噂と敵対
「今日は楽しかったか?」
「うん! あの赤いのが綺麗だった」
「でも普段は危ないから気をつけるんだぞ」
「はい!」
火の神は俺達を城まで送ってはくれなかった。神が人間を自分の家に呼んでいると噂になりたくないとのことで、俺達は裏の路地に降ろされた。
そして現在騒ぎに巻き込まれないように火の神がくれた地図を元に、路地裏を歩き城の裏口を目指し歩いていた。
「パパ、誰か後ろにいる」
セルクの言葉に俺は頷いた。
相手は気配を消しているのにセルクが気づけたことにに驚いたが、神と同じ力を持っているならそれも当然のことだ。
「うん、ただ気にしなくていい」
「そうなの?」
「うん。だから急いで帰ろう」
路地裏を歩いている最中なのに殺気も飛ばさなければ攻撃に移る気配もない。
それなら今日は下見と言ったところだろう。
寝床がばれるのは別に問題ない。
何しろ今寝床にしているのは火の神がいる城。
襲撃される可能性はない。
「パパが言うならそうする」
背後に気配を感じながら城にたどり着く。
「そうだ、セルクは先に帰っていてくれるか?」
やはりここは一度確認しておこう。
ルリーラの件もあるしできるだけ危険のありそうなことは潰しておきたい。
「わかった」
セルクは憲兵に挨拶をしながら城の中に入っていく。
これでセルクの心配はいらないな。
心配が必要なほどセルクは弱くないけど……。
そして俺は気配のある方向に歩いていく。
そのまま人気のない所まで行き気配に向かって声をかける。
「一人になったぞ。何か用があるんだろ」
「いい度胸だ」
路地裏から一人の剣士が現れる。
茶色の長い髪を一本に後ろで結び落ち着いた柄の浴衣で細身の体を覆う、浴衣は上下に分かれている珍しい形をしていて足の部分はわずかに広がりズボンの様になっている。
浴衣には厚めの胸当てと篭手に具足、帯には一本の細身の剣を携えている。
「お前の要件が気になってさ」
俺が挑発気味におどけると剣士は整った顔を歪める。
どうやらこの剣士は挑発され慣れていない、真正直な相手としか戦ったことがなさそうだ。
「やはり、お前では力不足だな」
「何の話かは知らないが、納得したなら付きまとうのをやめてくれるか、優男」
相手の軽い挑発に挑発を返してやる。
するとすぐに剣に手を添え戦う構えをする。
強いには強いけど弱いよなこいつ。
その構えは確かに凄い。日頃の鍛錬を感じられる構えだ。
だが、アリルドやヴォールであった魔獣退治の人達のような戦う上での強さが感じられない。
「切られる覚悟はあるんだな」
「切る覚悟がお前にあるならな」
憲兵志願者が通う特訓場の出身だろう。
力と技術を覚えるための特訓場の出身者にありがちなルールの中での強者だろうな。
「ほざいたな!」
剣に手を当てたままこっちに突進を開始する。
抜かないのか?
不思議な動きに後ろに飛ぶ。
「ふっ!」
抜剣した剣は驚く速さで俺に迫り咄嗟に体を折ったため、服を切る程度にとどまる。
こいつ早いな、それに今の抜剣の加速はなんだ?
一撃を外した剣士は二撃目を撃たずに再び納剣してしまう。
初撃の速さにも驚いたが一撃離脱の攻撃なことも驚いた。
「よく避けたな」
「この程度なら避けれるさ」
「次もできるといいな」
剣士はまた同じ構えをする。
腰を落とし剣に手を当てこちらに突進する構え。
二回目なら躱すことも難しくはないが、まだ何か隠しているのだろう。
さっきとは違い余裕の顔を見せている。
「水よ、剣よ、我が敵を断罪する刃となれ、ウォーターソード」
水の剣を作り俺も構える。
何とか初撃を受けきり隙を作りたい。
「やっと相手にする気になったのか?」
「少しだけな」
「では参る!」
掛け声とともにさっきと同じように突進してくる。
さっきと同じなら一直線のはず、抜剣した勢いのままに攻撃してくる。
それなら避けるのはこっちだ。
俺は攻撃の範囲外である鞘のある方に一歩踏み出す。
「ここだ!」
剣士の斜め後方から剣を振り下ろす。
「遅い!」
剣士は俺の動きを見て、踏み込んだ足を軸に即座に反転する。
その動きで俺の剣は空を切る。そして俺は無防備な状態のまま剣士の間合いに入ってしまう。
回避しないと。そのわずかな瞬間に、剣士は抜剣を終えていた。
さっきよりも早い!
