side ルリーラ
あれ、誰かに抱えられたクォルテかな?
遠くて誰かの声が聞こえる、凄い音だ、何が起こっているんだろう、襲われてるの? だったら助けないと。
でも体が動かない、それに目が重い……、意識も……消える……。
私が意識を取り戻し目を覚ますと気持ち悪い空間に居た。
目を凝らしても見えない天井、赤紫の動く壁、壁だけじゃなくて床も動いてる。
体を起こすと周りにはたくさんの人達が集まっていた。
全員が黒髪だけど年齢はバラバラだ。
「大丈夫?」
「うん、平気」
見知らぬ女の人が私に声をかけてきた。
一見優しそうに笑っているこの女の人の目は笑っていない。
それどころか私の体を見ているらしい。
「あなたは奴隷ではないのね」
「私は奴隷だよ、お姉さんは?」
聞かなくてもわかったけど身なりで判断しているような気がして聞いてしまった。
ワンピース型の奴隷服、腕についている枷。
あんまりいい環境じゃないみたい。
「見ての通り奴隷よ」
「じゃあ一緒だ」
私がそう言うと一瞬だけ目が怖く変わってすぐに普通の目に変わりそうね。と笑顔になった。
「これってなんなの?」
「それは我が説明しよう」
いきなり色黒で角が生えた男の人? 違う、神様だこの人は。
水の神様も角があったし、きっとそうだ。
「ルリーラよ、今から我が子の中で最強を決めてもらうぞ」
「最強?」
「肉体的にもっともすぐれた者が側近として表と呼ばれているあいつらに報復する」
神と人間対神が四柱、勝てるの? この神様ってそんなに強いのかな?
「さあ、これで役者は揃った、始めよう最強を決める戦いを」
神様がそう宣言すると大きな歓声と共に殴り合いが始まる。
「さあ、私達もやりましょうかっ!」
「えっ!?」
反応した時には女の人の蹴りがこちらに繰り出されていた。
避けるのが間に合わず腕でガードするけど後方に吹き飛ばされてしまう。
「あなたは良いわねそんなお洋服着させてもらって羨ましいわ」
わかったこの人の目が笑っていない理由、私が普通の服を着ているからか。
周りを見てもこっちを睨んでいる人が多い。
奴隷が多いというよりも私みたいな奴隷が少ないのか。
「ほら、もう一発!」
さっきよりも早いけど、反応できない速度じゃない。
咄嗟に逃げ出す。
この数だと一人じゃ勝てないな。
仲間を集めないと、できれば私と同じ格好のいじめられていない奴隷か奴隷じゃない人。
「一緒に来てくれる?」
奴隷服じゃない普通の服を着た男の子に声をかける。
「なんだてめえ!」
「遅いよ!」
男の子と戦っていたおじさんが割って入ったことに怒るけど、私もそれどころじゃない。
おじさんの振り下ろす拳から一歩踏み出してお腹に精一杯の一撃を入れる。おじさんは後ろに飛んでいく。
壁はなかなか頑丈でおじさんがめり込む程度で止まってしまう。
「ほら立って、ほらあなたも」
いじめられている数人と共に奥の道に進む。
「全員殺せ!」
さっきの女の人が声を上げるとたくさんの人がこっちに向かってくる。
あの人がボスなんだ。
認識しても勝ち目はないしこの人たちがボスを倒したくらいで止まるとも思えない。
私は一緒に走る三人と道を真っすぐ進んでいき、少しだけ空いている行き止まりのスペースに隠れておく。
入れる道は一本、さっきの場所と違って天井はある。逃げるのも戦うのも私好みの場所だ。
「みんな大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
三人は震えながら私に感謝をする。
助けたつもりはあるけどこうも感謝されるとちょっと照れてしまう。
クォルテがたまにぶっきらぼうになる時ってこんな気分なんだな。
「私は、あなた達なら手助けしてくれって思っただけだよ」
「それで、僕達は何をさせられるのでしょうか」
「その前に自己紹介、私はルリーラよろしく」
「僕はモルトです」
さっき助けた男の子が名乗ると、他の子達も名前を告げていく。
「私はポーマです」
髪の長い女の子。
「僕はジェルべ」
一番小さい男の子が名乗って話を進める。
「三人には私が戦ってるのを邪魔しようとする連中の足止め」
私にとって一番厄介なのはこれだ、いつもはクォルテとルリーラが守ってくれるから気にしたことないけど。
さっきの様子から見ても、一対一で負ける様な相手は居そうになかった。
「わかりました、命をかけて」
「そういうのはいい、死にたくなかったら逃げてもいいし」
「えっ?」
「どうしたの?」
いつもクォルテもこう言ってる自分の身を最優先で動け。
上の立場になったのは初めてだし、クォルテの見様見真似で言ったけどやっぱり何か変だった?
