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久しぶりのデート

「兄さんとデート、兄さんとデート」


 街についてすぐ買い出しに出てくると、こっちまで嬉しくなるほどに笑顔のミールに腕を無理矢理に組まれ、町の大通りを歩いている。


「デートって買い出しだぞ」


「愛している人と二人でお出かけはすべからくデートです」


 その理屈で行くと俺を好きだと言っているルリーラは、俺と二年ほどデートしていたことになるんだろうか。


「お姉ちゃんには悪いけど私だから許してくれるよね」


「ルリーラ達なら別に怒らないんじゃない?」


 最近仲間内でなら誰かと二人で居ても怒ったりはしない。

 馬車の時みたいにズルい。とか言って乱入したりする。


「お姉ちゃん以外の事は知りません」


 ちなみにルリーラ達とは別行動というよりも、馬車の中で暴れたあの三人を宿に監禁している。

 今日と明日の二日間は外出禁止で掃除と洗濯、料理といった家事をしてもらっている。

 付け加えるとアルシェに洗濯はさせないように言い聞かせた。


「いつ以来ですか、こうやって二人でデートするのは」


「少なくとも六年前くらいか?」


 ルリーラに会っている辺りが最後のはずだから、大体そのくらいのはずだ。


「そんなになりますか。それなら私の愛が会えない悲しみの余りに膨らみ続けるのも仕方ないことですね」


「一度はっきり言おうと思っていたが愛が重い!」


「兄さん、兄さんが思っている以上に私の愛は重いです。なんなら私自身その愛の重さ深さ清らかさを把握しきれていません」


「怖いからミールも留守番にするか?」


「嫌です! そんなことしたらこの町に毒の雨を降らせます」


「スケールがデカい脅しだな」


 本当にしそうな気がしたので仕方なく買い物を再開する。

 一応明日以降の料理に使う食材をアルシェにリストアップしてもらい一個ずつ買っていく。


「改めてですが本当に反則ですねアルシェ先輩は、身体能力以外完璧じゃないですか」


「そりゃあ当然だろ」


「むっ、兄さん随分誇らしげじゃないですか、兄さんがアルシェ先輩を選ぶなら私にも考えがあります」


「違うって、俺はミールも含め選ぶ気はないしな」


「それって結局どういう意味ですか?」


 俺はミールに自分の考えを伝えた。

 俺以外を知らない奴隷として育ったルリーラ達が、俺を好きになるのは当然でこの旅の目的もそこにあるということを話した。


「もし兄さんが手を出しても誰も後悔はしないと思いますけどね」


「そうだとしても俺が嫌だ。自分がそのためにみんなを助けてるって思ってしまう」


「面倒ですよね兄さんって」


「そう思ったら幻滅してくれ」


「それはないです。なんなら今から一月かけて兄さんへの愛を囁いてもいいですけど?」


「一日中どころじゃないのか」


「一日だったらいいんですか?」


「やめてくれ」


 目を輝かせるミールを俺は拒否する。

 そんなことをされてしまえば翌日には自分大好きなナルシストになっていそうだ。


「それでなんでアルシェ先輩を自慢げにしたんですか?」


 別の話題になり話は終わったと思ったのに終わることがない。


「アルシェは結構勉強熱心なんだよ。何事にもな」


「そうなんですか?」


「俺達を喜ばせようと料理を覚えて、聞かれてもすぐに答えられるように国や歴史の勉強も最近はしてる」


 その勉強癖のおかげで、なぜかエロ方面にも手を出しているのが玉に瑕だけど。

 アルシェは誰よりも勉強家なのだ。


「そうなんですね初めて知りました」


「だからそんな女性が近くに居ることが誇らしいんだよ」


「私だって勉強熱心ですよ」


「ミールが褒められれば嬉しくなるさ」


 そう言って頭を撫でるとうっとりとした表情でこちらを見上げ目を閉じる。


「目瞑ってると危ないぞ」


 余計なことはせずに頭から手を退かし歩き始めると、ミールは不満そうに腕に抱き付き一緒に歩き始め買い物を終わらせる。


「よし、これで必要な物は買ったかな」


「じゃあ、せっかくなので何か食べて帰りましょう」


「そうだな。何か食べたいものでもあるのか?」


「ありますあります一番食べたいのは兄さんですけどね」


「やっぱり帰ろう」


 身の危険を感じ俺は荷物を持ち宿に向かう。


「嘘ですよ兄さんは食べません食べませんから本当に食べたいのがあるんですよ」


 先を急ごうとする俺の腕をつかみ、必死に止めようとする従妹に免じて許してあげることにする。


「それで何が食べたいんだ?」


「さっき兄さんが買い物している最中に貰ったんですけど」


 そう言って一枚の紙を俺に渡す。

 そこにはデカデカと超大盛パフェとかかれ文字の下には大きなパフェの絵が描かれていた。


「これ食いきれるのか?」


「それも気になりますけど私には無理なので私はその下の奴が食べたいんですよ」


「下?」


 こっちは普通サイズなのか大盛なのかわからないがケーキが一ピース乗ったチョコレートのパフェ。


「これは美味そうだな」


「でしょ、旅の途中じゃ食べられないし、兄さんを追いかけ続けたここ一年余り甘味とは無縁の生活だったので食べに連れて行ってください」


「そうだなたまにはいいか、みんなも呼ぶか?」


「呼ばない。お姉ちゃんも今回は呼ばない。だって今日は私と兄さんのデートですから」


 はっきりとした拒絶をミールは見せた。

 今までよりも真剣に俺を見つめおっかなびっくりの表情を作る。

 ミールは口で言っていた通り確かにデートをしていたのだろう。それならそれに乗ってやるのも悪くない。


