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火の国 ウォルクスハルク

 火の神に連れられて来たのは街の中で一番活気のある通りだった。

 夜にも関わらず人の数が多く流れが生まれている。

 城を中心に綺麗に整備されているのか人々は常に一定方向にだけ進んでいく。


 この街の中で人の波を分ける役割を果たしているのが露店の数々だった。

 人の波を二分割する露店は他では考えられない頑丈な石垣になっており、露店というよりは小さな店といった様子だ。


「凄いですね。こんなにきっちり人の波を分けるなんて」


「我は何もしていない、この国の総帥がしっかり管理しているのだ」


 こんな仕組みを作ったのだからそれはきっと聡明な人なんだろう。この国にいる間に一度国の統治について教示願いたい。

 この後アリルドに戻る予定があるし、王としては少しでもアリルドに貢献できるようにしたいところだ。


「会ってみたいですね」


「女ではないがよいのか?」


「俺にどんな印象をもっているんですか……」


「女好きなのだろ?」


「誰からそんな情報を」


「お前の仲間とヴォールだな」


「納得しました」


 確かにその面子なら言いかねない。

 水の神に関して言えばあの四人はクォルテの嫁達だ。と言っていてもおかしくない。


「ククク、噂に違わない面白い男だな」


「今度はどんな噂を聞いているんですか?」


「変な噂ではないよ」


 火の神はそう言うと人の波に乗っていく。

 セルクを落とさないように慎重に追いかけていく。


「それにしても神がいるのにみんな気にしないんですね」


 人行く波は火の神を気にすることなく歩き続けて行く。


「気にしているよ、我が居る時は火山から火砕物が降るからな天気予報変わりだ」


「晴れの火砕物って最悪じゃないですか」


「悪いとは思っているが我が子は見たいからな、たまにこうして街中を歩いている」


 水の神とは違うのか、いるだけで火山が活発になってしまうそのせいで疎まれているが、それでも熱はこの土地に必要だから邪険にできない。

 そのために無関心。


「俺はウォルクスハルク様が好きですよ」


「……っ!」


 今まで先頭を歩いていた火の神が突然歩みを止めたせいで俺はぶつかってしまった。


「いたっ、どうしましたか」


「くっはははは! なるほど、本当に愉快な男だよクォルテ・ロックス」


 突然振り返ったと思ったら、俺の肩をバンバンと叩き大声で笑いだす。

 流石に無関心を貫いていた他の人々もなんだなんだとこちらを向いてくる。


「まさか神を口説きにくるとは思わなかったよ。あははは!」


 その発言で自分が言ったことを思い出す。

 俺は神に好きだと言った。

 それはもちろんそういう意図があったわけではないが、確かにそう聞こえて当然だ。

 更に周りの人達までがこそこそと話したかと思うと俺達を囲んでくる。


「おいあんた本気かい?」「相手は火山を噴火させちまう神だぞ」「おい、ニュースだ神を口説こうとする男がいるぞ」


 瞬く間にもみくちゃにされながらいると、あまりの騒ぎに眠っていてセルクが起きてしまう。


「どうしたの、パパ……」


 セルクの無邪気な一言は、今の状況には最悪の一言で更に周囲は盛り上がる。


「もうすでに神との子供がいるぞ!」


 盛り上がりが頂点に達した民衆はその場で宴会が始まってしまう。


「あのウォルクスハルク様が結婚か」「これで落ち着いてくれるとありがたい」「昔から色々やらかしてたからな」


「ウォルクスハルク様? あなたは煙たがられていたわけではないのですか?」


「煙たがられているさ」


 説得力はなく火の神は目を反らす。


「やんちゃなんだよ。我らが神様は」

「そうなんだよ、花火の代わりに火山を噴火させたり」

「山賊が出たらマグマをアジトに流してみたり」

「色々派手なことばかりしてたんだよ」


 近くに居た年配の人々が、口を揃えて自分達の子供時代の事を楽しそうに話す。