「いえ、命をかけて戦うのがあまりにも自然だったので」
モルトの言葉に他の二人もうなずく。
そう言えばクォルテが変だってアルシェとフィルも言ってたような。
檻に居たのが長かったから少しズレているのかもしれない。
「私の主が変わり者な影響かな」
変わり者だけど優しくてカッコよくて大好きな人だ。
「なら僕はあなたについていきます。ルリーラさん」
「ルリーラでいいよ」
四人と話し合いが終わると足音が近づいてきた。
「来たよ、人数はおそらく五人、私が突っ込んだら援護をよろしくね」
三人の頷きを確認しタイミングを見て突撃する。
確実に一人を仕留めるために体全部を使った突進で先頭に居た一人にぶつかる。
壁にめり込み動きが止まったのを確認して次の行動に移る。
奇襲に動きの止まる四人で重なっている二人に向かう。
「こいつらだっ!」
手前の男の顎を蹴り上げ体を浮かせ、足を掴んで振り回し奥に居る女にぶん投げる。
咄嗟の判断ができていないもう一人は、飛んできた仲間の男を蹴り上げ片足になった足を蹴り体勢を崩し力を込めぶん殴る。
女はそのまま意識が無くなりその場に倒れ込む。
「てめえ!」
残り二人は現状に追いついたらしく私を挟む形に広がる。
私はあえて三人がいる方に背中を向けて正面の敵と向き合う。
「舐めやがって!」
「今!」
踏み出そうとした足音を聞いて私が叫ぶと後ろの敵を抑え込む音を合図に私も正面の敵にぶつかる。
流石に今度は受け止められてしまう。
しっかりと肩を掴まれ上半身が動かなくなる。
「何回も同じ攻撃が通じると思ってんのか!」
「思ってるわけないよ」
どうなるかわからないけどぶよぶよした地面に跳ぶように足をめり込ませ、宙返りをするように体を動かす。
体が沈み一瞬拘束が緩み、私はそのまま体を縦に回転する。私の踵は男の頭を捕らえそのまま地面にたたきつける。
ぶよぶよし床に男が埋まり、私の足は床に突き刺さる。
するとその部位からはわずかに血があふれ出る。
「これって」
この男の血にしては多い、もしかしてこれって生きてるの?
「ルリーラ!」
モルトの叫びに足元を見ると男が埋まっている部分は口になっていた。歯もあるし舌も見える。
食べられる!?
咄嗟に飛ぶと口は倒れている男を一口で飲み込む。
すると穴は塞がり、再びドクドクと心臓の様に動き始める。
「あんたが最後だけどどうする?」
三人に抑え込まれている一人は観念したようにうなだれる。
「ここって何?」
「他の連中に聞けよ、いたたたた!」
全力で男の頬をつねりねじる。
「言う気になった?」
「言いまふ言いまふ」
私が手を離すと男はぽつぽつと言い始めた。
「ここはどうも闇の神が住む都市らしいんだ」
「さっきのが闇の神」
確か裏の三柱だかの一柱だっけ。
それで攫われてきたのかな? だとするとあの時の大きな音はクォルテだったのかな?
だったら嬉しいな、心配だけど嬉しい。
「それでなんであんまり強くなさそうなあの女がボス気どってるの?」
「もうすでに側近の一人らしい」
「本当なの?」
そうは見えなかった。見た目からして奴隷だった。
それが神の側近?
「なんでも最初に来たかららしい。それでこの戦いを取り仕切るらしい」
「随分曖昧な物言いだね」
らしい。が口癖になってしまっている。
「しょうがないだろ、俺も最近ここに来ただから俺は従ってるんだよ、お前ほど強くはないしな」
「そうなんだ」
この人達を見ているとクォルテが世界を見せて自由にさせているかわかった気がした。
そして奴隷という立場のあり方がわかった。
私も最初はこうだったんだな。
考えることをしないで言われるがままそういうものだと諦めていた。
「よし、それならあんたも仲間にならない?」
私は今捕らえた奴隷のままの男に声をかける。
「なんで俺が」
「私の方があの女の人よりも強いよ」
私の一言で男は止まってしまう。
「私は、ここから出るつもりだけどついてくるなら自由になれるよ」
「自由、か……」
これには男も他の三人も戸惑っているようだ。
その不安を私は知っている。
「自由は大変だけど楽しいよ、少なくとも今までよりも楽しくてここよりも幸せだよ」
みんなのその顔は知ってる。
縛られていた鎖が壊れる恐怖、嫌だったはずなのに言われるままが楽だったと今知って、指示が無くなってどうしたらいいかわからなくなってしまう不安。
「私と来るかはみんなの自由だよ、追手が来るかもしれないけどゆっくり考えて」
私はまだクォルテみたいにみんなの手を引けるほど強くも賢くもない。
それでも道を教えてあげるくらいは学んだはずだ、クォルテがしてくれた真似くらいはできる。
「僕は行きたい、もうここにも元居た場所にも行きたくない」
最年少のジェルべが手を上げると他の二人も手を挙げた。
「ルリーラについていくと決めた」
「私もルリーラを信じてみたい」
「あんたはどうする?」
倒れている男を見る。
「俺もお前にかけてみてやるよ。そうだよな奴隷じゃなくなったのに、また奴隷は嫌だしな」
「よし、じゃああんたの名前は?」
「ヒュレ」
「よろしくヒュレ、私はルリーラ、こっちの男の子がモルト、こっちの子がポーマ、この小さい子がジェルべ」
私達は五人に増えてこの空間を進もうとすると聞きなれた音が聞こえてきた。
「何この音」
「水の音だ、それも凄い量」
ここにはそんなことも起こるの?
こんな時どうすればいい? 水を割る? できなくはないけど……。
「ルリーラ水に人がいるぞ」
確かに叫び声が聞こえる。
ベルタだから耐えきれるだろうけど駄目だ、なんの水かわからないもし毒なら私達は全滅しちゃう。
目の前に迫った水に対して私は叫ぶ。
「みんなできるだけ高くに移動して、壁に張り付いて」
壁に張り付いて水が流れ切るのを待つけど水は不自然に曲がって、私達がいた小さな行き止まりに流れて行ったきり、こっちに水が戻ってくることはなかった。
「これって魔法の水?」
もしかしてクォルテ? 助けに来てくれたんだ!
「戻ろう」
「どうして?」
「私の仲間が来てくれたの!」
私は来た道を全力で戻り始めた。




