闇の神は幼女になりました。
「ようやく終わったか」
「ヴォール様、ウォルクスハルク様」
俺達が疲れて床に倒れ込むと、ボロボロになってしまった服を着て二柱の神は壊れた壁から姿を見せる。
「辛勝と言ったところだな」
「いやいや、特級の魔獣を人間が倒したんだ十分だろ」
辛口の評価をする火の神に、水の神が擁護してくれる。
「何を言う、貴様がこ奴らに手を貸したからこそであろう」
「神槍は仕方ないだろう」
「身体強化の底上げに、当てやすいように魔獣を動けなくしたところは無視か?」
「くっ……」
どうやら魔獣との対戦を最初から見ていたらしい二柱だ。
精霊結晶に込められていたのは助かった。実際あの分が無かったらもっと危なかった。
「それはそうと、その子は誰ですか?」
二柱の神の間には小さな女の子がいた。
闇色の髪に白磁の肌、それだけならばベルタの子供を途中で拾ったと思えるが、注目すべきはそこではない。
神に手を引かれている少女の頭にはなぜかねじれた角二本生えていた。
「これはお前達へのお土産だ」
「えっ?」
「こいつが言ったままだ。この小娘はお前達へのプレゼントだ」
水の神の冗談かと思ったが、火の神まで真面目な顔でそんなことを言う。
そして更に爆弾発言をする。
「ちなみにこいつは闇の神だ」
「「「「「えっーーーー!!」」」」」
小さな神は叫ぶ俺達に優しく微笑んだ。
こうして俺達の仲間に神様が加わることになった。
生きている大量のベルタをと共に火の国に転移した。
火の国の玉座の間、今この広間には大量のベルタが居り、彼らは突然の出来事に困惑している。
普段ならそれをどうにかするところなのだが、俺達は広間に設置されているテーブルで神達を問い詰めている。
「それで、なんでこんなことになったのか説明を願いします」
「説明か、貴様はできるか?」
俺とは反対に座る水の神は隣に座る火の神に話を振る。
「まあそいつには無理だろうな」
そう言って腕を組み、豊満な胸を持ち上げる。
「簡単に言うと、闇の神を殺すことができないため転生させたと言えばわかるか?」
「転生、ですか」
疲れているのか、この騒がしい広間でルリーラと共に眠る闇の神を見てしまう。
転生か。確かに以前感じた威圧感や、恐怖は全く感じない。角さえなければ普通の子供と変わらない。
「神ともなれば力だけを奪うのも難しい、思想を変え体と力はそのままにと思ったのだが」
「こうなったと」
強靭な肉体も無ければ強力な魔力も感じない。
思想どころか存在そのものが変わってしまったわけか。
「要は失敗したその結果がその子なのだが、神としての器は健在なのでな」
「でも中身は見ての通りということですか」
「そう言うことだ」
「厄介ですね」
神の器に子供の魂。
無邪気に世界を滅ぼしそうな組み合わせに内心戸惑いが隠せない。
なんで神が子供になったのかはひとまず理解した。理解したが、更にわからないのはその先だ。
「この子の存在はわかりましたが、何故俺達なんですか?」
「理由は簡単だ、神と親しく闇の神と接触していて信用できる者に頼むのは道理であろう?」
「そうですか」
確かにその条件に合うのは少ないだろうな、特に今の時代に闇の神に会ったことのある人間はほぼ皆無だろう。
「でも大丈夫なのですか? 暴走したら俺達には止められないですが」
「それも大丈夫だ、ほれこれをやる」
ぽんと軽く投げられたのは腕輪。
シンプルな銀細工には模様が掘られているだけで宝石などの装飾はない。その辺りの露店に並んでいてもおかしくはない見た目の銀の腕輪だ。
「それをその子につけておけばベルタくらいの力に収まる。そのくらいなら止められるだろ?」
「ええ、まあ」
これも神器なんだろうなと考えるが、神器を見慣れすぎてもう驚けなくなっている自分がいる。
「しばらくこの国にいろ、その子の世話を頼むのだ、必要な物は都合してやろう」
「それは嬉しいですけど」
ひとまずは火の神の提案通りこの国に滞在することに決める。
神からの贈り物。それ自体は喜ぶことだが、その贈り物はものではなく子供になった闇の神で、俺はため息を吐くほかなかった。