気が付くと体の真横に剣は迫っている。
「くっ!」
体を魔力で強制的に動かせる。
体を捻り、踏み込み曲がっていた足を強制的に伸ばす。
不可能な動きに体が悲鳴を上げるが辛うじて薄皮一枚を切られるにとどまった。
「減らず口を叩いてどれほどかと思えばこの程度か」
「この程度相手に二発も外しているお前も同じだろ」
痛めた腹部と足を庇いながら一定の距離を取る。
「それがお前の戦い方ということか」
再び納剣し三度構える。
さっきよりも早いだろうな、それに今のでわかったが突進はあくまで間合いに入るための移動手段。
あの高速の一撃に必要な物じゃない。
そうでないとさっきの一撃の動きは納得できない。
さっきは確実に移動の力を一度止めた。
なら大事なのは鞘の方ということか。
「次で決める」
剣士は三度突進の準備を始める。
「確かにお前は剣は強いだろうな」
「手を引くということか?」
「何からかは知らないがこれは試合じゃないんだよ」
「それが何だというんだ」
「卑怯な手を使うぜ」
俺の魔力の高まりを感じたのか剣士は動こうとする。
しかしそれは上手くいかない。
「これは、水か」
「そっちが近づきたいなら近づかせない」
足を掬うわずかな水を辺りに撒く。
突然の水に剣士は戸惑う。
自分の間合いまで一足飛びで近づけないもどかしさが剣士から冷静さを奪う。
「水よ、氷よ、敵の動きを止めろ、アイシクル」
「魔法!?」
「言ったろ、試合じゃないんだよ」
足と剣を凍らせる。
そして自分の負けを悟ったのか動くのをやめる。
「俺の勝ちだろ」
「認めないぞ、こんな姑息な手段で勝って嬉しいのか」
「嬉しいさ。俺は生きてる」
俺の挑発に剣士は奥歯を噛み締めこちらをきつく睨む。
「それで俺を狙った理由はなんだ?」
「あの人はお前に相応しくない」
「あの人って誰の事だ?」
「ましてや水の魔法を使うお前とは合わないのだ!」
「水の魔法は合わない?」
この男は何を言っているんだ?
誰の事なんだ?
「明日祭りの催しで武道大会があるそこに必ず出場しろ! 神も見学に来る由緒ある大会だ、そこでお前に勝ち神にお前は相応しくないと知らしめてやる!」
「おい、何の話を――」
瞬間剣士は炎に包まれる。
こいつは火の魔法使いか!
炎が消えた時には剣士は姿を消していた。
「原因はさっきの噂ってことか……」
神に相応しくないってそりゃそうだろ。
まさかあんな噂でこんなことになるなんて思っていなかった。
体のあげる悲鳴を聞き入れ俺はしばらく休むことにした。
「ただいま」
「パパ、お帰り」
帰ると同時に駆け寄ってくるセルクを抱き止めると腹部と足に痛みが走る。
「つっ……」
「クォルテ大丈夫?」
「ああ、ちょっと命を狙われただけだ」
「大事じゃないですか!」
寄ってきたアルシェの肩を借りベッドまでたどり着く。
「そんな大袈裟なことじゃないんだけどな」
「そんなことではありません」
「アルシェの言うとおりだよ。ご主人に死なれたら私達はどんな男に買われるかわかんないんだよ」
フィルがそう言いながら飲み物を持ってきてくれる。
「そう言えばそうだな」
この四人ならむしろ水の神が奴隷にしそうだけど。
しかし言われれば確かにそうだよな。
美少女ぞろいのこのパーティを欲しがる連中は確かに凄い数になりそうだ。
「本当は帰ってきたら兄さんに街で嘯かれているお話について確認したかったのですが、残念ながら今日は諦めてあげますよ」
「あれはまあ、成り行きと言いますか」
というより完全にとばっちりなのだが……。
「それに関してはまた明日詳しく聞きましょうか。それよりも傷と何に襲われたか」
「傷は正直大したことない、剣で少し切られて血は出てるが深くはない」
「そうみたいですね」
全員の前で上半身を脱がされる恥ずかしさの中ミールが軽く検診する。
俺の思い違いがないか魔法を使う必要があるか全てを順番に確認しながら作業をする。
「ミールママってお医者さん?」
「違うよ、研究って言ってもわからないよね。お勉強してたから基礎的なことがお医者さんの真似ができるんです」
「ミールママ凄いね」
「それほどでもありませんけど」
口とは反対に嬉しそうに頬を染めるミールと目が合った。
「な、なんでしょうか兄さん」
「いや、珍しい顔を見たと思ってな」
「そ、そんなこと言ってないで他に部分も見るので反対をお願いします!」
珍しく照れているミールになごみながらも背中を見せる。
「傷らしい傷は無いですね」
切られたのは腹部に受けた一撃だけだ。
「では他にどこか痛い場所は?」
「足と腰だな」
「クォルテさん? どこで何をやっていたんでしょうか?」
「そう言われる気はしてたけど違うからな」
ありきたりな勘違いに他のメンバーもアルシェを見る。
「アルシェ、何を考えてたの?」
「いえ、何もふしだらなことは、考えて、いませんよ」
「喋り方変だよ」
玩具を見つけたらしいフィルがアルシェの相手をしているうちにミールが俺の問診を始める。
「外傷はなさそうですがどうかしたんですか?」
「魔力で無理矢理駆動させたんだ」
「なるほど、では魔力の流れがおかしくなっている可能性がありますね」
「そうかもしれない」
本当にそうなっている場合は専門的な医者に診てもらった方がいいのだろう。
変に直してしまうと元に戻るのに自然治癒よりも遅くなってしまう。
ミールもそれは知っているようでで無理に治癒しようとはしない。
「まあ、明日にはほぼ直っているはずだ」
「そうですね。今日はもう大人しく横になっていてください」
「そうするよ」
上を向き眠る姿勢になる。
「パパ、体痛いの?」
「大丈夫だよ、少し疲れただけ」
「じゃあ、今日はセルクパパと寝る」
その言葉に空気が止まる。
子供相手にやきもち焼くなと言いたい。
「そうだな、今日はセルクと寝るか」
「「「「えっ!!」」」」
俺の言葉に空気が再び動き出す。
「クォルテ私も一緒に、ママだから!」
「クォルテさん、私はママですから一緒ですよね」
「ご主人、パパとママが寝るのは当然だよ」
「兄さん、姪と寝るのは当然ですよ!」
四人が一斉に家族を主張してきた。
どれだけ隣で寝ても手を出さないのにそれでいいんだろうか。
「お前達は自分のベッドで寝なさい」
俺の一喝で全員は渋々別のベッドにもぐっていった。