「…………」


 俺と一向に目を合わせようとしない火の神は突然を俺を抱きかかえ空に逃げる。

 逃避行だなんだと騒がれながら、空中で停止し民衆に言い放つ。


「我は神だぞ! 人間と結婚できるはずがないだろう!」


「いいじゃないですか」「楽しそうだぞ!」


 火の神はもう神聖さは一切なかった。

 空を飛べるほどの力を持ちながら顔ははやし立てられて真っ赤に染まる。

 そこには神とは言えない一人の可愛い女の人がいた。


「パパ飛んでるよ凄いね!」


 周りからの言葉など聞いてはいないセルクは楽しそうに民衆に手を振る。


「もう帰る!」


「また来てください」「そろそろ祭りもやりますから」「その時は花火をお願いしますよ」


 民衆に手を振られながら飛び立つ火の神は、燃えそうなほどに顔を赤くしていた。


「お前があんな不用意な発言するからだぞ」


 人気のない場所まで飛んできた火の神は俺を下ろしていきなりそんなことを言う。


「なんでみんながあんなだったのかわかった気がします」


「どうしようもないことをしているからだろ。全く我は神だぞ」


「そうですね」


 一つわかったのは決してこの国で神は嫌われていない。

 出なければあんな楽しそうにはしていないだろう。


「期待されてますねみんなに」


「体のいい舞台装置扱いだろうよ」


 拗ねている姿から、やっぱり神本人もこの関係が嫌いじゃないのだる。

 祭りに呼ばれたり盛り上がるために使われたりするのが楽しいんだろう。


「なんだ、その顔は」


 照れたり怒ったり忙しい姿は人間らしく温かい。

 火の神はこういう神様なんだと確かに好きになった気がした。


「いえいえ、この国が知れてよかったです」


「これ以上は、自分の首を絞めそうな気がするからやめる」


 この話題が不利なのを悟って自分で話を切ってしまう。


「ママ」


 飛んでいる最中ずっと楽しそうにしていたセルクが、トコトコと火の神に向かって歩いて行った。


「ママはやめてくれる? 我は火の神だ」


「セルク、女の人は全員がママじゃないからな」


「なんて呼べばいいの?」


「お姉さんとか?」


「わかった!」


 元気いっぱいに返事をするセルクの愛らしさに、つい頬が緩んでしまう。

 ミールの事は頑なに呼ばなかったのに、今回は素直に頷いたが可愛いので特に気にしないことにしよう。


「言いたくないが、お前は実の子供が出来たらとんでもない親バカになりそうだな」


「そうでしょうか?」


 セルクが俺の元にやってくるのでそれを抱き止めながら相槌を打つ。


「それは未来の事だろう。今は良い」


「それで街を案内してくれると言っていましたけど、これからどうするんですか?」


 あれだけの人数だ。すぐに噂は広まって全員に押しかけられるだろう。

 そうなると流石に俺も困る。

 やっぱりもう部屋に戻るしかないか。俺の話が終わっているころだといいけど。


「この国には名物が一つあるだろ」


「名物ですか?」


 歩くと碌な目に合わないことを知った火の神は、自分の羽を大きく広げ空を飛ぶ。

 羽ばたく度に炎の鱗粉が飛び散り幻想的な光景に変わる。


「暑くないんですねこの火の粉」


 顔に触れる火の粉に熱はない。

 それどころか俺の体を貫通して後ろに流れていく。


「これは我の魔力だからな、ヴォールの鱗や角もそうだぞ」


「そうなんですね」


 神についての勉強は不足していたため知らなかったが、どうも神の人とは違う部位は溢れた魔力を固定するための物らしい。

 だからセルクの角も腕輪で消えたのか。

 魔力を固定しているのが角か腕輪かの違いらしい。


「それで俺達はどこに連れて行かれるんでしょうか」


 空を飛んで楽しそうにしているセルクを落とさないように、しっかりと抱きしめながら聞く。


「火山だ」


「平気なんですか?」


 人が耐え切れない程の熱を出し火砕物まで飛ばしてくる雷や津波と同じ超自然災害。