その日の夜、昨日も泊まった部屋の一室にみんなが集まったのを確認し、今しがた神から聞かされた内容を伝える。
「そんな理由で俺達がこの子を預かることになった」
俺の横で立っている元闇の神は、自分の腕に付いている腕輪を珍しそうに眺めている。
神器の影響らしく、腕輪を付けている間は禍々しい角も隠れ見た目は完全にベルタの子供だ。
「事情はわかったけどさ」
やっぱりルリーラ的にはあまり好ましくないんだろうな、連れ去られたりベルタ同士で戦う羽目になったりしたしな。
「その子の名前は決まったの?」
難色を示すかと思ったが、当たり前のことを指摘された。
この子には呼び名がない。
「ミスクワルテじゃ駄目だもんな」
仮にも裏の三柱の一柱だ、子供にそんな名前を付けるのは流石に問題があるだろう。
「じゃあみんなで名前を決めよう」
ルリーラの一言でみんなが頷いた。
名前を付けることにみんななぜか乗り気だった。
「わかったよ、じゃあ何か案はあるか?」
「私は安易ですけどミスクでいいと思いますけど」
「あたしはヤミでいい気がするよ。闇の神だし」
「私も安易ですけどミーでよくありませんか?」
「まあ、悪くはないよな」
アルシェのミスクもフィルのヤミもミールのミーも別に悪くはない。
でもなんかしっくりこないんだよな。
なんでもいい気がするけど、これからを考えるとしっかりと考えてやりたい。
「ルリーラはどうだ?」
そう思い提案してから考え続けているルリーラに振る。
「セルクはどう?」
セルクか悪くない。
前の三つと何が違うのかはわからないが、その名前はしっくりと来た。
「よし、お前は今日からセルクだ」
しゃがみ目線を合わせて自分の名前だと教える。
「わかった、パパ」
すんなりと名前を受け入れてくれたセルクはほほ笑んだ後に、なぜか父親を呼んだ。
一瞬水の神かと思ったが今この場にはいない。
「え?」
「パパ!」
そう呼んでセルクは俺の胸に飛び込んでくる。
小さな衝撃が俺の胸に訪れ無邪気に俺の胸元に頭を擦り付ける。
そんなセルクの行動に俺はどうしていいのかわからず固まってしまう。
「クォルテの隠し子?」
「いや事情知ってるよな!?」
「ママ!」
今度はそう言ってセルクは俺を冷めた目で俺を見ていたルリーラに駆け寄り抱き付いてしまう。
「私がママ……」
ママと呼ばれてだらしなく顔を緩めるルリーラに他の三人が駆け寄る。
「ルリーラちゃんいつの間にこんな子を産んだの?」
「ご主人との子供なの!?」
「兄さんとお姉ちゃんが両親なら、私には姪ってことだよね」
三人の問いかけにも答えずにルリーラはだらしない表情をしたままセルクを抱きしめている。
そしてそんな状態のルリーラを問い詰めても無駄だと判断した三人が俺の方を向く。
「クォルテさんどういうことですか?」
「ご主人はルリーラを選んだの?」
「この子は私の姪でいいんでしょ?」
「セルクは闇の神だって言っただろ!」
自分がママと呼ばれなかったことに落ち込む二人はセルクに近づいていく。
「セルクちゃん私はねアルシェって言うんだよ、私のこともママって呼んでね」
「あたしはフィルって言うんだ、あたしのこともママって呼んでね」
お前達もママと呼ばれたいのか……。
幼い子供に虚ろな目で自分がママだとする込みをする様に恐怖を覚えた。
「アルシェママ、フィルママ」
ママと呼ばれたことに嬉しくなったのか、二人の目に光が戻り強く拳を握り込んだ。
二人があんなに嬉しそうなのは初めて見たな。
「私はミール、ミールお姉ちゃんって呼んでね」
「ミールママ」
「ママじゃなくてお姉ちゃんだよ」
「ママ、アルシェママ、フィルママ、ミールママ」
セルクが全員を呼ぶと早口言葉の様になってしまっている。
「だからね私はママじゃなくて」
なんとなくわかったが、セルクはどうも男はパパ女はママと思っているようだ。
おそらく神々がそう言う風にしつけたのだろう。
恍惚の表情を浮かべる三人と必死に教え込もうとしているミールを眺めながら、全員がこちら側に戻ってくるのを待つことにした。
「いい加減落ち着いたか」
いつまでもどこかに行ったまま戻ってこないため、抱き付いたセルクを奪い取り抱きかかえる。
