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ウォルクスハルク

 長い道中の間、俺は先日現れたあの何かについて考え続けていた。


 我が子とは誰なのか。あの正体はなんなのか。あの夢はあいつが原因なのか。

 その問いに対する考えは、いつも不明で終わる。


「またオールスを通るのは辛いよ」


「ん、ああ、帰りは別のルートを通るよ」


 ルリーラの質問に答えながら、誰が一番狙われる可能性が高いかを考える。

 筆頭はルリーラとアルシェで、理由は当然ベルタとプリズマだからだ。外にも出歩いていたし狙われてもおかしくはない。

 その次はフィルだ。なにせ相手がヘタレで神が直々に俺の奴隷にすると言ってくれたが、無理矢理に奪おうとしても不思議はない。

 一番可能性が無いのはミール。貴族の娘とは言え、分家ですでにロックスの名は地に落ちた。それを今更奪いには来ない。


 だけど可能性はゼロじゃない。何せあの声はこう言った。「数の減った我が子を保護してくれた」そう確かに言っていた。

 それを考えるとミールの可能性を否定はできない。


「クォルテ!」


「うおっ! 何だよいきなり」


 考えている最中にルリーラは耳元で叫ぶ。

 そのせいで考えていたことはどこかに飛ぶし、耳が痛く耳鳴りもする。


「何だ。はこっちのセリフだよ。オールス抜けるまでずっと上の空で」


「悪い、一応答えてはいるつもりなんだけどな」


「それでもだよ、最近周り見てないでしょ」


「言われれば、そうかもな」


 周りを見ると、ルリーラを含めみんなが心配そうに視線を向ける。

 これはやらかしたなと思い頭を掻く。

 あの声の主が気になり、つい考え込んでしまう。


「悪かった、考えすぎてた」


「大丈夫ですか、力になれるならなりますけど」


「あたしも相談なら乗れるよ」


「私なら兄さんをよく知っていますから。何でも話してくださって結構ですよ」


 みんなが俺を心配して優しい言葉をかけてくれるが、こればかりは誰かに相談するわけには行かない。

 あんな嫌な空気を纏っている奴が普通じゃない。もし誰かに相談するにしてもアリルドだ。それ以外は闇に疎すぎる。


「大丈夫。もう少し一人で考えたいんだ」


 みんなの気持ちは嬉しい。だけど変に探られるくらいなら秘密にしていた方がずっとましだ。


「よいしょ」


「どうしたんだ?」


「どうもしないけど」


 オールスを抜けたから蒸し暑さはないまでもまだ少し暑い中、ルリーラが俺の膝の上に座る。

 ルリーラは甘えるように俺に寄り掛かる。俺の顔の近くにあるルリーラからはミルクのような甘い匂いがした。

 そしてこれがルリーラなりの気遣いだと俺は知っている。


「悪かったよ、ただ今は言えない」


「しょうがないな」


 言いたくないわけではないが言いたくないので、俺はルリーラの頭を撫でながら荷台から奥を見る。

 オールスを抜けたからもうウォルクスハルクの領地か。


「アルシェ、ミール気をつけろよ」


「はい。でも何に気をつけるんですか?」


「主に噴煙と岩ですね」


「前が見えなくて危ないってことですか?」


「違う違う。上だよ、上」


 俺は空を指さす。

 空には噴煙が待っていて薄曇りの様な空が広がっている。


「上ですか……、えっ!?」


 何が危ないのかわからないと上を見たアルシェが驚く。

 でも、それは仕方がない。

 何せ、空から岩が降ってくる。それもこの馬車を余裕で押しつぶせるサイズの火砕物。