 津波や雷と違い偶発的ではなく常にそこにあり、近づくことは死を意味する。

 そんな場所に俺は連れていかれるらしい。


「我の魔力でお前達は二人は海で泳ぐようにマグマに入れるぞ」


「遠慮しておきます」


 いくら神から安全だと言われても怖い物は怖い。

 何かの弾みで魔法が解けた瞬間俺は骨も残らず溶けてしまう。


「それで火山で何をするんですか?」


 ただの観光案内だとは思えない。

 セルクもいることだしあまり無茶はしたくない。


「観光と準備だ」


「準備、ですか?」


「そうだ、街の連中が祭りがあると言っていただろう」


「ああ」


 そう言えばそろそろ祭りだから花火を上げてくれと言っていた気がする。


「花火って何ですか?」


「簡単に言えば爆弾だな」


「いいんですかそんなの!?」


「パパどうしたの?」


「悪い、別に何でもないよ」


 爆弾と言われてつい大声をあげてしまった。

 それにしても爆弾を上げて欲しいって一体何が行われるのだろうか……。


「心配するな誰にも怪我がないようにする」


「危険な物ではないでしょうが」


 街の人達も楽しそうにしていたし安全なのは確かなんだろうな。


「そろそろ火口に着くぞ」


「おお……」


「凄い、真っ赤だ」


 火口に着くと俺とセルクは感嘆の声をあげる。

 山の頂上には町が一つ入りそうなほどに大きな穴が開いており正に火が口を開けている様に見えてしまう。

 その火口の中には煮えたぎるマグマが沸騰している様に気泡を作っては弾けていく。


「喜んでもらえてよかったよ」


「でもこれで花火ってどうやるんですか」


「せっかくだ、手伝ってくれないか」


「はい!」


 何をするかもわからないうちに俺が頷く前にセルクは元気に返事をした。


「よろしい、難しいことはない。我が大きな球を作るからそれを冷やしてもらいたい」


「セルクは?」


「セルクは出来上がったものを器に入れてくれ」


「はい!」


 元気な返事に満足気にしながら作業を始める。


「まずは器からだな」


 言うと火の神はマグマで大きな球体を作り出す。

 俺はそれに水を当てる。


「そんな少量でなくていい思いっきりぶち当てろ」


「それだと火口に水が入りますけど」


「人間程度で止まるほど火山の力は弱くない」


「そうですよね」


 そうなったら火の魔法はたぶん消えてなくなっているはずだ。

 この火山を止めるならそれこそ神槍クラスの水が必要だ。

 そう切り替えありったけの水をマグマの球にぶつける。

 大量の蒸気と鉄が冷える音が鳴るとあっという間に大きな岩の球体ができる。


「上出来だな、後は半分に割る」


 宣言通りに真っ二つに割られた岩の球体の中からは固まっていないマグマが零れ落ちる。

 マグマが無くなった岩は綺麗な器になった。


「セルク、今から作って出来上がったものを次々それに入れていけ」


「わかった!」


 火の神は今度さっきとは違いマグマで小さな丸い球体を大量に作り出す。


「クォルテ」


「はい」


 その多量の球体に水をかけると当然同じ数の岩の球体が生まれる。

 火の神をそれをセルクの近くに落としセルクはそれをせっせと器に入れていく。


「これは何に使うんですか」


「言わなくてもわかるだろう?」


 これが花火の材料ってことになるんだろうか。

 爆弾って言っているしこんな小さい球に導火線でもつけるのだろうか。

 それから器が四つ満杯になるまでこの作業は続いた。


「流石に疲れた」


「セルクもー」


 火口で座り込んでしまう俺達をしり目に火の神は元気が有り余っている。


「情けないな、そんなに疲れるか?」


「疲れたと言うか飽きました」


「それは仕方ないな」


 火の神も何度かあくびをしていたしな。


「それでは今日は戻ろう」


 その一声で俺達は火山観光を終えた。

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