背中をゆっくり叩きながら揺するとすぐにセルクはあくびをする。
「だって嬉しいもん」
「嬉しかったのでつい」
「嬉しかったから」
取り上げてようやく元に戻った三人を正座させ説教を始める。
「ママ気分が嬉しいのはわかるが一向に話が進まないだろ? まだベルタ達の受け入れをどうするかも決まってないんだぞ」
「「「はい」」」
「それはそれとしてなのですが兄さん」
「なんだ?」
「妙に手慣れてますね」
ミールの余計な一言に三人が固まる。
考えていることは流石にわかる。
俺に隠し子が本当にいるんじゃないか、だから自分達に靡かないんじゃないか。
しかしそれを問い詰めたいが今怒られているからできないどうしよう。
そんな所だろうな。
「仮にも元貴族ロックス本家だ。生まれた子供から死にかけの老人までたくさん会ってきてるんだよ」
子育ての経験はないが子供の世話を経験したことなら山ほどある。
おしめを変えることから介護までできないことはない。
「そう言えば、私も子供の相手したことがありますね」
「分家のミールの倍以上は相手してるぞ」
「そう言えばそうですね、兄さん面倒見がいいですし」
「そうか?」
押し付けられていたから扱いが上手くなった。というだけのような気もするが。
「親戚の中でもいつも話題に上がっていましたよ兄さんが好き、兄さんと結婚したい、兄さんとの子を産みたい」
「そんな話は聞いたことないな」
恋愛を楽しむよりも早く研究させられ、ルリーラに会ったから聞いていなかっただけかもしれないが。
「私が伝えるって言って全部握り潰していましたから」
「そうだったなお前はそういう奴だ」
「ミール今の話もっと聞かせて!」
「私もクォルテさんの昔の話を聞きたいです」
「あたしも気になる」
「え、いいですけど」
珍しくミールが勢いに負けている。
「じゃあ、俺は出てくるな」
止まりそうにない四人を置いて俺は外に出ることにした。
「兄さん私も行きます!」
危機を感じたのか付いて来ようとするミールに、三人の手が伸びる。
化け物に襲われた被害者の様に部屋に引き込まれていく。
そして無情にもバタンと扉が閉まる。
「助けて兄さん」
閉じた扉からそう聞こえたが俺は頑張れよと、従妹を場に置き去りにして部屋の外に出る。
「クォルテじゃないか、どうした夜泣きか? 追い出されたか?」
「夜泣きする年齢じゃないですし、俺の過去話をするらしいので逃げてきました」
偶然なのか待っていたのか部屋を出てすぐに火の神と会う。
服がはだけているがヴォール様と違い、着ている服は毎日違うようで今日は少し大人しい柄の服を着ている。
「女共が過去を聞きたがるとはモテるのだな」
「まあ、仲間にはですけど」
「否定はせんのだな」
「しませんよ、仲間に好かれるのは嬉しいですし、否定しては四人に申し訳ないですから」
受け入れることはできないが、気持ちを否定することはしたくない。
ただ初めて優しくされたから好きになったのだとしてもその気持ちは本物だ。
「お前のような男は嫌いではない。あの軽薄な男よりも遥かに尊敬できる」
「軽薄な男ってヴォール様でしょうか」
「わかっているではないか」
「そうですね」
わかってしまった以上もう否定もできない。
水の魔法使いの間でも結構有名だ。
「そうでした、この子に名前を決めたんです」
「ほう、名前か」
ウォルクスハルク様が驚いたことに驚きながら、名前を伝える。
「セルクです」
「なるほどな、闇の神セルクの誕生だな」
「あっ」
そこでなんでウォルクスハルク様が驚いた理由がわかった。
闇の神であるこの子に名前を付け、それが浸透してしまったらそれが正式な名前になってしまう。
「よかったなこれでお前達五人は歴史に名前を残せるぞ闇の神を育てた五人だからな」
ウォルクスハルク様は愉快そうに笑いだす。
「笑いすぎですよ、ウォルクスハルク様」
「おお、すまんな。ククク、詫びに街を案内してやろう」
笑いすぎて目に涙を浮かべた火の神は、自分の国を紹介するために俺の手を引っ張る。
セルクを落とさないように片手で抱きかかえながら、暖炉の様に温かい手の感触を感じた。