「たまに飛んでくるから逃げるか迎撃だ」


「私がやります。水よ、槌よ、我らに襲い掛かる障害を砕け、ウォーターハンマー」


「それじゃ駄目だ」


 ミールは失敗の見本の様に火砕物を砕いてしまう。

 水の槌に砕かれた火砕物は数を増やしただけで勢いは収まらない。

 これはただ落ちてくるものじゃない。飛んできている物だ。


「水よ、流れよ、我らを襲う災害から守れ、ウォーターフロー」


 俺は一つの手本として水の流れを作りだす。

 空中に作った水流は馬車を覆うように広がり、火砕物はその流れに乗り馬車を避け地面に落ちる。


「こうやって流れを反らすか全力で逃げるか、塵も残さず殲滅するかだな」


「流石兄さんです先ほどのような大きいだけでなく数まで多い火砕物をひるむことなくいなせるのは兄さんだけです流石私の憧れる愛しい兄さんです」


 うっとりとした表情でミールが俺を見る。

 それを躱す様に俺は話を続ける。


「この辺は火の神が王の国だ。火の神だけあってこの辺りは火山がたくさんある」


「クォルテ、火山って何なの?」


「火山は文字通り火が地中にたまっている状態だ。その熱で土が溶けて溢れてくる。その溶けて溢れた物が固まって中の火が消えたのが普段見る山。火山はまだ火がある状態の山だ」


「溢れてるだけならなんであんなのが降ってくるの?」


 そう言って指した先にはまたも大きな火砕物が飛んでくる。


「水よ、球よ、障害物を囲い、己の元の姿に変われ、ウォーターボール」


 大きな水の球は火砕物を飲み込み、球の中は可燃性の高い気体に変わり火砕物の熱に引火する。

 最近見慣れた一瞬の閃光の後に爆音が耳に響く。

 粉々になった火砕物は粉まで飛散したため、そのまま地面に落とす。


「それ一人でできるんですか?」


 少しだけアルシェが悲しそうな顔をする。


「心配するなこれは火砕物だからこそ引火してるだけで、威力はあの程度だ」


「そうですか」


 安心したように胸を撫でおろす。

 自分のお株が奪われたように思ったのかもしれないが、

 アルシェの全力の魔法を上回る自然現象なんてない、超えられるのは同じプリズマか神くらいのものだ。


「火砕物は火が一気に爆発して、土が溶けた物が山頂から飛んでくるんだ」


「へえ」


 それで満足したらしいルリーラの頭を撫でる。


「それにしてもこうも火砕物が来るってことは運がいいのかもな」


 火砕物が飛んでくる理由は主に二つ。

 一つは自然現象として火山が噴火すること。

 二つ目は火山の火にも魔力があり、魔力が暴れてしまうこと。

 もちろん一つ目の噴火は起こってはいない。そうなると自然と二つ目、つまり火の魔力が極端に増え魔力が暴れているということだ。


「ご主人独り言大きいよ」


「みんなにも聞いておいてもらいたいからな」


「何をですか兄さん」


「火の国の王に会えるかもしれないぞ」


「本当ですか?」


「ああ」


 みんなが喜びと戸惑いの間でにわかに沸き立つ。

 水の神ヴォールと同じく気さくな神なのかそれとも厳格で恐ろしい神なのか。

 それを考えてしまう。


「アルシェなら、火の神がどういう神なのか知ってるんじゃないか?」


「そうですね、正直な話をしますとよくわからないですね」


 結構色々なことを知っているアルシェがわからないって、どれだけ謎な神なのだろう。


「暑苦しいとか冷めているとか、だらけている、仕事熱心、頭がいい、頭が悪い、面白い、真面目、強い、弱い、寝ている姿を見たことない、いつも寝ているとかそういうお話は風の便りで聞くのですが」


