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闇の国 ミスクワルテ

 闇の国は気持ちいい場所ではなかった。

 薄暗く湿度が高い、それでいて気温がとても低い。

 壁面がどうなっているのか壁というよりも何かの体内のように脈打っている。


「いつ来ても気味が悪い」


「なんならこの国自体壊してしまえばいいのではないか?」


「せめてルリーラを救出するまで待ってください」


 二柱の神もこの国の空気に嫌そうな顔をする。


「これって一体なんですか?」


「一言で言えば魔獣だな」


 その一言で、ここは特級以上の魔獣の腹の中なんじゃないかと考えてしまう。


「私達食べられたんでしょうか?」


「食べられたと言えなくもないが違うな」


「ミスクワルテが魔獣の死骸を使い自分の国を大きな魔獣に変えたんだ」


「そんなことができるんですか?」


 桁違いの力、死骸を使ってより強靭な魔獣を作るなんてありえない発想に闇の神が裏の三柱と呼ばれる一端を感じた。

 魔獣ということは、脈を打っているこの壁は間違いなく生きている。


「できる。それくらいの力を持っているのが神と呼ばれるものだ」


「聞いてると神様達の規格外さがよくわかりますね」


 同じく人として規格外と呼ばれているプリズマのアルシェまで驚きの余りにそんなことを告げる。

 ミールとフィルに関しては完全に驚きを通り越して呆れている。


「では探査の魔法をかけるぞ」


 次の瞬間には体を魔法が駆け抜ける。

 誰かが体を触れる様な感触ですぐに離れる。


「びっくりしました」


 アルシェの言葉に俺とミールもうなずく。


「クォルテ、お前の精霊結晶を貸せ、それにここの情報を渡す」


「はい」


 規格外の魔法の数々に俺はもはや驚くことをやめた。

 言ったとおりに俺の精霊結晶に情報が流れ込みこの国のマップが表示される。

 しかも視界の邪魔にならないように精霊結晶に魔力を流さない限り表示されない仕様だ。


「この赤い印がミスクワルテこっちの群れているのがおそらくベルタだ」


「わかりました」


「ルリーラがどれかは流石に多すぎて判別できなかった」


「ここまでしてもらって文句はありません」


「では我らはミスクワルテを叱ってくる。ルリーラは任せたぞ」


「わかりました」


 手を振り神達は闇の神の元に向かう。


「圧倒されまくりましたね兄さん」


「流石にあたしも驚いて何も言えなかったよ」


 ようやくまともに戻ったミールとフィルそれとアルシェと共にベルタの群れに向かう。

 歩き始めてこの国の不気味さを再認識する。

 ぶよぶよとした脈打つ空が城壁のような壁と地面。

 見えないのか何に覆われているのかわからない空、全てが不気味で異様だ。


「この壁が全部魔獣なんですよね?」


 触れないように慎重に歩くアルシェの問いに俺は答える。


「神々の話の通りならそうなんだろうな」


 人がすれ違えるだけの道を進んでいくと最初のポイントがあった。

 複数のベルタがいるという場所神が事前に探査した時の数は四人。


「油断はするなよ」


 ベルタの身体能力の異常さはルリーラで知っている。

 風を切るほどの速さ、巨岩をぶつける様な力、鋼鉄のような頑丈さ。

 身体能力なら人間の中で最強だ。

 それが四人。


「最初の場所だ」


 集合している場所に踏み入ると俺は目を疑った。

 道よりは少し広い場所には人間の部位が散らばっていた。

 腕が足が頭が体が無残に散らばっていた。


「酷い……」


 あまりの光景にミールとアルシェは口を塞ぎ、フィルもその惨状を見ているだけだった。

 見た限りだとルリーラはいないかよかった。

 子供らしい死体はここにはなかった、詳しくはわからないが大人と大人に近い肉体だけだ。


「君達はベルタじゃないよね?」


 その声に反応し周りを見るが誰もいない。


「上だよ上、ベルタじゃないお兄さん達は何? 迷子?」


 上には足で壁に自立している一人の少年。


「迷子なら天国まで案内してあげるけどっ!」