「わかったよ、あいつらは反省中だからな。二人で食べて自慢してやろうぜ」


「ありがとう大好き!」


 次の瞬間には俺の胸に飛び込んできた。

 軽い衝撃に一瞬よろめきすぐに体勢を戻す。


「ほら行くぞ、この場所ってどこだ?」


「こっちだよ」


 子供っぽくはしゃぐミールの後を追っていくと甘味屋にはすぐについた。

 石造りの大きな建物でショーケースの中には所狭しと甘いお菓子類が所狭しと並んでいる。


「どれも美味しそうですよ兄さん!」


 キラキラと目を光らせて喜ぶ姿は今も昔も変わっていない。

 その懐かしい姿に俺の顔がほころぶ。


「じゃあ入るか」


 店の中に入ると甘い匂いに包まれる。砂糖とローストした香ばしい匂いにミールは食べる前から幸せそうにしている。


「二名様でよろしいでしょうか?」


「はい」


「どうぞこちらへ」


 メイドのような衣装の店員は俺達をテーブル席に案内され席に着く。


「可愛い衣装ですね」


「そうだな」


「ああいう服が好みなの?」


「好みとは違うかな」


「ならあの店員さんなの? ああいう感じの人が好きなんだねそっか待っててすぐにあの人みたいになってくるから。大丈夫あの人に危害なんて加えない殺さないから大丈夫だよ」


「待て待て待て! その言い方だと絶対に何かあの人にする気だろやめろ」


 こちらの声が聞こえていたのか、殺意の篭った視線を感じたのか、遠くの方でさっきの店員さんが身の危険を感じて震えてるから。


「あの人を庇うんだそっかそっかうん大丈夫兄さんの嫌がることなんてしないからただ私があの人になるだけだから安心して。今日から私があの人の声と顔と形を手に入れるから少し待ってて」


「だから待てって俺はあの人は好きじゃないから」


 怖い怖い……、猟奇的になる従妹を放っては置けず俺は必死に腕をつかむ。

 さっきの店員は別の店員の影に身を隠している。

 ごめんなさい店員さん。

 俺は声には出さず店員に謝罪する。


「そうだよね、そんなわけないよね兄さんは私とお姉ちゃんだけが好きでその他の女なんてその辺のゴミ以下の存在だもんね私にはわかってたよ兄さん」


「よし、この店から追い出されたくなかったら少し黙ろうか」


 ミールの暴走で俺達は凄い目で見られている。

 さっき話題に出た店員さんは身の危険を感じたからかもう接客はやっていないらしい。


「そうだね折角兄さんとのデートなのにあんな女のせいで喧嘩してたら駄目だよね、んぐぐぐ」


「少し、黙ろうか」


 そろそろ本格的に追い出されそうな気がするので無理やりにでも口を塞ぎ黙らせる。


「すぅー」


「なんで深呼吸?」


 ミールは口が塞がれている状態で突然深呼吸を始める。


「んんあんごふほいがふう」


「何言ってるかわからんが匂いを嗅ぐのはやめろ」


 おそらく、兄さんの匂いがする。と言っている様な気がする。


「ぺろっ」


「何故舐めた」


「兄さんの味凄い美味しいです」


 舐められた衝撃で咄嗟に手を外してしまった。

 そして周りの客と店員の目にもう帰りたい気持ちだったが何とか注文の品が来るのを待った。


「んー! すっごい美味しいです」


「そうか、よかったな」


 ミールはお目当てのパフェ、俺も甘すぎないと書いてあったケーキを注文した。


「ひんやりして甘くてかと思ったら適度に果物の酸味があるから飽きない。これ本当に美味しい!」


 パフェはアイスが段になって積み重ねられており、その間に何かの果物のソースがかけられているアイスの層、そのアイスの層の上にはこれでもかと生クリームが乗せられその生クリームにはケーキと果物が彩られている。

 そんな豪華なパフェの前に置かれるのは一ピースのケーキとコーヒー。

 俺もミールに倣ってケーキを一口食べる。

 ビターな風味の中に微かに広がる甘味が味に奥行きを持たせふわふわではなくしっとりとした食感が食べやすい。


「こっちも美味いな」


「兄さんそっち一口ください」


「こっちは甘くないぞ」


「いいんですよ、ほらあーん」


 自分用にあるフォークのナイフを無視してミールは口を開ける。

 歯並びの綺麗な口の中にはわずかに生クリームが付いている。


「ほらあーん」


 このままだと終わらないと仕方なく一口分を切り取り口に入れる。


「兄さんの味がする」


「よし決めた、今後お前に絶対それはやらん」


 食べさせてもらえたことに喜びを見出している可哀想な従妹にそう言葉を投げつけた。


「またやってくださいよ、ただの冗談ですから」


「まったく」


 食べたケーキがさっきより甘く感じられたのは決してミールのせいじゃないと俺は自分に言い聞かせる。


「次は私の番ですね」


「別に俺は良いんだけどな」


「お姉ちゃん達への嫌がらせです」


「わかったよ」


 俺も続けて口を開ける。

 そこにミールはアイスと生クリームが乗った一口を放り込む。


「美味いな」


 ミールが言っていた通りに冷たくて甘く、それを果実の酸味が際立たせている。


「でしょ、これは悔しがる姿が見れますよ」


 満足気に悪戯っぽい笑みを浮かべパフェを食べていく。

 本当にこうしていると本当に子供の時を思い出す。

 よくこうやって遊びに出ていたよな。


「これ食べたらどこか行きたい所ってあるのか?」


 折角だから子供気分でどこかに行きたいところがあるのかと思って聞いたが質問にミールが答える。


「ホテル!」


「無いみたいだから帰ろうな」


「はーい」


 今日分かったことは昔と今は大きく違うということだった。

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