「それは本当に同一人物なの?」


 ルリーラの言葉通りだ。

 それはもう多重人格か複数人いることになる。

 真逆の感想ばかりが並ぶその言葉に俺は嫌な予感しかしない。


「結局は直接会うしかわからないってことか」


「申し訳ありません」


「それに関してはアルシェ先輩が謝ることはないと思いますけど」


 珍しくミールがフォローし馬車は進んで行く。


「それにしても暑いな」


 蒸し暑いわけではなくただただ気温が高い。

 暖炉の前に居る様な暑さだ。


「そうですね、オールスほどではないですが」


「だね、暑いけど我慢はできるよ」


 フィルはそう言いながらだらけて横たわっている。

 湿気がないからなのかオールスほど不快感はなく風が吹けばいくらか涼しく感じる。


「一度町に行きたいんだけどな」


「それなら、探ってみますね」


 そう言って手綱をミールに渡し呪文を詠唱する。


「炎よ、千里を見渡す眼よ、その眼に移す景色を我に見せよ、フレイムアイ」


 炎で作られた巨大な目は天高く舞上がる。


「見つけました。一時間もかからないと思います」


「わかった」


「それ便利ですね」


「簡単だよ」


「ミール騙されるな、プリズマには簡単なんだ」


「納得しました」


 アルシェは未だに自分の能力値が低いと思っている節がある。

 奴隷だったからではなく、おそらくだが元からそういう性格だったのだろう。

 今回の魔法も炎の目で見た物を収集し、その目を回収してから情報をまとめ地図を作る。それだったら確かにできないこともない。

 ただ魔法の映像を回収せず、直に自分の視界に映す。それをやってのけるのはまず普通は無理だ。


「アルシェ先輩って何なんでしょうスタイルが良くて可愛くて魔法が得意で家事までできて淫らで尽くすタイプってどれだけスペックを上げればいいんですか――」


「ミールさん?」


 ミールは黒く闇に落ちている様子でアルシェへの不満を言い始める。


「――それだけして兄さんを独り占めしたいんでしょうかさせません兄さんは私のものです男に好かれるためだけに生まれたアルシェ先輩なんて、いたっ!」


「それくらいにしておけ」


 俺が手刀を頭に打ち込むとミールは頭を叩かれた部分を自分で撫でる。


「うへへ、兄さんからのスキンシップです。すぅー、叩かれた所から兄さんの匂いがする気がします。さあ兄さんもっと私に触れてください兄さんの匂いを私の体にすり込んでください一生匂いが消えないくらい外にも内にもお風呂に入ったくらいで取れないほどに兄さんの匂いをすり込んでください!」


 最近俺の従妹が引くほどに気持ち悪い。


「わかります!」


「わかっちゃった!?」


 俺が引いていても何故かアルシェはミールの手を掴み感動した表情を見せる。


「わかっていただけるんですか?」


「はい! ついお洗濯の時とかにクォルテさんのシャツの匂いを嗅いでしまいます」


「ぜひ私にもお洗濯を教えてください」


「おい待て変態!」


 なんでそんなことしてるの?

 俺は今まで洗濯をアルシェに任せていたことを後悔してしまう。


「兄さんもお姉ちゃんの匂いを嗅ぎたくなるでしょ?」


「ならねえよ!」


「なってよ!」


「なんでルリーラまで入ってきたんだよ!」


「じゃあご主人には私のを嗅がせてあげるね」


 突然フィルが俺の頭に自分の服をかぶせてきた。

 そしてそのまま頭を抱えてくる。

 熱気とフィルの柔らかさ、そしてフィルの汗と匂いに頭がクラクラする。


「フィル先輩駄目です。兄さんの匂いをフィル先輩で包まないでください」


「なら私はクォルテの服に入る!」


 急に服の中に小さくて温かい物が入ってきた。

 すべすべで柔らかい物が腹にすりすりとしてきて時折感じる柔らかい髪の毛が胸元をくすぐる。


「ルリーラちゃんズルい、私も!」


「アルシェ先輩ズルいです馬車はどうするんですか!」


 ミールの抗議も虚しく俺の背中の方に新しく柔らかい物が入り込んでくる。

 お腹に顔を擦り付けるルリーラとは別にすっぽり服の中に入ってくるアルシェは柔らかい頬を背中に擦り付けてくる。

 そして滑らかな生地の向こうに感じる破壊力のある大きな爆弾を俺に押し付けながら大きく深呼吸をする。


「ルリーラ、アルシェやめろって!」


「ご、ご主人あんまり声ださなっ、出さないで」


 俺はどこに抱かれているのか頭に二つの柔らかさを感じながら暴れるが、黒髪とベルタの腕力から逃れる術を俺は持っていない。

 それから町に入るまで俺は三人のおもちゃにされ続けた。

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