 少年は風を切りこちらに飛び込んでくる。

 間に合わないタイミングでの突進に一人だけが反応した。


「ご主人に何してるの?」


「奴隷の主人なんてどうしようもないよね」


 その一言でこいつの境遇がわかる。

 交差が終わりお互いが向かい合う、少年は不敵に笑いフィルは短剣を二本持ち構える。


「他の連中とご主人を一緒にしないでくれる?」


 フィルの間延びした声からも緊張が伝わってくる。

 戦い方を見定めようと俺は少年を見定める。


「じゃあお姉さんからだね」


 次の瞬間には少年の姿が消えた。

 探す暇もないまま二人の衝突が振動となって俺に届いた。


「お姉さんベルタじゃないのに凄いね」


「ベルタの動きには目が慣れてるの」


 話しながらもぶつかり合いは続く。

 少年が蹴るとフィルは辛うじて防御し、フィルの攻撃は軽くいなされる。


「本当に慣れてるんだね、全部さばいてるよ凄いねベルタでもないのについてこれるんだ」


「まあ、ね……」


 まだ余裕のある少年に対して徐々に押され始めるフィル。

 見極めるとか言ってる場合じゃないか。


「水よ、鎖よ、我の敵を捕縛せよ、ウォーターチェーン」


「折角順番に倒してあげてるんだから待ってなよ」


 案の定目の間に飛び出して来た少年に笑顔を向ける。


「何笑ってるのさ、死にたかったの?」


「いや、ルリーラの方が強いよなって思ってさ」


 ここまで自分が接近しているのに怯えない俺が気に食わないのか、顔をしかめる少年を嘲笑う。


「でもお兄さんよりも強いよ」


 握り締めた拳を後ろに引く。

 何の捻りもない自分の力を過信した構えが哀れに思える。


「えっ?」


 突こうとした腕が動かなくなったのを悟った少年の顔から笑顔が消えた。


「言っとくけどお前は弱いよ、俺達には遠く及ばない」


 水の鎖は何重にも重なり少年の腕に体に巻きつく。


「魔法が切れない?」


 神の加護を受けた短槍の魔力を元にした魔法を破れる人間はいない。


「お前がどれだけの敵を相手にしてきたのか知らないけど、見た目で判断してるような子供に負けてやるつもりはないぞ」


 俺は魔法で水を手の平に生み出す。


「だけどお前がベルタにダメージを与えられるわけがっ……、えっ」


「お前はベルタが人間じゃないとでも思ってるのか?」


 水の振動。

 肉も強さも関係ない強くなりようのない液体を的にした、必殺の一撃に少年の意識は刈り取られる。


「ご主人、強い……」


「フィル、それとアルシェとミールも、ベルタを高く評価しすぎだ」


 ベルタは魔獣とは違う。神とも違う同じ人間で個体差があるだけだ。

 ルリーラでもアリルドに負けかけたように戦い方が違うだけだ。


「そうですね、そうだったかもしれません」


 そこに行きついたのかアルシェは色々と思い出したようだ。


「神様とは違い、欠点がないわけじゃない」


「そういうことだ、ミールもルリーラを倒しかけただろ?」


「そうですね」


「フィルは少し苦戦するかもしれないから必ず俺達三人の誰かと一緒に行動するようにしろ」


「わかった」


 ようやく息が整ったフィルは素直に頷く。

 みんなの心が落ち着き次のポイントに向かう。

 次の場所はここよりも三倍以上の人数が確認されている。

 流石に今みたいにはいかないか。


「ミールちょっと無理できるか?」


「なんですか私は兄さんの為ならどんな無茶でもできる女ですよ」


「魔力を限界まで溜めて欲しい」


「そんなに魔力を貯めたら敵にバレませんか?」


「普通はな」


「なるほどそうですねわかりました。それでその魔力をどうすればいいんでしょうか」


 たった一言でフィル以外には意図が通じた。

 ベルタに魔法の感知はできない。


「でも、それだとルリーラちゃんがいた時に、魔法の巻き添えになりませんか?」


「それは大丈夫だ。魔法が使えないベルタの集まる場所で水の魔法を使えばな」


「ご主人が来たって理解ができる?」


「そういうことだ」


 ここの壁は予想よりも高いルリーラなら意図を読んで行動をしてくれる。


「そろそろ頼むぞ」


「了解です」


