴から漏れる空気の勢いはサレッドクインを背中から地面にたたきつける。


「っ!?」


 苦悶の表情で気を失うサレッドクインはそのまま起き上がれなくなる。


 俺も弾き出されたが、身体強化と水のクッションで事なきを得る。


 そして最後の仕上げに、未だに宙を漂う大きな泡は分裂し大小さまざまな泡に生まれ変わる。

 俺はそれに観客が気づいたタイミングで、指を鳴らし破裂させる。


「これは花火か?」


「見たことないからわからん」


 地面に倒れ動かないサレッドクインが天を仰ぎそう漏らす。


「本物はもっと綺麗なんだろうけどな」


「僕にはこっちも負けないくらい綺麗に見える」


 破裂した泡の破片は光に照らされキラキラと色を変えながら闘技場に降り注ぐ。


『サレッドクイン戦闘不能! エキシビジョンマッチはなんと、水の花火によって彩られながらクォルテの快勝だ!!』


 皆が水花火に見惚れている中実況の言葉が響き、その数秒遅れて観客は大歓声を上げる。


「楽しんでもらいえたか?」


 歓声の中起き上がろうとしないサレッドクインに手を伸ばす。


「凄く悔しい、結局僕は君に一撃も入れることができなかった」


 多少相手にも華を持たせることも必要だったなと反省し、いつまでも掴んでもらえない左手をどうしようかと悩み頬を掻く。


「でもとても楽しかったよ」


 晴れ晴れとした笑顔を向け俺の手を掴む。

 俺はその手を引き立たせてから観客に手を振る。

 更に大きくなる歓声を身に受けながら俺は控室に戻っていった。

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