 ベルタ以外の人間ならば誰でも察知できるほどに、ミールの魔力が高まっていく。


「それでは行きます」


 ミールの言葉と共に大量の魔力は膨大な水に変化する。

 広場を飲み込むほどの大きな波がベルタの群れを襲う。


「なんだ」「何が起こっている!」「いやー!」


 道の奥のベルタが声を上げて流されている。

 傾斜や自然の要素を無視できる魔法の水は行き止まりまで流れていき打ち合わせ通りに固めさせる予定だ。


「兄さん終わりました」


「これで大分片付いたな」


「今ので大分なんですね」


 そこは流石ベルタの身体能力だ今の攻撃を避けたのか。

 俺の探査魔法で確認できているのが四人。


「アルシェ、俺の魔法にタイミングを合わせてあれやるぞ」


「ルリーラちゃんはいないんですね」


「当然だ」


「わかりました」


 四人を相手に戦える気はしていない。

 それなら俺がやることは一つだろ、俺を囮にすれば全部が片付く。


「水よ、鏡よ、我を映す幻となれ、ウォーターミラー」


 俺の出した分身は三体、俺とアルシェとミールの映像。

 三人を走らせる。

 それを囮とも考えていないベルタ達は一斉に水の分身へ攻撃をする。


「水よ、球よ、敵を包み元姿に戻れ、ウォータボール、フォグ」


「炎よ、爆炎よ、我が敵を灰燼に帰せ、バーンアウト」


 突然水の球に包まれたベルタは一瞬思考を奪われる。

 ベルタしかいない空間での魔法に戸惑いが行動を遅れさせてしまう。

 神に面白いと言わせた魔法。その攻撃を魔法が使えないベルタには理解はできない。

 アルシェの放つ小さな火が、球の中に触れ一瞬で閃光へと変わる。


 一瞬の閃光と爆発音はベルタの敏感とも言える五感全てを焼き動きを塞ぐ。


「今ので全滅だ、アルシェ要望通りにしてくれたよな」


「はい、死なない程度です」


 倒れている一人に近づき水の鎖でぐるぐる巻きにする。


「聞こえるよな」


 一番傷の浅そうなベルタの女性に話しかける。


「誰だ、ベルタじゃないの?」


「違う、仲間を探しに来たんだ」


「仲間ね」


 何を空々しいことをと言いたげに嘲笑する。


「ルリーラって知らないか?」


「そんな子知らないわ」


「そうか、嘘ならもう少し上手に吐くもんだ」


「何が嘘だっていうの?」


「子供だってなんでわかった? 俺が子持ちに見えるなら病院に行った方がいいぞ」


 名前だけで判断できるのはせいぜい性別くらいだ、それなのに子と言ったのは明らかにおかしい。


「子供が多いからね、私みたいのは少数よ」


「嘘は良くないって言ったよな、ベルタの平均年齢は二十四歳だ。今ここにいるのは全部成人しているようだしその言い訳は苦しいぞ」


 そして何も答える気がないのか俺から視線を外す。


「悪いな、のんきに尋問している暇はない。ルリーラはどこに行った?」


「知らなっぐっ!」


 水の魔法を口内に直接使う。

 鼻だけで呼吸ができるギリギリまで水の球を押し込み反応を見る。


「ルリーラはどこだ?」


 水の球を割ろうと歯を立てようとしている女性に一言アドバイスを上げることにする。


「その中に入っているのは毒だぞ」


 そのアドバイスに水の球を噛み切るのをやめた。


「好きにしろ、毒で苦しみ死ぬか、水の球で呼吸困難で死ぬか、ルリーラの場所を教えて助かるか」


 そんな脅しには屈しないと挑発的な態度に俺は冷たい視線を向ける。


「そうかじゃあ時間の無駄だな勝手に死ね」


「ん、んんんん!」


 殺されると思っていなかったのか本当に立ち去ろうとする俺に必死に訴えかける。


「どっちだ?」


 女性は水で押し流した方を指さした。


「そうか、ありがとう」


 指を鳴らすと水の球は割れ女性の口の中に水が溢れ暴れ始める女性に俺は告げる。


「全部嘘だ、それはただの水だ」


「ごほっ! ふ、ふざけるな!」


「嘘ってのはこうやって使うんだよ」


 俺達はルリーラが行ったらしい場所へ向かって歩き出した。

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